ドイツの老舗デベロッパとして知られるBest Serviceが2024年に、新たに「ENGINE AUDIO」という音源ブランドをスタートさせました。その最大の特徴は、軽量・高速な動作を実現した新しいサンプルプレイヤー「ENGINE PLAYER」を採用している点。これまで同社の「ENGINE 2」や、他社のプレイヤーでリリースされてきた人気タイトルが、この新しいプラットフォームに最適化されて続々と登場しているのです。
今回は、その中から、数々の受賞歴を誇るプロデューサ、エドゥアルド・タリロンテ(Eduardo Tarilonte)が手掛けた4つの強力なタイトル、壮大なケルト音楽の世界を描くCeltic ERA 2(42,020円税込)、
新ブランドENGINE AUDIOと軽量プレイヤ「ENGINE PLAYER」の登場
DTMユーザーであれば、ドイツのBest Service社をご存知の方も多いと思います。長年にわたり、高品質なサンプルライブラリを世界に送り出してきた老舗デベロッパで、同社はこれまで、Yellow Tools社のサンプラー「Independence」をベースに共同開発した「ENGINE 2」というサンプルプレイヤーを展開してきました。これはマルチティンバに対応し、豊富なエフェクトを内蔵するなど、当時としては非常に高機能なプレイヤーでした。ですが、その一方で、多機能であるがゆえに動作が重く、操作がやや複雑に感じられるという側面も持っていました。
そうした背景の中、昨今の制作環境におけるCPU負荷の軽減や、よりシンプルで音楽制作そのものに集中できるツールを求める声が高まっています。そのニーズに応えるべく、Best Serviceが2024年から新たに立ち上げたのが「ENGINE AUDIO」というブランドなのです。
そんなENGINE AUDIOが掲げるコンセプトは、ユーザーがより「創造することに注力できる」ようにすること。その思想をストレートに具現化したのが、新開発のサンプルプレイヤー「ENGINE PLAYER」というわけです。このプレイヤーは、多機能を目指したENGINE 2とは対照的に、敢えて機能を絞り込み、単一の音源を軽快に動作させることに特化しています。
これにより、軽量かつ高速な動作が徹底的に追求されています。実際に使ってみると、DAW上でプラグインを起動する際や、膨大なプリセットを切り替える際の読み込み速度は非常に速く、思いついたことをすぐに形にできるようになっています。複雑な設定に悩まされることなく、シンプルにすぐに音作りを始められる、そんなプレイヤーに仕上がっています。
対応フォーマットはVST3、AU、AAXで、スタンドアロンでの動作も可能。さらに、Apple Siliconにもネイティブ対応し、プレイヤーの表示言語は英語、ドイツ語、中国語、そして日本語に対応しており、国内代理店であるSONICWIREが日本語化に協力している点も、日本のユーザーにとっては嬉しいポイント。既存の音源をENGINE PLAYERへ移植するにあたり、基本的なユーザインタフェースはオリジナルのデザインを踏襲しているため、過去のバージョンを使っていたユーザーも違和感なく移行できるようになっています。
サンプルライブラリの巨匠、エドゥアルド・タリロンテが手掛ける4タイトル
さて、今回紹介する4つの音源は、すべてエドゥアルド・タリロンテという一人のプロデューサによって生み出されました。Best Serviceがリリースする数多くのライブラリの中でも、特に高い人気を誇るのが、エドゥアルド・タリロンテがプロデュースを手掛けるシリーズ。その人気の理由は、作り出すサウンドが、単に楽器の音をリアルに再現するだけでなく、その楽器が持つ歴史的背景や物語性、そして独特の空気感までをも音に封じ込めている点にあります。
リアリティを支えているのが、徹底したサンプリングと、リアルな演奏表現を可能にするためのアーティキュレーションへのこだわりです。多くの楽器で本物のレガート演奏をサンプリングした「リアルレガート」を搭載するほか、モジュレーションやベロシティによって多彩な奏法をコントロールできるのが大きな特徴となっています。
イギリスの著名な音楽雑誌「Sound on Sound」などで数々のアワードを受賞するなど、世界中のコンポーザから絶大な支持を得ているエドゥアルド・タリロンテが手掛けた音源が今回、軽量なENGINE PLAYERで使えるようになったことで、その唯一無二の世界観を、より多くのクリエイタが手軽に、そして快適な制作環境で体験できるようになったのです。
壮大なケルトの世界を描く、人気の総合音源 Celtic ERA 2
まず紹介するのは、エドゥアルド・タリロンテさんの代表作の一つであり、ケルト音楽に特化した総合音源の決定版ともいえるCeltic ERA 2。このライブラリには、フィドルやイーリアンパイプ、バウロンといったケルト音楽に不可欠な伝統楽器はもちろんのこと、青銅器時代にまで遡る古代の角笛CarnyxやDordまで、合計36種類もの膨大な楽器が収録されています。そのサウンドは非常にクオリティが高く、楽曲に加えるだけで、ケルト音楽特有の壮大で、どこか物悲しい雰囲気を作り出すことができます。
特に注目すべきは、演奏表現のリアリティ。多くの管楽器や擦弦楽器には、滑らかな音程変化を再現する「True Legato」機能が搭載されており、これにより、極めてリアルで自然なメロディラインを再現することが可能。インタフェース上には、Volume、Pan、Expression、Reverbといった基本的なパラメータに加え、ビブラートの深さをコントロールする「Vibrato Volume」、速さを調整する「Vibrato Speed」などが用意されています。
さらに、バグパイプなどの楽器では、持続音であるドローン音のオン・オフや音量を個別にコントロールできるため、非常に本格的な演奏表現ができるようになっています。楽器音色だけでなく、雰囲気を演出するための35種類のサウンドスケープも収録されており、まさにケルト音楽制作のすべてが詰まったライブラリとなっているのです。
瞑想とニューエイジのためのサウンドスケープ NADA
次に紹介するNADAは、サンスクリット語で「音」や「響き」を意味するライブラリで、その名の通り、瞑想やニューエイジ、アンビエントといった音楽に特化しています。収録サウンドは500種類以上、その中心となるのが265種類もの「Meditation Pads」です。これらのパッドは非常に美しく、心を落ち着かせるような響きを持っています。
また日本の琴やインドのバンスリ、アルメニアのドゥドゥクといった民族楽器も多数収録されており、これらの多くにもリアルなレガートが搭載されています。インタフェースには、一般的なAttack、Release、Pan、Pitch、Volume、Reverbといったコントロールのほか、詳細なサウンドメイクを可能にするパラメータが並びます。
たとえば、フルート系の楽器では「Attack Softness」でアタックの硬さを、「Legato Attack」でレガート時の繋がり具合を、「Glide Time」と「Glide Curve」でポルタメントの挙動を細かく設定できます。さらに特徴的なのが、バンスリや尺八などの一部の楽器に搭載された「Ornaments」機能です。これはベロシティによって短いフレーズをトリガーするもので、サステイン音とブレンドすることで、非常に人間味のある演奏を再現できるようになっています。
リアルなアコーディオンサウンド ACCORDIONS 2 – ACCORDION
そして、ACCORDIONS 2は、アコーディオンに特化したライブラリであり、もともとは複数のアコーディオンを収録した音源としてKontakt Playerでリリースされていました。ENGINE AUDIOブランドから、ACCORDIONS 2に収録の各アコーディオンをそれぞれ個別の製品としてリリース。ACCORDIONS 2 – ACCORDIONはその中の一つです。
この音源の魅力も、その徹底したリアリティにあります。アコーディオン特有の音色変化を生み出す「レジスタ」が11種類用意されており、多彩な表現が可能です。また、中央の大きなホイールでベロウ(蛇腹)の音量をコントロールでき、この操作はベロシティかモジュレーションホイールに割り当てることができます。
さらに、「Noises」セクションでは鍵盤を押した時の「Key Press」ノイズと、離した時の「Release」ノイズの音量を個別に調整可能。アコーディオンの奏法を再現する「Bellow Shake Intensity」「Bellow Shake Speed」といったユニークなパラメータも搭載しており、非常に生々しく、臨場感のあるサウンドが得られるようになっています。左手でベース音やコードを演奏するための専用パッチも付属しており、これ一つでアコーディオンの伴奏パートを完結させることが可能です。
古代メソアメリカの神秘に迫る最新音源 QUETZAL
最後に紹介するのは、QUETZALです。このライブラリがテーマとしているのは、マヤ文明やアステカ文明が栄えた、古代メソアメリカのサウンド。収録されている楽器は50種類以上で、その多くは粘土で作られた笛「Tlapitzalli」やオカリナ「Huilacapitzli」、人の叫び声のような音を出す「Death Whistle」など、珍しいものばかり。
これらの笛の音色もまた、アーティキュレーションに大きな特徴があります。多くのマルチサンプルされた笛には、ベロシティによって挙動が変化するレガートが搭載されています。弱いベロシティではポルタメントのかかった「グリッサンド・レガート」が、通常のベロシティでは通常のレガートがトリガーされる仕組みとなっています。
さらに、ピッチベンドホイールで息の強さ(Blow Intensity)を、モジュレーションホイールでビブラートの深さ(Vibrato Intensity)をコントロールできます。また、「Vibrato Speed」やリリース音の種類と音量を調整する「Release」「Release Volume」といったパラメータも用意されており、非常にリアルな演奏表現が可能となっています。80種類以上収録された「Soundscapes」もこのライブラリの魅力であり、映画やゲームの音楽で古代文明のシーンを演出したい場合に、最適な音源となっています。
以上、新音源ブランドENGINE AUDIOと、エドゥアルド・タリロンテがプロデュースの4製品について紹介しました。軽量・高速という現代的なニーズに応える「ENGINE PLAYER」と、世界トップクラスのクリエイタによるサウンドライブラリの融合は、DTMにおける新しい選択肢として、大きな可能性を秘めていますね。
壮大なケルトサウンドを収録したCeltic ERA 2、リアルな演奏表現が可能なACCORDIONS 2 – ACCORDION、瞑想的なサウンドを持つNADA、そして古代メソアメリカのサウンドを再現したQUETZALと、それぞれが非常に個性的でありながら、共通して高い品質と音楽的な創造意欲を刺激する内容となっています。ENGINE AUDIOのライブラリは今後も続々と増えていく予定とのことで、これからの展開が非常に楽しみです。ぜひこの機会に、新しい音源の世界を体験してみてはいかがでしょうか。
【関連情報】
Celtic ERA 2製品情報
NADA製品情報
ACCORDIONS 2 – ACCORDION製品情報
QUETZAL製品情報
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