ここ数年、ギターの世界で急速に広がっているのがAIを使ったアンプモデリング技術です。その代表格が、オープンソースで公開されているNAM=Neural Amp Modeler。世界中のユーザーが作った膨大な数のアンプのモデルデータがネット上で無料公開されており、これを読み込めば往年の名機からブティックアンプまで、さまざまなサウンドを手元で再現できてしまうのです。
そんなNAMの受け皿として注目したいのが、フランスのメーカー、Two notes(トゥーノーツ)のアンプシミュレータ、GENOME(ジーノーム)。このGENOMEが今年6月、GENOME 2.0へと大きく進化するとともに、無料版のGENOME Introが新たに登場しました。この無料版だけでも、AIアンプ4台やペダル14種類を備えた本格的なギターリグとして使え、しかもNAMのモデルの読み込みにも対応しているのです。一方の製品版GENOME 2.0には、AIアンプモデルの弱点だったノブの追従問題を解決する新技術AmpNetを搭載。価格はSONICWIREで、通常21,505円(税込)のところ、9月2日16時までのサマーセール中は30%OFFの14,888円(税込)となっています(※ユーロ円レートによって価格は日々変動します)。実際どんなソフトなのか、そもそもNAMとは何なのか、というところも含めて紹介していきましょう。
無料でここまで使えるGENOME Intro。単体でも本格派のギターリグ
まずはGENOME 2.0のリリースに合わせて登場した無料版、GENOME Introから見ていきましょう。Two notesのアカウントを作成すれば誰でも無料で入手できるソフトで、スタンドアロンで単体起動してオーディオインターフェイスにギターをつないで弾いてもいいですし、VST3、AU、AAX-Nativeのプラグインとして各DAWのトラックに挿して使うことも可能です。ギターの世界では、アンプやペダル、キャビネットといった機材のセッティング一式をリグと呼ぶのですが、GENOMEはこのリグを画面上で組んで音を作っていくソフトで、その基本機能は無料版でも製品版とほとんど同じとなっています。
無料版というと機能を大きく削ったお試し版を想像するかもしれませんが、GENOME Introの中身はなかなか充実しています。アンプは、製品版と同じAIキャプチャ技術を使ったTSM-Aiエンジンのモデルが4台。Albion ’59、Gemini ’64、Peggy ’76、PVH50というラインナップで、クリーンからモダンハイゲイン、さらにベースアンプまで定番どころを押さえています。
ペダルはドライブ、コンプ、モジュレーション、ディレイ、ワウ、ギター/ベース用EQなど14種類。キャビネット部分にはDynIRエンジンの仮想キャビネットが4種類付属し、STUDIO ReverbやSTUDIO EQなどのスタジオFX、トーンを整えるMIXFITというツールまで揃っています。
さらにリグは2系統のレーンに分けられるようになっていて、パラレルでの音作りにも対応。チェーンの好きな位置をクリックして信号を分岐させ、たとえば2台のアンプを並列で鳴らし、レベルやパンを調整しながらブレンドする、といった使い方ができます。IRローダーも内蔵しているので、手持ちのキャビネットIRを読み込むことも可能。すぐに音を出せるリグのプリセットやMIDIコントロールまで用意されており、ギターリグとしてこれだけで十分成立する内容となっています。
その上で重要なのが、AIアンプモデルのファイルを読み込むCODEXというエンジンも、この無料版で使えるという点です。ネット上には、世界中のユーザーが実機からキャプチャしたNAMのモデルデータが大量に公開されています。その中心となっているのが、モデル共有サイトのTONE3000。ビンテージアンプからモダンハイゲイン、ベースアンプ、さらには歪みペダルまで、検索すればたいていのサウンドが無料で見つかります。
つまりGENOME Introを入手すれば、この基本セットに加えて、世界中のAIアンプモデルまで、お金を一切かけずに楽しめてしまうのです。そもそもNAMって何?という方のために、記事の最後にコラムを用意したので、そちらも合わせて読んでみてください。
NAMモデルの読み込み方。TONE3000で探してCODEXで鳴らす
では、実際にNAMのモデルを鳴らすまでの流れを、順を追って説明していきましょう。まずTwo notesのサイトでアカウントを作成し、GENOME Introをダウンロードしてインストール。GENOMEは初回起動時にこのアカウントでのログインを求められるので、認証を済ませればすぐに使い始められます。
読み込むモデルは、先ほど紹介したTONE3000から入手するのが手軽です。アンプ名などで検索して気になるモデルを見つけたら、NAM形式のファイル、拡張子でいうと.namファイルをダウンロードしておきます。1つのアンプでもゲイン設定違いなど複数のキャプチャが公開されていることが多いので、いくつかまとめて落としておくと、切り替えながら好みの音を探せます。
GENOME側の操作も簡単です。画面に並ぶインサートスロットをクリックするとコンポーネントのメニューが開くので、アンプのカテゴリからCODEXを選択。CODEXの画面から、読み込めるキャプチャの一覧を呼び出せるようになっています。
自分で入手した.namファイルは、新たにNAMファイル管理用フォルダを作成して、そこを参照したり、GENOMEが管理するキャプチャ用のフォルダに入れておけば、一覧から選べる仕組みです。モデルは無数に公開されているので、あれこれダウンロードして手軽に弾き比べられるのが楽しいところですね。
読み込んだあとの音作りも、単にモデルを再生するだけではありません。CODEXにはゲインのほか、トーンスタックやグラフィックEQ、エンハンサといったコントロールが用意されており、キャプチャの後段でしっかり音を整えられます。さらにキャビネット部分には、後述するTwo notes伝統のDynIRエンジンを組み合わせられるので、マイキングまで含めた作り込みができるのもGENOMEならでは。
なおGENOME Introを試すときは、SONICWIREのサイトからアクセスするのがおすすめです。ダウンロード自体はTwo notesのサイトで行う形になりますが、SONICWIREに導入手順の案内が用意されているので、それに沿って進めれば、アカウント作成からインストールまで迷わず進められるはずです。
ロードボックスの先駆け、フランスのTwo notesとは
ここで、GENOMEを開発しているTwo notesについても紹介しておきましょう。2008年に創業したフランスの会社で、創業者は電子工学の博士号を持つミュージシャンのGuillaume Pilleさん。創業のきっかけは、Pilleさん自身が抱えていた「愛用する真空管アンプを思うように鳴らせない」という悩みでした。ご存じのとおり、昔ながらのチューブアンプはボリュームを上げてこそいい音が鳴るもの。とはいえ、自宅やレコーディング、小さなライブハウスで大音量を出すわけにはいきません。
そこで同社が手がけたのが、ロードボックスとキャビネットシミュレーションを組み合わせたラック機器でした。ロードボックスは、スピーカーの代わりにパワーアンプの出力を受け止める機材で、ダミーロードとも呼ばれるもの。これをはさめば、アンプをフルボリュームで鳴らしても音は外に出ず、信号だけを取り出せます。後は、その信号にキャビネットやマイクの響きをシミュレーションで加えて、ラインレベルでPAやレコーディング機材へ送り出すだけ。Two notesは、この仕組みをいち早く製品化したメーカーなのです。
こだわっているのは、単に固定抵抗で受けるのではなく、実際のスピーカーが持つ複雑なインピーダンス特性まで電気的に再現している点。アンプ側から見てもリアルなスピーカーがつながっているのと近い状態になるため、サウンドのリアリティが高く、また遅延も少ないことから、プロの現場で高い評価を得てきました。
2008年に登場した最初のデジタルロードボックス、Torpedo VB-101を皮切りに、Torpedo Live、Torpedo Captor、スマホからワイヤレスで操作できるTorpedo Captor Xなど、Torpedoシリーズとしてスタジオやライブの現場で長く使われてきました。
もっともTwo notesの強みは、ハードウェアだけではありません。Torpedoシリーズの心臓部であるキャビネットシミュレーションは、DynIRと呼ばれる同社独自の技術で、静的なIR=インパルスレスポンスとは異なり、マイクの種類を選んだ上で、キャビネットに対するマイクの位置や距離をリアルタイムに動かしながら音作りができるというもの。このDynIRのバーチャルキャビネットは600種類以上がラインナップされており、いわばキャビネットとマイキングのシミュレーションにかけては年季の入ったソフトウェア技術を持つメーカーでもあります。
そのTwo notesが、長年培ってきたノウハウを土台に、2024年、初めてアンプ部分まで含めた完全なソフトウェア製品として世に出したのがGENOMEでした。その後、2026年6月18日に大型アップデート版のGENOME 2.0がリリースされたという経緯となっています。
1つのソフトに3つのエンジンを搭載したGENOME 2.0
さて、ここからは製品版GENOME 2.0についても紹介していきましょう。その最大の特徴は、性格の異なる3つのアンプエンジンが1つのソフトに同居している点です。Two notes自社開発のTSM/TSM-Ai、NAMなどのAIアンプモデルを読み込むCODEX、そして2.0で新たに追加されたPARADEXという3つで、使いたいアンプごとにエンジンを選べるようになっています。
TSMはTube-Stage Modelingの略で、プリアンプからパワーアンプまで、真空管アンプの各ステージをモデリングする、いわば従来型のアンプシミュレーションです。その発展形であるTSM-Aiのアンプは、実機からのAIキャプチャに、精密にモデリングしたトーンスタックとパワーアンプ部を組み合わせたもので、GENOME 2.0ではEldorado100、Tanger Rock、Gemini ’64、Foxy30、FlatBack MKV、FlatBack Dual、Peggy ’76という7つのTSM-Aiアンプが新たに標準搭載されました。名前からモデル元をなんとなく想像できる人もいるのではないでしょうか。
一方のCODEXは、前述したとおり、AIで学習させたアンプのモデルファイルを読み込むためのローダーです。対応フォーマットはNAMのほか、同じくオープンソースのAIモデリングプロジェクトであるAIDA-X、Proteusとなっており、考え方としてはIK MultimediaのTONEXに近いものですが、自社フォーマットに閉じず、オープンな規格を最初から受け入れているのも特徴です。Two notesが厳選したプレミアムAIアンプキャプチャも付属しています。
そしてGENOME 2.0で加わったのが、3つ目のPARADEX。AmpNetという新技術によるAIアンプモデルを再生するエンジンで、AIキャプチャなのに、ゲインやトーンといったノブの動きが実機のように追従します。これまでのAIアンプモデルとは一線を画す存在なので、このあとじっくり紹介していきます。
もちろんアンプ以外の環境も一通り揃っています。キャビネット部分には前述のDynIRエンジンを採用。ほかにもコンプやドライブ、モジュレーション系などのペダル、リバーブやEQといったスタジオFXが用意されており、これらを自由につないでリグを組んでいく、というのが基本的な使い方になります。ギターだけでなくベースにも対応しているので、DTMユーザーとしてはギタートラックとベーストラックの両方をこれ1本でまかなえるのもありがたいところです。
AIアンプモデルの弱点を克服する新技術、AmpNetとPARADEX
さてGENOME 2.0の目玉となる3つ目のエンジン、PARADEXですが、その凄さを理解するには、まずこれまでのAIアンプモデルが抱えてきた弱点を知っておく必要があります。NAMやTONEXのようなAIキャプチャ型のアンプモデルは、キャプチャした瞬間のセッティングを写し取った、いわば静的なスナップショット。画面上にはゲインやベース、トレブルといったノブが付いていても、それは後段で信号処理を加えているだけで、実機のノブを回したときの挙動を再現しているわけではありません。ゲインを下げても本当に実機どおりの音になっているのか、怪しいケースが多かったのです。
実際、この問題を回避するために、同じアンプをゲイン設定違いで何パターンもキャプチャして切り替える、という使い方が定番になっているほどで、AIキャプチャの音のリアルさと引き換えに、アンプを操作する楽しみが犠牲になっていた、というのがこれまでの実情でした。
GENOME 2.0のPARADEXエンジンが再生するAmpNetモデルは、この弱点を克服したもの。Two notesがArtera DSPと共同で開発したAmpNet技術は、アンプのコントロールの全域にわたる振る舞いをキャプチャする、マルチパラメトリックなモデリング技術です。つまりAIアンプモデルでありながら、ゲインを回せば実機のゲインを回したように歪みの質が変化し、トーン系のノブもしっかり追従するのです。AIキャプチャ系のアンプモデルでここまでパラメータが追従するものは、おそらく初めてではないかと思います。
これで実機アンプなら当たり前の操作が、AIモデルでも自然に行えるようになったのです。ただしAmpNetはNAMと違ってオープンソースではなく、作成したAmpNetモデルは現時点でGENOMEのPARADEXエンジンでのみ再生できる形になっています。
では、そのAmpNetモデルはどうやって作るのか。GENOME 2.0と同時に、Two notes Capture Studioという無料のスタンドアロンアプリも公開されています。これはCODEX用の静的なNAMキャプチャと、PARADEX用のAmpNetキャプチャの両方に対応したキャプチャ専用ソフト。
AmpNetのキャプチャでは、ソフトの画面の指示に従い、対象のノブを0から10まで11段階のポジションに順番に合わせながら、それぞれの状態でテスト信号を録音していきます。その間、ほかのノブは12時の位置に固定しておくというルールで、1つのセッティングを写すだけのNAMキャプチャと比べると手間も時間もかかりますが、その分、全パラメータの挙動まで含めて再現できるモデルができあがるのです。
学習処理はクラウドではなくPC上のオフラインで完結し、完成したモデルはそのままGENOMEのリグに組み込めるようになっています。手元に大切なアンプがある人なら、その音をノブの挙動ごと丸ごとソフトウェア化して持ち歩く、といった使い方ができるのも面白いところです。
またNAMキャプチャの方は、最新アーキテクチャのA2を含む各フォーマットで書き出せて、CODEXに限らずNAM対応環境全般で利用可能です。キャプチャにはオーディオインターフェイスやリアンプボックスに加えて、実機アンプの出力を受け止めるロードボックスなどが必要で、同社のTorpedo Reload IIやTorpedo Captor Xが推奨機材に挙げられています。
GENOME IntroとGENOME 2.0の違い
ちなみにGENOME Introと製品版GENOME 2.0の違いは以下のようになっています。
| 項目 | GENOME Intro(無料) | GENOME 2.0(製品版) |
| アンプ(TSM / TSM-Ai) | 4 | 24 |
| DynIR仮想キャビネット | 4 | 16 |
| ペダル | 14 | 49 |
| スタジオFX | 5 | 16 |
| CODEXエンジン (NAM / AIDA-X / Proteus対応) |
対応 | 対応 |
| PARADEXエンジン (AmpNet対応) |
– | 対応 |
ご覧のとおり、違いは主に収録コンテンツの量であり、エフェクトの数が違う別グレード、という感覚で捉えるのが分かりやすいと思います。ただしPARADEXエンジンは製品版のみの機能となっており、AmpNetモデルを楽しむには製品版が必要です。逆にいえば、それ以外の基本的な枠組みは無料版にも備わっている、ということでもあります。
なお動作環境はどちらも共通で、Windows 10以降およびmacOS 10.15以降。プラグイン形式はVST3、AU、AAX-Nativeで、スタンドアロンでも動作します。正直なところ、アンプシミュレータの世界はすでに強力な定番製品がひしめく激戦区であり、GENOMEがそれらを置き換える存在だ、という話ではないと思います。
ただ、NAMという巨大な無料モデル資産の受け皿になれること、そしてAIモデルなのにパラメータが追従するAmpNetという、ほかにはない武器を持っていることを考えると、AIアンプモデリングの動向が気になっている人にとっては、今最も面白い選択肢の1つであることは間違いありません。まずは無料のIntroとNAMのモデルで遊んでみて、AmpNetの世界が気になったら、製品版を検討する、というのが賢い楽しみ方ではないでしょうか?
そもそもNAMとは?世界中で広がるオープンソースのAIアンプモデリング
NAM=Neural Amp Modelerは、エンジニアのSteven Atkinsonさんが開発した、ディープラーニングを使ってギターアンプやペダルのサウンドをモデリングするオープンソースのプロジェクト。仕組みとしては、決められたテスト信号を実際のアンプに通して録音し、入力と出力の関係をニューラルネットワークに学習させることで、そのアンプの振る舞いをそっくり再現するモデルファイル、拡張子でいうと.namファイルを作り出す、というもの。いわばリアンプの要領でアンプの挙動を丸ごとAIに覚えさせてしまう技術です。モデルを再生するための本家プラグインは無料で公開されており、モデルを作るためのトレーニングツールも無料で使えるようになっています。
その結果、世界中のユーザーが自分の持っているアンプやペダルをキャプチャしてはネット上に公開する、という動きが爆発的に広がったのです。モデル共有サイトの代表格であるTONE3000には無数のモデルが集まっており、玉石混交ではあるものの、名の知れたアンプならたいてい誰かがすでにキャプチャしている、といっていいほどの充実ぶり。商用アンプシミュレータの追加モデルが1つ数千円で売られていることを考えると、これはなかなか衝撃的な世界ですよね。
ハードウェア側の対応も進んでいます。たとえばSONICAKEが8,800円(税込)で発売しているカードサイズのマルチエフェクト、Pocket MasterはNAMのモデルファイルを読み込むことができ、本体に入っていないアンプのサウンドを後から自由に追加できます。SONICAKEについては、以前「POCKET MASTERで話題沸騰のSONICAKEが出した8,800円のDSP搭載オーディオインターフェイス、SONIC CUBE IIの破壊力」という記事でも紹介しているので、ぜひそちらも参考にしてみてください。
ほかにもHotoneのAmpero IIシリーズがファームウェアアップデートでNAM対応を果たすなど、中国メーカーを中心にNAM対応を打ち出す機材が続々と登場しています。
NAM自体の進化も続いていて、今年3月には、TONE3000がAtkinsonさんと組んで開発した新アーキテクチャ、A2が発表され、6月にリリースされました。モデリング精度を高めながら動作を軽量化し、1つのモデルが機器の性能に応じて処理量を変えられるようになる、というものです。一方で、大手のアンプシミュレータメーカーの多くは、自社で築いてきた技術資産があることも影響してか、NAMを積極的には採用していないのが現状。そんな中、既存メーカーでありながらNAMを標準対応させたGENOMEは、ちょっとユニークな立ち位置のソフトであり、NAMの入口としてもピッタリの存在だと思います。
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GENOME 2.0製品情報
GENOME Intro製品情報
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