イギリスのSPITFIRE AUDIO(スピットファイア・オーディオ)という音源メーカーをご存知ですか? テレビドラマや映画、またアニメなどのBGM、いわゆる劇伴の作曲・制作にすごくいいと、プロミュージシャンの間でとてもよく話題になっている音源メーカーで、海外でも最近爆発的な人気になっているのだとか……。

これまでNative InstrumentsKONTAKT用ライブラリとして、オーケストラ音源を中心に膨大なライブラリを作ってきたメーカーですが、今年4月に同社初のシンセサイザ音源、BT PHOBOS(BTフォボス)をリリースしたところです。さらに、いまちょうど10周年を迎えたということで、先日、Red Bull Studios Tokyo Hall(東京都渋谷区)で記念イベント「SPITFIRE AUDIO 10TH ANNIVERSARY」が開催されました。これに合わせてSPITFIREの共同創設者であるChristian Henson(クリスチャン・ヘンソン)さんが来日し、インタビューに応じてくれたので、SPITFIRE AUDIOについていろいろと伺ってみました。


SPITFIRE AUDIOの共同創設者であるChristian Hensonさんに話を伺った
--SPITFIRE AUDIOは今年で10年目とのことですが、もともとどういう経緯でこのメーカーを始めたのですか?
Christian:私自身、もともと作曲家であり、いまも作曲家として活動しているのですが、当時いろいろな会社のサンプル音源を試してみたのです。その結果、自分がレコーディングしている音とかけ離れていることに不満を感じたのがSPITFIREスタートのキッカケです。ここには共通する3つの不満がありました。1つ目はルームアンビエンス、つまり部屋の反響がまったく録れていないこと、2つ目はどれもオンマイクで録っていること、そして3つ目はバイオリンでもピアノでも演奏が完ぺきすぎて人工的に感じてしまう、ということでした。これをもっと自然なサウンドにするために、自分でサンプルを作ろうとレコーディングしたのがスタートです。微妙なミスがあっても、多少チューニングがズレたところがあったとしても、自分には自然に感じられたんですよ。



SPITFIRE AUDIO 10TH ANNIVERSARYイベントの会場

--同じような思いを持っている人もいたのですか?
Christian:この3つの点について、某メーカーのコミュニケーションサイトに書き込んだんですよ。結構細かく指摘して書いていたら、サイトの管理人から「もう来ないでくれ」って締め出されちゃいました。でも、同じように思っていた人はいるんですよね。その一人である作曲家のPaul Thomson(ポール・トンプソン)が、My Space経由で連絡をくれて「あなたの意見に賛同するよ」ってね。その後、ロンドンのパブで初めて会っていろいろ話をしたんですよ。その結果、「じゃあ、小さい規模のストリングスのセッションのサンプルを作ってみよう」ということになり、作ってみたところ、なかなかいい感じになったんです。その時は大々的に売り出すというわけではなく、知人の作曲家たちに配って評価をしてもらったところ、なかなかの高評価で、さっそくテレビドラマなどの劇伴に使ってくれたりしたんですよ。そこから、だんだんライブラリを増やしていったんです。


今も作曲家としてイギリスのテレビの劇伴などを制作しているChristianさん

--Christianさんは、いまも作曲家として活躍されているとのことでしたが、SPITFIRE AUDIOのディレクターとしての仕事と作曲家としての仕事の比率はどの程度なんですか?
Christian:今朝も3時に起きて、テレビシリーズの作曲をしていたので、作曲家としての仕事はかなり多いです。といっても作曲家としての仕事には繁閑があるので、忙しい時には集中するようにしています。一方、SPITFIREのほうは、レギュラーで常に仕事をしているので、1年間をならせば50:50程度かもしれませんね。

--さて、そのSPITFIRE AUDIOのライブラリ、どんどんと増えてきていますが、これが広がった理由はやはり作曲家仲間の口コミだったのでしょうか?
Christian:もちろん、口コミも大きな理由ですし、会社を立ち上げてから2年間でいろいろな映画で使われるようになりましたが、一気に広がったのは、映画「アバター」にSPITFIRE AUDIOの名前がクレジットされたことがあったと思います。それ以降、やはり劇伴の音源として幅広く使われていますが、最近は映画やテレビのビジネス以外でも有名な作曲家に使われるケースが増えてきています。もちろん、すべてを把握できているわけではないのですが、ジャンルの壁もあいまいになってきていることからポップスやダンスミュージックの世界で使われたりもしてますね。たとえばジャンキー・XLなどは、SPITFIREの音源を使いながら従来のジャンルの壁を崩して、新しい音楽作りをしてますね。

--ALBIONシリーズやBMLシリーズ、SIGNATUREシリーズ、eDNAシリーズなど、数々の音源はどれもNative InstrumentsのKONTAKTを使ったサンプリング音源となっていますが、4月に発売したBT PHOBOSは独自のシンセサイザ音源となっていますよね。これを出した背景などを教えていただけますか?
Christian:会社を立ち上げて5年間で急速に成長してきたこともあり、我々の考え方も少しずつ変わってきました。Paulも私と同様、作曲家としてSPITFIREの音源を使いながら、新しい音源を作っていたわけですが、彼と話をする中、「さらに簡単に使えて便利な作曲用ソフトウェアを自分たちで開発してみよう」ということになったんです。だからシンセサイザというよりもツールとしてのソフトウェアを作ろうという考え方ですね。もうちょっと楽しみながら使えたり、もっと簡単に扱えたり、手ごろに使えたり……、そんなソフトウェアを作りたいという気持ちが強かったんです。


21.26GBあるBT PHOBOSのインストールには1時間程度を要した

--先日、実際にBT PHOBOSをダウンロードしてみたら、ちょっと膨大な容量で驚きました。KONTAKTサンプリング音源ではないので、小さいのかなと思っていたところ、21GB以上もあるんですよね。
Christian:これは従来のいわゆるシンセサイザとはちょっと違ったソフトウェアで、ここには膨大なサンプリングデータ、そしてシンセシスエンジン、そしてコンボリューションテクノロジーが搭載されている複雑な構造になっているんです。ある意味、F1のレースカーのように、会社自体でこうしたテクノロジーを持っているんだという主張というかアピールポイントにもつながる、という思いもあって作っています。

--実際の開発には5年近くかかったわけですよね。
Christian:そうですね、実際発売の直前まで開発していたくらいですから、なかなか大変ではありました。このBT PHOBOSの開発に当たっては、3つのことに気を付けてきました。1つ目は開発チームが自分たちの作った音源に満足しているか、2つ目は品質テストチームがテストした結果、満足いくソフトになっているか、そして3つ目はPaulと私の2人が作曲家として満足いく音源になっているか、です。この3点について5年弱かけてブラッシュアップしていったわけです。最終的には予定よりもだいぶ遅れて、多くのユーザーさんにはご迷惑をおかけしてしまいましたが、使っていただければ満足いただける内容に仕上がっているはずだと自信を持っております。


鍵盤を押しているだけで作曲できてしまうほどの創造性を持つ音源、BT PHOBOS

--このBT PHOBOSはその名前の通り、BTとの共同開発なんですよね。
Christian:SPITFIREはこれまでいろいろな人とコラボして音源を作ってきましたが、BT PHOBOSは「The Fast and The Furious」、「Monster」、「Lara Croft: Tomb Raider」などの映画音楽を制作する著名な作曲家であり、EDM、プログレッシブハウスなどエレクトロニック・ミュージックの先駆者であるBTとタッグを組んで開発しました。BTは、本当にいろいろな研究をしていて、わざと入力と出力をひっくりかえし、そこから出てくるサウンドをどう楽しむか……なんて実験もしています。このソフトでは、BTが自分でコンボリューションリバーブのテストをしていた中、これを使って何かコラボレーションできないかと連絡をくれたのがキッカケではありました。BTは「音の魔術師」なんて異名を持っていますが、ここに膨大なサンプリングサウンドを収録しているから20GB超になっているわけです。BT PHOBOSはキーを一つ押し続けているだけで曲ができあがってしまうのが大きな特徴ですよ(笑)。昨今、世界中で作曲予算が減っているため、作曲家にとっては少しでも早く仕上げないとやっていけないビジネスになっていています。そうした中、一つのキーを押しているだけで作曲できてしまうBT PHOBOSは忙しい作曲家のみなさんには、うってつけのソフトウェアなんです。そのため、会うとみんな喜んで「ありがとう!」って握手を求めに来ますよ(笑)。

--使ってみると仕組みはよくわからないけれど、プリセットを選んでキーを押しているだけで、いい雰囲気のサウンドになるし、イメージも膨らんできそうです。またパラメータを適当に動かすだけでも、ずいぶん違った音に代わっていくのも面白いところですね。劇伴用に最適な音源であるのは分かりますが、ほかにどんな用途がありそうですか?
Christian:BT PHOBOSは近代的なサウンドの音源なので、オーケストラに近代的な音をミックスするような使い方はおすすめですね。一方でEDM系のサウンドでも広く使われてきていますが、曲のサウンドの大半を占めるくらい存在感のあるものとなっています。さまざまなジャンルの楽曲の中にほんのちょっと違うニュアンスを加えたい……というときに大きな威力を発揮してくれます。「パスタに入れるパルメザンチーズのような存在」なんて言ったら、BTに怒られちゃうけれど、ほどよいミックスで大きな効果を発揮してくれるはずです。


日本は今回が初だというChristianさん、日本の多くのユーザーに使ってもらいたいと話していた

--今回、5年かけてBT PHOBOSを開発し、リリースされたわけですが、今後もサンプリング音源と同時に、こうした新しい音源開発もやっていくのでしょうか?
Christian:はい、SPITFIRE AUDIOではサンプリング音源制作、ソフトウェア流通に加え、新しい音源開発の3つ事業を柱としたので、今後も新しい音源開発は進めていきます。すでに、次のプロジェクトとして斬新なGUIを作る会社と組んで進めているところですので、ぜひ楽しみにしていてください。

--ありがとうございました。

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◎SONICWIRE ⇒ BT PHOBOS

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