1985年に誕生したMIDIシーケンサ、Performerをルーツに持つMOTUのDAW、Digital Performer。その最新メジャーバージョンとなるDigital Performer 12(以下DP12)が9月18日に発売されました(税込直販価格:¥32,780〜¥87,780)。前バージョンのDP11からは約4年ぶりとなる大型アップデートで、Dolby Atmosでのイマーシブミックスや、AIによるステム分離、楽譜ソフトとの連携を強化するMusicXML対応など、多くの新機能が盛り込まれています。
すでにDP12については海外を中心にさまざまなレビュー記事が公開されていますが、この記事ではDP12の新機能を一通り整理したうえで、ステム分離機能を実際に試してみたり、MusicXMLをDreamtonicsの新型オーケストラ音源「Instrument X」や歌声合成ソフトと連携できるかどうかなど、いろいろ試してみたので紹介してみましょう。
Dolby Atmosでのイマーシブミキシングに対応
DP12最大の目玉といえるのが、Dolby Atmosによるイマーシブミックスへの対応です。最大128チャンネルのオブジェクトオーディオを3D音場内の任意の位置に、高さ(エレベーション)を含めて自由に配置でき、使い慣れたミックスオートメーション機能でその動きをコントロールできます。
モニタリングは最大9.1.6chのサラウンドスピーカー環境のほか、一般的なヘッドホンでのバイノーラル再生にも対応。書き出しはDolby Atmos ADM BWF形式で行え、Dolby Atmos Rendererを内蔵しているため、DP12単体でリアルタイムにミックス・レンダリングから納品まで完結します。外部のDolby Rendererアプリと組み合わせたワークフローも可能です。
もちろん、Digital Performer 12でDolby Atmos環境の制作を行うには、たとえばMOTU 16Aなど、マルチチャンネルに対応したオーディオインターフェイスや、その先には7.1.4chといったスピーカーを設置する必要があるので、誰でも気軽に……というわけにはいきません。それでも、ソフトウェア的にはDigital Performer 12さえあれば、Dolby Atmosミックスが可能になった、という意味では非常に大きな意味のあるバージョンアップである、といえると思います。Pro ToolsやLogic Pro、Cubaseといった主要DAWがすでにDolby Atmos対応を進めている中、DPもようやくその土俵に立ったという格好で、映像制作やゲームサウンドの現場からDPに戻ってくるユーザーも出てきそうです。
AIによるステム分離機能を搭載
多くのDTMerにとって、より手軽に使え、利用価値の大きな新機能が、AIを活用したステム分離(ステムセパレーション)です。MOTUが自社開発したAI技術により、既存のミックス音源をドラム、ベース、ボーカル、ギター、さらにはストリングスやブラスといったアンサンブル単位のトラックにまで分解できます。最近こうしたステム分離機能を搭載したDAWが増えていることは事実ですが、その多くがドラム、ベース、ボーカル、その他という4種類に分解されるのに対し、Digital Performer 12では6種類に分解できる、というのが大きなポイントとなっています。
分離したトラックは、リミックスやマッシュアップといった創作用途はもちろん、特定のパートをミュートして自分の楽器で一緒に演奏する練習用途にも使えます。処理はローカルで完結し、クラウドへの送信やGPUも必要としません。
実際にステム分離を試してみた
このステム分離、実際どこまで使えるのか気になったので、DTMステーションCreativeレーベルの第1弾CDに収録された、小寺可南子さんボーカルの「Appliciation 100」を使って試してみました。曲を丸ごとDP12に取り込んでステム分離を実行し、その結果をDP12のミキサー画面上で各パートを適当にソロ/ミュートしながら聴いていく様子をビデオに収めてYouTubeにアップしたので、こちらでご覧になってみてください。
試してみると、ドラム、ベース、ボーカル、ギター、シンセ……ときれいに分解されているのがわかると思います。もとが一発録りのシンプルな編成ではなく、複数の音が重なり合った楽曲であることを考えると、なかなか優秀な分離精度だと感じました。
アレンジメントストリップで曲構成の組み替えが簡単に
タイムライン下部に新設された「アレンジメントストリップ」は、イントロ、ヴァース、コーラス、ブリッジといった楽曲のセクションを色付きのバーとして表示し、それをドラッグするだけで全トラックにわたってセクションの並び順を入れ替えられる機能です。Option(Alt)キーを押しながらのドラッグで複製、ハサミツールでの分割にも対応しており、アレンジのバリエーション出しが直感的に行えます。
そのほかの細かな改善点も充実
DP12では、上記の目玉機能以外にも、ユーザーからの要望に応える形で数十項目の改善が加えられています。
- トラックフリーズの強化 ‐ 新しいトラックを作らずにワンクリックでオーディオ/インストゥルメントトラックをフリーズ・解除でき、フリーズしたままミックス調整も可能。恒久的にフラットン(アンドゥ可)することもできます
- トラックプリセット ‐ I/OやEQ、プラグインチェーンをまとめてトラックプリセットとして保存・呼び出しでき、ボーカルやドラムなど楽器別のプリセットも数十種類標準搭載
- タグとサーチの強化 ‐ トラックやチャンクに自由にタグを付けて検索・並べ替えができるほか、環境設定ウィンドウやコマンドウィンドウにも検索ボックスが追加
- メインMIDIコントローラーメニュー ‐ 複数の外部MIDIコントローラーの中からプライマリ入力デバイスを指定し、不要なMIDI入力をフィルタリング
- キーボードカスタマイズ ‐ Pro Tools、Cubase、Nuendo、Logic、Liveなど他DAWのキーコマンドセットをそのまま読み込んで使用可能
- ドラッグ&ドロップの改善 ‐ 別シーケンスのタイムラインへチャンクをドラッグして追加でき、同名トラックがある場合はマージするオプションも用意
- Performer Producer Pack ‐ MIDIコードや、それに対応するオーディオ/MIDIループを集めたコンテンツパックを標準搭載。コンテンツブラウザーからタイムラインにドラッグ&ドロップするだけで曲作りをスタートできます
- MIDIアルペジオ ‐ クラシックなコード進行からクリエイティブなプログレッションまで、数百種類のMIDIアルペジオを収録。コード進行に合わせたハーモニーを手軽に探せます
- ラージカウンターのリサイズ対応 ‐ 大きく表示できるラージカウンターウィンドウが自由にサイズ変更できるようになり、離れたモニターからでも確認しやすくなりました
- ホバーエフェクト、チュートリアル、フライオーバーヘルプ ‐ 操作時のアニメーションに加え、対話式のチュートリアルやカーソルを合わせるだけの簡易ヘルプも追加
MusicXMLの読み込み・書き出しに対応。楽譜ソフトとの往復編集が可能に
そしてDTMステーション的に見逃せないのが、MusicXMLファイルのインポート・エクスポート対応です。これによりDorico、Sibelius、MuseScoreといったサードパーティの楽譜作成ソフトとの間で、ラウンドトリップでのデータ交換ができるようになりました。MusicXMLファイルはチャンクリストへのドラッグ、または「ファイル」ー「読み込み」ー「MusicXMLをシーケンスとして読み込み」から取り込め、「ファイル」ー「出力」ー「選択されたトラックをMusicXMLで出力」または「ファイル」ー「出力」ー「スコアをMusicXMLで出力」で書き出すことができます。
ダイナミクスやアーティキュレーション、小節の反復記号、テキストなど、DP側が書き出せる要素はそのままインポートにも対応しています。
これまでDPユーザーが楽譜ソフトと連携するには、Standard MIDIファイル経由で妥協せざるを得ない場面もありましたが、MusicXMLに正式対応したことで、譜面まわりのワークフローがかなり広がりそうです。なお、DP内で楽譜の作成・編集を行うのは「クイックスクライブ(QuickScribe)エディタ」という専用ウィンドウで、これまでは本格的な浄書ソフトと比べると機能面でやや見劣りするという声も少なくありませんでした。今回のMusicXML対応は、まさにその弱点を補い、DP単体で完結しなくても外部の楽譜ソフトや音源と連携できるようにする、という意味合いが大きそうです。
MusicXMLで音源・歌声合成ソフトと連携できるか試してみた
MusicXMLのインポート、エクスポートが可能になったということで、やはり気になるのがSynthesizer VやVOCALOIDなどの歌声合成ソフトとの連携ができるのか、という点です。もちろん、これらで利用するためにはDigital Performer 12側で歌詞の入力、エディットができることが前提となるわけですが、この辺を少し試してみました。
まずDigital Performer 12では前述のクイックスクライブエディタという楽譜エディタを利用していきます。ここで各音符に対して、ひらがなを歌詞として入力することができます。これを入力した状態で、MusicXMLとしてエクスポートしてみたところ、しっかり歌詞情報も併せて出力することができました。
これをSynthesizer V2で読み込んでみたところ、問題なく音符情報、歌詞を取り込むことができ、そのまま歌わせることができました。同様にVOCALOIDやVoiSonaでも利用できるようでした。
一方で、このクイックスクライブエディタでは、アーティキュレーションパレッドを表示させることで、スタッカートやスラーといったアーティキュレーションの指定も可能です。
そこで、今度はこうしたアーティキュレーションを設定した上で、MusicXMLでエクスポートし、Instrument Xで読み込んでみました。
Instrument Xについては先日「DTM常識を覆す、まったく新たな超高性能音源「Instrument X」爆誕! Synthesizer VのDreamtonicsが開発」という記事で紹介したニューラル音響モデリングによるオーケストラ音源。こちらもしっかりアーティキュレーションを認識し、それに演奏をすることができました。まあ、Dorico、Sibelius、MuseScoreなど専門の譜面エディタほどの機能はないものの、それでもこうしたソフトとMusicXMLを介して連携できることを考えると、大きな威力を発揮するといって間違いないと思います。DP11以前のユーザーにとっても、DP12へのアップデートを検討する十分な理由となりそうですね。
もちろん数値打ち込みとしての機能も健在
冒頭で振れた通り、Digital Performer 12は1985年誕生のPerformerからの40年以上の歴史を組むソフトであり、プロユーザーを中心に多くの打ち込みの世界を支えてきたMIDIのシーケンサとしての役割も健在です。
以前「なぜカラオケはCDリリース日から歌えるのか?Digital Performerでの打ち込みが支える通信カラオケの世界」という記事で、Digital Performerについて紹介したこともありましたが、数値入力を使った正確で効率のいい打ち込み機能も脈々と引き継がれています。
このMIDIの打ち込みのためにDigital Performerを今導入するというのもありだと思います。
価格・購入方法
以上、Digital Performer 12について紹介してきましたが、DP12は新規ライセンス版のほか、旧バージョンからのアップグレード版、対象DAWユーザー向けクロスグレード版、学生・教員関係者向けアップグレード版の4種類が用意されています。日本国内での取り扱いは国内代理店のハイ・リゾリューションで、価格は以下の通りです。
| エディション | 価格(税込) |
|---|---|
| DP12 新規ライセンス版 | ¥87,780 |
| DP12 旧バージョンからのアップグレード版 | ¥32,780 |
| DP12 対象DAWユーザー向けクロスグレード版 | ¥69,850 |
| DP12 学生&教員関係者向けアップグレード版 | ¥69,850 |
対応OSはmacOS 12.7以降、Windows 11(24H2以降)で、Audio Units(Macのみ)、VST2/VST3、MAS、ARAの各プラグインフォーマットに対応しています。
DTMステーションでも以前「Digital Performer 11発売開始。パフォーマンスが向上し、機能向上するとともに対応ハードも充実」という記事でDP11の発売時の様子を紹介しましたが、あれから約4年、DP12は単なるマイナーチェンジではなく、Dolby Atmosやステム分離、MusicXMLといった今日的なニーズを踏まえた大型アップデートとなっています。長らくDigital Performerを使い続けてきたユーザーはもちろん、他のDAWからの乗り換えを検討している人にとっても、注目のバージョンアップといえそうです。
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