Roland AIRAは本当にアナログを超えたのか!?

3月8日、RolandからAIRAシリーズが発売され、ネット上でも大きな話題となっています。その発売に先駆けて3月1日、ミュージシャンの齋藤久師さんが主催するシンセイベント、SYNTH BARでAIRAを使ったライブが行われ、一般には国内初お披露目となりました。SYNTH BAR恒例の「おさわりタイム」では、TR-8TB-3VT-3、さらに発売が5月予定のSYSTEM-1までの機材が解放され、来場者みんなでいじりまわしていたのです。

先日の記事「808、909、303の音を忠実に復刻。Roland AIRAがベールを脱いだ!」でも紹介したとおり、久師さんは、AIRA開発の比較的初期段階からRolandに対して要望を出していたり、サウンドチェックなどをしていたようで、SYNTH BARにおいては「まさに自分が欲しい機材を作ってもらった」と話していました。でも、AIRAの開発とどんな関わりだったのか、TR-808TR-909TB-303を駆使するミュージシャンとして著名な齋藤久師さんが求める機材とはどんなものだったのか、直接インタビューして聞いてみました(以下、敬称略)。


AIRAの初お披露目となったSYNTH BAR Epsode #13でプレイする齋藤久師さん



--そもそもAIRAに携わるようになったのはどうしてなんですか?

久師:要望はもう15年以上前から出していたんですよ。ダンスミュージックやクラブシーンでTR-808やTB-303などがメジャーになってきたころ、他メーカーから、どんどん808や303の音が出てき、クローンもいっぱい登場してきたのに、Rolandが一向に動かないのを不思議に思うとともに、もどかしく感じていたんです。別に復刻してほしいとは言わなかったけれど、とにかく買いたくなる楽器を作ってほしいと、ずっと訴えていました。そうした中、2012年9月だったと思います。先日の記事にも出ていたRolandのRPGカンパニーの高見眞介さんがウチにやってきて、「ビデオに撮るから、いつもの即興演奏をしてほしい」というんです。目的も言わず(笑)。そこでTR-808、TR-909、TB-303、さらにアナログシーケンサ、ディレイ、またミキサーコンソールを使いないがらの即興演奏を行ったのですが、そこがスタートでした。


SYNTH BARではRolandの高見さん(左)もAIRAとPCとの同期のデモのためにステージに 

--以前、高見さんと話をしたとき、「社内を説得するのに久師さんのビデオを何度も見せた」といっていましたが、それのことですね!その後どうなったのですか?

久師:次の週にまたやってきて、「各機材を貸してほしい」と言って持って行っちゃったんですよ。それでもしっかりと目的は話してくれなかったのですが、「ついに何かが動き出したんだな」と確信しましたね。さらに翌週にはプロジェクトマネジャーもいっしょにやってきて、ウチにあるビンテージ機材を見にきたりね。「ハード、ハードって言っているけど、何が大切なのか?」と聞かれたので、ツマミを回す感覚と、それによる音の変化の仕方など、フィジカルフィードバックの大切さなどをお話しましたよ。どんな機材が欲しいかというので、いろいろ要望を出しましたよ。


今回お話を伺った齋藤久師さん

--どんな要望を出したんですか?

久師:リズムマシンに関していうと、まずは、ミキサーで演奏をするので、ツマミではなくスライダー型のフェーダーが欲しいという要望は出しましたね。さらに操作する上で階層がないことも絶対条件だ、と。メニューボタンでの設定などがあったら、パフォーマンス演奏はできないですからね…。そしてテンポに対するFineTuningがついていること、というお願いもしました。TAPボタンでのテンポ設定は、いろいろな機材で付いていますが、テンポ合わせるのって、そんな簡単にはできないですよ。ものすごく微妙なタイミングですからね。アナログのターンテーブルと同期させる場合などは、TAPではなく、ツマミで細かく調整したいですからね。そして絶対条件として出したのが、「アナログで作ってほしい」ということでした。


普段からミキシングコンソールのフェーダーを動かしながらの演奏を行っている

--なるほど、AIRAのTR-8のコンセプト的な要望ですよね。

久師:それから、しばらく後、浜松からエンジニアもやってきて、TR-8の原型となる図面を持ってきたんですよ。まだ、本当に構想のイラスト的な図面でしたけどね。その時点では中身については議論できておらず、形、UIなどの議論をしました。パネルの配置やテンポのダイヤルはどこに置くべきか、フェーダーはどこに何個搭載して、パーツの手触り感をどうするか、トルクの重さをどの程度にすべきか……。うちのシンセのツマミをいじりながら、どういうものが使いやすいのかを伝えました。


自宅スタジオにはTR-808、TR-909、TB-303といったビンテージ機材とともにAIRAシリーズが

--TR-808が100%いいわけではない、ということですか?

久師:確かにTR-808に自分が慣れてしまっているけれど、冷静い考えればそれがベストというわけではないんです。たとえば音量一つをとっても、瞬時に大きい音にしたいというとき、ロータリーフェーダーよりはスライダーフェーダーのほうがいい。またシャッフルのような機能がついていたらより便利だろう……とかね。とくにお願いしたのがパフォーマンスモードとレコーディングモードが分かれていること。自分ではTR-808、TR-909のほかにTR-606もよく使うんだけど、音は808、909が最強、でもUIは606がもっとも優れていると思っているんです。そう606はパターンを再生しながら録音することもでき、パターンを変えていくことができるんです。こうした機能ができるようにTR-808を改造できないかって、いろいろな人に相談していたくらいですからね。


TR-8にフェーダーを採用するアイディアはかなり開発初期の段階からあった

--そのパターンのところについてTR-8を触って1つ疑問に思ったことが……。TR-808などはパターンを作成した後、それをシーケンスで並べてソングを作る機能があったけれど、TR-8ってないですよね?

久師:確かにソング機能ってあるけれど、僕自身、ソングを使っている人を見たことがないんですよ。TR-808のような昔の機材ってディスプレイもないから、「何回このボタンを押した後に、こっちのボタンを押して……」という操作であり、本当にうまく行っているのか不安になります。TRが使われている往年の名曲もみんな、パターンを手で切り替えているし、今使っている人たちもみんなそう。一方で、制作側であればDAWを組み合わせて使うのが当然だから、そもそもソング機能なんて不要。そう考えたら、ソング機能は不要だね、って話も当時からしていました。

--そのようにして、いろいろな要望を出していったわけですね。

久師:その後、しばらくして、また高見さんたちと会ったとき、自分のも含め、複数台のTR-808を並べて音の比較をしてくれたんです。聴き比べてみると、これが本当に同じ機材なのか、というほどの違いがあって愕然としました。個体差があるというのは知ってたけど、ここまでまったく違う音なのか、と。でも、そこで出てきた答えが「だから、デジタルでいく」というものでした。正直いって、失望しましたね。もう「終わった」と(笑)。高見さんとの付き合いも15年近くあったけど、その仲も終わったって、本当にがっかりしましたよ。仮に製品化されても、自分の名前は出してくれるな、ってね。それが2012年末くらいの話。その後、まったくコンタクトもなくなったのですよ。でも、水面下で一生懸命開発が進んでいたんですね。


SYNTH BARの冒頭では、いきなりTR-8のキックが爆音で鳴らされ、会場の全員、度胆を抜かれた

--その後、また繋がりはできるわけですよね(笑)!?
久師:夏前くらいですかね……。高見さんから、「とにかく音を聴いてください」って言われて、Rolandの東京のオフィスに行きました。多少、嫌々な感じで(笑)。モノを見て、まだやってたんだ、しかもデジタルで……ってね。そこで聴かされたのはキックだけ。モニタースピーカーではなく、いわゆるラージスピーカーだったんですが、想像していたよりはいい音でした。とはいえ一発の音ならサンプリングすれば、TR-808の音そのものが出せる。けれど重要なのは、パラメータをいじった時のフィーリングと音の変化。それを試してみてちょっと驚きました。異常に滑らかで、変化度合が気持ちいい。この辺までが緩々で、その先、急に激しくなる……といった感じも、TR-808そのものだったんです。音がまったく同じなのに、見た目が全然違うので、ちょっとこっちの脳が追いつかない感じですね!これを見て、デジタルでも行けるんだ、って確信しました。

--絶対アナログだといってたけど、大丈夫だ、と。

久師:ACBなどの技術そのものについては分からないけれど、今まで自分が見てきたデジタルとはまったく違いました。自分の知っているアナログの音がするんですから。実はTR-8より先にTB-3のほうが開発が進んでおり、そちらも見せてもらったら、こちらは、いろいろ問題がありました。


開発初期のTB-3の出音はおとなし過ぎる音だった

--どんな問題だったんですか?
久師:まじめに作りすぎている感じで、優等生なデジタルの音だったんです。ツマミを回したときのフィーリングもデジタルっぽさがあったし、どこかのソフトメーカーが簡単に再現した音という感じで、TB-303独特の荒々しさがなかったんです。だから、ダメ出しした上で、もっと破壊的な音にしてほしい、「ブン」じゃなくて「バーンッ!」という破裂したような音にしてほしい…って、好き勝手な要望を出しました。たとえばノコギリ波とパルス波では爆発の仕方が違う。その辺のエネルギーが感じられなかったんですよ。また、ここで実機を使ってエンジニアに聴かせたのがノイズです。実はTB-303って「ビューン」っていう実音だけじゃなくて、裏に「ツー」というノイズが一緒に出ていて、それが特有の音色を作り出していて……なんてアドバイスをしてみたりね。とにかく、ダメ出しをいっぱいしてきましたよ。
--製品となった実際のTB-3の音を聴いてみると、TB-303そのものという音がします。

久師:それから何度もやりとりをしていましたが、見る見る音や操作感は向上していきました。正直、自分もデジタルについて誤解していました。ACBという技術は素晴らしいって思いましたね。やはり回路自体をモデリングするのは、音をモデリングすることとはまったく違う。それならば、とさらに欲しい機能の要望を出していきました。ただTB-3は1音だけですが、TR-8はキックだけでなく、スネア、ハイハット、シンバル、タム……といっぱいあり、しかもTR-909の音まで入れようっていうんだから、大変です。キックだけに1ヶ月もかけていて製品は本当にできるのか、と思いましたよ。


ACBの音を確かめようと、SYNTH BARの「おさわりタイム」は多くの人が機材の前に群がった 

--先日、高見さんにインタビューした際にもその話題が出て、人海戦術でアナログ回路のACB化を進めたと言っていましたね。

久師:人海戦術で一気に開発が加速した感じはしました。先ほどの話で、複数のTR-808を並べて比べていたわけですが、個体によってまるっきり音が違うので、落としどころが難しいだろうな、とは思いました。私もそうですが、自分の808の音しか知らないから、違うものがやってきたら「これは808の音じゃない」って思っちゃいますからね……。ただ、その音の違いは主にピッチとディケイであるということも分かったので、カウベルなどにもこれらのパラメータをつけることになったんです。また面白かったのは、TR-808のタムタムの残響音の正体!使うと分かるんだけど、余韻の最後ブーンって音が残るのはなぜなのかと思っていたのですが、当時これを開発したエンジニアによると、ホワイトノイズを足して作っていたとのこと。で、現存する機材は、個体によって、そのノイズの音量と長さが違うために、雰囲気が大きく異なることがハッキリしたんですよ。最初にプロタイプの音を聴いてデジタルっぽくダメだと思ったタムタムは、このホワイトノイズがしっかり調整されていて、タイトでディケイが短めだったんです。ところが、Rolandの工場に残っていたTR-808はまさにその音そのものだったので、驚きました。そこで、一番気持ちいい音を探そうって日を作って、Rolandの浜松の研究所にこもって、音を確かめながらエンジニアといっしょに調整したりもしました(笑)。


100名を超える人が集まり、満員だったSYNTH BAR 

--ところで、TR-808が完全なアナログ音源なのに対し、TR-909ってシンバルなどの金モノ系を中心にPCMによるデジタル音源でしたよね。Rolandのビデオを見ると、TR-909用にサンプリングしたシンバルなんかが登場していましたが、まさかサンプリングしなおしたりはしてないですよね!?そんなことしたら、それこそ音が変わっちゃいそうだし…。

久師:僕もそのシンバル見せてもらいました。でも以前聞いた話では、そのシンバル、開発者の思い入れが残しているのであって、それを録りなおしたりはしてないようです。サンプリングデータは909のものをそのまま吸い上げて使っているようですよ。まあ、確かに909はPCM音源ではあるけれど、今のPCM音源と比較して精度も悪い。だから、そのまま出力しているのではなく、フィルターをはじめ、アナログ回路を通して出ているから、あのサウンドが出てくるんですよ。そしてこのアナログ回路はACBでしっかり再現しているからこそ、909の音が飛び出してくるわけです。


SYNTH BAR会場で展示されていたTR-8とTB-3

--もう一つTR-8を見て気になったのが、出力の部分。TR-808ってステレオミックスの出力とキック、スネア、ハイハット……と別々に出るパラ出力がありますよね。以前、高見さんに伺った際、パラ出力はUSBでということでしたが、久師さんてきには、この辺、どうなんでしょう?
久師:TR-808で比較してみるとわかるんですが、実はステレオミックスで出す音とパラで出す音って違うんですよ。ステレオミックスのほうはちょっと曇ったような音になる。おそらく開発当時、うまく柔らかい音にしようと、フィルターを入れたんだろうと思うんです。僕の場合、キックだけパラで出して、ほかはミックスから…という使い方をしてますが、確かにほとんどの人はステレオミックスを使ってるんですよね。開発の方からも、どっちがいいですか?と聞かれたのですが、難しいところでした。が、結局、フィルター無しにしたようですね。その判断は正解だったと思います。やはりこのフィルターがあると、音が前に出てこないですから。TR-808とTR-8の音の違いはここにあるかもしれませんね。パラ出しをミックスした音がするんです。ユーザーによっては、TR-808のミックスアウトを求めると思うので、そんなモードを追加してくえるといいんですけどね!

--ここまでTR-8の話が中心でしたが、TB-3のほうの途中経過ってどうだったんですか?

久師:何度かのやり取りで音はよくなり、これで十分というところまで来ました。でもTB-303の完全再現というだけではつまらないので、ちょっと無理な要望を出したんですよ(笑)。そうTB-303にはないけど、「ノイズジェネレーターをつけて欲しい」、「オシレーターを何個か重ねられるようにしてくれ」って。そうしたら、まんまとハマって、その機能が付いてきちゃったんですよ(笑)。これ、完全に自分の趣味だけど、以前からやりたかったことでできなかったことなんです。このTB-3のプリセット作りは僕が協力させてもらいましたが、TB-303の完全再現のほか、オリジナル音+エフェクト、さらにはTB-303では出せなかった新しい音がいっぱい入っているので、ぜひ、試してみてください!


SYNTH BARのステージにさりげなく置かれていたSYNC BOXのプロトタイプを発見! 

--最後にSYNTH BARで見つけた、秘密の機械についてちょっと教えてください!ステージ上では、何もコメントしてませんでしたが、AIRAとTR-808やTB-303が同期して鳴らすのに、見たことない機材を使っていましたよね。あれ、何ですか?
久師:よく見つけましたね(笑)。ちょうど、今回のドイツ・フランクフルトのMusikmesseでRolandから参考出品されているはずですが、同期用のSYNC-BOXです。これまでMIDIとDINのSYNC-BOXというとKENTONとかDOEPFERの製品がありましたが、さらに多彩な機材と接続して同期できる装置でUSBも装備しているというものですね。まだ開発途中のものを借りていたので、詳細は分からないんですが、かなり使えそうですよ。

--AIRAとセットで活用することで、さらに世界が広がりそうですね。ありがとうございました。

【製品情報】
TR-8製品情報
TB-3製品情報
VT-3製品情報
SYSTEM-1製品情報
【関連情報】
AIRAサイト
SYNTH BAR

モバイルバージョンを終了