マスタリングエンジニアの職が危うい!?人工知能搭載のOzone 8とNeutron 2の登場は革命かも!

先週リリースされて、すでにいろいろなところで話題になっているので、ご存じの方も多いと思いますが、アメリカのiZotopeからマスタリングツールのOzone(オゾン)および、トラック調整&ミックスツールのNeutron(ニュートロン)がそれぞれバージョンアップして、Ozone 8そしてNeutron 2となりました。いずれもMac、Windowsで動作するプラグインであり、OzoneもNeutronも別商品として独立したソフトですが、お互いが連携する機能を持ち、セットで使うことでより大きな効果が得られるようになっているのです。

中でも注目すべきはOzone 8に搭載された「Master Assistant」という、人工知能を用いた自動マスタリング機能です。実際ちょっと試してみたところ「もう、これでいいじゃん!」というかなり満足度の高い仕事をしてくれるのです。この結果を見てしまうと、今後マスタリングエンジニアの方々の仕事がなくなるのでは……と心配になるほどです。Ozone 8もNeutron 2も、最上位版であるAdvanceというエディションを試してみました。いずれもかなり多機能なソフトなので、全部を紹介しているとキリがないのですが、人工知能関連の部分を中心に触ってみて面白かったところをいくつかピックアップしてみたいと思います。

Ozone 8とNeutron 2がリリースされたので、さっそく試してみた


以前「人工知能プラグイン、Neutronはホントに使い物になるのか!?」という記事で、昨年リリースされたiZotopeのNeutronについて少し検証してみました。このNeutron自体は、トラックを調整するためのプラグインであり、EQコンプトランジェントシェイパーエキサイターなどで構成されるもの。それらのエフェクトを個別に見れば、それほど際立った特徴があるものではありません。


DAWの各トラックに挿してサウンドのトリートメントを行うツール、Neutron 2

しかし、最大の特徴というのがTrack Assistantという機能。Neutronをボーカルトラックとかドラムトラック、ギタートラックなどに挿した上で、「Track Assistant」ボタン一発クリックするだけで、そのトラックをいい感じにトリートメントしてくれるんです。使っているのはEQ、2種類のコンプ、トランジェントシェイパー、エキサイターなんですが、やはりミックスに慣れた人でないと、何をどう調整すればいいのかってなかなか分からないですよね。まあ、だからこそミックスエンジニアという職業が存在し、その職人がいい感じに仕立ててくれるわけですが、そこを人工知能でうまく処理してくれるのがNeutronのTrack Assistant機能だったわけです。

「Track Assistant」をクリックして、再生させると人工知能が判断していい感じに仕上げてくれる
今回の新バージョン、Neutron 2では基本的な機能や実際の音自体はそれほど変わっていないのですが、より自分の思った音に近づけられるようになった、というのが大きなポイントです。そう、前バージョンでは、すべて自動の完全お任せで行ってくれたのに対し、Neutron 2では、そのトラックがボーカルなのが、ギターなのか、パーカッションなのか……といった指定をすることも可能になったのです。

Track Assistant機能は、従来どおりすべてお任せというのが基本ではある


必要に応じて、そのトラックが何なのかを明示してあげることも可能

Version 1でも大きな問題はなかったように思いますが、やはり人工知能。時々トラックの内容を取り違えると、やや妙な調整をしてしまうことがあったので、予め目的を人間が教えてあげるわけですね。さらに、キツメに調整するのか、弱めに調整するのか、また柔らかく温かい雰囲気で調整するのか、クッキリ調整するのか……といった度合いの調整も可能になったのが、Neutron 2になっての違いです。

3バンドのゲートが追加された

さらに、内包されるエフェクトとして、従来からあったEQやコンプに加えて、3バンドのゲートが追加されたというのもポイントとなっています。

各トラックに複数挿したNeutronのすべてを見て音量とPANを調整できるVisual Mixer

またちょっと面白いツールがNeutron 2 Visual Mixerというもの。Neutronは、もともと各トラックに1つずつインサートして使うタイプのエフェクトですが、それぞれを統括して見れるようにするのが、Visual Mixerです。これを使うことで、各トラックに挿したNeutronの音量とPANを視覚的に調整することができるのです。Visual Mixer自体はどこに挿してもOKなプラグインで、そのトラック自体には影響を与えません。なので、マスタートラックに挿すのが分かりやすいかもしれませんね。

Ozoneは、各種エフェクトを組み合わせてマスタリングを行うためのツール

さて、今回の2製品のバージョンアップにおいて、最大の目玉といえるのがOzone 8に搭載されたMaster Assistant機能です。これ、一言でいえば、NeutronのTrack Assistant機能をマスタリング用にしたものです。使い方も同様で、マスタートラックにOzoneを挿した上で「Master Assistant」ボタンをクリックするだけでOK。


Master Assistantボタンを押して、ストリーミング用かCD用かを指定する

この際、CD用のマスタリングなのか、ネットストリーミング用のマスタリングなのかを指定するとともに、強めに掛けるのか、弱めに掛けるのかを指定することができます。あとは全部お任せで、人工知能がいい感じにマスタリングしてくれるのです。

あとは人工知能がサウンドを自動的解析し、それに合ったパラメータを作り出してくれる
人工知能によるマスタリングとしては、ネット経由で処理できるカナダのサービス、LANDR(ランダー)がありますが、Ozone 8のMaster Assistantも、考え方的にはそれに近いものです。でも、LANDRに比較すると圧倒的に自由度が高いのが特徴です。

10秒程度で解析が終わるので、最後にAcceptボタンをクリックすれば、いい感じに仕上がる

というのも、Ozoneはマスタリングエフェクトとして、EQ、コンプ、マキシマイザ、リミッタ、ステレオイメジャー、テープシミュレータ、エキサイター……といったものから成り立っているわけですが、Master Assistantが自動処理してくれるのは、これらのエフェクトの各パラメータの割り当てです。したがって、調整した結果を聴いてみて「ちょっと高域がキツくなったので、少し削りたい」とか「低域をもうちょっと持ち上げてみたい」など、気になる部分を後から簡単に調整できるのです。


Ozone 8に搭載されているテープシミュレータ。必要に応じて自由に調整することも可能

この辺はNeutronのTrack Assistant機能と同様ですが、LANDRの場合は、完全お任せで出来上がったものは、そのまま受け入れるしかないので、「自分で音をいじりたい」というこだわりのある人なら、Ozoneのほうが、しっくりくるのではないかと思います。

従来のOzoneから搭載されている機能だが、リアルタイムにMP3やAACの音を確認できるのも便利
実際にいくつかの曲で試してみましたが、その感想としては冒頭でも書いたとおり、「これで十分いいのでは?」と感じるほどの内容です。もちろんプロのマスタリングエンジニアに頼めば、きっとそれ上の結果を出してくれるのだとは思いますが、Ozone 8でも80点以上の成果を出してくれているように感じます。しかも10~15秒程度で結果を出してくれるし、気に入らないところがあれば、自分で自由に直せちゃいますからね。

ただし、マスタリングエンジニアの仕事として重要な、アルバムを作っていくという考え方はここにはあまりありません。つまり、複数入る曲のつながりをよくして、全体的な統一感を揃えていくという部分については、今後のバージョンアップのポイントになっていくのかもしれません。

ところで、このMaster Assistantには、その「統一感を出す」というところにも繋がる驚異的な機能が用意されています。それは、マスタリングのターゲットとなるサウンドを設定できる、というものです。つまり、自分が気に入っているCDの曲、目標としたいサウンドと近い雰囲気の仕上がりにしたい、という場合、そのサウンドのWAVファイルをリファレンスとして取り込めば、そこに自動的に近づけてくれるんです。これって、まさにマスタリングの理想形じゃないですか!?


ターゲットとなる楽曲を読み込むと、自動的にいくつかのパートに分割してくれるので、イメージに合う部分を指定する

実際、マスタリングエンジニアにお願いするときも、「誰々の〇〇〇みたいな音に仕上げてもらえませんか?」なんてオーダーをすることがあると思いますが、それを直接ソフトウェアにお願いできるわけですから、何でもアリですよね。

実際に試してみたところ、ちょっと笑っちゃうくらいに、それっぽくマスタリングしてくれるんです。その似せ具合を「さりげなくフワっと行う」のか、「思い切り近づける」のか、などの調整もできるから、これだけでもかなりマスタリングごっこができて楽しいですよ。

そして、このOzone 8とNeutron 2の連携についても紹介しておきましょう。それを実現するのが「Tonal Balance Control」という新たに加わったプラグインです。

マスタートラックの最終段に挿して、結果のサウンドを視覚的に確認できるTonal Balance Control
このTonal Balance Controlは、マスタートラックの最終段に組み込んで、最終的な音をチェックするプラグインなのですが、ターゲットとなる音として、予めBass Heavy(ベースが重いサウンド)、Modern(モダン)、Orchestral(オーケストラ風)というプリセットが用意されているほか、OzoneのMaster Assistantと同様に、ターゲットとなる音を聴かせて、それに近づけるという手法をとることができます。つまり自分のお気に入りの曲を読み込ませて、それに近づけていくというわけですね。

Tonal Balance ControlはFine画面にすると、帯域ごとの状況をより細かく確認できる

では、どうやって近づけるのかですが、ここがOzoneとNeutronの連携部分なのですが、画面下に、現在インサーションとして組み込んであるOzoneおよびNeutronのEQを表示することができ、ここからコントロールできるのです。まあ、マスタリング工程なので、普通はマスタートラックに設定したOzone側でコントロールすべきところですが、やはり場合によっては、各トラックに設定したNeutronで調整してしまったほうが効率がいいというケースもあります。


Tonal Balance Controlで全体を確認しつつ、現在挿しているNeutron、Ozoneのパラメータを調整できる

OzoneもNeutronも、Tonal Balance Controlから調整することができ、最終的な結果が視覚的にターゲットを見ながら確認できるので、効率的に作業することができるわけで、これまでなかなかできなかった手法ではないかな、と思います。

ターゲットとすべき楽曲のWAVファイルを読み込んで、それに合わせこんでいくことも可能
もちろん、OzoneもNeutronも、各パラメータを手動で細かく調整していくことができるし、さまざまな機能を持ったソフトではありますが、いずれもほぼ自動ですべてのパラメータ調整ができてしまうのは、やはり革命的といってもいいでしょう。

Tonal Balance Controlを通じてOzoneとNeutronがお互いに連携しながら、最終的な音作りができるようになったというのもユニークなところです。もっとも、2つのソフトの連携はまだ一部分にすぎないというのも事実なので、連携についてあまり過剰な期待をするのは禁物ですが、今後のバージョンアップで、どんどん連携度合いが強くなるのでは……と期待しているところでもあります。今後のアップデートなどで面白い動きがあれば、また紹介していきたいと思います。

なお、NeutronもOzoneもそれぞれAdvanced、Standard、Elementsの3つのグレードがあります。新バージョンが出たのはAdvancedとStandardですが、人工知能のMaster Assistant機能およびTrack Assistant機能はどちらのグレードにも搭載されています。ただし、NeutronとOzoneが連携する機能についてはAdvancedのみとなっているので、その辺を考えつつ、価格と照らし合わせて製品選びをしてみてはいかがでしょうか?ちなみに以前の記事で紹介したiZotope Elements Bundleからアップグレードすることでかなり安く入手できる場合もあるので、ぜひチェックしてみてくださいね。

【価格チェック&購入】
◎Rock oN ⇒ Neutron 2 Advanced
◎Rock oN ⇒ Neutron 2 Standard
◎Rock oN ⇒ Neutron EL to Neutron2 ADV UPG
◎Rock oN ⇒ Neutron EL to Neutron2 STD UPG
◎Rock oN ⇒ Ozone 8 Advanced
◎Rock oN ⇒ Ozone 8 Standard
◎Rock oN ⇒ Ozone EL to Ozone 8 ADV UPG
◎Rock oN ⇒ Ozone EL to Ozone 8 STD UPG
◎Rock on ⇒ iZotope Elements Bundle
◎Amazon ⇒ iZotope Elements Bundle
◎サウンドハウス ⇒ iZotope Elements Bundle

【関連情報】
Ozone 8製品情報
Neutron 2製品情報

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