日本人インディペンデントアーティストとして例のない空間オーディオ対応アルバム UQiYO『東源京』リリース。どんな技術で制作したか本人にインタビュー

Spotify、AWA、LINE MUSIC……など、いろいろなプラットフォームが存在していますが、その中でもApple Musicを使っている方は多いと思います。このApple Musicは、2021年6月よりDolby ATMOSによる空間オーディオを利用できるようになったのはご存知でしょうか?これにより、2チャンネルの平面的な広がりから、左右の広がりに加え、高さや奥行きなど立体的な音楽を聴くことが可能になりました。さらに9月21日からはダイナミック・ヘッドトラッキングという機能も利用可能になり、Air Pods ProAir Pods MAXがあれば、よりリアルな立体空間での音楽を感じられるようになっています。

現在Apple Musicにある数千曲が空間オーディオにも対応しており、設定を整えることで、これまで経験したことがない立体的なサウンドで音楽を楽しめるようになっています。その大半が海外アーティストのもので、しかも旧譜をリメイクしたものがほとんどである中、日本人インディペンデントアーティストとして、あまり例がなく、おそらくは初となると思われる空間オーディオ対応のアルバムが10月8日リリースされました。『東源京』というアルバムを出したのは、さまざまな実験的試みで音源リリースしたり、ライブ活動を行う音楽ユニット、UQiYO@UQiYO)。収録される7曲すべてが空間オーディオに対応したアルバムとなっています。そのユニークなアルバムをリリースしたUQiYOの中心人物であるYuqiさんに、どのように楽曲を制作したのか、どんな機材を使っているのかなど、エンジニアの滑川高広 さんにも伺ってみたので、紹介していきましょう。

日本人インディペンデントアーティストとして初の空間オーディオ対応アルバム UQiYO『東源京』リリース


--まずは、UQiYOやYuqiさんのプロフィールを簡単に教えてください。
Yuqi:UQiYOは、2010年に始めたプロジェクトで、去年10周年を迎えました。東京を中心に活動をしており、10周年を皮切りにソロプロジェクトに変わりました。これまでの10年でいうと、周りからよく最先端の技術や普通でない表現をしている、みんなが行っている表現ではなく、いろいろ工夫して挑戦をしているパイオニア的な位置にいるね、とはいわれていました。音にこだわって音楽制作をしているので、それで音がいいよねといわれることも多かったですね。今は去年辺りから音楽制作の本質的な部分に原点回帰してるところがあります。その土地の持つルーツや魅力に影響を受けて自分が何を感じるかをフォーカスして、フォークロアというのをテーマに音楽の本質を体現することに取り組んでいます。

--なぜ、最先端を取り入れたりすることになったのでしょうか?
Yuqi:僕自身は、早稲田大学で音響工学の修士を持っているので、大学に入ったときから音響に興味がありました。もっと原点でいえば、中学生のころにTASCAMの4トラックのテープレコーダーを買ったりしていて、そこからずっと音楽制作をしています。その後、DTMに移っていったりと、機材の進化とともに生きているところがありますね。2000年ごろには、レコーディングには、KORGのLegacy CollectionとMS-20を模したUSB-MIDIキーボードでアナログシンセモデリングなどしていました。ハードシンセとしてはNordを初めてライブ用に買って、シンセ系の音を出すようになりました。ソフトシンセもいろいろ触ったりしてたのですが、エレクトロがメインになり始めたのはUQiYOになってからですね。

--中学生時代からレコーディング機材などに興味を持ってきたんですね。今回アルバムの『東源京』をリリースされましたが、どんなアルバムになっているのかお伺いしてもいいですか?
Yuqi:当て字で、『東源京』という「東京」の間に「源」を入れたタイトルにしているのですが、コンセプトは桃源郷という言葉のように、あるかないか分からない、実態が不確かで、理想郷なところを少しシニカルな意味で付けました。今世界中でいろいろなことが起こっていることを直接的にいうのではなく、仮の東源京という場所があって、そこで起こっていることを描く形で、1つのアルバムを物語のように表現している作品になります。ここ数年で、これまで最先端を走っていた憧れの場所、東京の限界やいろいろな問題点が浮き彫りになって、そこに感じることがありました。それがなんとかならないか、ということを詩という形にして概念的に伝えたいなと思って作っています。

『東源京』のレコーディングはすべてYuqiさんの個人スタジオで行っている

--UQiYOというと、英語での曲というイメージがありますが、今回の『東源京』は日本語歌詞になっていますよね。
Yuqi:子供時代、海外で過ごしてきたことから英語が使えるのが自分にとっての武器でもありました。またワールドワイドに発信していく上でも英語であることが重要と思い10年間挑戦し続けてきました。が、この10年で歌詞の言語に関する捉え方が大きく変わってきたように感じています。日本語で歌っていることを小バカにする…という風潮もなくなったように思うし、英語でなくても世界中の言語それぞれの歌が普通に評価される時代に変わってきたように思うのです。フォークロアをテーマにしてきただけに、土地の音楽、土地のエネルギーを表現していくのに、日本語がいい、と前作から日本語を使うようになりました。もちろん僕も日本語がメイン言語ですし、日本語の言霊(ことだま)としてのエネルギーがあるので、『東源京』ではあえて日本語を選択しています。

7種類の異なるアコースティックギターをレコーディング

--さて、その『東源京』、どんなレコーディング体制で行われたのですか?
Yuqi:アコースティックギターを7本用意して、マイクはNEUMANN U87Aiの1本で収録しています。Apple Musicの空間オーディオでは、再生中に振り返る背後から聴こえていた音が正面から聴こえる、「首振り機能」とも言える機能がiOS15登場のタイミングで実装されました。これにより非常に立体的に音を表現できるようになったので、この機能を最大限生かした作品に仕上げ、この臨場感を楽しんでもらおうと、アコギ7本を重ね録りしていき、左右前後、斜めと周囲に配置してみました。振り返ると別のギターを弾いている人がいたら最高だな、と。

レコーディングのマイクにはNeumannのU87Aiを使用

--すべてアコースティックギターのサウンドなのですか?
Yuqi:Apple Musicの空間オーディオの作品、大半が海外のものですが、いろいろと聴き比べてみた中、アコースティックの音源がすごくいい、空間オーディオに向いているな、と感じたのです。そこでアコギでレコーディングしていったのですが、ソフトウェア音源も活用しています。EASTWESTのソロのストリングスの音を14本入れて、定位を動かしてみたり、二胡っぽい音をインストゥルメント音源で入れたりしています。インストゥルメント音源を演奏する際は、ROLIのキーボードを使ってニュアンスを出したりしていますね。ほかにもNeova MIDI Controlleという指輪型のMIDIコントローラーを使って演奏してます。Neovaは演奏しながらチョーキングを掛けたりすることができて最高なんですよ。キーボードソロは、これを使ってガンガン弾いてます。パーカッション系では、生のカホンを家でサンプリングして楽曲に活かしたりしています。

オーディオインターフェイスにはApollo 8 QUADを使っている

--最新の機材を導入されているのですね!NeovaやROLIを駆使している方にはじめてお話を伺えました。
Yuqi:ちなみにレコーディングに関しては、全部自分で行っていて、DAWは最初から最後までAbleton Liveを使いました。今までは、上流のみAbleton Liveで、最終的にはPro Toolsで仕上げていたのですが、今回はミックスまでAbleton Liveで作業しました。オーディオインターフェイスに関しては、Universal AudioのApollo 8 QUADを使っています。なので、ミックス時のプラグインはUniversal Audioのものが多く、プリアンプ系、コンプ系などがお気に入りです。具体的には、Distressor、1176 Classic Limiterの3種類をボーカルには使いまわしていて、テープシュミレータのAmpexを利用しています。楽曲のトラックは大体20~30ぐらいで、エンジニアの滑川さんにトラックを送る際に各トラックのリバーブを別で書き出しました。

レコーディング、編集、ステレオのミックスダウンまでAbleton Liveを使用

--各トラック別にリバーブを書き出したんですね。どういう意図があったのですか?
滑川:リバーブ掛かった状態で広げようとすると、なんとなくうしろに存在があるだけになってしまうのです。今回の空間オーディオでの可能性を広げるために、Yuqiさんには各トラック別で書き出してもらいました。空間オーディオを作っていく過程としては、まずYuqiさんが作った2mixの楽曲が完成しているので、その雰囲気を崩さないように立体的に再現していきました。受け取ったWAVデータは、ドライの各トラックとそれぞれ個別で書き出してもらったリバーブトラック。それを単純にパンで振り分ける場合と7.1.4chにプラグインで一回アップミックスして、そこから微調整するパターンを試しました。その際どうしても、2mixより音源がドライに聴こえてしまうことがあったので、そのときはこちら側でリバーブを追加したりもしています。

エンジニアの滑川高広さん

 

2011年にマルニスタジオ入社。バンドや映画の劇伴、CMなどを中心に様々な現場を経験、2018年よりフリーランスとなり現在に至る。
Work:UQiYO / Rain Drops / じん / インナージャーニー / 三月のパンタシア / Reol / Masaki Kawasaki / Siberian Newspaper / えまおゆう / Sou / はるまきごはん / The Muddies / YuNi / 映画「裏ゾッキ」etc.

 

--これまでにもDolby ATMOSミックスはされていたのですか?
滑川:今回が初めてでした。最初は5.1chの延長かなと思ってミックスしてみたら、やはり5.1chみたいになってしまったので、作業して初めて認識を改めました。しっかり考えて制作しないと、新しいものはできないなと。特にパンニングが5.1chの場合、前か背面だけかなのに比べ、3Dに上下の動きが加わるので、より立体的になり、今まで置けない位置に音を配置できるのでいろいろ試行錯誤しました。本物の臨場感を出すのには苦労しましたね。楽しかったですけど、すごく時間は掛かりました。1日目にミックスした曲は、その後ミックスしていくにつれて、ほかの曲の完成度が上がってきたので、また1日目の曲のミックスを僕から頼んでやり直しさせてもらいました。

『東源京』は10月8日リリース

--新しい試みですものね。かなり大変だったと思います。
Yuqi:まずは2mixの楽曲を作って、その後Dolby ATMOSのミックスをしていただいたのですが、2mixを制作する時点で、きっとDolby ATMOSになったら面白いだろうなと思った仕掛けもいくつかしています。たとえば、「西ヘ沈ム」という曲では、環境音が鳴っていて、そこでは虫の音なんかが聴こえてきます。それは現地で4chで収録したんです。リニアPCMレコーダー2台を使って前後に向けて2chずつ録音したのですが、2mixでは前の2chだけを活かしていて、Dolby ATMOSでは後ろの2chも活かしています。収録時に偶然なのですが、斜め前から鳥がうしろに向かって羽ばたく音を録れて、Dolby ATMOS版では、それを実感することができますよ。ほかにも面白い施策をしているので、ぜひ多くの方が聴いていただけたら嬉しいです。
--ありがとうございました。

【関連情報】
UQiYO公式サイト
『東源京』各種サブスク配信・ダウンロードLink

【Apple Music】

◎Apple Music ⇒ 『東源京』

Commentsこの記事についたコメント

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です