伊波杏樹さんCVによるリアルなAI歌声合成、「CeVIO AIすずきつづみ」ソングボイスが発売開始

9月9日、CeVIO AIの新キャラクタとして「すずきつづみ」のソングボイスが発売されました。ご存じの方も多いと思いますが、すずきつづみは2013年にCeVIO Creative Studioがリリースされた時から、存在していた女性キャラクタで、CVは声優の伊波杏樹さんであることが最近公表されていました。「さとうささら」、「タカハシ」とともに標準搭載されていたのですが、さとうささらが喋ることも歌うこともできた一方で、すずきつづみとタカハシは喋ることのみ、となっていたのです。

そのすずきつづみが、9年の時を経て、CeVIO AIのソングボイスとして新たに発売され、歌うことができるようになりました。また、このすずきつづみのソングボイスにおいては、感情パラメータというものが使えるようになったのも大きな特徴。これにより、カワイイ感じでの歌い方やパワフルな歌い方を自由に調整できるようになっているのです。どんな歌声合成ができるのか、紹介してみたいと思います。

CeVIO AIのソングボイスとして、すずきつづみが発売開始

まずは、具体的な説明に入る前に、いるかアイス(@irucaice)さんによる楽曲「群青航路 feat. すずきつづみ」をぜひ聴いてみてください。

いかがですか？すごい高域の声で歌わせているのにリアルな歌い方をする、かわいい歌声という感じで、「この歌声、好き！」という人も多いのではないでしょうか？

8月9日に配信したDTMステーションPlus!大浦さん（左下）、いるかアイスさん（右下）、多田彰文さん（右上）、私（左上）

ご覧いただいた方も多いと思いますが、そのいるかアイスさんと、テクノスピーチの代表取締役、大浦圭一郎さんをお招きする形で、8月9日にYouTube Liveおよびニコニコ生放送でDTMステーションPlus!の番組を配信しました。もちろん特集は、発売直前のすずきつづみだったわけですが、どうやって歌わせているのかなどを、いるかアイスさんに解説してもらうとともに、CeVIOプロジェクトのメンバーであり、CeVIO AIの開発者の一人である大浦さんには、今回のCeVIO AIすずきつづみ誕生の経緯などをいろいろ伺いました。

もちろん、今でもアーカイブ視聴が可能なので、ぜひ、こちらからご覧ください。

この番組内でも、大浦さんにいろいろ伺っていましたが、すずきつづみの誕生は2013年のCeVIO Creative Studioのリリースとともに、ということでしたが、キャラクタとしては徐々に人気が出てきたとのこと。喋るだけのキャラクタであったにもかかわらず、その声をサンプリングして歌わせる強者も登場するようになり、いずれはソングボイスも作らなくては……とは考えていたのだとか。

CeVIO Creative Studio 7のトークボイスとして利用できる、すずきつづみ

ソングボイスを作るためには、予め中の人、つまり声優の伊波杏樹さんの歌声を収録し、これをコンピュータに学習させていく必要があるのですが、実はCeVIO Creative Studioの登場前の2012年に伊波さんの歌声は収録していたという話には、ちょっと驚きました。大浦さんによると「CeVIOプロジェクト内部のミーティングにおいて、つづみのソングボイス化という話は何度も出ては消え…というのを繰り返していました。が、10年前と比較して、技術が大きく進化したこともあり、ぜひ製品化しよう、ということになったのです」とのこと。

今回リリースされた、CeVIO AIのソングボイスとしてのすずきつづみには、画面右側に「感情」というパラメーターがある

実は2012年の収録の時点で、SweetとPowerfulという歌い方を変えた2種類の収録をしていとのこと。でも、当時の技術では、その2つの異なる歌い方をうまく組み合わせるのが難しかったのが、いまはシームレスにつなげることが可能になったことで、製品化が実現したようなのです。それを司るのが、画面右側にある「感情」というパラメータ。

この感情パラメータを上げるとパワフルな歌い方になり、下げるとかわいらしい歌い方になるように設計されています。実際に番組内でもその違いをデモしてもらっているので、ぜひこちらをご覧ください。

では、先ほどの「群青航路 feat. すずきつづみ」をいるかアイスさんはどのようにして歌わせたのか。普段ボカロPとして初音ミクを中心に楽曲制作しているいるかアイスさんは「今回CeVIO AIを初めて使ってみたのですが、VOCALOIDと全然違うと思うのは、ベタ打ちで入力しただけで、すごく人間らしい歌い方をしてくれることです。感情パラメータはいろいろ試してみましたが、初めてということもあり、つづみちゃんらしさがハッキリと出る、スタンダードなつづみちゃんがいいなとと思い、あえてデフォルトの可愛い歌声に設定しています」と話してくれました。

この曲の特徴的ともいえる冒頭部分、「とくに頭の部分が元気よく聴こえるようにピッチを調整しています。緑の線がベタ打ちでCeVIO AIが描いてくれたピッチの動き、オレンジが私が修正した部分です」とのこと。とっても自然な息継ぎをしているのも興味深いところですが、白い線で緩やかにつなげているのはスラー。ここは息継ぎせずに一気にそして滑らかに歌うように指示しているそうです。

緑がCeVIO AIが自動で描いたピッチの動き、オレンジがいるかアイスさんが描いたもの

この冒頭部分のデータを見て、大浦さんが感心していたのが「この海をすすん（でい）く」という歌詞の中の「でい」の入力です。画面を見るとわかりますが「でや’」と入力されているんですよね。これはどういうことなのか？

いるかアイスさんによると「VOCALOIDの場合、（で）のノートを長くして、非常に短い（い）の音符を入れて歌わせますが、いろいろとネットで調べてみた結果、CeVIO AIでは普通にノートを入力して、こうすることで自然に歌ってくれたんです」とのことですが、なぜそうなるのでしょうか？そもそも、これは開発者側が意図した使い方なのでしょうか？

画面下に弧を描いているのはスラー。これにより息継ぎなしに滑らかに歌う形になる

「まさに、こんな使い方をしてくれてありがたい、という入力方法です。（’）アポスロフィは母音を脱落（キャンセル）する機能で（や’）はYを意味しているわけです。収録した歌声をディープラーニングさせる際、さまざまな長さの（い）を学習していますが、短すぎる（い）は学習していません。でもYはまさに短い（い）なので、こうすることで、上手に短い（い）を表現することができるのです」と大浦さん。

「でや’」というやや謎な歌詞があるが……

CeVIO AIの設計思想としては「きれいな五線譜を演者さんに渡したらどう歌ってくれるか」という考え方で作っているので、いるかアイスさんのデータ作成法はまさに理にかなったものとのこと。確かに、8分音符、8分音符、4分音符、4分音符、4分音符…といったキレイな音符が並んでいるので、AIにとってもわかりやすい譜面ということなんですね。

別の方法としては、とりあえず入力したのちにタイミング調整の画面に切り替えて（い）の長さを調整していくというもの。どれが自分の歌わせたいイメージに近いかは、いろいろ試してみるとよさそうです。

9月16日まで「CeVIO AI すずきつづみソングボイス」の機能制限のない無料体験版も提供中なので、「CeVIO AI ソングエディタ」をお使いの方は今のうちに試してみてはいかがでしょう。9月30日まで「CeVIO AI すずきつづみソングコンテスト」も開催中とのことで、受賞曲には賞金もあるそうです。

ところで、ここまで取り上げたのは、すずきつづみのソングボイスでしたが、同時にCeVIO AIのトークボイスも発売されています。CeVIO Creative Studioのトークボイスでは感情パラメーターとして「クール」と「照れ」というものがありましたが、CeVIO AIのすずきつづみでは、「喜び」「怒り」「ひそひそ」の3つが追加されているそうです。

「ソングボイスは10年前に収録したデータを今回初めて活用した格好でしたが、トークボイスにおいては、伊波杏樹さんにお願いし、これまでのクール、照れに加え、新たに3つ収録しました。これを使った製品を開発中なので、ぜひ発売を楽しみにしていてください」と大浦さん。

プロトタイプ版であるCeVIO AIのすずきつづみトークボイスの画面

実は8月9日の生放送の時、トークのプロトタイプ版も少しみせていただきましたが、このバージョンは、CeVIO Creative Studioと同様で、まだクールと照れのパラメータのみでした。喜び、怒り、ひそひそのパラメータが追加されるとどんな感じになるのか楽しみです。この辺については、また情報が入ったらお知らせしていきたいと思います。

まずは、この上手に歌うようになった、すずきつづみを使ってみてはいかがでしょうか？