今年のNAMM Show、DTM・ホームレコーディング系は比較的こじんまりした規模の印象でしたが、気になるメーカー、気になるブースがいろいろあったのも事実です。その一つが歌声合成ソフト、Synthesizer Vの歌声データベースを開発するアメリカのベンダー、Eclipsed Sounds(エクリプスド・サウンズ)。同社は設立3年で社長を入れてメンバーは4名。全員が20代という若い会社です。
すでにSOLARIA、ASTERIANという2つの歌声データベースをリリースしていますが、今回のNAMMに合わせて3番目となる歌声データベース、SAROSを発表したところです。歌声合成というと、日本が中心のイメージはありますが、アメリカでも頑張っているところがあるんですね。社長=CEOのTaylor Hennessy(テイラー・ヘネシー)さんにお話しを伺うことができたので、紹介してみましょう。
NAMMに出展していたEclipsed Soundsのみなさん。左からBrielleさん、Elijahさん、Taylorさん、Niamhさん
NAMM Showの会場で、DTM関連の機材、ソフトを展示している辺りを歩いていてふと目に飛び込んできたのが、Synthesizer V Studioのロゴ。「NAMMにもSynthesizer Vがブースを出してるんだ!」とちょっと嬉しい発見をした気分になる一方、「そういえば開発元であるDreamtonicsはNAMMに出ないって聞いたぞ!? 社長のカンル・フアさんも、今年のNAMMには行かず、開発に専念する…って言ってたなぁ」と思いつつ、ブースを見てみると、Eclipsed Soundsという会社のようです。
設置されたデスクの上で、Synthesizer Vのデモが流されるとともに、その奥には弦巻マキや小春六花、ついなちゃん、京町セイカ、さらには先日リリースされたばかりの重音テトなど…、日本のパッケージも並んでいて、なんとなくホームグラウンドに帰ってきたような気分にさせてくれます。ちょっと話しかけてみたところ、CEOのTaylorさんが対応してくれたので、簡単にインタビューさせてもらいました。
Synthesizer Vのデモが行われていた。その後ろには小春六花や弦巻マキのパッケージが展示!?
--Eclipsed Soundsは、Synthesizer Vの歌声データベースを作る会社なんですか?
Taylor:はい、その通りです。まだとっても小さな会社で、私のほか、CFOのElijah Damon(イライジャ・デイモン)、製品リーダーのNiamh Easter(ナイアム・イースター)、営業リーダーのBrielle Meisenbach(ブリエル・マイゼンバック)の4人で運営しています。この会社は2015年にElijahが設立していて、当初はVOCALOIDの関連グッズの販売などを手掛けていました。メンバーみんなVOCALOIDが好きで、趣味で集まってできたような会社ですね。ElijahもkhanadeeというP名で楽曲制作をしていますし、私もcelestraiというP名で楽曲を作ったりしています。2020年に二代目社長に私が就任したのち、Synthesizer V AIの歌声データベースの開発メーカーとして大きく方向修正をした形です。
--会社はどこにあるのですか?
Taylor:一応、登記上はバージニア州の会社ということになっていますが、実際にはオンラインカンパニーです。みんな住んでいる州も違うので、どこかのオフィスに通って……というのではなく、オンラインでのやりとりです。こうして4人のメンバーが実際に揃うというのはとってもレアケースですね。
--これまでSynthesizer Vの歌声データベースとしてはどんなものを出してきたのですか?
Taylor:最初に出したのはソプラノボイスのSOLARIAです。開発当初はSOLARISという名前でしたが、クラウドファンディングで開発資金を募った結果、制作が決まり、2022年1月19日にリリースしています。プロが使えるスタジオクオリティーのボーカル・シンセシスとして開発を行った結果、さまざまな人に受け入れてもらうことができました。これが、そのSOLARIAのデモ曲の一つです。
さらに昨年11月に発売したのがバリトン歌手のASTERIANです。スムーズな低音域とエモーショナルな高音域を特徴とするASTERIANは、普通はなかなか歌える人がいない低音域の歌声をキレイに表現することができ、メロディーと歌詞を入力すればすぐに歌えるというだけでなくテンションや息づかいなど、声のあらゆる面をコントロールすることができる無限の可能性を持つボーカリストです。実際にASTERIANに歌わせたデモ曲の一つがこちらです。
--なかなかいい歌声ですね。とくにバリトンのASTERIAN、歌声合成の世界であまり聴いたことがない雰囲気です。
Taylor:ありがとうございます。そして、今回NAMMに出展したのは、新たなボーカリストである、SAROSの発表が大きな目的でもありました。まだベータ版で、チラ見せ的なデモではありますが、こんな感じです。
聴いてお分かりのとおり、SAROSはテナーボーカルで、これによりソプラノ、バリトン、テナーと一通りの音域が揃う形になります。現在、開発を進めている最中ですが、年内のリリース予定で、おそらく秋くらいまでには出せるのでは…と思っているところです。ちなみにSAROSという名前はミッドレンジを表す占星術の用語にちなんでネーミングしたものなんですよ。
--SOLARIA、ASTERIANの売れ行きはいかがですか?
Taylor:日本と違って、アメリカやヨーロッパは歌声合成ソフトへの馴染みが薄く、Synthesizer Vはもちろん、VOCALOIDを知らない人が大半です。そのため、苦戦している……というのが正直なところではあります。でもクオリティー的にはプロのレコーディングにも負けないレベルであると自負しており、このSynthesizer Vの良さ、面白さが伝われば、きっと多くの方に評価してもらえるはずだと思っています。
NAMM会場で、ふと目に留まったEclipsed Soundsのブース
--これらを日本で購入することは可能ですか?
Taylor:基本的にはオンラインでのダウンロード販売なので、世界中どこからでも購入可能ですが、日本であればDreamtonicsが扱っているので、Dreamtonicsから購入することも可能ですよ。実際、日本にも多くのお客さんがいらっしゃるので、ぜひたくさん活用していただきたいですね。
--SOLARIA、ASTERIANのパッケージが展示されていますが、パッケージでの流通もしているのですか?
Taylor:いいえ、これはダミーなんですよ(笑)。すべてダウンロード販売のみなので、パッケージはありません。日本ではAHSがパッケージ販売をして、カワイイ製品がいろいろありますよね。それらを見て、NAMMでの展示用に作っただけなので、ほかには存在しません。でも日本のユーザーで、もしパッケージ版が欲しいという方がいるようでしたら、数量限定で作ってみるというのも面白いのかもしれませんね。Dreamtonicsにも行ってみたいし、AHSにも行ってみたいので、ぜひいつか日本に行ければと思います。
実はダミーだった、SOLARIAとASTERIANのパッケージ
--ありがとうございました。
ちょうど、インタビューと前後する形で、AHSの取締役・会長である尾形友秀さんとお会いしたので、Eclipsed Soundsのみなさんと一緒にブースで写真を撮らせてもらいました。現状、AHSとEclipsed Soundsとで直接の商取引があるわけではないようですが、Synthesizer Vのベンダー同士ということで、情報交換などはされているようです。「Taylorさん、
SOLARIAもASTERIANも声質はすごくいいし、もちろん日本語で歌わせることも可能なので、SAROSも含め、日本での需要はありそうに思います。個人的にはキャラクタデザインが日本には馴染まないような気がするので、AHSがデザインを整えた上でパッケージ売りしたりすると、結構ニーズがあるのでは……とも思うところでした。また新たな情報が入ったら、記事でお知らせしていきたいと思っています。
Eclipsed Soundsのみなさんと、AHSの尾形友秀さんとで記念撮影
【関連情報】
Eclipsed Sounds情報(英語)
SOLARIA製品情報(英語)
ASTERIAN製品情報(英語)
Dreamtonicsサイト
AHS Synthesizer V製品情報