4月13日~15日の3日間、アメリカ・カリフォルニア州のアナハイムで行われた世界最大の楽器の展示会、The 2023 NAMM Show。本来であれば、NAMM会場から、ニュース記事としてリアルタイムにどんどんUPしていくべきところではあるのですが、それだけのパワーがないので、DTMステーションでは、NAMMで見つけた面白ネタについてのんびり、記事で取り上げていこうと思います。
第1回目だけは「【NAMM2023レポート1】GPUでプラグイン処理する最新テクノロジー、GPU Audioの技術とは」という記事でNAMM当日に現地からお届けしましたが、2回目の今回は6つほどピックアップしてみました。順番に見ていきましょう。
2023年4月13~15日に開催されたThe 2023 NAMM Show
InstaChordのブラウザ版が発表。ルーパー機能も搭載へ
まず1つ目に取り上げるのは、DTMステーションでも何度も取り上げてきた電子楽器、InstaChord(インスタコード)に関する情報です。InstaChordはゆーいちこと永田雄一(@u1_nagata)さんが発明・開発したユニークな電子楽器で、まったく楽器が弾けない人でも、すぐに演奏を楽しめてしまうという画期的なもの。私もクラウドファンディングのタイミングで購入し、楽しく使っていますが、そのInstaChordがいよいよ海外デビューということで、NAMMで展示を行っていたのです。
InstaChordブースで、ゆーいちさん(左)とGOROmanさん(右)
が、このタイミングで新たな試みを2つ発表していたのです。まず一つ目は、InstaChordをブラウザ上で楽しめてしまうという、ブラウザアプリ、KANAN Playというもの。実は、このNAMM ShowのInstaChordブースには、VRの先駆者としても知られるGOROmanこと近藤義仁(@GOROman)さんが応援で参加していたのですが、そのGOROmanさんが開発したのが、これです。
スマホのブラウザでもInstaChordと同様にカンタンにコード演奏ができるKANTAN Play
WindowsやmacOS上のChromeやSafari、EdgeはもちろんiPhoneやiPad、Androidのブラウザでも
にアクセスすれば、すぐにInstaChordを楽しむことができるのです。以前、InstaChord-iというiOSアプリを紹介したことがありましたが、KANTAN Playはインストールも不要でブラウザですぐに演奏できてしまうというのは結構驚き。KANTAN Playでは、じゃら~んと弾くパッドは存在せず、ボタンを押すだけではありますが、ほとんどレイテンシーなく、鳴らすことができることにもビックリです。
もちろん、無料でいつでもすぐに使うことができるので、InstaChordってどんなものなんだろうと興味を持った方なら、まずこれを先に試してみるといいと思います。
さらに、このInstaChordの機能強化に関する発表もありました。これまでもファームウェアアップデートを重ねては、さまざまな機能強化が図られてきたInstaChordですが、このNAMM会場で発表されたのはルーパー機能の追加です。まだ、最新の1.7.0というバージョンには搭載されていませんが、InstaChordで弾いた音をどんどん重ねていくことができるんです。そのInstaChordのルーパ機能のデモ動画がYouTubeでも公開されているので、これを見れば雰囲気が分かると思います。
【関連情報】
InstaChord製品情報
1600km以内ならネット越しでセッションでいるREALTIME PORTAL
続いて取り上げるのはiCON Pro Audioの機材、REALTIME PORTALというもの。この機材を使うと、ネット越しで1000マイル(約1600km)までオンラインセッションができるというものです。
リアルタイムでオンラインセッションができるハードウェア、REALTIME POTAL
ご存じの通り、日本にはSYNCROOMという無料で使えるとっても便利なサービスがあるので、ネット越しでセッションできるということ自体は目新しいものではありません。でも、このREALTIME PORTALを使うことで、もっと手軽に簡単にセッションが楽しめる、というのです。
NAMM会場と、アメリカ国内の各地をつないで5人でのオンラインセッションが行われていた
NAMM会場では、アメリカ国内各地をつないでのセッションが行われていました。実際見ていて、ホントにしっかりセッションができていたの動作に間違いはなさそうです。SYNCROOMと違うのはPCが不要で、セッティングが簡単であるという点。REALTIME PORTALという機材に直接イーサネットのケーブルを挿すとともに、これにオーディオインターフェイスを接続する形になっています。SYNCROOMのようにオーディオインターフェイスのバッファ設定などが不要なので、誰でも簡単に使えそうです。
小さなハードウェアREALTIME PORTALにLANケーブルを接続するとともにオーディオIFを接続して使う
ICONについては、以前「15,000円で入手できるムービングフェーダー搭載の高機能コントローラー、Platform Nanoが超便利」、「ワイヤレスで利用できるムービングフェーダー搭載の高機能コントローラー、Platform Nano Airは無敵!」という記事でフィジカルコントローラーを紹介したり、「革新的コントロールサーフェイスを低価格で展開する香港・中国メーカー、iCONが進める世界戦略」という記事で会社紹介をしたことがありました。国内ではフックアップがiCON製品を扱っているので、同社から近々発売される予定であり、実はすでに私の手元にもモノが届いています。
実際、国内で利用できる環境が整ったら、改めて詳細記事を書いていこうと思っています。
ゲーム機風リズムマシン!? 世界的人気のPolyend Trackerの小型版登場
世界的に大人気のリズムマシンでありサンプラーのPolyend Tracker。Polyendはポーランドのメーカーで、このTrackerはコンパクトな機材ながら、これ1台で音楽制作ができてしまうワークステーションとして、幅広い人たちから絶大な支持を受けているのです。
Polyendが発表した小型のTrackerであるTracker Mini
そのTrackerについては、オタイレコードのサイトなどで紹介されているので、そちらをご覧いただきたいのですが、今回のNAMMで発表されたのは、その人気機種Trackerのミニ版。サイズ的には従来の半分の大きさながら、機能はまったく同じ。正確には、従来のTrackerに搭載されていたFMラジオ機能がなくなっていますが、それ以外はまったく同じ仕様となっています。
発売は7月11日予定とのことで、価格は$699。機能が同じというだけあり、Trackerと同価格になっています。国内での発売や価格がどうなるかは、まだ公表されていませんが、10万円程度になると思われます。詳細情報が入ってきたら、また記事で紹介できればと思っています。
フルート/サックススタイルのウインドシンセサイザー、Robkoo R1
派手に光る電飾の楽器として目立っていたのが、中国・上海のメーカー、Robkoo(ロブキュー)が展示していたウィンドシンセサイザー、Robkoo R1というもの。長さ67cmと結構大きい機体ですが、400gと軽量ながらバッテリー内蔵で長時間使うことができるそうです。
サックススタイルでもフルートスタイルでも使えるウィンドシンセサイザ、Robkoo R1
ここではサックス・リコーダー風な吹き方をしてデモしていましたが、マウスピースを付け替えることで横笛・フルート風にすることもできるとのこと。USB Type-Cの端子がついていて、これでバッテリー充電できるとともに、USB-MIDIでのやりとりも可能。さらにBluetooth-MIDIにも対応しています。
現在、このR1には30音色が内蔵されており、演奏すると3.5mmのヘッドホン端子および6.35mmのTRSオーディオ端子からオーディオ出力が可能になっています。一方、このRobokooが開発したiPadアプリ、Qithesizer(4,500円)を使うことで、より幅広いサウンドが使えるとのことですが、このアプリ自体はR1専用というわけではなく、汎用的に使えるシンセサイザとなっているようです。
Robkooが開発したiPad用のシンセサイザ、Qithesizer
価格を聞いたところアメリカでは$600とのことですが、「日本でも島村楽器で扱っているよ」と言われ、調べてみると3月から発売されていたんですね。税込み84,800円なので、消費税分を考えると日本で買ったほうが安そうです。
以前DTMステーションにも登場いただいたことのあるウィンドシンセサイザープレイヤーのBANANAsu(@Kretek877)さんもR1の紹介動画をいくつか公開されていました。
これを見ると、どんなサウンドかわかると思いますよ。
【関連情報】
Antelopeがデジタル入力にも対応したモニタースピーカー、ATLAS i8を発表
世界中のマスタリングスタジオ御用達の高精度なデジタルクロックを作るメーカーとして知られる一方、そのクロック技術とFPGA・DSPの技術を駆使したオーディオインターフェイスであるZENシリーズやDISCRETEシリーズで知られるAntelope Audioが初のモニタースピーカー、ATLAS i8をお披露目していました。
まだ開発中のモデルとのことで正式発表というわけではないようですが、ツイーター部分が同軸スピーカーとなっている一方、8インチのウーファーも二重構造になっている4ドライバでできたスピーカーとなっていて、35Hzから20kHzまでフラットなサウンドが出せる、としています。
一方で、リアを見ると、アナログ入力のほかにXLRでのデジタル入力、さらにはUSB端子も装備しておりデジタル入力スピーカーとして使えるようになっています(写真がピンボケでごめんなさい)。話を聞いたところ、アナログで入った信号も内部でデジタル変換され、音質調整ができるようになっているとのこと。
年内の発売を目指しているとのことなので、また詳細情報が入ったら紹介したいと思います。
MIDI 2.0対応機器がいよいよ登場か!?
今回、最後に紹介するのは製品というわけではなく、アメリカのMIDI管理団体であるThe MIDI Manufactures Association(MMA)が展示していたMIDI 2.0のデモについてです。
MIDI 2.0については「日米合意でMIDI 2.0が正式規格としてリリース。MIDI 2.0で変わる新たな電子楽器の世界」といった記事でこれまでも何度か紹介しているので、そちらを参照いただきたいのですが、正式発表から3年経っても、なかなか対応製品が出なくて待ち遠しく感じていたところです。
そうした中、先日「MIDI 2.0に対応した初の音源!?新世代RGBエンジン搭載のバーチャル・ピアノ、Ivory 3 German Dが発売開始」という記事で、SynthogyのIvory 3を紹介したばかりですが、そのIvory 3をMIDI 2.0対応のハードウェアで鳴らす、というデモが行われていたのです。
あくまでもデモ専用という位置づけではあったが、MIDI 2.0対応のファームウェア搭載のA-88MKII
そのハードウェアとは、RolandのK-88MKIIです。ご存じの方も多いと思いますがK-88MKIIは2020年の発表当初からファームウェアのアップデートでMIDI 2.0に対応する、というアナウンスをしながら、現在までそのファームウェアが登場しないままの状態。きっと技術的問題というよりも、各社との調整やMIDI 2.0の規格そのものが固まっていない点があることから、リリースを止めているんだろうな…と思っていましたが、このNAMM会場では、あくまでもデモ専用という記載の元、幻の?MIDI 2.0対応ファームウェアのK-88MKIIが置かれていて、それを弾くとIvory 3がMIDI 2.0対応で鳴る形になっていました。
先日紹介したMIDI 2.0対応のピアノ音源、Ivory 3を鳴らしていた
こうしたソフト音源、さらにはDAWなどがMIDI 2.0対応で揃ってくると、いよいよハードウェアも…ということになるのだと思いますが、ぜひ、早く登場してきてほしいところですね。
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