ヤマハが本日7月16日VOCALOID 6の最新バージョン、VOCALOID 6.7をリリースし、VOCALOID 6のユーザーであれば誰でも無償でバージョンアップできるようになっています。今回のアップデートでは、VOCALOID:AIトラックでの完全無声化機能の追加や、多くのユーザーから要望されていたV2互換モードの復活など、クリエイターの制作環境を大幅に改善する機能が盛り込まれています。
さらに本日同じタイミングで、UTAUやVOICEVOXで人気を博している「AIナースロボ_タイプT」がVOCALOIDボイスバンクとして発売されました。商用ソフトとしては初の登場となります。またこのVOCALOIDのバージョンアップに合わせて、7月16日から31日まで開催されるサマーセールが実施されており、エディターはもちろんボイスバンクなど全品15%オフとなっています。今回のアップデートが実際どんなものなのか一足早く使うことができたので、その内容について紹介してみましょう。

7月16日、ヤマハからVOCALOID 6.7がリリースされた
VOCALOID:AIトラックで完全無声化が実現
VOCALOID 6.7最大の目玉機能が、AIトラックでの完全無声化への対応です。これまでVOCALOIDトラックでは音素記号に「_0」を追加することで無声化が可能となっていましたが(2012年に「VOCALOID3にヤマハ非サポートの隠しコマンド!? ささやき声が出せるぞ!」という記事を書いているので興味のある方は参考にしてみてください)、VOCALOID:AIトラックではこうした機能が利用できませんでした。今回のアップデートにより、AIトラックでもささやき声となる完全無声化表現が可能になりました。

従来からのVOCALOIDトラックでは_0コマンドで無声化ができた
具体的には、新規パラメータが追加されたわけではなくて、すでにVOICE COLORという項目にあるAIRパラメータの可変幅が、従来の「-64~0~+63」から「-100~0~+100」へと拡張されました。+64から段階的に母音の音量が下がり、+100で完全に無声化します。従来のVOCALOIDトラックの「_0」機能よりもさらにキレイに無声化できるとともに、その度合いをコントロールすることが可能になり、より自然で表現豊かな歌声制作ができるようになったのです。

今回、AIトラックのAIRパラメータを最大化することで無声化ができるようになった
そのAIRパラメータを使ったAIトラックでの無声化と従来のVOCALOIDトラックでの_0を使っての無声化がどう違うか比較してみたので、以下のビデオをご覧ください。
ご覧いただくとわかる通り、VOCALOIDトラックは初音ミク V4X、AIトラックはHARUKAを使っており、AIトラックのほうはデフォルトであるAIR=0、よりハッキリした声となるAIR=-100、かすれた感じの声となるAIR=50、そして完全無声化のAIR=100と順番に歌わせているので、雰囲気の違いがハッキリ判ると思います。
なお、V6.6.1までで作成したスタイルプリセットやVPRファイルとの互換性も確保されており、「-64~0~+63」の範囲はV6.6.1とほぼ同一の動作となるため、既存のプロジェクトへの影響はありません。
V2互換モードが待望の復活
VOCALOID 4時代に搭載されていた「V2互換」機能が復活しました。この機能は、コントロールパラメータを描画する際の終端値の挙動を選択できるもので、従来のように終端値を継続するか、オリジナル値に戻すかを環境設定から選択可能になります。

環境設定においてコントロールパラメーターにチェックを入れる
V6.7.0からは、オリジナル値に戻す挙動がデフォルトとなります。

これまで動かしたパラメーターの最後の値が保持される形になっていた
これにより、例えばピッチベンドで楽曲の頭部分だけに効果を適用したい場合、従来は手動でゼロに戻す作業が必要でしたが、この煩雑な作業から解放されます。

VOCALOID 6.7では、動かしたパラメーターの最後は元に戻るようになるのがデフォルトとなった
これまでVOCALOID 3やVOCALOID 4あたりで止まったままだったという方も少なくないと思いますが、これを機にVOCALOID 6にバージョンアップしてみるのもよさそうですね。
VOCALOIDトラックでもピッチツールが利用可能に
前回VOCALOIDエディターの記事を執筆したのは「クロスシンセシスが復活!ピッチカーブ編集、息成分コントロールなど大幅機能強化したVOCALOID 6.5がリリース」という記事でしたが、その後リリースされたVOCALOID 6.6でも重要なアップデートが行われているので、今さらではありますが、これについても少し紹介しておきましょう。
VOCALOID 6.5ではAIトラックでのみ利用可能だった鉛筆ツールによるピッチカーブの直接編集機能が、VOCALOID 6.6でVOCALOIDトラックでも利用できるようになりました。これにより、MIKU V4Xなどが使えるVOCALOIDトラックでも、ピッチベンドを使わずにピッチの動きを直感的に調整することが可能になります。

AIトラックでも鉛筆ツールでピッチの動きを直接書き込めるようになった
この改善により、どのボイスバンクでもピッチ編集の利便性が統一され、VOCALOID 6を選ぶことによる制作上の制約がさらに解消されています。ご覧の通り、VOCALOID6では、VOCALOID3や4のボイスバンクを読み込みができて、編集方法も便利になっていますのでVOCALOID 3やVOCALOID 4あたりで止まったままだったという方も、これを機にVOCALOID 6にバージョンアップしてみるのもよさそうですね。
キーボードショートカットの検索機能
細かな改善点として、キーボードショートカットの設定画面でコマンド名を検索できる機能が追加されました。Cubaseなどの他のDAWでは一般的な機能ですが、VOCALOIDでも実装されることで、より効率的な作業環境が構築できます。

キーボードショートカットの検索も可能に
KANAとHAYATOが追加されボイスバンクは18個に拡充
VOCALOID 6.6では、新たに日本語ボイスバンク「KANA」と「HAYATO」(男女各1つ)が追加され、付属するボイスバンクが計18個となりました。内訳は日本語ボイス10個、英語ボイス8個となっており、VOCALOID 6購入時から豊富な音源を利用できる環境が整っています。つまりVOCALOID 6のエディターを購入するだけで、18ものボイスバンクが利用可能になったのです。
ちなみにKANAおよびHAYATOの歌声は以下のような感じです。
VOCALOIDの継続的な進化で選択の自由度が向上
ヤマハ担当者によると、VOCALOID 6の開発思想として「従来からのいわゆるボカロっぽい歌声も大事にしながら、選択肢の一つとして音源方式を増やしている」とのことです。AIトラックとVOCALOIDトラックの両方を正統に進化させることで、クリエイターが自分の制作スタイルに最適な環境を選択できるよう配慮されています。
実際、クロスシンセシス機能の復活や無声化の実現、またピッチ編集機能の充実などにより、これまで「VOCALOID 4エディターの方がいい」とされていた機能面での差異はほぼすべて解消されたと思います。
「◎◎ができないからVOCALOID 4を使い続ける」という理由はこれで基本的になくなり、安心して最新版のVOCALOID 6に移行できる環境が整ったと言えると思います。
新ボイスバンク「AIナースロボ_タイプT」が商用ソフト初登場
さて、このVOCALOID 6.7リリースと同時に、ヤマハ製ボイスバンクとして「AIナースロボ_タイプT」というものが発売されました。ご存じの方も多いと思いますが、「ナースロボ_タイプT」は、UTAUやVOICEVOXで人気のキャラクターで、ボカコレでも上位にランクインするなど、注目度の高いボイスです。

VOCALOIDの新たなボイスバンクとしてAIナースロボ_タイプTがリリースされた
「AIナースロボ_タイプT」は、架空の病院である倉成町私立病院を舞台とした世界観を持つキャラクターで、医師によって作られたナース型アンドロイドという設定。声の特徴は優しめのウィスパーボイスで、今回のVOCALOID 6.7で無声化を実現したVOICE COLORのAIRパラメータとの相性も良く、キャラクターの魅力を最大限に引き出せる仕様となっています。

AIナースロボ_タイプTはエア成分の多いボイスバンクなので、今回の無性化などもとも相性がいい
SynthesizerVやVoiSonaなどの他の商用ソフトでは未展開だったキャラクターを、VOCALOIDが商用ソフトとしては初めて採用。いろいろと積極的な展開を行っていることがわかります。
VOCALOID 6のボイスバンクは月1本ペースで新製品が登場
この1年間でVOCALOIDボイスバンクは相当数がリリースされており、月換算で約1個のペースで新製品が投入されています。先日もVOCALOID 6版の結月ゆかりや紲星あかりを記事にしていますが、VOCALOID 6版の初音ミクやIAの新バージョンも発表されており、VOCALOID 6がかなり活況となってきています。
冒頭でも紹介したとおり、VOCALOID 6.7は既存ユーザーには無償アップデートとして提供され、新規購入価格も変更されません。シリアルコードの変更もなく、認証済みであれば再認証も不要です。本日のリリースにより、クリエイターにとってさらに使いやすく、表現豊かな音楽制作環境が実現されました。
7月16日~31日、サマーセールで全品15%オフ
本日7月16日から31日まで、VOCALOID SHOPでサマーセールが開催されます。全品15%オフのクーポンが発行され、カート画面でクーポンコードを入力することで割引が適用されます。新発売の「AIナースロボ_タイプT」もセール対象となる予定です。
エディター機能の頻繁なアップデートと豊富なボイスバンクのラインナップにより、VOCALOIDはクリエイターにとってますます魅力的なプラットフォームとして進化を続けています。今回のセールを機にVOCALOID 6を導入すれば、将来的なアップデートや新ボイスバンクも含めて長期間にわたって活用できる投資となると思いますよ。めったにないVOCALOIDのセールで、VOCALOID 4あたりでアップデートが止まっていたという方も、この機会にバージョンアップしてみてはいがですか?
【関連情報】
VOCALOID サマーセール
AIナースロボ_タイプT/VOCALOID6.7
VOCALOID公式サイト
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