2026年1月14日、長年DTMシーンを支えてきたStudio Oneが、新たなフェーズへと突入しました。PreSonusが2021年にFender傘下へ入って以降、その進化の方向性が注目されてきましたが、今回「Studio One 8」とはならず、「Fender Studio Pro 8」として、その最新バージョンが発表されたのです。これは単なる名称変更に留まるものではなく、これまでのStudio Oneの良さはそのままに、DAWとして大幅な進化を遂げています。
直感性を徹底的に磨き上げた新インターフェース、セッション全体を俯瞰できる革新的なオーバービュー機能、AIを活用したオーディオ→ノート変換やドラム抽出、そしてFender公式のMustang/Rumbleアンプ&エフェクトがネイティブ統合。制作スピードと表現力の両立を、これまで以上に高い次元で実現しています。そこでFender Studio Pro 8の全体像と主な新機能を整理しつつ、従来のStudio Oneユーザーにとって何がどう変わるのか、DTM視点でポイントを整理していきましょう。
「Studio One 8」ではなく「Fender Studio Pro 8」になった意味
具体的な新機能の紹介の前に、まず最初に気になるのは、なぜ「Studio One 8」ではなく「Fender Studio Pro 8」という名称になったのかという点です。2021年にPreSonusがFender Musical Instruments傘下に入って以降、Studio Oneの開発体制は維持されつつも、Fenderとの統合が徐々に進められてきました。そして今回、ついにFenderブランドを冠したDAWとして生まれ変わったのです。
とはいえ、これはStudio Oneの終焉を意味するものではありません。むしろ、PreSonus Studio Oneプラットフォームをベースに開発された、その正統な進化版という位置づけです。定評ある数々の機能と信頼性の高いパフォーマンスはそのままに、Fenderが誇るアンプとエフェクトモデル、モダンなインターフェースデザイン、直感的な新しいワークフローを融合させた形になっています。
またご存じの方も多いと思いますが、すでにiOS、Android、Windows、macOS、Linux用に無料アプリの「Fender Studio」というものがリリースされていました。今回の「Fender Studio Pro」はその「Fender Studio」の上位版である、という明確な位置づけでもあるんですね。
なお、日本国内での発売元は従来通り株式会社ジェネレックジャパンとなっています。ブランドはFender Studio Proへと変わりましたが、国内のサポート体制やユーザーサービスは継続されるため、既存ユーザーも安心して移行できます。
実際に起動してみると、Studio Oneユーザーならすぐに「なんだ、同じだ…」と思われると思います。起動して最初に現れるインストール画面もロゴが変更されただけだし、基本的な操作体系、ウィンドウレイアウト、ショートカットキーなど、これまで培ってきた操作感はそのまま継承されています。Studio Oneという名前が消えてしまったことには、寂しさを感じるのは事実ですが、既存のStudio Oneユーザーにとって、操作感の連続性は保たれながら、新しい機能が有機的に統合されているのがFender Studio Proの特徴といえそうです。
まず目に入る変化:新UIとオーバービューの第一印象
Fender Studio Proで最も目を引くのは、リデザインされたユーザーインターフェースです。刷新されたツールバーとトランスポートバーは、クリーンなルックスと繊細な3Dスタイルを備えており、モダンかつ合理的なFender製品のインターフェースデザインを導入しています。
そして、今回の進化で最も革新的なのが「チャンネル・オーバービュー」と「アレンジ・オーバービュー」という2つの新機能です。
チャンネル・オーバービューは、下の画面において指示した部分で、ミキサーのチャンネルストリップを詳細に見ることができるとともに、簡単に異なるミキサーでチャンネルを選ぶのと同じ感覚で、簡単に切り替えることができるので、全体を捉えやすくしてくれるもの。インスペクターで見るのと異なり、各プラグインの動作や操作も含めてここに現れるのです。アナログのハードウェアミキシングコンソールに似たこの新しいオーバービューは、アレンジビューの幅いっぱいに水平にレイアウトされ、1つのチャンネルに関するあらゆる設定を一画面で表示します。プラグインエディターを開くことなく、インサートエフェクトの重要なパラメーターに直接アクセス可能になるのできるので、操作性を各段に向上します。これには、特定のNative FXプラグイン用のカスタムビューと、サードパーティ製プラグイン用のユーザー定義可能なビューが含まれます。
チャンネルオーバービューはトランスポートバーから直接利用でき、コンソールビューとチャンネルオーバービューを切り替える専用ボタンも用意されています。また、コンソールビューを開いた状態でトラックやチャンネルをダブルクリックしても、オーバービューを開くことができます。
実際に使ってみると、特にノートPC画面でも全体が把握しやすいのが印象的です。これまではミキサーウィンドウとアレンジウィンドウを何度も行き来する必要がありましたが、チャンネルオーバービューを使えば、アレンジビュー上で直接ミキシング作業ができるため、作業効率が大幅に向上します。
アレンジ・オーバービューは、ノートパソコンの画面など小さなディスプレイでの作業中でも、全トラックとセッション長をカバーするアレンジ全体を見ることを可能にしてくれるものです。長方形ハイライトを使用して、下のアレンジに現在表示されているものを確認します。虫眼鏡を使用するように、マウスを使用して拡大/縮小や見える範囲を変更できます。
この機能も実際に触ってみると便利で、楽曲全体の構成を常に意識しながら作業できるのは、制作の見通しを良くしてくれます。ミキサーとアレンジを行き来する回数が確実に減り、制作に集中できる時間が増えるのは大きなメリットです。
Fender公式アンプが”最初から入っている”強さ
Fender Studio Proには、フェンダーがデザインした初のネイティブエフェクトプラグイン、Mustang NativeとRumble Nativeが追加されています。
Mustang Nativeは、FenderのDSPベースギターアンプラインをベースにしており、Mustangの39のギターアンプモデルと73のストンプボックスエフェクトペダルを収録し、チューナーも内蔵されています。200以上のプリセットも用意されており、同デザインを基にしつつベーストーンをカバーします。
Rumble Nativeは、FenderのDSPベースアンプRumbleラインから派生したもので、Rumbleの20以上のアンプモデルを提供し、70以上のエフェクトペダル、100以上のプリセット、ギターモデルと同じ内蔵チューナーを搭載しています。
どちらのプラグインも完全にプログラムが可能なモジュラーシグナルパスにより、エレクトリックギターやアコースティックギター、エレクトリックベースのプロセッシングに加え、アンプセクションをバイパス設定することでエフェクト専用のペダルボードプラグインとしても使用可能です。
実際にインサートして鳴らしてみると、とりあえず立ち上げて即それっぽい音が出るのが分かります。これまでStudio Oneに付属していたAmpireとはキャラクターが明確に違い、Fenderらしい独特のトーンが簡単に得られます。ギターやベースを演奏するDTMユーザーにとって、Fender公式のアンプとエフェクトが最初から統合されているのは大きなメリットといえそうです。
AIによる非常に高精度なオーディオ/MIDI変換ツールを標準搭載
最先端のAIと機械学習テクノロジーを用いた新しいオプションとして、「音符を抽出」と「ドラムを抽出」が追加されました。これらの新機能はそれぞれ独自のモデルに基づいており、オーディオデータを分析し、音符やリズム、イベントを識別します。
音符を抽出は、モノフォニック、ポリフォニックの調音楽器に対応しているとのことですが、試しにピアノをレコーディングしたオーディオトラックにおいて、実行してみたところ、処理に実時間と同程度かかっていましたが、新たにインストゥルメントトラックが作られるとともにデフォルトではMai Taiのサウンドが割り当てられ、MIDIデータが生成されるのです。
これをピアノロールで開いてみると、しっかりとピアノが耳コピならぬAIコピされているわけですが、チェックしてみたところほぼ完ぺきな感じでMIDI化されていました。
まだ、いろいろなオーディオでテストしたわけではないので、楽器によって、またそのサウンドやエフェクトのかかり具合、テンポなどによって、MIDI化の精度に違いは出てきそうではありますが、ギターやベース、オルガンなどでもかなり正確にMIDI化できたので、、これだけのためにStudio Pro 8を導入しても十分価値がありそう、と感じました。
一方、ドラムを抽出はアコースティックドラムに特化してラーニングされたものとのことで、こちらは4小節のドラムループ素材を使って試してみました。やはり新たにインストゥルメントトラックが作成され、デフォルトではImpactがアサインされた形で、MIDIデータが生成されます。
こちらも、ほぼ完ぺきな形で、MIDI化してくれるんですね。非常に簡単だし便利です。ちなみに、このように抽出したMIDIデータは演奏するだけでなく、スコアエディタで開いて譜面化することも可能なので、その応用範囲は大きく広がりそうですね。
コード・アシスタントは「作曲補助」としてどうか
Fender Studio Proでは、コードアシスタントというものが追加され、コードトラックがさらにパワフルなものになりました。コードアシスタントは、既存のコード進行に基づいてコードをレコメンドしてくれる、というもの。既存のコードやコード進行の隣に新しいコードを追加するだけで、確率的モデルに基づいて何千ものコード進行から構築されたコードが割り当てられます。
任意のコードイベント上の矢印をクリックすると、コンテキストに基づいたおすすめのコードが表示されます。または、コードをダブルクリックするとコードセレクターが表示されます。
実際にコードを並べてみると、押し付けがましくないのが好印象です。あくまで提案という形で複数の選択肢を示してくれるため、最終的な判断は自分でできます。この機能は、DTM初心者より”行き詰まった中級者”に効きそうだと感じました。既存のコード進行をベースに提案を受けながら、自分の感性で選択していけるのは、作曲の行き詰まりを打開する助けになりそうです。
Sample One / Impact / Verb Studioなど周辺機能の進化
Sample OneとImpactには、サンプルのフェードイン/アウトコントロール、テンポオプション、クロスフェードの機能向上、スライスツール、クリエイティブなサウンドシェイピングのための新モジュレーション/マトリックスが搭載されました。
すべての汎用プラグインとほとんどのカスタムNative FXプラグインはより魅力的で一貫性のあるデザインにアップデートされています。また、Sample OneとImpactは、統合されたバーチャルインストゥルメントのアップデートされたビジュアルスタイルを先導し、Mojito、Mai Tai、Presenceのユーザーインターフェースも一新されています。
Studio Verbは、小さなドラムルームから巨大かつ豪華な人工空間まで幅広いサウンドと用途をカバーする新しいアルゴリズミックリバーブエフェクトです。操作し易いユーザーインターフェースと包括的なトーンシェイピングコントロールがクリエイティブなサウンドデザインへと誘います。
大型ディスプレイが現在のエフェクト設定の視覚フィードバックを提供し、ユニークなPingボタンがリバーブのシェイピングに新たな可能性を開きます。リバーブにバーストノイズを送信し、エフェクト信号の全周波数スペクトルをトリガーすることで、他のどのインストゥルメントよりも分かりやすいフィードバックをもたらし、リバーブサウンドを直感的に構築できます。マルチチャンネルサラウンドシグナルパスで使用する場合には、センターとサブのレベルをコントロールできます。
これらの進化は派手さはないものの、全体的に作業がスムーズになっていると感じます。細かな改善の積み重ねが、制作の快適さを確実に向上させています。
無料アプリFender Studioとのシームレスな連携
Fender Studio Proは、冒頭でも触れたiOS、Android、Windows、macOS、Linuxに対応した無料アプリの「Fender Studio」とシームレスに統合されています。Fender Studio ProはFender Studioの上位版という位置づけで互換性も持っているため、外出先で思いついたアイデアをFender Studioで即座にキャプチャし、自宅のスタジオに戻ってからFender Studio Proでエフェクト操作したり、より詳細にミっクスしていく、といったことが可能なのです。
Fender Studioを使用して外出先でアイデアを取り込んだら、すべてのミキサーとエフェクトの設定を含むセッションをFender Studio Proへ簡単に転送できます。モバイルからデスクトップへ、ワンタップで制作環境が移行できるのは、現代の音楽制作ワークフローにおいて大きなアドバンテージといえるでしょう。
ショー・ページがビデオに対応
これまでStudio Oneユーザーからの要望が多かったといわれている機能がショー・ページのビデオ再生がついに実現されました。ビデオ・トラックとビデオ・プレーヤー・ウィンドウが追加され、ライブパフォーマンスやプレゼンテーションでの映像活用が可能になっているのです。
ビデオを含むセッションがショーに送信されると、そのビデオ・トラックとコンテンツも自動的に転送されます。また、1つまたは複数のビデオ・ファイルをショーのセットリスト項目に追加し、セッション・ページで使用できる標準編集オプションを使用することもできます。
ビデオはビデオ・プレーヤー・ウィンドウ内で再生されますが、ボーダーレス・フルスクリーン・モードに対応しています。これにより外部モニター、プロジェクター、大型ビデオ・ディスプレイでのフルスクリーン再生に最適です。ライブでの映像演出や、教育現場でのプレゼンテーションなど、活用の幅が大きく広がります。
Drum Metronomeで制作がより音楽的に
最後に紹介する新機能がDrum Metronomeです。演奏用にクリックを聴く代わりに、もう少し雰囲気の出るドラム音で演奏したい、といったときに簡単に設定できるとっても便利なものです。ドラム・パートを作成する前にとりあえずアイデアを録音する際などに使えそうです。
使い方は簡単。メトロノームのところで、ドラムを選択すればOK。デフォルトでは60’Rockが設定されていますが、70種類以上のさまざまなスタイル/ジャンルのパターン・プリセットと、それにマッチするドラム・サンプルが付属しいるので、適当なものを選ぶだけでさまざまなドラムパターンに切り替えることができます。
再生テンポは標準テンポ、倍のテンポ、半分のテンポから選択でき、Impactベースのパターンをドラム・メトロノームのパターンに変換することで、カスタム・サンプルを用いた独自のパターンを作成することも可能です。
ドラム・メトロノームは標準的なメトロノーム・クリックの代わりに使用することも、クリックと組み合わせて使用することもできます。便利なクリックをレンダー・オプションもドラム・メトロノームで利用でき、曲全体用にドラム・オーディオ・トラックを簡単に作成できます。どんなドラム・パターンも編集可能なインストゥルメント・パターン・パートに変換してカスタマイズできます。
MyPreSonusはMyFenderへ──アカウント統合について
既存のStudio Oneユーザーが気になる点として、アカウントやライセンスの扱いがあります。結論から言えば、心配する必要はありません。
MyPreSonusアカウントはMyFenderアカウントへと統合されましたが、既存のStudio Oneユーザーのライセンスはそのまま有効です。サブスクリプションユーザーも影響を受けることなく、継続して利用できます。今後は、MyFenderが製品管理やアカウント管理の中核となりますが、ユーザー側で特別な手続きは不要です。
Studio OneからFender Studio Proへの移行は、ユーザーにとって透明性の高い形で行われており、既存の環境を維持したまま新機能を享受できる仕組みになっています。
価格体系とアップグレードの整理
Fender Studio Proは、永続ライセンス+1年間の新機能アップデートを入手できる「Fender Studio Pro 8」、既存のStudio Oneユーザー向けアップグレード版、学生向けアカデミック版、リーズナブルに乗り換え可能なクロスグレード版、そして教育機関向けマルチライセンスを用意しています。
Fender Studio Pro 8 アップグレード:MUSIC EcoSystems価格14,800円(オープンプライス)
Fender Studio Pro 8 アカデミック:MUSIC EcoSystems価格22,350円(オープンプライス)
Fender Studio Pro 8 クロスグレード:MUSIC EcoSystems価格22,350円(オープンプライス)
また、全てのプラグイン/サウンドライブラリとNotion 6、コミュニティやクラウドベースのワークフローを提供する「Fender Studio Pro+」は、12ヶ月メンバーシップ+永続ライセンスの「Fender Studio Pro+ 12 MONTH」(MUSIC EcoSystems価格26,800円)、1ヶ月メンバーシップの「Fender Studio Pro+ MONTHLY」(MUSIC EcoSystems価格2,900円)、そしてアップグレードを用意しています。
Fender Studio Proの立ち位置
Fender Studio Proは、Studio Oneユーザーが安心して移行できる理由が明確にあります。操作の連続性を保ちながら、UIの刷新、AIを活用したノート変換、Fender公式アンプの統合など、実用的な進化を遂げているからです。
Fender色は強いですが、DAWとしての芯は変わっていません。むしろ、PreSonusが長年培ってきた開発思想に、Fenderの音楽的資産が有機的に統合された形といえるでしょう。「Studio One 8を待っていた人」にとって、これは期待以上の進化になるはずです。
名前は変わったが、中身は確かに”進化したStudio One”だった──これが、Fender Studio Proの第一印象です。
【関連情報】
Fender Studio Pro製品情報























コメント