歌声合成・AI楽器演奏ソフトのACE Studioが2025年12月に2.0へとメジャーバージョンアップし、ディリゲントが日本の正規代理店として国内展開を開始したことは、このDTMステーションでも取り上げてきました。さらに先日は、2.0以降のアップデート内容を実際に試しながら振り返る記事もお届けしました。
そんなACE Studioが今、日本市場に向けてもうひとつの大きな一手を打とうとしています。それが、2026年8月24日に正式リリースされた「アルカナ・レゾナンス(Arcana Resonance)」という新プロジェクトです。音楽が失われた「レゾナ大陸」を舞台に、13名のオリジナル日本語AIシンガーがそれぞれの歌声と物語を紡ぐという、これまでのAIシンガー展開とは一線を画す企画で、150名を超える日本人クリエイターが制作に参加しているとのこと。さらにACE Studio自体もこの1か月弱の間にv2.1.6、v2.1.7、そしてv2.1.8へと立て続けにアップデートを重ねています。そこで今回は、ACE Studioの日本市場責任者を務める付道聡(フ・ドウソン)さんに、アルカナ・レゾナンス立ち上げの経緯や日本市場戦略、そして最新アップデートの内容についてお話を伺いました。
日本在住9年、外資系IT企業出身のキーマンが率いる日本展開
ーーまず、付さんのこれまでの経歴について簡単に教えてください。
付:私は日本に来てから今年で9年目になります。日本の中央大学を卒業した後、外資系IT企業をへて、ACE Studioを開発するTIMEDOMAINに加わりました。現在は日本市場全般を担当しています。
ーー日本チームはどのくらいの体制で動かれているのですか。
付:私を含めて、日本担当は10人ほどのチームです。ただ全員が日本にいるわけではなく、中国や欧米に住むメンバーも一緒にプロジェクトを進めています。我々にとって日本はとても大きなマーケットなので、しっかりとした体制を整えております。
ーーTIMEDOMAINとして、日本市場への本格展開はいつ頃から始まったのでしょうか。
付:本格的に力を入れ始めたのは2025年12月からです。またディリゲントさんに正規代理店になっていただいたのを機に、島村楽器の10店舗での展示を行ったり、Sleepfreaksでの学習コンテンツ制作、ニコニコ動画やボカコレとの連携なども進めてきました。
AIボーカル・楽器はクレジットを消費しない設計
ーー前回の記事では、2.0以降に追加された機能とあわせて、クレジット制度についても紹介させていただきました。改めて、AIボーカルやAI楽器を使う分にはクレジットがかからない、という理解でよろしいですか。
付:はい、その通りです。AI楽器の演奏やAIボーカルの生成そのものにはクレジットは消費されません。つまり、どれだけ使っても追加利用料が発生することはありません。クレジットが必要になるのは、Video ComposerやAI MV、Music Enhancerといった、動画生成や音楽エンハンス系の機能を使う場合です。
ーー先日、AI MV機能を使って、ミュージックビデオを生成してみたところ非常にクオリティーの高いものを簡単に生成できることに驚きましたが、2分強のビデオを生成するのに10,000クレジット以上を消費したので、使い方には気を付けないといけないとも感じました。
付:そうですね。クラウドでAIを使うと、どうしてもコストがかかってしまいますし、とくにAI MVの場合、外部のエンジンを使っていることもあり、よりクレジットを使う形にはなります。プランなどによっても異なりますが、基本的にArtistプランだと毎月2,500クレジット、Artist Proプランの場合は毎月5,000クレジットが付与されるので、これをうまく活用しつつ、足りない場合はクレジットパックをご購入いただく形になっています。
13人の日本語AIシンガーが歌う「レゾナ大陸」の物語
ーーさて、今回の目玉である「アルカナ・レゾナンス」について伺えればと思います。まず、このプロジェクトはどのような発想から生まれたのでしょうか。
付:まず、日本市場で長く展開していくためには、単に歌声データベースを増やすだけではなく、クリエイターの方々が楽曲や二次創作を通じて継続的に関われる、日本発のオリジナルIPが必要だと考えたことが出発点です。これまでACE Studioに搭載されていた日本語歌声データベースは、もともとUTAUなどで公開されていた音源なども含め、すべて台湾のJUXER社が制作したものでした。それに対して今回のアルカナ・レゾナンスは、TIMEDOMAIN自身が企画・制作を手がける初のオリジナルキャラクター音源プロジェクトです。13人すべてを日本語AIシンガーとして制作したことも含め、日本市場に本格的に取り組んでいく姿勢を形にしたプロジェクトでもあります。
🔮 新プロジェクト始動
『アルカナ・レゾナンス』音楽が失われた「レゾナ大陸」を舞台に、
13名のオリジナル日本語AIシンガーの
歌声と物語を描きます。ACE Studioの新プロジェクトに、
150名超のクリエイターが参加!8月、楽曲先行公開決定!
それぞれの歌声と物語を、
お楽しみに!… pic.twitter.com/yoaNHosN7F— ACE Studio 公式 (@ACEStudio_jp) July 31, 2026
ーー「音楽が失われた大陸」という世界観が印象的ですが、これはどのように決まったのですか。
付:13人それぞれに明確な象徴性を持たせながら、楽曲ごとに異なる解釈や物語を広げやすいモチーフとして、タロットの大アルカナを採用しました。そこから「レゾナ大陸」という舞台を設定し、13名それぞれのAIシンガーにキャラクタービジュアルと物語の背景を持たせています。単なる音声ライブラリーとしてではなく、楽曲やイラスト、映像、二次創作などを通じて、それぞれの声やキャラクターと出会っていただけるようなプロジェクトにしたいと考えています。
「アルカナ・レゾナンス」13人のキャラクター紹介
Luna Sol|ルナ・ソル(ルク:XVIII 月/ソラ:XIX 太陽)
呪いを抱えた兄と、その傍らで歌い続ける弟。
Character Design:墨明覚
ルク:弟を守るために呪いを引き受け、理性を失いつつある狼の少年。(CV:西文)
ソラ:地下の歌劇場で歌い続け、その歌で兄を繋ぎ止める少年歌手。(CV:Migu/つきみぐー。)Astra Fragment|アストラ・フラグメント(エナ:XVII 星/レト:XVI 塔)
失敗した実験から生まれた生命と、それを生み出した錬金術師。
Character Design:夏城星焰
エナ:崩壊した実験の中で生まれ、それでも”創り主”に応えようとする人造生命。(CV:谷端奏人)
レト:すべてを壊した後も、唯一残った存在を歌で繋ぎ止めようとする錬金術師。(CV:Яetro:nomё[レトロノーム])
代表曲:罪音(Zion)
Nocturne Echo|ノクターン・エコー(ユラ:XX 審判/レオ:IX 隠者)
未完成の歌を残した幽霊と、音を頼りに旅をする吟遊詩人。
Character Design:harmomomo
ユラ:未完成の歌に囚われ、終わりを迎えられない少女の幽霊。(CV:霜葉yaki)
レオ:光を失いながらも、音だけを頼りに旋律を探し続ける吟遊詩人。(CV:TATSUYA SAIKI)
代表曲:vanill@/ターニングポイント/綻びた音像が/Passes
Venom Masquerade|ヴェノム・マスカレード(セナ:II 女教皇/リオ:XV 悪魔)
人の選択を操る占い師と、夜に別の顔を見せる暗殺者。
Character Design:Bly mead
リオ:自覚のないまま夜に”別の存在”となる、二重人格の暗殺者。(CV:おさくん)
Trinity Arcana|トリニティ・アルカナ(ミオ:XIV 節制/カナ:XI 正義/ノア:VI 恋人)
それぞれ異なる方法で、世界の在り方に関わる三人の魔女。
Character Design:クロテロ
ミオ:すべての生命と均衡を保とうとする、白の魔女。(CV:472_)
代表曲:twil!ght/MI-MI (秘密)
Tempest Drive|テンペスト・ドライブ(サラ:VII 戦車/リリカ:I 魔術師)
迷わず前へ進む竜騎士と、歌を魔法に変える魔法使い。
Character Design:三夜
代表曲:未完成のアルペジオ/日常観についての追補
ーー日本語のAIシンガーというと、これまでも歌声のクオリティーについて気になる声もあったかと思いますが、その点はいかがでしょうか。
付:おっしゃる通りで、これまでの日本語データはそもそも量が少なく、思うようなクオリティーを出せていませんでした。そこで今回は、知名度よりも歌唱力の高い方を中心に、大量の歌声データを収録することにこだわりました。収録はすべて日本国内のスタジオで行い、13人のうち半分ほどは私自身が立ち会って収録しています。今までは制作を海外に一任する形でしたが、今回は収録の進め方も含めて私たちが把握した上で作り込んでいるので、既存の音源と比べてもクオリティーの差はかなり出ていると思います。特に日本語の子音・母音のつながりや、歌唱時の自然な抑揚については、従来の日本語歌声データベースと比べてもかなり改善できたと感じています。
ーー収録する曲数によって、クオリティーも変わってくるものなんですか。
付:今回の収録・制作フローでは、30曲程度をひとつの目安にしています。多い方では70曲ほど収録していますが、一定量を超えると、単純に曲数を増やすことによる改善幅は次第に小さくなっていきます。
ーー制作には150名を超えるクリエイターが参加されているとのことですが、その内訳を教えてください。
付:ボカロP・作曲家が50名以上、そのほかイラストレーター、映像クリエイターなどを含め、150名を超える日本人クリエイターに参加いただいています。8月以降、制作された楽曲はニコニコ動画やYouTubeで順次公開しており、現在も新曲が続々と公開されています。
ーー既存のACE Studioユーザーは、このアルカナ・レゾナンスをどのように利用できるのでしょうか。
付:プランを問わず、既存ユーザーの方は追加費用なしでこのアルカナ・レゾナンスをご利用いただけます。すでにアルカナ・レゾナンスは2026年8月24日に正式リリースされているので、ACE Studioを起動し、シンガートラックを追加すれば、すぐにアルカナ・レゾナンスの各キャラクターを選択できるようになっていることが確認できると思います。
v2.1.6からv2.1.8にかけて、ボーカル・楽器機能がさらに進化
ーータイミングを同じくして、ソフトウェア自体もアップデートが続いていますね。まずv2.1.6ではどんな変更がありましたか。
付:v2.1.6は8月18日に公開しました。今回の目玉は、V2 Vocal Synthに新しいパラメーターを追加したことです。以前からあったパラメーターであるVocal Modeに加え、ブレシネス(Breath)、ファルセット(Falsetto)、テンション(Tension)、エネルギー(Energy)という4つのパラメーターを調整できるようになり、ボーカル表現のコントロール性とカスタマイズ性が向上しています。あわせて、Vocal Synth & AI Instrumentsパネルにオーディオプレビュー機能を追加し、実際に音を鳴らさなくてもプロジェクトに合ったボイスをすばやく探していただけるようにもなりました。
ーーこの新パラメーターは、アルカナ・レゾナンスのシンガーたちにも活用されているのでしょうか。
付:これら4つのパラメーターは、もちろんすべての歌声に対して使えるものなので、アルカナ・レゾナンスの13人の歌声に対しても利用することが可能です。
ーー続くv2.1.7ではいかがですか。
付:v2.1.7では、AI歌声合成に音素タイミング調整機能を追加し、各音節の歌い方をより細かくコントロールできるようにしました。また、これまで4種類あったVocal Modeのパラメーターを、よりシンプルな「Dynamics」パラメーターへとアップグレードしています。上にいくほどパワフルに、下にいくほどソフトになるという直感的な操作にした上で、より細かく調整したい場合はv2.1.6で追加した4つのパラメーターを使っていただく形です。あわせて、Music Video機能の最適化・安定性向上も行っています。
ーーそして、v2.1.8についても教えてください。
付:v2.1.8ではVSTインストゥルメントへの対応も追加され、外部のVSTi音源をACE Studio内から利用できるようになりました。これにより、作曲・編曲、ボーカル制作、録音、ミックス、マスタリングまで、一般的な音楽制作の主要な工程をACE Studio内で完結できる環境が整いつつあります。
ーーまさにACE StudioがDAW的な統合制作環境になっていく感じですね。
また、新たに「エージェントに接続」機能も追加しており、ChatGPTやClaudeなどのAIモデルを接続することで、自然言語による指示からACE Studioを操作することも可能になりました。今後は単に機能を増やすだけでなく、制作ワークフローそのものをより効率化できる音楽制作環境へと進化させていきたいと考えています。
AI楽器もオーケストラ規模に拡充中
ーー少し話は戻りますが、AI楽器についても伺いたいと思います。現在、オーケストラ系のプリセットはブダペスト・アート・オーケストラ(Budapest Art Orchestra)の演奏によるものだと伺いました。
付:はい、ストリングセクション5種類、ストリングス18種類、ブラス4種類、木管楽器9種類の、合計36種類のプリセットをご用意しています。
ーー1月のNAMMでCEOのJoeさんにもお話を伺いましたが、EastWestとのコラボレーションについて、最新情報があればもう少し教えていただけますか?
付:EastWestからは、非常に多くの楽器およびボーカルデータをご提供いただいており、現在さまざまな形での展開を検討しています。具体的にどのような形で登場するのかについては、今後の発表を楽しみにしていただければと思います。
ーー日本語の楽曲テンプレートも増えているそうですね。
付:はい、弊社が権利を保有する日本語楽曲を新たにテンプレートとして追加しました。今後も日本語楽曲のテンプレートは大幅に拡充していく予定です。
ーーそのほか、最新情報があれば教えてください。
付:先週土曜日に、中国で高い人気を持つバーチャルシンガー「心華(XinHua)」とACE Studioとのコラボレーションを正式に発表しました。心華は今後ACE Studioの公式AIシンガーとして展開予定で、日本語・中国語・英語を含む8言語に対応する予定です。現在はまだテスト段階ですが、近日中に先行テストに関する情報も公開予定ですので、こちらについてもぜひ今後の展開を楽しみにしていただければと思います。
今後の展開
ーー最後に、今後のACE Studioの展望についてお聞かせください。
付:今後は単に機能を増やすだけでなく、制作ワークフローそのものをより効率化できる音楽制作環境へと進化させていきたいと考えています。
ここまで、ACE Studioの日本市場責任者・付さんに、アルカナ・レゾナンスの立ち上げ背景と最新アップデートについて伺いました。歌声合成ソフトとしての枠を超え、物語とキャラクターを伴ったオリジナルプロジェクトに乗り出したACE Studio。今後の展開にも、引き続き注目していきたいと思います。
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【関連情報】
ACE Studio製品情報(TIMEDOMAIN)
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