歌声合成というと、やはりVOCALOIDやSynthesizer Vを思い浮かべる人が多いと思いますが、CeVIOやVoisona、UTAU、NEUTORINO……など、いろいろなシステムがあるのも事実。これらのほとんどが日本で開発されたものですが、最近勢いをつけてきているのが、海外ソフトであるACE Studioです。SNSでかなり広告展開をしているので、DTMユーザーなら目にしたことがある人も多いのではないでしょうか?このACE StudioはAI歌声合成だけでなく、AI楽器合成の機能も搭載しており、ヴァイオリンやサックスなどの演奏を非常にリアルにAIで実現できるのも大きな特徴ともなっています。
DTMステーションでも以前に2回ほどACE Studioを取り上げたことがありましたが、先日そのACE Studioが2.0へとメジャーバージョンアップするとともに、ディリゲントが日本の正規代理店として流通を開始し、日本国内での展開を正式にスタートさせたのです。国内で展開するのは完全買い切り型の永久ライセンス版で、上位版のACE Studio Artist Pro(税込価格:89,100円)と通常版のACE Studio Artist(69,300円)の2種類。また12月25日~1月31日まで発売記念イントロセールとしてそれぞれ80,190円、62,370円で展開を行っています。そこで、ACE Studio 2.0の新機能を中心に、ACE Studioとはどんなソフトなのか改めて紹介してみましょう。
ACE Studioとは?
ACE Studioについては、DTMステーションでも過去に2回取り上げており、2024年8月の最初の記事、そして2025年7月の2回目の記事で紹介してきました。今回が3回目の記事となるわけですが、改めてACE Studioがどんなソフトなのか、簡単におさらいしておきましょう。
ACE Studioは、Timedomain社が開発したAIミュージックワークステーションで、その最大の特徴はAI歌声合成とAI楽器合成の両方を1つのソフトで実現できるという点にあります。
AI歌声合成機能としては、140以上のAIボイスを搭載し、日本語を含む8言語(英語、中国語、日本語、韓国語、スペイン語、イタリア語、フランス語、ポルトガル語)での歌唱生成が可能です。MIDIと歌詞を入力するだけで、スタジオ品質のボーカルトラックを作成でき、生成された音源はロイヤリティーフリーで商用利用も可能となっています。
さらに注目なのが、ユーザー自身のボーカルサンプルから独自のAI歌声モデルをトレーニングできるカスタムボイス機能を搭載している点です。これにより、自分だけのオリジナルなAIシンガーを作り出すことができるのです。この点については初回の記事でテストしているので、そちらも参考にしてみてください。
そして、他の歌声合成ソフトとの大きな違いがAI楽器合成機能です。バイオリン、サックス、トランペットといった楽器の演奏を、MIDI入力したデータから生成することができるのです。巨大なサンプルライブラリーを必要とせず、ピアノロールでMIDIノートを入力するだけで、人間味あふれるリアルな演奏を作り出せるというのは、非常に画期的な機能といえるでしょう。
日本での正式展開がスタート
そのACE Studioですが、これまで日本国内では開発元のTimedomain社のWebサイトから直接購入する形でしか入手できませんでした。それが今回、株式会社銀座十字屋が展開するディリゲント(Dirigent)が国内正規代理店となり、2025年12月19日より日本国内での販売を正式にスタートさせたのです。
ディリゲントが取り扱うのは完全買い切り型の永久ライセンス版。本国のWebサイトではサブスクリプション方式やRent-to-Own方式も用意されていますが、日本国内では買い切り版のみの展開となります。永久ライセンスなので、一度購入すればずっと使い続けることができるのは安心ですね。
製品ラインナップは2つのエディションが用意されています。
ACE Studio Artist
- 価格:69,300円(税込)
- カスタムボイスモデル(歌声合成用):1つ
- カスタムボイスモデル(ボイスチェンジャー用):1つ
- ジェネレーティブキット利用枠:月間330分
ACE Studio Artist Pro
- 価格:89,100円(税込)
- カスタムボイスモデル(歌声合成用):5つ
- カスタムボイスモデル(ボイスチェンジャー用):10個
- ジェネレーティブキット利用枠:月間660分
基本的な機能はどちらも同じで、違いはカスタムボイスモデルを作成できる数とジェネレーティブキットの利用枠のみです。自分でオリジナルのAI歌声をたくさん作りたい、あるいはAIによる楽曲生成機能を頻繁に使いたいという方はProエディションを、まずは試してみたいという方はArtistエディションを選ぶといいでしょう。
さらに、今回の国内展開開始を記念して、発売記念イントロセールが実施されています。
- セール期間:2025年12月25日(木)~2026年1月31日(土)
- ACE Studio Artist Pro:80,190円(通常価格から8,910円オフ)
- ACE Studio Artist:62,370円(通常価格から6,930円オフ)
このセール期間中であれば、かなりお得に購入できます。
購入は、ディリゲントのオンラインショップ、またはSONICWIREから可能です。また、ディリゲントが代理店となったことで、日本語でのサポートも受けられるようになった点は大きなメリットといえます。
バージョン2.0で大幅に機能拡充
今回、ディリゲントでの国内展開開始とほぼ同時に、ACE Studioはバージョン2.0へとメジャーアップデートされました。以前の記事でも触れた2.0のベータ版の機能が正式版として実装されただけでなく、さらに多くの機能が追加されています。特に大きく進化したのが、AI楽器合成機能です。
AI楽器合成機能の大幅な拡充
ACE Studioのベータ版を扱った2025年7月の記事では、AI楽器としてバイオリン3種類のみが搭載されていると紹介しました。
それが2.0では大幅に拡充され、弦楽器から管楽器まで、オーケストラで使われる主要な楽器がカバーされるようになったのです。
弦楽器
- バイオリン:6種類のモデル(ソロ演奏用+アンサンブル用)
- チェロ(ソロ演奏用+アンサンブル用)
- ビオラ(ソロ演奏用+アンサンブル用)
残念ながらコントラバスは実装されていませんが、弦楽セクションの主要な楽器は揃ったといえるでしょう。
管楽器
- サックス:4種類(ソプラノ、アルト、テノール、バリトン)
- トランペット
その他
- ドゥドゥク(中東の民族楽器)など
これらの楽器は、ソロ演奏だけでなくアンサンブル(セクション)としても使用できます。つまり、バイオリンのソロだけでなく、複数のバイオリンが奏でるストリングスセクションのような音も生成できるわけです。これは、オーケストラアレンジやシネマティックな楽曲制作を行う際に非常に強力な武器となるでしょう。
アーティキュレーション機能の追加
楽器の表現力を高めるうえで欠かせないのが、アーティキュレーション(奏法)の指定です。バージョン2.0では、新たに以下のアーティキュレーションが実装されました。
Legato(レガート):なめらかな音の繋がり
Pizzicato(ピッチカート):弦を弾く奏法
Tremolo(トレモロ):音を小刻みに繰り返す
これらのアーティキュレーションは、ピアノロール上で直感的に指定できます。特定の音符からここまでをレガートにする、といった指定が簡単に行えるのです。
興味深いのは「Smart」モードの存在です。これを選択しておけば、適当にMIDIノートを入力しても、AIが文脈を判断して適切なアーティキュレーションを自動的に適用してくれます。
このAI楽器合成機能は、以前記事で紹介した、中迫酒菜さん開発の「melisma(メリスマ)」と思想的には似たものではあります。しかし、以前の記事でも紹介したとおり、melismaは、楽譜作成ソフトを用いてがアーティキュレーションを非常に細かく指定できるのに対し、ACE Studioは、Smartモードを用いて、「おまかせ」で良い感じに仕上げてくれる、というのが基本で、使い方や考え方において大きな違いがあります。
その他の機能拡充
バージョン2.0では、AI楽器合成以外にもさまざまな機能が強化されています。
包括的なボーカルカスタマイズ
ボイスミックス機能と高度な編集コントロールにより、生成されたAIボーカルを細かくカスタマイズできます。ピッチ、感情、ビブラート、ブレス、テンション(張り)、強弱、発音など、プロのボーカリストがスタジオで行うような細かな調整が可能です。
ジェネレーティブAIキットを搭載
画面下のツールメニューから利用可能な以下のようなAI支援ツールも用意されています。
Music Enhancer(楽曲強化):既存の楽曲をAIが分析して改善案を提示
Add a Layer(レイヤー追加):トラックに新しい要素を追加する際のアイデアをAIが提供
また発展途上のところもありそうですが、単なるAI歌声合成・AI楽器合成にとどまらず、新世代のDAWとして進化していきそうな勢いで進化してきています。
DAW連携機能
ACE Studioは単体でも使用できますが、DAWとの連携機能も充実しています。
ステムスプリッター(音源分離):既存の楽曲からボーカルや各楽器を分離
Vocal-to-MIDI(ボーカルのMIDI変換):録音したボーカルをMIDIデータに変換
これらの機能により、既存の制作ワークフローにACE Studioをシームレスに組み込むことができます。
標準で140の歌声DB、ユーザーコミュニティーからも数多くのDBを無料で入手可能
ACE Studioの大きな魅力は、数多くの歌声データベースが 標準で搭載されており、購入すればすぐに利用できる、という点です。
前述のとおり、日本語、英語、中国語、韓国語、スペイン語、イタリア語、フランス語、ポルトガル語に対応しており、さまざまな歌声データベースがあるわけですが、日本語のデータベースとしては
瀬兎創(Seto Hajime)
欲音ルコ♀(Yokune Ruko)
鼓破音トリン(Trine)
緋惺(Akesato)
留音ロッカ(Rokka)
波音リツ (Namine Ritsu)
水音ラル(Mine Laru)
柊雪(Hiiragi Yuki)
と、UTAU音源を学習させた日本語のシンガーが9つも標準で搭載されているのも大きなポイント。これらを利用すれば非常にリアルな日本語で歌わせることができますし、英語や中国語のシンガーでも、かなりいい感じで日本語で歌わせることができます。
さらに、創作コミュニティーなる機能が追加され、ユーザーが作ったさまざまなデータをユーザー同士で共有できるようになったも大きなポイントです。その創作コミュニティーの中にAIシンガーコミュニティーなるものがあり、2025年12月28日現在で、日本語の歌声DBだけで29種類、他言語も含めれば99種類を自由にダウンロードし、商用においても権利フリーで自由に使うことが可能となっています。
また、ボイスミックス機能によって、複数のキャラクタの歌声をモーフィングさせるような感じで混ぜ合わせることができるほか、合唱モードというものを用いて、1つのトラックの入力で複数のシンガーに歌わせることも可能になっていたのも面白いところでした。
2.0にバージョンアップするとともに、より身近になったACE Studio
ACE Studio 2.0の登場とディリゲントによる国内正規代理店としての展開開始により、日本のDTMユーザーにとってACE Studioがグッと身近な存在になりました。
これまでは海外サイトから直接購入する必要があり、サポートも海外とのやりとり、という面では不安があったのも事実だと思います。しかし今後はしっかりと日本語でのサポートが受けられ、国内の一般的な楽器店やオンラインショップから購入できるようになります。また、完全買い切り型の永久ライセンスという形で提供されるのも、長く使い続けたいユーザーにとっては安心材料となるでしょう。
現在、発売記念イントロセールが2026年1月31日まで実施されており、通常価格よりもお得に購入できます。AI歌声合成に興味がある方、特にAI楽器合成という新しい可能性に魅力を感じる方は、この機会に試してみてはいかがでしょうか。
【関連情報】
ACE Studio製品情報
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