Universal Audioから、USBオーディオインターフェイスVOLTシリーズのフラッグシップモデルとなる「VOLT 876」が登場しているのはご存知でしょうか。これまでのVOLTシリーズといえば、手頃な価格でビンテージライクなサウンドも楽しめるエントリー~ミドルクラスの製品として人気を博してきましたが、今回のVOLT 876は一気にチャンネル数を増やし、なんと8基ものマイクプリアンプを搭載しています。さらに全チャンネルに定評ある「ビンテージプリアンプモード」と「76コンプレッサ」を装備しているのです。
実売価格は159,500円(税込)。8チャンネルすべてにアナログコンプレッサまで付いてこの価格というのは、Universal Audio製品としては異例のコストパフォーマンス。しかも今回は、これまで上位機種であるApolloシリーズの特権だったコントロールソフト「UAD Console」にも対応し、PC上からハードウェアをフルコントロールできるようになりました。本体はデスクトップでの使用はもちろん、付属のラックマウント用ブラケットを使用することでラックへのマウントも可能。電源もACアダプターではなくIECケーブルによる電源内蔵型となっており、プロユースを意識した設計となっています。「Apolloだと予算オーバーだが、高性能な多チャンネル機が欲しい」といったニーズに完璧に応えるこのVOLT 876。ドラム録音からバンドの一発録り、さらにはApolloの拡張ユニットとしても使えるVOLT 876のスペックや機能を、紹介していきましょう。
8基の高性能プリアンプとプロ仕様のハードウェア設計
VOLT 876は、サンプリングレート48kHz時において24in/28outの入出力数を持つUSB 2.0オーディオインターフェイス。
最大の特徴は、フロントパネルとリアパネルに合わせて8基のアナログ入力を搭載している点にあります。これらはXLRとTRSの両方に対応したコンボジャック仕様となっており、すべてにマイクプリアンプが搭載されています。
そのためドラムのマルチマイク録音やバンドの一発録りなどがこれ1台で完結できる仕様となっており、AD/DA変換は32bit/192kHzに対応し、高解像度なレコーディングが可能。
また、これまでのVOLTシリーズはバスパワーや外部ACアダプター駆動でしたが、VOLT 876はケーブルを直接接続する方式を採用。これにより電源周りがすっきりするだけでなく、安定した電源供給を実現しています。
出力系統も充実しており、メインのモニター出力L/Rに加え、6系統のライン出力、そして2系統のヘッドホン出力を装備。
これら2つのヘッドホン出力はそれぞれ独立したステレオバスを持っているので、これによりエンジニアと演奏者で異なるバランスのミックスを作ることもできます。
さらに5ピンDIN形状のMIDI入出力端子も装備しているため、シンセサイザやMIDIコントローラとの接続も問題ありません。
iOS 16およびiPadOS 15以降にも対応しており、USB-C搭載のiPadなら直結、Lightning搭載モデルならAppleのカメラアダプタ等を介して接続すれば、モバイル環境での多チャンネルレコーディングも実現できます。
全チャンネルで使えるビンテージプリアンプモードと76 コンプレッサ
Universal Audioの代名詞ともいえるアナログサウンドへのこだわりが、この8チャンネルすべてに惜しみなく投入されているのもポイント。具体的には、往年の名機であるチューブプリアンプUA 610をエミュレートしたVintage Preamp Modeと、伝説的なコンプレッサUREI 1176の回路をアナログで再現した76 Compressoの2つです。
76 コンプレッサーには、ソースに合わせて最適化された3つのプリセットが用意されていて、これらは本体の「COMP」ボタンを繰り返し押すことで順に切り替わります。
GTR: Guitarを意味し、アタックが遅くリリースが比較的速い設定です。ギターやベースのトランジェントを強調します。
VOC: Vocalを意味し、アタックが速くリリースが遅い設定です。ボーカルにスムーズなコンプレッションを与えます。
これらをボタン一つで切り替えられるほか、OFFにすることも可能です。実際に音を確認してみると、ノーマル状態とビンテージプリアンプを入れた状態、さらに76コンプを入れた状態では明確なキャラクタの違いが感じられます。音の傾向は上位機種であるApolloシリーズの質感に迫るもので、リッチで密度の高い音という印象です。ボーカルやギターだけでなく、ドラムのキックやスネア、オーバーヘッドすべてにかけ録りができるのは、制作のクオリティを大きく引き上げてくれるはずです。
待望のUAD Consoleアプリとオートゲイン機能
これまでのVOLTシリーズは、基本的に本体のツマミやボタンで操作を行うアナログライクな使い勝手が特徴でした。しかし、チャンネル数が増えたVOLT 876では、PC画面上で細かな設定を行いたいというニーズも高まります。そこで今回、ついにVOLTシリーズでものUAD Consoleが使えるようになりました。
これはApolloシリーズでおなじみのコンソールアプリで、各チャンネルのゲイン調整、ファンタム電源のオン/オフ、ビンテージプリアンプモードや76 コンプレッサーの切り替えなどを、PCやMacの画面上からリモートコントロールできるのです。もちろん、本体の操作と画面はリアルタイムに連動します。
また、多チャンネル録音の強い味方となるのがAuto-Gain機能です。これは入力された信号を解析して自動的にゲイン設定を行う機能で、使い方は非常に簡単。UAD Console上でオートゲインモードを有効にします。その状態でデフォルト設定では10秒間ほど演奏をするだけで、最適なゲインレベルに自動設定してくれるのです。たとえばドラム録音の際、全チャンネルでオートゲインを実行して演奏すれば、自動的に最適なゲイン設定が行われるため、セルフレコーディングを行うミュージシャンにとって非常に強力な機能となっています。
Apolloの拡張やスタンドアロンとしても機能する柔軟性
ほかにもVOLT 876は、拡張性と動作モードの柔軟性が高く、本体の動作モードを切り替えることにより、通常のオーディオインターフェイスとして動作するUSBモードはもちろんのこと、ADAT/スタンドアロンモードに設定すれば、PCとUSB接続せずとも、単体でAD/DAコンバータやマイクプリアンプとして動作させることが可能です。
すでにApollo TwinやApollo x4なども含めた、ADAT入力を持つオーディオインターフェイスを持っているユーザーであれば、このVOLT 876をADATケーブルで接続することで、Apolloの入力数を8チャンネル増設することが可能。その増設分にはUniversal Audio品質のマイクプリと76 コンプレッサーが付いてくるわけですから、贅沢な拡張方法ですね。
さらにADAT 拡張モードでは、最大3台のVOLT 876を接続してシステムを拡張し、UAD Consoleから最大24チャンネルのアナログ入力をコントロールすることも可能。もちろんApolloユーザーの拡張用としても使うことができます。最初はVOLT 876をメイン機として使い、将来的にDSP処理が必要になってApolloを導入した際にも、VOLT 876は無駄にならず拡張ユニットとして使い続けられますよ。
DC結合出力やLUNA連携など、制作の幅を広げる機能
地味ながら重要なポイントとして、VOLT 876のモニター出力やヘッドホン出力を含むすべてのアナログライン出力はDC結合仕様となっています。これにより、Ableton LiveのCV Toolsなどを使用して、モジュラーシンセサイザーのCV/Gateコントロールを行うことが可能。ハードウェアシンセサイザーを多用するクリエイターにとっても、見逃せないスペックですね。
また、Universal Audioが提供しているDAWソフト「LUNA」との連携も強力。VOLT 876を接続してLUNAを起動すると、LUNAのミキサー画面上にVOLTのマイクプリ設定が統合されます。わざわざコンソールアプリを行き来することなく、DAWの画面内でプリアンプのゲインやコンプレッサの設定が完結し、それらがセッションデータとして保存されるのです。LUNA自体は「楽器検出」や「ボイスコントロール」といったAI技術を活用したスマートツールも搭載しており、これらを活用することで制作フローをさらに効率化することもできますよ。
配信ユーザーに必須のループバック機能もしっかり搭載されています。PC上で再生されているBGMやゲームの音声を、マイク音声とミックスして配信ソフトに送ることが可能。UAD Console上でループバックチャンネルの調整ができるため、複雑な配線をすることなく実現できるのは便利です。
豪華すぎる付属プラグイン&ソフトウェア
VOLT 876には、Universal Audioが誇る高品位なネイティブプラグインが多数バンドルされており、これらを目当てに購入してもお釣りがくるほどの豪華なラインナップとなっています。
具体的にはUAD Producer Suiteが付属しており、定番の名機プラグインに加え、往年のポリフォニックシンセサイザーを再現したPolyMAX Synth、テープエコーの名機を忠実にエミュレートしたGalaxy Tape Echo、そして濃密で温かみのあるプレートリバーブPure Plate Reverbなどが含まれています。これらはDSPなしでPCのCPUで動作するネイティブ版なので、場所を選ばず使用可能です。
UA 1176 Classic FET Compressor
Pultec Passive EQ Collection
Century Tube Channel Strip
Oxide Tape Recorder
Verve Analog Machines Essentials
Pure Plate Reverb
Galaxy Tape Echo
PolyMAX Synth
Showtime ‘64 Tube Amp
さらに、音楽制作ソフトの定番であるAbleton Live Liteや、ボーカル編集に欠かせないピッチ補正ソフトMelodyne Essential、ドラム音源のVirtual Drummer DEEP、ベース音源のVirtual Bassist DANDYなど、サードパーティ製の強力なツールも付属しています。つまり、VOLT 876を購入したその日から、プロクオリティの音源とエフェクトを使って、本格的な曲作りがスタートできるというわけです。
Melodyne Essential by Celemony
Ampeg SVT-VR Classic Bass Bundle by Plugin Alliance
Marshall Plexi Classic Amp Bundle by Softube
Virtual Drummer DEEP by UJAM
Virtual Bassist DANDY by UJAM
LABS by Spitfire Audio
ちなみに、以前DTMステーションでも紹介した、NOAH中目黒店の「REC STUDIO」にもこのVOLT 876が導入されています。プロクオリティの機材が使えるNOAHのスタジオとして話題になりましたが、そうした現場でも採用される信頼性の高さがうかがえますね。
以上、Universal AudioのVOLT 876について紹介しました。実売16万円前後という価格は、安価なインターフェイスからのステップアップとしては勇気がいる金額かもしれません。しかし、8つの高品位なマイクプリ、全チャンネルのアナログコンプレッサ、そして将来的な拡張性まで考慮すれば、その価値は十分以上にあるといえます。バンドレコーディングを始めたい方、ドラムを録りたい方、そしてApolloユーザーの拡張用として、ぜひチェックしてみてはいかがでしょうか?
【関連情報】
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