古くはMIDIシーケンスソフト、Performerの開発元として、またオーディオインターフェイスの黎明期から業界をリードしてきたMOTU。そんなプロフェッショナルな現場から絶大な信頼を得るMOTUから、ThunderboltやUSB-Cに対応した新しいオーディオインターフェイス「848」(297,000円税込)が発売されました。848は、28in/32outという豊富な入出力を1Uラックサイズに収め、最高192kHzのサンプルレートに対応する非常に高品位なAD/DAコンバータを搭載した、まさに現代のスタジオの中核を担うべく設計されたモデル。
4基の高性能マイクプリアンプ、ギターのリアンプにも対応するインストゥルメント入力、さらにAVBネットワークによる拡張性も装備しています。また、定評あるDSPミキサーソフトウェア「CueMix Pro」も進化を遂げ、新たにマトリクスルーティングが可能になったほか、プリセットの管理機能も強化されるなど、より柔軟でパワフルなシステム構築を実現。そんな驚異的な性能と柔軟性を搭載したMOTU 848を実際に試してみたので、紹介していきましょう。
圧倒的なオーディオパフォーマンス
まず848のオーディオ性能から見ていきましょう。オーディオインターフェイスの心臓部であるDAコンバータには、業界でも高く評価されているESS Sabre32テクノロジーを採用した最新のコンバータを搭載。これにより、アナログ出力においては125dBという非常に優れたダイナミックレンジを実現しています。
そして、この高品位なオーディオデータを扱う上で不可欠なのが、コンピュータとの高速なデータ伝送。848は強力なThunderboltテクノロジによって、コンピュータとの間で最大256チャンネル(入力128/出力128)ものオーディオ入出力を同時に、しかも安定してやり取りすることが可能。たとえば、オーケストラのマルチマイク収録や、大規模なバンドの一発録りといった現場においても、余裕を持って対応できるキャパシティを誇っています。
多彩な接続性能と高性能ドライバー
そんな優れたオーディオ性能と並ぶ848のもう一つの特徴が、優秀な接続性能です。848は、ThunderboltとUSB双方に対応するユニバーサルな接続性を備えており、Mac、Windows、iOSに対応。接続は非常に安定しており、その理由はMOTUが長年開発を続けてきた高性能ドライバーにあります。
MacやWindows両方の環境に最適化されたこのドライバーにより、848は定評のある超低レイテンシ性能を実現。Digital PerformerのようなDAWを使用した場合、96kHzのサンプリングレート、ホストバッファ32サンプルという設定において、往復レイテンシー(RTL)は約1.8ミリ秒という驚異的な数値を達成しています。この数値は、DAW上でソフトウェア音源をリアルタイム演奏したり、ボーカルにプラグインエフェクトをかけながらモニタリングしたりする際に、演奏の妨げとなる遅延をほとんど感じさせないレベルとなっています。
このユニバーサルな接続性を物理的に担うのが、リアパネルに備わった役割の異なる2つのUSB-Cポート。まず一つは、コンピュータやiOSデバイスと直接接続するための「HOST」ポート。こちらにケーブル一本で接続すれば、あとは848がホスト側のポートの種類を自動で判別し、Thunderbolt 4からUSB 2.0まで、その時点で最良のパフォーマンスを発揮できる接続方式を確立してくれます。
そして、もう一つの「DEVICE」ポートは、848が接続されているPC側のポートの能力をそのまま引き継ぐ、ハブの役割を持っています。たとえば、Thunderboltポートを持つMacに848を接続した場合、このDEVICEポートもThunderboltポートとして動作し、高速な外付けSSDや4Kディスプレイといった、ほかのThunderbolt対応周辺機器を最大6台までのデイジーチェーン接続が可能になります。
最近のラップトップPCは搭載ポートが限られていることが多く、オーディオインターフェイスを接続すると貴重なポートが一つ埋まってしまいますが、848ならそのポートを実質的に取り戻せるというわけです。さらに、このDEVICEポートは最大15Wのバスパワーを供給できるため、ポータブルSSDなど多くの周辺機器をACアダプタなしで直接動作させることも可能となっています。
柔軟なオーディオI/Oと4系統の高品位マイク入力
これだけのオーディオ性能と接続性を備えた848ですが、その信号の入り口と出口となる物理的なI/Oも非常に充実しています。1Uラックサイズというコンパクトな筐体に、アナログ、デジタルを合わせて合計28入力、32出力ものI/Oを搭載。その内訳は豊富なアナログ入出力に加え、ADATオプティカル入出力も2系統(16ch分)備えるなど、非常に充実した内容になっています。
アナログ入力の中でも特に中心的な役割を担うのが、リアパネルに備わった4系統の高品位マイクプリアンプ。XLR/TRSコンボジャック仕様で、マイクはもちろん、エレキギターなどを直接接続できるHi-Z入力にも対応しています。このプリアンプの性能がまた特筆すべき点で、114 dB THD+N、118 dBのダイナミックレンジ、そして-129 dBu EINという、このクラスのインターフェイスとして非常に優れた数値となっています。
そして各マイクチャンネルは、フロントパネルのノブで最大74dBのゲインを1dB単位で調整可能で、もちろんコンデンサマイク用の48Vファンタム電源や、-20dBのPADも各チャンネル独立してオン/オフすることができます。
またシンセサイザやドラムマシン、アウトボードなどを接続するためのTRSバランス入力が8系統用意されています。そして面白いのが、マイク入力のチャンネル3と4には、それぞれ独立したインサート端子(センド/リターン)が用意されている点。これにより、たとえばボーカルレコーディングの際に、お気に入りのコンプレッサやアナログEQといったアウトボードをA/D変換前の信号経路に物理的に挿入し、アナログ機器ならではの質感や音圧感を加えてからデジタル化する、といったプロスタジオと同様のワークフローが実現可能となっています。
またアナログ出力もTRSバランスで12系統と豊富に用意されています。
スタジオを統合するコントロールルーム機能
これら豊富な入出力をスタジオの中心として機能させるのが、848に統合された多彩なコントロールルーム機能となっています。フロントパネルには、3系統のモニタースピーカーを瞬時に切り替えてミックスを確認できる「A/B/Cモニタースイッチ」が搭載。これにより、ラージモニター、ニアフィールド、そしてスマートフォンでの再生を想定した小型スピーカーなど、異なる再生環境での聴こえ方を簡単に比較することができます。
さらにCueMix Pro内で「モニターグループ」を設定すれば、5.1chや7.1ch、さらにはDolby Atmosなどのイマーシブオーディオ用のサラウンド環境のボリュームコントロールも一括して行うことが可能。また、レコーディングブースのミュージシャンと円滑にコミュニケーションをとるためのトークバック機能や、エンジニア用とプレイヤー用でまったく別のミックスを送ることができる、独立ボリュームを持つ2系統のヘッドホン出力も装備しています。
進化したミキシング & エフェクトと「CueMix Pro」
続いて848に内蔵された強力なDSPエンジンについて見ていきましょう。このDSPによって、64入力/32バス構成のパワフルなデジタルミキサーが、CPUに一切負荷をかけることなく、ほぼゼロレイテンシで動作します。たとえば、ボーカリストにリバーブのかかったモニターサウンドを返す際も、DAWのバッファサイズを気にする必要がありません。
そんなミキサーを直感的にコントロールするのが、Mac/Windows/iOSで動作する「CueMix Pro」ソフトウェア。以前DTMステーションでも「MOTU 16Aの第二世代モデル登場。64ch DSPミキサーやMilan対応AVB、Thunderbolt 4/USB4を搭載し、制作から配信まで網羅」という記事で紹介したMOTU 16Aなどにも搭載されていたコントロールアプリで、各入力とバスには、4バンドのパラメトリックEQ、コンプレッサ、ゲートといった高品位なDSPエフェクトが搭載されており、これらはすべて32bit浮動小数点演算で処理されるようになっています。
この32bit浮動小数点というのは、音量の表現範囲が事実上無限大になるという特徴があり、これにより、ミキサー内部で複数のチャンネルをミックスしたり、EQで特定の周波数を大きくブーストしたりしてレベルが一時的に0dBFSを超えても、内部ではクリップすることなく演算が続けられらます。最終的にマスターフェーダーでレベルを調整すればよいため、音質劣化の心配無用、自由なミキシングが可能になっています。
そして、CueMix Pro自体も日々進化しており、パッチベイとルーティンググリッドという形で実装された、完全なマトリクスルーティング機能が搭載されました。これは、848が持つすべてのアナログ入力、デジタル入力、コンピュータからのプレイバックチャンネル、AVBネットワークストリームといった膨大な信号ソースを、任意のアナログ/デジタル出力、コンピュータへのレコーディングチャンネル、ミキサー入力、AVBネットワークストリームへと、まるでパッチ盤のように自由に接続できる機能となっています。
たとえば、シンセの出力をライン入力1-2に接続し、DAWへ録音しつつ、同時にその信号を内蔵ミキサーに立ち上げてリバーブをかけ、演奏者のヘッドホンに送り、さらにドライ信号はアナログ出力3-4から外部のエフェクターに送り、その戻りをライン入力3-4で受けるといった、複雑な信号経路でも画面上でケーブルを繋ぐような直感的な操作で、いとも簡単に構築することができます。
さらに、今回のアップデートでプリセット機能も強化されました。作成した複雑なルーティングやミキサーの設定全体を、スナップショットとして本体内に8つまで保存できるほか、ファイルとしてコンピュータやiPadに無制限に保存や読み込みが可能。これにより、レコーディング用、ミキシング用、ライブ用など、用途に応じた設定を一瞬で切り替えることができるようになりました。
AVBによる柔軟なシステム拡張
これらすべての機能をソフトウェア上で自由に組み合わせられるだけでも十分に強力ですが、さらに848には、MOTUインターフェイスの大きな強みであるAVB(Audio Video Bridging)ネットワークポートを2基搭載しています。
これにより、たとえば追加のマイクプリアンプが必要になった際に、MOTU 8MのようなAVB対応機器をLANケーブル一本で848に直接接続するだけで、システム全体の入出力を増やすことができます。もちろん、より大規模なシステムを組む場合は、外部のAVBスイッチを介して複数のインターフェイスやコンピュータを接続することも可能。
また、848のAVBは、Milanプロトコルにも準拠している点が重要なポイント。Milanとは、AVBをベースに、異なるメーカーの機器間での相互接続性をより確実に保証するために作られたプロトコルであり、多くのプロオーディオメーカーが採用しています。848はMilan互換のストリームフォーマット「AAF-PCM」に対応しているため、他社製のMilan対応機器とも同じネットワーク上で音声のやり取りが可能となり、より高度でオープンなシステム構築が実現できるのです。もちろん、旧世代のMOTU AVBデバイスとも互換性があるため、既存のシステムに段階的に導入していける点も大きなメリットです。
ちなみにAVBについて詳しくは、以前「自動車産業が普及の鍵!?Danteの次にくる、ネットワークオーディオAVB/Milanとは何なのか。」という記事を書いているので、興味のある方は読んでみてください。
ワイヤレスコントロールと多彩な追加機能
また同じネットワーク内にあるiPadやiPhone上のCueMix Proアプリから、すべてのミキサー機能や各種設定をワイヤレスでコントロールすることができるようになっています。これにより、レコーディングブースにいるミュージシャン自身が手元のタブレットで自分のモニターミックスを調整したり、エンジニアがスタジオ内を歩き回りながらリスニングポイントを変えてミックスバランスを調整したりと、より自由で効率的なワークフローがを行うことが可能。
さらにこの機能を使えば、848をコンピュータに接続しないスタンドアローンのデジタルミキサーとしてライブなどで活用することもできます。そのほかにも、全アナログ出力がDCカップリング仕様のため、モジュラーシンセなどのCVコントロールに利用できたり、ギターのリアンプに便利な柔軟なルーティングが可能であったりと、現代のクリエイターの多様な要求に応える機能が満載となっています。
Performer Liteが付属
848には、MOTUが開発するDAWソフトウェア「Performer Lite」が付属しています。これには100種類以上の高品位なバーチャルインストゥルメント、現代の音楽ジャンルで即戦力となる数多くのループ素材やサウンドが含まれており、848を手に入れたその日からすぐに本格的な音楽制作を始めることができるようになっています。Performer Lite自体は、上位バージョンのDigital Performerの機能制限版となっていますが、基本的なオーディオ/MIDIの録音、編集、ミキシングやマスタリングまで、楽曲制作に必要な機能は搭載していますよ。
また、Big Fish Audio、Lucidsamples、Loopmastersといった業界をリードするサウンドメーカーから提供される6GBにも及ぶ膨大なループ素材やサンプルパックを追加でダウンロードすることが可能です。
以上、MOTUの新しいオーディオインターフェイス、848について紹介しました。高品位なサウンド、Thunderbolt/USB-Cによる高速かつユニバーサルな接続性、AVBネットワークによる圧倒的な拡張性を兼ね備え、まさに現代の音楽制作環境の中核を担うにふさわしい一台となっています。個人のプロジェクトスタジオから、複数の部屋を持つ大規模な商業スタジオ、さらにはライブの現場まで、あらゆるシチュエーションで活躍する実力をぜひ一度チェックしてみてはいかがでしょうか?
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