Focusriteが創業40周年を迎えた2025年、その節目を飾る特別モデルとしてUSB-C接続の2in/2outのオーディオインターフェイス「Scarlett 2i2 Anniversary Edition(Scarlett AE)」が発表されました。鮮やかなブルーの筐体に、ISAシリーズやForteコンソールの系譜を示す「ff」マークを刻んだ、象徴的な存在となる特別記念版であり、通常の赤いモデルとは対照的な色合いとなっています。限定生産となるので、日本に入ってくる数量はわずかになりそうではありますが、かなり気になるアイテムです。
そのScarlettシリーズ、現在は第4世代=4th Genとなっており、マイクプリアンプ1つ搭載で2in/2outのScarlett Soloから、最大24in/32outのScarlett 18i20まで6つのラインナップがそろい、用途・目的に応じてさまざまなモデルを選択できるようになっています。Scarlettシリーズは同社のRedNetシリーズ由来のAD/DAを搭載し、最大122dBのダイナミックレンジ(192kHz/24bit)を実現するとともに、Airモードなるものを搭載し、Focusriteの伝統的なスタジオコンソールを通したサウンドにすることができる、という点。でも税込み価格で見るとScarlett 16i16で46,800円程度、Scarlett 18i16で71,500円程度、Scarlett 18i20でも101,000円程度と手ごろな価格となっています。実際に試してみたので、改めてScarlett 4th Genとはどんなものなのか見ていきましょう。
40周年を記念した特別モデル「Scarlett AE」の意義
9月26日の日本時間午前0時、Focusriteから特別なアナウンスメントが発表されました。創業40周年を記念した「Scarlett 2i2 Anniversary Edition」、通称「Scarlett AE」が発表されたのです。
一見すると単なるカラーバリエーションに見えるかもしれませんが、このブルーの筐体は単なるデザイン変更ではありません。Focusriteの40年にわたる歴史において、「赤」と「青」は異なる系譜を表す重要なシンボルカラーなのです。
通常のScarlettシリーズが纏う「赤」は、1990年代のRed Rangeから受け継がれた血統を示しています。一方、今回のScarlett AEが身にまとう「青」は、ISAマイクプリアンプやForteコンソールに連なる系譜を象徴するものです。そして筐体に刻まれた「ff」のロゴは、故ルパート・ニーヴ氏が1988年に手掛けたForteコンソールから続く伝統を意味する証でもあります。
基本仕様はScarlett 2i2 4th Genと同等で、USB-C接続による2入力2出力、最大192kHz/24bitのレコーディングが可能です。しかし限定生産のため、日本での入手可能台数は非常に限られることが予想されます。コレクターズアイテムとしてだけでなく、Focusriteの歴史を物語る象徴的な存在として、多くのミュージシャンの注目を集めることでしょう。
Focusrite、「赤の系譜」と「青の系譜」
Focusriteの40年を振り返るとき、象徴的なキーワードとなるのが「赤」と「青」です。この2つの色は、単なるデザインの違いではなく、製品の思想や歴史を映し出す系譜そのものを意味しています。
赤の系譜 ― Scarlettへと受け継がれた血統
1990年代、Focusriteは「Red Range」と呼ばれる高級アウトボードシリーズを展開しました。鮮烈な赤いフロントパネルに収められたマイクプリアンプやEQ、コンプレッサーは、その洗練されたサウンドと操作性によって、多くの一流スタジオに導入されました。この「Red Range」の存在は、Focusriteというブランドを世界に強烈に印象付けることになったのです。
そしてその後、ホームレコーディングの波とともに登場したのがScarlettシリーズ。小さな赤い筐体は「Red Range」の精神を継承しつつ、より多くのミュージシャンに手が届く価格帯で提供されました。結果としてScarlettは世界累計800万台以上を販売し、今や”赤の小箱”として、DTMユーザーにとって最も身近なオーディオインターフェイスとなっています。
青の系譜 ― ISAとForteに連なる伝統
一方、Focusriteにはもう一つの系譜があります。こちらはISAモジュールに由来する回路トポロジーを基盤とし、マスタリングや放送の現場でも活用された高品位なアナログ機材群です。もっともRed RangeもISA110やISA130を引き継ぐ面があるので、単純に回路の違いと割り切るものではありませんが、青いボディーの機材はプロフェッショナルの厳しい要求に応えるべく設計され、その透明感ある音質と堅牢な設計は、今なお伝説的な存在として語られています。
ISA110、さらには1988年のForteコンソール、という流れの中で生まれたISAマイクプリアンプがFocusriteの音を決定づけたのも事実。その流れを受け継ぐ現在のISAシリーズ、そしてフロントパネルに刻まれる「ff」ロゴは、この”青の系譜”を象徴しています。
赤と青の交差点としてのScarlett AE
今回発表されるScarlett AEは、Scarlett=「赤の系譜」に属しながら、青い筐体と「ff」ロゴをまとうことで「青の系譜」とのつながりを示す、極めて象徴的な存在といえるでしょう。すなわち、Scarlett AEはFocusriteの40年にわたる歩みを凝縮したモデルであり、ブランドのルーツと未来をつなぐ”架け橋”として登場するのです。
Scarlett 4th Genシリーズの全体像と進化
現在のScarlett 4th Genシリーズは、6つのラインナップで構成されています。最もシンプルなScarlett Solo(2in/2out)から、最上位のScarlett 18i20(最大24in/32out)まで、用途に応じて選択できる幅広いバリエーションが展開されています。
第4世代への進化における最大のポイントは、音質面での大幅な改善です。全モデルにRedNet由来の高品位AD/DAコンバーターを搭載し、最大122dBという驚異的なダイナミックレンジを192kHz/24bitで実現しています。これは、プロスタジオレベルの録音品質をホームスタジオでも実現できることを意味します。
また、第4世代で機能強化されたAirモードは、Focusriteの伝統的なスタジオコンソールの音色を再現する機能です。これにより、デジタル録音特有の冷たさを排除し、アナログ的な温かみと立体感を付加することが可能になりました。
さらに実用面では、Auto Gain機能により最適なレコーディングレベルを自動で設定でき、Clip Safe機能で突発的な音割れを防止します。Loopback機能は配信やポッドキャスト制作において重宝する機能で、DAW出力とマイク入力を同時に録音・配信できます。
ドライバーの安定性も大幅に向上し、低レイテンシーでの録音が可能になっています。これにより、リアルタイムモニタリング時の遅延を最小限に抑え、演奏者にとってストレスフリーな録音環境を提供します。
エントリーモデルからステップアップの道筋
DTMステーションでは以前、「世界で最も売れているオーディオインターフェイス、FocusriteのScarlett Solo、2i2、4i4を改めてチェックしてみた」という記事で、Scarlettシリーズのエントリーモデルを詳しく紹介しました。多くのDTMユーザーにとって、Scarlettは最初に手にするオーディオインターフェイスであり、音楽制作への入り口として機能しています。
しかし、音楽制作に慣れ親しみ、より本格的な制作環境を求めるようになると、エントリーモデルでは物足りなくなることがあります。複数のマイクを同時に使いたい、外部エフェクターを接続したい、より多くのモニター出力が欲しい、ADAT接続でチャンネル数を拡張したい、といったニーズが生まれてくるのです。
そうしたステップアップを考えるユーザーにとって、Scarlett 4th Genの上位モデルは理想的な選択肢となります。同じScarlett DNAを継承しながら、より高度な制作環境を実現できるのです。
上位モデルの魅力を探る ― Scarlett 16i16 / 18i16 / 18i20
今回は特に、Scarlettシリーズの上位3モデルに焦点を当てて、その実力を検証してみました。
Scarlett 16i16 4th Gen ― バランスの取れた中上位モデル
16入力18出力を持つScarlett 16i16は、税込み価格46,800円程度という驚異的なコストパフォーマンスを実現しています。フロントパネルには4系統のマイク/ライン入力を装備し、リアパネルには4系統のライン入力とADAT入力、さらにS/PDIF入力をを搭載。合計16chの入力が可能です。また、それに加えてループバック入力も搭載しています。
出力面でも、メインのモニター出力に加えて、4系統のライン出力とADAT出力を装備。これにより、複数のヘッドフォンミックスの作成や、外部エフェクターとの複雑なルーティングが可能になります。
2i2や4i4と同様に、Focusrite Control 2というユーティリティを使うことで、Scarlettの全機能にアクセスできるとともに、各チャンネルへの入力状況をチェックしたり、ミキサー機能を調整したり、ルーティングを自在に行っていくことが可能になっています。
Scarlett 18i16 4th Gen ― 出力重視の配信・制作特化モデル
18入力16出力のScarlett 18i16(税込み価格71,500円程度)は、18i20と16i16の中間に位置するモデルです。入力数は18i20と同じながら、出力数を18chに抑えることで価格を抑制しています。そして18ある入力のうち4つはマイク接続可能であり、高品位なマイクプリを利用できるようになっているのがポイント。
またデジタル入出力として、S/PDIFの入出力とともにADATの入出力が装備されています。これにより、デジタルミキサーやマスタリング機器との接続がスムーズに行えるほか、ADAT対応のマイクプリを利用することで、簡単に12chのマイク入力に対応させることが可能になっています。
またAirモードにおいては1ch~4chともにPresenceおよびPresence&Driveの2つのモードを切り替えることができるようになっており、Focusriteならではの音作りができるのも大きな魅力です。
Scarlett 18i20 4th Gen ― フラッグシップモデルの実力
シリーズ最上位のScarlett 18i20(税込み価格101,000円程度)は、1Uのラックマントタイプのオーディオインターフェイス。18i20という名称から18in/20outなのかな、と思ってチェックしてみたところ、ループバック込みでなんと26in/32outという仕様。これで10万円という価格は同クラスの他社製品と比較して圧倒的なコストパフォーマンスを実現しているのが分かると思います。
その入力、アナログ部分を見てみるとフロントに2ch、リアに8chありますが、Input 1/2においては排他になってどちらかを使う形なので、トータル8chで、すべてにマイクプリが搭載されています。
デジタルはADATが2系統あるので、これで8×2=16ch、それにS/PDIFの2chがありますが、すべて同時に使えるわけではなく、デジタルポートモード設定で切り替える形となっています。それにループバックの2chを加えてトータルで最大26chとなっています。
一方の出力では、メイン出力、ライン出力8系統のほかヘッドホン出力がステレオ2系統あるのでトータル14ch。さらに入力と同様にADATが2つとS/PDIFという構成。どこに何を出力するかのルーティングはやはりFocusrite Control 2を用いて行いますが、とにかく自由度が高く、どのようにでも接続できる形ですね。
また、8つあるアナログ入力すべてにおいて、それぞれ独立した形でAirモードが利用できるというのも大きなポイント。ISA Oneが8台分といったら、ちょっと大げさすぎるかもしれませんが、10万円でこれだけの機能を装備しているというのは抜群のコストパフォーマンスであるといって間違いないと思います。
安定性と信頼性 ― 長時間使用での実力
上位モデルの真価は、長時間の連続使用において発揮されます。数時間に及ぶレコーディングセッションや、長時間の配信において、ドライバーの安定性と機器の信頼性は極めて重要です。
Scarlett 4th Genシリーズでは、この点で大幅な改善が図られています。ドライバー関連の設計を大きく変更したこともあり、DAWとの長時間の連続使用でも安定した動作を維持します。
また、筐体の放熱設計も見直されており、長時間使用時の熱によるパフォーマンス低下も最小限に抑えられています。実際、機材を使っていても熱を帯びていると感じることはほぼありませんでした。これらの改善により、プロフェッショナルな現場でも安心して使用できる信頼性を獲得しています。
プロワークフローへの対応
上位モデルのもう一つの魅力は、プロフェッショナルなワークフローに対応できることです。ADAT接続による拡張性は、必要に応じてチャンネル数を増やすことができ、将来的な拡張への道筋を提供します。
またS/PDIF、ADATからのデジタル同期ができるのに加え、Scarlett 18i20にはWord Clock出力も搭載されているので、デジタルミキサーや外部のデジタルレコーダーなどとクロックベースで同期させて連携がしやすいのも重要な要素です。
もちろんS/PDIF入出力の搭載は、CDプレーヤーからの高品位取り込みや、外部エフェクターとのデジタル接続において威力を発揮します。また、外部のマスタリングプロセッサーとの連携により、より高度な音質調整が可能になります。
Scarlett 4th Genの上位モデルは、単なる現在のニーズを満たすだけでなく、将来への投資という側面も持っています。音楽制作のスキルが向上し、より高度な制作を行うようになったとき、機材がボトルネックになることがありません。
RedNet由来のコンバーターは、放送業界やマスタリングスタジオで使用されているものと同等の品質を提供し、プロフェッショナルレベルの音質を実現します。
40年の歴史が結実した現在地と次の40年に向けて
Focusriteの40年間の歩みを振り返ると、1985年のISAマイクプリアンプから始まり、1988年のForteコンソール、そしてScarlettシリーズへと続く技術革新の歴史があります。2011年のRedNet開発により、ネットワークオーディオの分野でも先駆的な役割を果たしてきました。
そして現在のScarlett 4th Genシリーズは、これらすべての技術的蓄積を背景に開発されています。エントリーモデルのSoloから最上位の18i20まで、一貫した音質ポリシーと使いやすさを実現しているのは、長年の経験とノウハウがあればこそです。
特に上位モデルでは、プロスタジオで培われた技術をコンシューマー価格で提供することに成功しています。これは、より多くのクリエイターに高品質な制作環境を提供したいというFocusriteの理念の表れでもあります。
9月26日に発表されたScarlett AEは、確かに40周年を象徴する特別なモデルです。青い筐体と「ff」ロゴは、Focusriteの歴史と伝統を物語る重要な意味を持ちます。しかし、本当に注目すべきは、Scarlett 4th Genシリーズ全体の進化とその可能性です。
エントリーモデルから上位モデルまで、一貫した品質と段階的なステップアップの道筋を提供するScarlett 4th Genシリーズは、現代の音楽制作環境において理想的な選択肢となっています。特に16i16、18i16、18i20といった上位モデルは、未来のクリエイターを支える存在として機能しています。
1985年から始まったFocusriteの旅は、40年を経た今、新たな段階に入ろうとしています。Scarlett AEという特別なモデルが象徴するように、過去の栄光に安住することなく、常に革新を続ける姿勢こそが、Focusriteが世界中のミュージシャンから愛され続ける理由なのでしょう。これからの40年も、Focusriteは音楽制作の最前線を支え続けることでしょう。
なお、Focusriteによる40周年を記念した、歴史を振り返るウェブサイトもあるので、興味のある方はぜひご覧になってみてください。
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