ゲーム音楽やアニメ音楽として作曲家として、またアーティストのプロデュースや映画音楽を制作するなど幅広く活動している光田康典(みつだやすのり)さん。最近では、現在放送中のTVアニメ「イナズマイレブン」の音楽制作を手掛けており、かなり忙しくされているようですが、先日、その光田さんの会社である、プロキオン・スタジオに遊びに行ってきました。

以前、DETUNE佐野電磁さんのインタビューをした際、このプロキオン・スタジオに行ったことはあるのですが(実は、DETUNEという会社は、プロキオン・スタジオのオフィスの中にあり、光田さんはDETUNEの取締役も兼ねている)、なかなかユニークなスタジオだったので、改めて見学させてもらったのと同時に、光田さんにDTM的なお話をいろいろ伺ってみました。


作曲家の光田康典さんのスタジオに伺いお話を聞いてきました

--TwitterFacebookを見ていると、光田さん、Digital PerformerStudio OnePro ToolsなどいろいろなDAWを駆使されてますよね。もともと、こうしたDAW、いや、コンピュータを使いだしたのっていつごろだったんですか?
光田:コンピュータを最初に使ったのは小学生のころ。父が買ってくれたコモドール64を使った遊んでいたのが最初でした。当時からBASICでプログラム組んだりしていましたよ。その後、中学に入って、シャープの赤いX1 Turboを買って本格的にプログラムをしてましたね。ちょうどMSXなどがあったころでしたが、MSXって何か肌に合わない感じで、この赤いのがカッコいいとX1買ったんですよね(笑)。


最近は「イナズマイレブン」のTVアニメ、ゲームの音楽を手掛けている 

--ええ?そんな昔から!じゃあ、音楽よりコンピュータのほうが先だった、と?
光田:はい。中学校のときは、将来プログラマになりたいと思ってましたよ(笑)。

--では、光田さんがシーケンサなどを使うようになったのは?
光田:X1 Truboはよかったのですが、その後88に乗り換えたんですよ。PC-8801 FRのときですね。音楽の打ち込みをするようになったのは、そのころからです。BASICのPLAY文を使いながら、MML(Music Macro Language)でいろいろな曲を打ち込んでいました。とくに当時、大好きだったSQUAREの曲をどう再現するかって、いろいろ工夫をしてましたよ。それでFM音源シンセサイザについて覚えてもいきました。


小学生のころから8bitコンピュータで遊んでいたという光田さん
 
--おぅ、YM2203ですね。光田さんにそんな時代があったとは知りませんでした!作曲するようになったのも、そのころからなんですか?
光田:そのころは、譜面を見ながらコピーすることが中心でしたよ。高校に入ってアルバイトしながら88用にカモンミュージックレコンポーザMT-32を買ったりして、本格的に打ち込みをするようになっていきました。中古でちょっと壊れたDX21を安く入手したり……。高校のころは映画ばっかり見ていて、1日4、5本見てたんじゃないかな、それで時間が余ったら曲の打ち込み。それに明け暮れていました。音楽の道に行こうと思うようになったのは、そのころですね。映画音楽が好きでコンピュータが好きだったので、最近の音楽はコンピュータ使っているし、いいんじゃないか、と。それで、卒業後、東京に出てきて音楽の専門学校に行ったんです。ここで音楽についていろいろと勉強したんですよ。それまでは独学だったんで、作曲技法やレコーディングの方法など、いろいろと学びました。

--就職は、スクウェアですよね。なぜ、ゲーム会社に?
光田:学校の先生の元でスーパーファミコンに関するプログラミングのアルバイトなどをしていたのですが、そのときあったファミ通にたまたまスクウェアの求人広告があり、それを見て応募したら、受かってしまったんですよ(笑)。


スクェアへの転職でゲームミュージックの世界へ…作曲家デビューは「クロノ・トリガー 

--なるほど、それによって、『クロノ・トリガー』などのゲーム音楽も生まれてくることになったわけですね。スクウェアでは、当時どんなシーケンサを使っていたんですか?
光田:会社全体的にMacが中心で、当時VisionPerformerが入っていました。専門学校のころはカミヤスタジオのMYUというソフトが好きで、これを使っていましたが、徐々にPerformerに移っていき、そこからずっとですね。

--時代は一気に飛びますが、今もDigital Performerをお使いですよね?
光田:Logicを使ったり、Cubaseを使ってみたり、いろいろと試しているのですが、レイテンシーの面で一番性能がいいのがDigital Performerなので、曲制作の面では、ここに落ち着いています。

--性能がいいというのは?
光田:私の場合、フルオーケストラを鳴らすということが多いので、結構トラック数が多いんですよ。フルート2、オーボエ2、ホルン4、トランペット3……、それぞれステレオで40トラック以上鳴らす際、128サンプル以下で安定して動かせるのがDigital Performerなんですよね。各DAWの入出力を調べていった結果、Digital Performerの性能が一番よかったんですよ。もっとも、DAWとしての機能は、どれも成熟してきているので、それほど大きな差はないし、みんな使いやすくなっていますからね。とはいえ、それぞれで微妙にクセがあったりして、個人的に使いやすい、使いにくいという面はあるのですが……。

--以前、StudioOneの音がいい!といった話をされていましたよね?
光田:確かにStudioOneは音がいいんですよ。MIDIについてはやはりDigital Performerで行っていますが、自分でミックスするときは、StudioOneに落とし込んでこれで行っています。エンジニアさんにお願いするときは、Pro Toolsに移しているのでケースbyケースですけどね。


M01Dの新バージョン!?を持つ佐野電磁さん(右)と光田さん。 

--いま、光田さんが曲制作をする際は、ここのスタジオで作業しているわけですか?
光田:スタジオを使うのはStudioOneでミックスするときですね。Digital Performerで制作しているときは、普通に自分のデスクで行ったりしていますから。このスタジオ、サラウンドも使えるようになっているので、映画の最終ミックスをこの5.1環境で作業したりもしますね。また、ここで弦カル(弦楽器四重奏)を録るなんてこともありますよ。佐野さんの楽曲のミックスもここで行ってますよ。そのほか、声優さんの歌録りやナレーションの録りなど、いろいろな使い方をしています。もっとも、自分たちで直接使うよりも、レンタルで貸しているので、ほかの人たちが使っているケースが多いんですけどね(笑)。

--スタジオというと、大きなミキシングコンソールがドカンとあって……というのが一般的だと思いますが、このスタジオ、すごくシンプルでいいですよね。
光田:このスタジオを設計する際の一番のコンセプトは、とにかくパッチを少なくしたいというのが一番最初にあったんですよ。ほかのスタジオでは、ほとんどありえないコンセプトではあるけど……。レコーディングルームからコントロールルームまでパッチを使わず直接1本のケーブルで送るようにしています。卓を入れると、利便性を上げるためにパッチングしなくちゃいけない。それを極力避けたいという思いから、このような設計になっていて、マイクとアンプを直結できるようになっています。


スタジオ備品として用意されているMANLEYの16chラインミキサー 

--パッチングさせないというのは、音へのこだわりからですよね。
光田:そうですね、実際これによって、ほかのスタジオとは比較にならないほど、S/Nの高いレコーディングが可能になっています。そのことは音楽はもちろんですが、声優さんのナレーション録りなどでも顕著に表れますよ。スマホを含め、小さいスピーカーを使ったゲームの場合、コンプを使ってかなり音圧を上げて声を聴き取り安く加工するのですが、こうしたときにS/Nの差が結構出てくるんですよ。一方、ProToolsなどからミックスバッファとして卓に出したいというケースもあるので、それに対応できるようにしています。とはいえ、普通64chとかいらないので、16chあれば十分。それよりも味付けをしたいというケースが多いので、MANLEYの卓を置いているんですよ。またイギリスの知人から入手したレアモノのNEVEの卓もあるので、これも音を作り込む上で大きな威力を発揮してくれます。


ギター録りなどで活躍するというNEVEのコンソール 

--このスタジオ、コンピュータはどうなっているんですか?
光田:Mac Proが置いてあり、Pro Tools|HDが入っていますが、ここ、PCの持ち込み自由としているんですよ。声優さんが使う場合、ちょっと特殊なソフトを使うケースが多いようで、それぞれ持ち込んでもらっています。またHDDだけ持ってきて、このMacに接続して使うなんていうのもOKですしね。私がミックスで使う場合も、自分のMacを持ち込んで、StudioOneを使ったりしています。もっとも、このスタジオ、そうしたことを宣伝しているわけでもなく、ほぼ口コミで広がって一部の人たちが使っているだけなので、もっといろいろな人に活用していただけたら、と思っています。ところで、藤本さんに、ぜひお見せしたいものがあるんですよ!まだ、どこにも公開していない、試作が…。


光田さんが見せてくれた、8月末リリース予定のiPadアプリ、Handy Harp 

--ん???何ですか?
光田:実は、iPad用のハープのアプリを開発し、ほぼ完成したので8月中にリリースしたいと思っているんです。これ、ハープを完全な形でエミュレーションしていて、これで音も出せるし、MIDIを出力できるようにもなっているんです!!


ハープを忠実に再現すると同時にコードを扱えるようにしたHandy Harp 

--思い切りマニアックな匂いがしますね(笑)。ハープって、実物を触ったことないし、どんな構造になっているのかよくわからないのですが……。
(ここで、佐野さん登場)
佐野:ハープって、湖の畔でキレイな女の人が奏でているって印象があるでしょ。でも思い切りパワフルな楽器で、力がないと演奏できないんですよ!
光田:実はこれ自分でどうしても欲しくて開発したんですよ。ハープって構造が非常に複雑なために、MIDIで入力する場合、ものすごくパワーがかかるのです。ポロロロンというのを入れるだけなのに、すごく時間がかかり、下手をすると曲作りの多くの時間をここに費やすことになるので、簡単に入力できるデバイスが欲しかったんです。いろいろ探しはしたけれど、まったく存在していなかったので。

--確かに電子ハープなんて見たことないですね。ハープの音色はプリセットとしてよく見かけますが、それをハープらしく演奏するとなるとなかなか難しそうです…。
光田:そこでハープ奏者の朝川朋之さんに全面的な協力をいただきながらこれをプロキオン・スタジオとして開発したんです。これを使うことでハープがどんな楽器であるのかを学ぶこともできるので、学習ソフトとしても使えるようになっています。朝川さんも、多くの人にハープを理解してもらいたいという思いのようなので、うまく広がっていけば、と。開発はプロキオン・スタジオですが、流通は佐野さんのDETUNEにお願いしたいと思っています。
佐野:朝川さん、先日お会いし、実物のハープも見せてもらいましたが、すごい楽器でしたよ。このアプリはHandy Harpという名前なのですが、これがリリースされたタイミングで、朝川さんに電磁マシマシにも登場してもらって、完全ハープ特集にしようと思っているんですよ。アマチュア無視の完全プロ用アプリという感じではありますが、ハマると面白いと思いますよ。




--それは楽しみですね。アプリ、登場したらぜひ触ってみたいです。なんか、話がいろいろ過ぎて、散漫になってしまいましたが、個人的には興味深い話ばかりでとっても楽しかったです。ありがとうございました。

【関連サイト】
プロキオン・スタジオ
DETUNE

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