古くて新しいMIDI規格、AMEIが語るMIDI検定の背景

先日「オーディオ分野も出題されるMIDI検定はDAW知識習得の近道!?」という記事を書いて、結構大きな反響がありました。私も、MIDI検定の出題の半分がオーディオ関連になっていたことを知らなかったし、出題内容もなかなか面白いので記事にしたわけです。

その際、MIDI検定を実施している一般社団法人音楽電子事業協会(AMEI)に連絡をとり、試験問題の掲載許可などをもらったのですが、その後のメールのやりとりで、いくつかの質問をしていたところ、お会いしてインタビューができることになりました。そこで、MIDI検定で級を取得して、どんなメリットがあるのか、そもそもどんな経緯でMIDI検定がスタートし、なぜ、3年前に大幅に試験内容を変えたのかなど、単刀直入に話を伺ってみました。

一般社団法人音楽電子事業協会(AMEI)サイトのトップページ。このAMEIに取材に行ってきた!


今回お話を伺ったのはAMEIの幹事会メンバーでありMIDI検定委員会・委員長であり、日本シンセサイザー・プログラマー協会(JSPA)の代表理事である大浜和史さん、AMEIのMIDI規格委員会・委員長であり、クリムゾンテクノロジー株式会社の代表取締役である飛河和生さんのお二人です(以下敬称略)。

--そもそもMIDI検定はどういう経緯でいつごろできたものなのですか?

大浜:80年代のシンセサイザのデジタル化とともにMIDIが誕生し、当時はMIDIが搭載されているというだけで話題になった時代でした。それから10年が経ち、今度はカラオケを含め、音楽制作にMIDIが使われるようになってくると、その手法などについての標準化が求められるなり、JSPAの中でもいろいろ議論をしていました。そうした中、国内でMIDIを管理している団体ということでAMEIに声をかけた結果、MIDIの普及活動をJSPAと共同で行っていくようになったのです。その大きな手段として生まれたのが1999年にスタートしたMIDI検定だったのです。


今回、お話を伺ったMIDI検定委員の委員長、大浜和史さん

--具体的にはMIDI検定の試験問題をAMEI、JSPAで共同で作成した、ということなのですか?
大浜:いきなり試験をスタートさせたというわけではありません。実はもっと低レベルなところから活動が始まっていたんですよ。確かに各楽器メーカーがMIDIの仕様に合わせることで、MIDI機器同士の接続、通信はできていたのですが、各メーカーによって用語が微妙に違っていて、ユーザーに分かりにくかったので、用語を整理したり、まとめるところからでした。たとえばA社でコントローラーというものがB社ではコントロールだったり、サステインなのか、サスティンなのか、また中身は同じでもC4だったり、C3だったり……。ユーザー視点でメーカーの違いを1つにまとめていったのです。これを本にまとめJSPAの人たちが執筆して、AMEIのMIDI規格委員が監修。こうしてできたのがMIDI検定3級のガイドブックでした。

飛河:監修としては、JSPAが取りまとめた原稿を、テーマごとに区切って、各メーカーに渡してチェックしてもらうという作業をしていきました。やはり各社の考えというのもあるので、真っ赤になって戻ってきたりして、結構大変でしたね(苦笑)。


最初にできたのがMIDI検定3級のガイドブックだった。写真は2002年の改訂版

--今はMIDI検定1級~4級までありますが、最初は3級だけだったんですよね。
大浜:1999年の第1回は3級のみでしたが、翌年の第2回からはMIDI検定試験2級(筆記)も開始され、さらに第3回で2級の実技試験である2次試験も実施。以後毎年1回のペースで実施してきています。ちょうど通信カラオケが大きく広がってきた時期で、着メロなどの市場も大きくなってきたことから、MIDI検定の知識がそのまま仕事につながるとあって、多くの人たちが受験していました。

--でも、MIDIだけですべてがすべてが完結するという、そのころが最後だったようにも思います。

大浜:そうですね。ただ、MIDI検定2級のガイドブックを作った時点でも、量子化の話であったり、MP3などの圧縮オーディオの話など、MIDI規格そのものとは異なる話も入れており、実践の音楽制作においては、それなりにカバーする内容にはなっていました。とはいえ、WindowsXPの登場などにより、一般ユーザーはMIDI音源モジュールを接続して音楽を演奏するより、普通にオーディオをPCで再生するようになってきたことから、より身近に思える内容の「ミュージックメディア入門」ということで、4級を作ったのです。


4級用のガイドブックとしてできた、「ミュージックメディア入門」 

--オーディオに関しては、一番下の4級が先に進んでいた、と?
大浜:実用的なPCオーディオという面では、そのとおりです。これまで4級は1回改訂をおこなっていますが、当初WindowsXPとMac OS9だったものをWindows7とMac OSXに直すなどしています。MIDI検定もOSの変化には追随していく必要がありますからね。一方2級のほうはMIDIの打ち込み実技のところをもっと内容を濃くしていく、という方向で進めていきました。とはいえ、やはりPCの変化には歩調を合わせる必要があり、対応はさせています。そう、当初はIRQ(割り込み)の設定といった話まで入っていたものを、世の中的に不要になったので消していくという調整をしています。もともと2級は内容が多岐にわたっていたことから、新たに増やすというより、時代に合わなくなってきた項目を削除するという方向性で十分だったのです。

--とはいえ、2000年ごろまでのMIDIシーケンサの時代から、DAWの時代へと、世の中も大きく変わっていきましたよね。

大浜:オーディオ、音響的なことをカバーできるように大きく改訂しようといい出したのが4、5年前のこと。ただ、幸か不幸かMIDIは何も変わっていないので、これは踏襲しよう、と。ここでも、やはり試験のための根底となるガイドブックの制作から始めたのですが、まずは項目だしをJSPA内で検討し、そこから内容ごとに担当者を割り振り、執筆後に規格委員会でチェックという流れは従来と同様です。


まさにDAWを学ぶ上でも最適な「ミュージッククリエイターハンドブック」 

--その結果できたのが、「ミュージッククリエイターハンドブック」なわけですね。個人的にも、よくできている本だなと感心しました。
大浜:ありがとうございます。おかげ様で、本の評価は非常に高くなっています。また、この本をベースにする形で2012年度から新たな内容の試験に改めていますが、過去問を見てもらえれば、われわれがどういう思いで出題しているのかもわかっていただけるのではないでしょうか。

--そういえば、その改訂の前、2010年1月から1級がスタートしていますよね。この1級は2級とどう違うのですか?

大浜:実は、技術的な話でいえば、1級も2級も同じです。極端にいえば、2級は表現力はまったく問わず、MIDIの規格に合っているかどうかを評価します。それに対し、1級は規格に合っているのは当然ですが、実技試験として提出した作品の表現力まで評価するようにしているのです。入力だけでなく、ミキシング、エフェクト、抑揚、またソフトシンセでの表現力なども駆使しながら作った作品を、審査員が評価する形にしているのです。もちろん、審査が主観で偏るのも問題があるので、クリエイティブ部分の評価はスキーのジャンプのように、点数を付けた人のうち、最高点を付けた人と最低点を付けた人を切って、真ん中の人たちの平均で採点するという制度をとっています。


AMEIのMIDI規格委員の飛河和生さん 

--「MIDIなんてもう古い」といった声を聞くこともありますが、その点はいかがですか?
飛河:規格制定から30年も経過しているのですから、古い規格であることは事実ですが、それが今もそのまま使っているのも事実です。最新の機材と30年前の機材がそのまま接続できるのは素晴らしいことであり、先日のNAMM SHOWでも新旧の互換性デモなどを行っていました。MIDIケーブルで接続するケースは減っていても、PCはもちろんスマートフォンやゲームにおいても内部的にMIDIが使われていますから、まさに現在実践的に使われている規格なのです。ハード的な規格上は5PINのDINで接続するとなっていますが、MIDIの信号自体はUSBだったりBluetoothだったり、さまざまな物理的インターフェイスを通じて流れています。結果的に1.0の転送レートを守ってくれると同時に実際のメッセージのやりとりができ、30年前の機器との互換性を守ってくれればそれでOKです。その一方で、MIDI自体に関しても、いまだに検討することはいっぱいあるのです。

MIDI 1.0規格書もAMEIで作成している 

--たとえばどんな検討事項なのでしょうか?
飛河:WebMIDIAPIをはじめとした、ブラウザの通信規格としてMIDIを乗せるといったことを行っており、W3Cにも入って、働きかけを進めているところです。実は、2014楽器フェアと同じタイミングでW3Cのイベントがニコファーレで行われるので、2つの会場をネットで接続してのセッションなども企画しているところです。また、ちょうどiOS8への実装で話題になっているBluetooth LEへの実装といったのものも大きなテーマとなっており、今後ワイヤレスでの接続にも積極的に取り組んでいく予定です。

大浜:このように、AMEIとして幅広く活動しており、その楽器フェアではAMEIのセミナールームも設けて、ここで関連イベントをやる予定でおります。具体的にはMIDI検定1級講座や音楽制作講座、WebMIDI講座などいろいろ。いずれも、無料(楽器フェアへの入場料は必要です)ですので、ぜひ多くの方にいらしていただければと思っています。そのMIDI検定としては、1級~4級までありますが、その中で中核になるのが3級です。ここにはDAWを扱う上での知識として重要なものが一通り含まれているので、多くの方に役立つはずです。先ほどもお話したとおり、スマホアプリでもMIDIを使ったものが数多くあり、こうしたソフトウェア開発に携わる人にとっても重要な知識です。ミュージシャンのみなさんであればもちろんのこと、エンジニア系の方々、そして工業系の学生の方にとっても大いに役立つ情報が詰まった試験なので、ぜひ3級からチャレンジしてみてください。

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以上、大浜さん、飛河さんにお話しを伺ってみましたが、いかがだったでしょうか?「今さらMIDI?」なんていう人も少なくないと思いますが、お二人のお話からも分かるとおり、システムの内部的には今もMIDIが動いている、おそらく楽器同士のやり取りをするプロトコルと考えれば、今後も変わることはないでしょう。しかもMIDI検定では、現状にマッチした形でのプログラム内容に大きく変わっているので、その勉強をすることは、DAWを使いこなす上でもとても役立つはず。みなさんも、チャレンジしてみてはいかがですか?

【関連情報】
MIDI検定公式サイト
一般社団法人音楽電子事業協会サイト
日本シンセサイザー・プログラマー協会サイト

Commentsこの記事についたコメント

5件のコメント
  • キウイ

    違うDAW間でのデータのやり取りってmidi変換して…ってやり方しか頭に浮かばないし、midiの概念みたいなものを少しでも理解してれば新しいDAWも使いはじめてすぐに簡単なことはやれるようになりますからね

    2014年10月2日 9:44 PM
  • クロパン

    藤本さん、いつも楽しく拝見させていただいています。
    初めてコメントします。m(_ _)m
    ’音楽’では第3者から客観的にその技術を評価してもらうのがなかなか難しいと感じる
    (ヘタウマ、とか言ったりもしますし(笑))んですが、音楽を生業としている訳でもな
    いアマチュアキーボーディストの身としてはMIDI検定1級まで取れた事で大きな自信
    にはなりました。(これだけのスキルを持っている、と明確に示してもらえたので)
    現在の音楽制作の技術を学ぶ、ということで言えばMIDI検定は意義があるものだと思
    いますし、「楽譜をデジタル化する」という視点で見たら’MIDIは古い’なんてことには
    ならないと感じます。
    それからMIDI規格は1.0のままで30年、というのが驚きです。
    自分が生きてる間にはMIDIに取って代わるような規格どころか、2.0すら出て来ないよ
    うな気がしています。(笑)

    2014年10月3日 1:50 AM
  • 藤本健

    クロパンさん
    コメントありがとうございます。
    確かに今回のインタビューを通じて思ったのは、MIDIの規格に関する知識を身に付けるのは非常に大きな意義があるということです。
    MIDI検定1級に合格されたというのは、すごいですね。
    ちょうど先日、MIDI検定1級に合格された別の方を取材させてもらったので、
    今度記事にしようと思っているところです。

    2014年10月4日 11:15 PM
  • ゆうき

    藤本さん初めまして。
    日頃より拝見させていただいています。
    私は音楽専門学校の学生です。
    去年3級を取得し、少し勉強をさぼってしまい、知識がぬけかけてます;;
    次回開催の試験も受ける予定はありませんでした。
    しかし、今回の記事を読み、MIDIの可能性、自分への戒めの意を込めて
    次の2級1次試験を受験することに決めました。
    勉強できる期間は1カ月じと少しと短めですが、必ず合格する!!
    という意気込みで勉強を頑張りたいと思います。
    いつも有意義な記事、自分の心の支えです!本当にありがとうございます!!

    2014年10月16日 3:44 AM
  • 藤本健

    ゆうきさん
    コメントありがとうございます。
    ぜひ、がんばってくださいね!!応援してます!

    2014年10月16日 7:51 AM

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