40代前後の方だと、90年代「ハチプロ」とも呼ばれたRolandのMIDI音源モジュールの最高峰、SC-88Proに青春を捧げた……なんていう方も少なくないのではないでしょうか?そのSC-88Proを代表とするSound CanvasをRoland自らの手によって復刻されることになりました。

実際の発売時期や価格についてはまだ未定とのことではありますが11月21日~23日の3日間、東京ビックサイトで行われる楽器フェアのRolandブースで参考出品されます。そうした情報を事前に入手したので、急きょRolandに実物を見せてもらいに行ってきました。その復刻されるSound Canvasとはどんなものなのか、紹介してみましょう。


RolandがSound Canvas for iOSという名称で往年の名機、SC-88Proそくりなものをリリースする 

RolandはAIRAシリーズによってTR-808やTR-909、TB-303、SH-101、SH-2……といったビンテージ音源の復刻を行ってきたわけですが、今度はアナログ音源ではなくDTM音源の代表選手、SC-88Proを中心としたSound Canvasの復刻です。


90年代、大ヒット製品となった、MIDI音源モジュール、SC-88Pro
 

とはいえ、AIRAシリーズというわけではなく、ハードウェアとしての復刻というわけでもありません。今回登場するのはSound Canvas for iOSという名前のiOSアプリとしての復刻。つまりiPadやiPhoneで動くSound Canvasというわけですね。


iPadで起動させたSound Canvas for iOS(※画面は開発中のものです) 

実は、最初にその話を聞いたとき「PC用に存在していたVSCシリーズをiOSに移植したものなのか……」と思って、ちょっぴりガッカリしたのですが、実は、もっと本格的なものだったのです。

Rolandの担当者によると「VSCは、まだPCの処理能力が低い時代に、できるだけPCに負荷をかけずに鳴らす音源として開発したものでした。しかし、今回のSound Canvas for iOSは、できるだけ高品位な音でSC-88Proの音を再現させよう、という方針でまったく新たに開発しています」とのこと。


以前、Windows、Mac用のソフトウェア音源として販売されていたVSCシリーズとはまったくの別モノ
 

だからこそ、今回のものはVSC=Virtual Sound Canvasではなく、Sound Canvasとなっているんですね。またスペック的に見たVSCとの最大の違いは、インサーション・エフェクトの有無。VSCの場合、システムエフェクトのリバーブやコーラスはありましたが、パートごとに利用できるコンプレッサやピッチシフター、ディストーション……といったインサーション・エフェクトはありませんでした。


SC-88Proには、マルチ接続のエフェクトも含め全部で64種類あったものが、すべて再現されている

それに対し、Sound Canvas for iOSはこのインサーション・エフェクトが完全な形で再現されています。そのバリエーションの中には、「ディストーション-ディレイ」、「エンハンサー-コーラス」……のように複数のエフェクトをセットにしたものも含めてすべて用意されているのです。ギター音色に、ディストーションとディレイをかけて、システムエフェクトにリバーブをかけたサウンドを鳴らしてみると……、ん~確かにSC-88Proのサウンドですね!


画面のデザインは少し変わるが、iPadだけでなく、iPhoneでもまったく同じ音源として動作する


またVSCはインサーション・エフェクトのほかにもイコライザー、ユーザー音色、バルクダンプ機能がサポートされていなかったほか、フィルタの特性もSC-88Proのものとは大きく異なっていたので、楽曲データを鳴らしてもうまく再現することができませんでした。しかし、このSound Canvas for iOSは、各パラメータをSC-88Proと同じにすると同時に、フィルター特性もかなり近いものにしているとのことです。

そこで実際に同じMIDIデータをSC-88ProとSound Canvas for iOSのそれぞれで鳴らしたものを聴き比べてみました。ソックリなサウンドなのですが、よく聴いてみるとすぐに「あれ?iPadで出している音のほうがいい?」と思ったのです。

担当者からは「よくわかりますね。その通りです。サンプリングデータは当時のSC-88Proなどで使ったものを使ってはいるのですが、その他の処理は今の技術で行っているので、Sound Canvas for iOSのほうが音質はよくなっているんです。演算制度が高くなった分、とくにリバーブは断然高品位になっていますね」との答えが返ってきました。

つまりAIRAの場合は、いかに忠実に昔のアナログ回路を再現するかということにこだわって開発していたのに対し、Sound Canvas for iOSは互換性や再現性の最重要視というよりも、SC-88Proを代表とするSound Canvasの新製品を現代に蘇らせるという考え方なんですね。

音色配列は、もちろんGS準拠となっているわけですが、これもSC-88Proと同様に、SC-88Proマップはもちろんのこと、SC-55マップ、さらにはCM-64配列などがあり、SC-88Proでの音色切替と同じように使えるようなっています。さらに、SC-88Proより後に登場したSC-8820、SC-8850の音色も収録されており、トータル1600音色となっています。


画面上で、各パートのボリュームのほか、PANやりバーブ、コーラス、ディレイなども調整できる 

では、このSound Canvas for iOSは、どうやって使うものなのでしょうか?まず1つ目の鳴らし方としては、Sound Canvas for iOSの独自の機能としてMIDIファイルの再生機能が装備されているので、これを利用するという手段です。あらかじめ用意してあるMIDIファイルをiTunesやDropBoxなどを経由して転送しておけば、プレイボタンを押すだけで演奏できるわけですね。


MIDIファイルのプレイヤーの専用画面も用意されている
 

各パートごとに音量の調整や音色切り替えができるのはもちろん、専用のプレイヤー画面も用意されており、ここでテンポの変更、MIDIのピッチシフト、マイナスワン演奏などもできるので、DTMで音楽制作をしていない人でも、昔のMIDIデータをひっぱり出してきて遊ぶこともできそうですよ。


USB-MIDIキーボードを接続すれば、鍵盤からの演奏も可能


またiPadやiPhoneにUSB-MIDIキーボードを接続すれば、そのキーボードを弾いて演奏することも可能です。というのもSound Canvas for iOSがほかのiOSのソフトウェア音源と同様、CoreMIDIに対応したアプリだからなのですが、それは同時に、iOS上のGarageBandやCubasis、FL STUDIO Mobile HDなどの各種シーケンサ、DAWからも鳴らせることを意味します。

でも考えてみればiOSアプリのソフトウェア音源って、1パートで鳴らすものが中心で、マルチティンバーのものって少ないですよね。そうした中、SC-88Prorなどを再現するSound Canvas for iOSはマルチチャンネルで鳴らすことができるので、貴重な存在と言えそうです。

ただし、iOSで扱えるのはMIDI 16chまで。本来SC-88ProやSC-8850はパートグループA(A1~A16)、パートグループB(B1~B16)の計32チャンネル分が扱えたわけですが、iOSの仕様上、扱えるのは16chまでに制限されてしまいます。そのため、チャンネル数的にはSC-55mkII仕様といってもいいのかもしれません。


PCとMIDIケーブルで接続すれば、SC-88Proの代わりとして使用することも可能 

さて、話を戻してSound Canvas for iOSの使い方ですが、これは何もiOS上に閉じて使う必要はありません。WindowsやMac、場合によっては昔のPC-9801をひっぱり出してきてMIDIで接続して使うということもできてしまいます。そう、PC側でMIDIインターフェイスを装備する一方、iPadやiPhoneにはIK MultimediaのiRig MIDIなど、iPhoneやiPadで利用できるMIDIインターフェイスを利用することで、MIDI接続が可能になります。これによって、Sound Canvas for iOSを完全なMIDI音源モジュールとして使ってしまうことができるわけですね。

さらには、Wi-Fiを使ってMacと接続すればMIDIインターフェイスやMIDIケーブルなしにMIDI接続できるし、Windowsの場合でもrtpMIDIというツールをインストールすることで、Macと同じワイヤレスMIDIが利用できるようになります。もし、iPadやiPhoneを持っていない人でも、このSound Canvas for iPadのために購入するなんていうのも、「あり」ではないでしょうか?

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