以前「元ヤマハ技術者達が開発する世界初の電源不要ワイヤレスMIDI、mi.1」といった記事で紹介したQuicco Sound(キッコ サウンド株式会社)という、小さなメーカー。ここからBluetooth MIDIの世界が始まったといって間違いないと思うのですが、そのQuicco Soundの社長、廣井真さんから「今度はBluetoothで飛ばす、これまでにないユニークなオーディオ機材を作ったのでぜひ見てほしい」との連絡があったので、先日、浜松まで見に行ってきました。

DTMというジャンルからは若干外れて、オーディオ寄りのネタにはなるのですが、電子ピアノやキーボードなどと一緒に使っても便利で欲しい機材であったこと、「OKARA」というユニークなコンセプトを打ち出していること、そして個人的にもぜひ応援していきたいメーカーでもあるので、クラウドファンディングをスタートさせたばかりのoc.1oh.1という2製品について紹介してみたいと思います。


QUICCO SOUNDが独自開発したBluetoothオーディオデバイスoh.1(左)とoc.1(右)、奥は以前発売したmi.1
 
今回、まずはクラウドファンディングでの発売という形でスタートを切ったoh.1(4月20日よりスタート、5月29日終了)およびoc.1(5月30日よりスタート)という製品はbluetoothでオーディオを飛ばすという小さな機材。「そんなもの、これまでもいろいろあっただろ!」という方も多いと思いますが、いろいろと新しいアイディア、技術を投入しており、現在、特許も出願中なんだとか。でも、何がどうスゴいのか、順番に見ていきましょう。


Quicco Sound代表取締役 CEOの廣井真さん 

まずoc.1は「OKARA for Car第1号」の略とのことで、Bluetooth接続に対応していないカーオーディオを高音質にBluetooth接続させるための機材だそうです。「いや、そんなもの、いっぱいあるし、私もFMトランスミッター使ってるよ」と思ったのですが、まったく発想の異なるシステムでした。


oc.1は小さなUSBデバイスとなっている

oc.1はちょっと前のカーオーディオで、USBメモリーを挿せるタイプの機材に対応させたものです。ケンウッドとパイオニアのカーオーディオはほぼ問題なく使うことができましたが、カーオーディオに限らず、USBメモリーからWAVファイルを再生できる機材であれば、使えるものもあるはずです」と廣井さん。

でも、何がどうスゴいのか、いまいちピンと来ません。「oc.1はオーディオ機器からはUSBメモリーに見え、ここにWAVファイルが1つ入っているように騙すシステムになっています。そのダミーのWAVファイルにiPhoneなどからBluetoothを使ってオーディオをストリーミングしていくので、音質劣化することなく、再生することができるんです」と廣井さんは、oc.1のトリックを説明してくれました。


カーオーディオのUSB端子にoc.1を挿すことで、オーディオ機器側をUSBメモリーだと騙す仕掛け

事前にデータ転送するのではなく、リアルタイムにストリーミングさせるからユーザーとしては、普通にiPhoneなどのプレイヤーを操作すれば、即音が出る仕組みなんですね。オールデジタル転送なので、音質劣化やノイズもなく、FMトランスミッターなどとはまったく違う音質で再生できるはずですね。相性の問題が出る可能性はありますが、AVアンプなどでもUSBメモリーに対応している機材が多いので、こうした機器で利用すれば、さらに高音質再生が可能になりそうです。

とはいえ、よく「Bluetoothで転送すると音が劣化する…」といいますが、その点、このoc.1はどうなっているのでしょうか?

昔のBluetoothは転送レイト=スピードが遅かった上に、コーデックがSBCのみでしたので、MP3やAACなどの圧縮ファイルが、一旦、本体でデコード(解凍)された上にさらに低ビットレートのSBCで再圧縮後、転送されていたということが『音が劣化する』といわれる背景にありました。最近、Bluetoothの音が良くなったと感じられるのは、転送レイトが上がったことに加え、aptXやAACのデコーダーによるところが大きいです。iPhoneをお使いの場合、通常はAACで音楽データを持っていると思います。このAACの場合は、そのまま再圧縮せずにAACデータとして転送することができるので、Bluetoothであることによる音質劣化、音質変化はありません。またiPhone上のヘッドフォン出力よりも、圧縮ファイルのまま飛ばした先でデコードし、理想的なアナログ回路で出力した方が音質向上が見込める、というわけなのです」と廣井さんは解説してくれました。


今回の製品コンセプトや技術的訴求ポイントをまとめたポスター

なるほど、これは面白いアイディアですよね。oc.1ならばBluetoothだからという音質劣化の心配はない、というわけですね。

どの機種に対応しているのか、ぜひ検証して公表してもらいたいところですが、小さな小さな会社であるQuicco Soundで、あまり多くの検証をするのが人手から見て無理そうな感じです……。ユーザーが事前にチェックする方法として、USBメモリーに入った16bit/44.1kHのステレオWAVファイルを再生できるかを確認すること。中にはMP3のみに対応した機材もあるので、ここは注意すべき点ですね。


基板上にはCSRA64215が搭載されている。写真はoh.1の基板の初期段階のもの(上)と最終版(下)

ちなみに、Bluetoothの通信に使っているのはCSR(Qualcomm)製のCSRA64215というハイエンドのチップ。これによって頭欠けのないスムーズな再生ができ、またAAC、aptX、aptX Low Latencyのコーデックに対応できているのだそうです。


oh.1には木材や加工法の異なる5種類のモデルが存在する

もう一つの発表したoh.1は「OKARA for Home第1号」の略だそうで、ホームオーディオ向けのBluetoothシステムです。木製のUSBドングル型のUSBレシーバーとなっていて、ウォールナット、けやき、かえで、パドックといった無垢の木材を使っているのが特徴。あ、別に、木材によって音が違う、なんてオカルトの話をするわけではないので、ご安心ください!ある意味、楽器の街=浜松ならではの民芸品というか工芸品的な意味合いを持っているんですよ。

 
丁寧な加工をした木工の工芸製品ともいえるoh.1

まず、このパドックというのは、木琴に使われる(叩くと)いい音がする木材。これをまさに楽器を加工する地元の工場で、11工程もかけて作っているのだとか。さらに、このoh.1にはPremiumモデルが用意されています。それが、黒く光っているヤツ。これは木材にかえでを使ったボディーにPIAXという老舗ピアノ塗装メーカーが本物のピアノ塗装を行っているんだとか。オーディオ出力ジャックには真鍮(しんちゅう)リングをはめ込んだ上で「真鍮研ぎ出し」という手法でフラットな鏡面仕上げてを行ってるそうです。


浜松でしかできないピアノ塗装を施したoh.1のPremiumモデル

ピアノってYAMAHAとかKAWAIという金色のロゴが光ってますが、それと同じ手法を使っているのだとか。こちらは塗装だけでさらに18工程もかけているそうですから、まさに浜松の伝統と最新の技術の組み合わせといえそうですよね。

 
USBのACアダプタに挿して使うとってもシンプルな機材

で、このoh.1は何をするのかというと、こちらはそのままUSBのACアダプタなどにつなぐと使えるBluetoothのレシーバーとなっており、Bluetooth接続したiPhoneなどの音を、このステレオミニ端子から出力できるというものです。


古いラジカセなどと組み合わせて使うのもあり。モバイルバッテリーと組み合わせれば、さらなる高音質が期待できるかも?
※ただしオートパワーオフ機能があるモバイルバッテリーの場合、うまく動作しないケースがあります。 

最新式のオーディオ機器や、DTM用に使っているモニタースピーカーと組み合わせて使うのもいいのですが、最近あまり使わなくなってしまったけど、お気に入りのミニコンポやラジカセなどあれば、ぜひそれらとも組み合わせて使ってみていただきたいです。カセットやCD/MD部は壊れていても外部入力さえ動けば、まだまだ使えます。oc.1は古くなったカーステレオを、oh.1は古くなったホームオーディオ機器を再利用してもう一回輝かせようという意味もあり、コードネームのOKARAをそのまま商品名としました」と廣井さん。


BluetoothペアリングのインジケータとしてのLEDはステレオミニジャックの中で光っている

BluetoothとのペアリングはLEDランプを見て確認できるようになっていますが、「暗い部屋でこれが妙に青く光るのが嫌」という人がいるので、ステレオミニジャックの内側が光るようになっており、プラグを入れれば分からなくなるという工夫もされていました。

やはりoc.1と同様、AACであれば、劣化させることなくワイヤレスで飛ばすことができ、その音質はiPhone本体で鳴らすのよりも圧倒的に高音質になっています。それは、やはりDACや内蔵アンプ部分の性能ということなのでしょうが、この機構設計および電気回路設計にはベテランのエンジニアが2人関わっています。


oh.1、oc.1の開発者である3人。左から谷脇さん、廣井さん、佐野さん 

一人はQucco Soundの隣の部屋で無指向性のスピーカーを開発・販売しているTom's labの代表、谷脇富さん。谷脇さんも廣井さんと同様、元ヤマハのエンジニアで、DX5やWX7やKX5、TG300などの名機の機構設計を行ってきた方です。もう一人は谷脇さんとともに、さまざまなオーディオ回路設計に携わってきたエンジニアでABS代表の佐野武夫さん。この3人で開発したからこそ、理想に近い形のオーディオシステムを構築することができたようです。

私も、谷脇さんのスピーカーを使い、iPhone、oh.1を通って出てきた音を聴いてみましたが、AACってここまでいい音が出るんだっけ?と思うほどに、気持ちいい音が飛び出してきます。「iPhoneと直接接続するよりも、遥かにいい音になりますね。やっぱりアナログ回路部の違いが大きいと思います。また、聴き比べてみると分かりますが、ピアノ塗装のPremiumモデルだとさらに音がグッとよくなりますよ」と谷脇さん。


谷脇さんの会社、 Tom's labが開発した無指向性を中心としたスピーカー群

またちょっとオカルトっぽい話なのかな…と思ったら、その点を佐野さんが丁寧に補足してくれました。「通常モデルとPremiumモデルでは、中で採用しているオペアンプに違いがあるんです。いろいろとテストして比較した結果、普通のオーディオ用のBurr-Brownのチップではなく、測定機用のオペアンプを使ってみた結果、ものすごくいい音になったんです。もちろん一言で測定機用といってもいろいろある中、精度が高く、信号応答性が速くて、雑音の少ないものを選んでテストした結果、Linear TechnologyのLT6203というチップがオーディオ用のものよりも断然いい結果となったので、かなり高いチップではありますが、これを採用しました。もちろん、それにマッチさせるために、抵抗やコンデンサなども少しいじっています」とのこと。


oh.1の内部にある基板は4層の構造になっている

また回路自体は小規模で、基板もとっても小さいけれど、ここに4層の基板を使っているというのも音質向上の面でポイントとなっているようです。4層あるうちの1層は完全にグランド用の銅板となっているようで、これがノイズ軽減や、音の安定ということに繋がっているのでしょう。

AACのサウンドを聴くのであれば、下手なポータブルアンプを使うよりもoh.1を使ったほうがいい結果がでそうですよね。ラインで接続してもいいし、ヘッドホンを鳴らすことができる設計にもなっています。


まさに工芸品のように生産を行っているoh.1 

こうやって開発したoc.1とoh.1、夏以降に製品として全国展開での販売を目指していますが、その前にマーケティングリサーチの意味も込めて、クラウドファンディングでの販売を行ってみようと思います。mi.1のときはアメリカのサイトを活用しましたが、人手が少ない中、最初から世界展開することで、ご支援してくださった方へのサポートが満足にできなくなるのは申し訳ないので、今回は日本のMakuakeというサイトを使って募集をかけます。夏以降に市販する際の価格より、かなり安めに提供しようと考えているので、興味のある方はぜひ購入して、ご意見をいただけると嬉しいです。また、ピアノ塗装のPremiumモデルは、クラウドファンディングだけの特別モデルとして300台限定での販売を予定しています。一台一台、手作業で仕上げていますので、工業製品というより、工芸品に近いです。量産効果は出ず、採算も合わないので大量生産ができないのが実情。見た目も美しく、音も徹底的にこだわった逸品ですので、ぜひ、お試しいただければと思います」と廣井さんは語ります。
 

まだ正式発売前のクラウドファンディングという段階ではありますが、oc.1、oh.1ともに今なら安く購入できるし、今後入手不可能なPremiumモデルもあるので、小さなテクノロジー会社を応援する意味でも、私は1つずつ買ってみようと思っています!


【価格チェック】
◎Makuake ⇒ oc.1
◎Makuake ⇒ oh.1
◎Amazon ⇒ mi.1

【関連情報】
oc.1、oh.1購入ページ(Makuake)
Quicco Sound Webサイト
Tom's Lab Webサイト