初心者でも大丈夫?仲間がいなくてもできるの?話題のコーライティングにチャレンジしてみよう!

最近、いろいろなところで話題になっているコーライティングCo-Writingというのをご存じですか?直訳すれば共同制作で、2~5人程度のメンバーで一緒に作曲・編曲・作詞を行っていくこと。以前記事にした「全米メジャーリリースも実現、世界で活躍する日本人作曲家、ヒロイズムさんの足跡と次なる狙い」、「低音が海外成功のカギ!?英語圏でヒット曲を飛ばす日本人、Ryosuke”Dr.R”Sakaiさんの挑戦」でも紹介した通り、欧米においてはコーライティングが当たり前。一方で、日本の音楽制作では、これまでほとんど取り入れられていなかったのが実情です。

しかし、2年前に「最先端の作曲法コーライティングの教科書」(伊藤涼・山口哲一著)が出た辺りから国内でも少しずつ事例が増えてきており、さまざまなところで話題になってきています。これはプロの作曲家や作詞家、プロデューサーなどに大変革をもたらすだけでなく、アマチュアのDTMユーザーにとっても大きな可能性、チャンスが得られる仕組みのようなのです。そのコーライティングを体験できるワークショップが5月13日と6月3日に2日間のセットで開催されるとのことなので、これがどんなものなのか、話を聞いてきました。


コーライティングとは複数のメンバーで曲を作っていく共同制作のこと


お話を伺ったのは、ワークショップのオーガナイザーで音楽プロデューサーの山口哲一さん、ワークショップのコーチであり、音楽プロデューサー・ソングライターの伊藤涼さん、そしてワークショップの事務局的な立場で協力しているクレオフーガの代表取締役である西尾周一郎さんの3名。クレオフーガについては先日「自分のオリジナル曲を収入につなげられるサービス、Audiostockが秀逸」という記事でも取り上げた会社ですね。


山口哲一さん(左)、西尾周一郎さん(中)、伊藤涼さん(右)の3人にお話しを伺った 

--コーライティング、最近いろいろなところで話題になっていますね。
山口:パソコンとDAWソフトの普及によって、誰もが自宅で手軽に作曲でき、1人で完パケまでできるようになりました。ただその反面「作曲の孤独化」が進んでしまったという問題点もありました。すべての作業を自分で行うと、クリエイティブの判断もすべて自分で下さなくてはならず、いつしか自分のやっていることが見えなくなり、正しい方向に向かっているかもわからなくなり、出口の見えない迷路にはまってしまう作曲家も少なくないのが実情です。そうした孤独からの解放と同時に、作品のクオリティーを大きく上げていく可能性のあるコーライティングに注目が集まっているんだと思います。

--山口さんは、そのコーライティングを実践する山口ゼミも主催されていますよね。

山口:山口ゼミを始めて4年になりますが、これまでに受講者数も300人を超え、彼らがコーライティングを広めているという側面もあると思います。スタート当初からコンペに勝つためにコーライティングのスキルを身に着ける、というのが大きなテーマになっていました。その山口ゼミの修了生でプロレベルと認定されたメンバーで構成されるCo-Writing Farmという音楽制作チームでも、数多くの実績が出てきたところです。


音楽プロデューサーで、コーライティングに関する著書も複数出されている山口哲一さん

--元々ジャニーズでNEWSなどのプロデューサーとして活躍されてきた伊藤さんは、現在作詞研究室リリック・ラボを主宰する一方で、その山口ゼミでも副塾長として教えていますが、最近の傾向をどう見ていますか?
伊藤:国内のコンペはどんどん大型化してきて、仕組み的にも限界に来ています。1,000曲も集まっても聴くだけで大変。DAWの普及に伴い作曲家は増えたけれど、コンペ応募作品の大半がストックからのデモばかりというのも実情です。結果的にA&R(Artists and Repertoireの略:アーティストと楽曲の管理をする役割の人)と付き合いのある常連の作曲家の曲が決まるパターンばかり。でも、アーティストへの提案がしっかりできているのは、結局彼らだけだというのが実際でもあるんです。

音楽プロデューサーとして数多くのヒット作品を出してきた伊藤涼さん

--コンペといったって、出来レースじゃないか、と言われる所以ですよね。
伊藤:本来、クリエイターはアーティストへ提案していくことが重要なのに、ほとんどの作品は芯を食ってないんです。独りよがりで作っても、すれ違ってしまうんですよ。別に裏取引があって採用されないのではなく、実際に求める作品が集まらず、結果としていつものメンバーになってしまう。だからこそ、複数のメンバーで意見をぶつけながら作っていくコーライティングが重要であり、それが有効であることは海外が証明しているんですよ。
山口:一番問題なのは、採用されないことではなく、その作品に対してノーリアクションだということでしょう。99%が何の音沙汰もない。そんな中で、何度もコンペに応募して、無視され続ければ誰だって心が折れますよ。まさにクリエイターの才能を枯渇させるシステムになっているんです。だからこそ、山口ゼミで伊藤さんが、受講生の作品に対してボロクソ言うんですが、それがみんな嬉しかったりする。自分の作品のどこに問題があるのか、これまで誰も教えてくれなかったんですからね。

昨年のコーライティング・ワークショップでもあえて厳しくダメ出しをしていた伊藤さん
--多くのDTMユーザーは自己流で作曲から打ち込み、場合によっては自分で演奏して歌って、ミックスして、マスタリングまでしていますから、どこがよくて、どこが悪いのかすら分からないですもんね。
伊藤:もっともクリエイターは自分の悪いところが見えないというより、自分は天才だ!って思っている人も多いです。それは決して悪いことじゃないけれど、コンペの場合、判断するのはA&Rであり、彼らが求める要素を満たしていなければ採用されません。それを自分の才能を認めないとは……と思ってしまったら不幸ですよね。コンペにひたすら出しても前に進めなく、くじけてしまう。
山口:そこで大きな力になるのがコーライティングなんです。コーライティングのいいところは、みんなで意見を出し合いながらいい曲、提案できる曲を作っていくだけでなく、コネクションが広がることもあるんです。孤独な音楽制作でなく、3人集まれば3倍の人脈もできるし、そこからさらに3倍に広がる可能性だってある。実際Co-Writing Farmでは、その人の繋がり、広がりを実感できますね。

現在β版を公開したCo-Writing Studio(https://cowritingstudio.com/)
--とはいえ、現在DTMの発表の場としてはニコニコ動画やYouTube、SoundCloudなどいろいろあり、FacebookやTwitterなどで感想をもらえるようにはなっています。

山口:確かに、視聴者からの感想というのも重要な要素だとは思いますが、そのままアーティストの楽曲として採用されるという仕組みにはなっていません。でも、インターネットが広がったことで、いろいろなことが民主化してきていて、ここから新しい才能が見いだされる可能性も十分にあります。それをうまくコーライティングで実りあるものにしていければ、日本の音楽の世界も大きく進化していくと考えています。それを実現させるための仕組みとして、クレオフーガとの共同開発という形で、Co-Writing Studioというグループウェアを作って、β版の運用を開始したところなんですよ。Co-Writing Farmでは、これまではFacebookとサイボウズというソフトを組み合わせて使っていましたが、ここから完全移行を果たしたところです。


音楽コンテストコミュニティ、クレオフーガを運営する西尾周一郎さん

--Co-Writing Studioについて、もう少し詳しく教えてください。
西尾:Co-Writing Studioはインターネットを介してコーライトしていくためのコミュニケーションツールであり、プロジェクト管理ツールです。まだ開発中でβ版という位置づけではありますが、登録すれば誰でも無料で使うことができるツールです。まずはグループの作成からスタートします。グループとはコライトチームを意味するものでバンド、サークルなどの各種団体で作成する単位です。その上でプロジェクトを作成し、たとえばコンペごとにプロジェクトを作成するなどグループ内に複数のプロジェクトを作って運営していくことが可能で、ここで楽曲に関する各種情報を管理していくことが可能になっています。またファイル共有機能も用意しているので、MP3などのファイルをアップロードして、グループ内でやりとりするといったこともできるようにしています。ここでは、とくにファイル形式に制限を設けていないので、いろいろな使い方が可能です。
伊藤:Co-Writing Studioで何気に便利なのが、楽曲の管理機能なんですよ。クリエイターって、みんな自分の曲の管理が下手。普通は自分で作った曲データはPCのHDDに曲名を付けておしまい、なんてケースが多いと思います。でも、その数が膨大になってくると、分からなくなってしまうでしょう。ここでコーライトした場合、誰をターゲットとした曲で、誰が作曲して、誰がどのパートを演奏したのか、いつどのコンペに出し、現在どういう状況にあるのかといったステータスもしっかり管理しなくてはならないけれど、これがなかなか面倒です。でもCo-Writing Studioを使うと、自動的に生成されて管理できるから、これだけでもすごくいいですね。
山口:Co-Writing Studioには、構想として今後搭載させていきたい機能がいろいろとあります。その大きな一つが、コーライトする仲間を見つけ出すというものです。思想的にはアマチュア作曲家やDTMユーザーから、メジャーで活躍するヒロイズムさんのようなトップの人たちまでシームレスに繋がれる場であり、国境もボーダーレスになると考えています。そうするためには、もちろんシステムの進化と同時に、これを利用するユーザーも増やしていかないといけないですけどね。

Co-Writing Studioの3つの特徴

--そんなツールが誰でも無料で使えちゃうんですね!
西尾:まだまだβ版の段階で、ヘルプなどもほとんど整備できていない状況です。現時点では、直接つながりのない人を探し出すといったことはできないので、バンドメンバーなどコーライトする仲間と一緒にグループを作るのが前提となってしまいますが……。

山口:基本的には無料で開放するツールとしていきますが、ゆくゆくはDropboxのようなビジネスモデルを考えていきたいと思っています。つまりプロジェクト共有するような場合、ある容量を超えたら課金するモデルですね。


山口さん、伊藤さん共著の「最先端の作曲法コーライティングの教科書

--コーライトの良さというのは、なんとなく分かりましたが、どうやってコーライトする相手を見つければいいか分からないし、そもそも自分がコーライトに向いているのか、またコーライトするに足るスキルがあるか不安に思ってしまいます。

山口:プロだけなく、アマチュアにおいてもシームレスにコーライトが広がっていくべきという思いから、5月13日と6月3日にコーライトのイベントを行うんです。そこには、コーライトしてみたいという方がたくさん集まるので、そんな中からコーライトする仲間がきっと見つかると思いますよ。

伊藤:一人でやっていると、自分の良いところと悪いところどこなのかが分からないものです。でもコーライティングにおいては、DAWの操作が得意という人だったり、歌が得意な人、歌詞が書ける人、音楽が大好きでいろいろな曲に関する知識がある、といった人だって大きな力を発揮できるんです。コーライティングに興味はあるけど、どうしていいか分からない、どうやって人とつながればいいか分からないという人も多いはずです。「あまり音楽できないし、知識も経験もないけれど、そんなところに行っていいんでしょうか?」という人こそ、どんどん入ってきてほしいですね。実際にコーライティングに取り組むことによって、自分が得意なことを周りの人たちが発見してくれると思いますよ。


昨年5月に真鶴で行われたコーライティング・ワークショップで説明に立つ山口さんと伊藤さん

--以前、神奈川県・真鶴で行われたコーライト・ワークショップを取材したことがありましたが、5月13日もここでみんなで曲を作っていくのですか?
山口:真鶴で行ったのはファーストデモ、つまりメロディーとコードだけが分かる簡単なデモを作るものだったので、1日で終了しました。しかし今回は3週間かけて、コンペにも出せるようなものを目標に作っていきます。初日の5月13日は、集まったメンバーをプロフィールを元に事務局側でチーム分けをして、チーム発表します。そして各チームごとに話し合いをしてもらい、その後Co-Writing Studioを用いながら、それぞれ自宅からアクセスしてもらったり、ときにはミーティングなども行いながらコーライティングでの制作を行っていきます。そして6月3日には、再び全員で集まって、各チームの発表会を行い、作られたデモに対して、伊藤さんの添削指導、山口ゼミ名物の「伊藤斬り」が受けられるいくという内容になっています。コーライティングに興味のある方は、いい経験になると思いますし、大きな出会いの場にもなると思うので、ぜひ参加してみてください。

コーライティングについていろいろとお話を伺いました
--ありがとうございました。

【イベント概要】
■日時 2017年5月13日(土)16:30-19:30、6月3日(土)16:15-18:15
※2日間セットで1つの講座となります
■費用 事前振込:5,000円、当日現金支払:5,500円
※費用は2日分の参加費用です
■会場 東京コンテンツプロデューサーズラボ(東京アニメーションカレッジ専門学校内)
東京都新宿区下落合1-1-8
JR地下鉄高田馬場駅徒歩5分
■定員 50名
■主催 東京コンテンツプロデューサーズ・ラボ
■オーガナイザー 山口 哲一
■コーチ 伊藤 涼
■協力 Co-Writing Farm クレオフーガ
■参加申し込み https://creofuga.net/news/105

【関連情報】
Co-Writing Studio
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Commentsこの記事についたコメント

8件のコメント
  • アブソリュートビギナー

    「A&Rと付き合いのある常連の作曲家の曲が決まるパターンばかり」やはりそうでしたか、なんか最近の音楽番組を見てるとどれも似たり寄ったりだなーと感じてました、音楽とは違いますが映画も似たようなキャスティング・監督ばかりで、この役者を使えば赤字にはならないだろうという魂胆が見えます、勝ちに行く試合というより、負けない試合をしようとしているようで感動が薄れます。

    2017年4月17日 9:16 PM
  • 業界の片隅から

    そもそも曲を提供する職業作家になりたいのか?という根本的な問題もありますよね。仮に曲が採用されたとしても、数曲採用された程度では食っていけるほどの収入にはならず、しかも支払いは半年先。あっという間に家賃も払えなくなってバイトに逆戻り、が現実だと思います。
     私の知り合いでも超有名アイドルグループや人気アニメに楽曲を提供している作家がいますが、本業は音楽専門学校の講師です。つまり、副業にしかならない仕事に時間と労力をかけられるか?という極めてドライなビジネス的決断を下すしかないわけです。
     音楽だけで食えている作家は自らアーティストとして活動している一握りの人物だけ。しかも複数のパトロンがついています。それが現実です。夢を見るのではなく夢を見させる業界である事を理解していないと辛いだけだと思います。

    2017年4月17日 11:56 PM
  • ・・・

    最近は握手商法でミリオンのところ以外はCD売れません。音楽定額配信、ユーチューブなどがのさばっています。でもアメリカなどではやはり桁違いの収入あるみたいで。追いつきたいものです、日本の業界。
    コライトの良さは一番は、化学反応というか、分散された得意分野の共有、なんと言っても人が神様から与えられたそれぞれの才能は分かれていて、それを結合させるということでしょう。キャッチーなメロディーであるフック、編曲、作詞、仮歌、全体指揮、その才能は別の人が持っているという事です。
    今はそれを、全部一人でやれみたいになっていて、それが出来る人が幅を利かせています。でも実は、レベルが低い。そして主メロを聞かせるのではなく、編曲を聞かせているのが、JPOPあたりだと思います。コライトでそんな低レベルの状況を、改善して欲しいですね。

    2017年4月18日 4:50 AM
  • 温故知新

    頑張って曲作っても聴いてもらえないんじゃ仕方ないですね、かつて「デモテープと書いてゴミと読む」という広告があったのを思い出しました。ミュージシャンはレコード会社に頼らず自分で稼げるように模索しないといけませんね。

    2017年4月18日 5:06 AM
  • ・・・

    書き足し(2回目投稿)御容赦。
    いまのJPOPは「一人で全部やれ」システムの中で
    結局は編曲が出来る人が圧倒的に有利。
    編曲の全体(特にドラムパターンやシンセ音色など)で聞かせるけれど
    肝心の主メロはかなりおろそかな出来なようにも思えてなりません。
    上記とは関係あるのかないのか、JPOPはやたらチマチマした音のような気が。
    欧米で「当たり前」のコライトによって、JPOPが編曲家の我が物顔の
    詰まらない音楽に埋め尽くされている状況を、変えていって欲しいです。

    2017年4月18日 10:29 PM
  • 名無し

     いったい何十年「欧米に追いつけ」と言ってるんだという気にもなりますが、日本は元々創造的な文化に興味が無いからこんなシステムが放置されたんでしょう。
     でもまぁ、作曲家じゃなく、ソロミュージシャンだったら、完全に一人で作られた密室感や箱庭感も、オツなものなんですけどねぇ(脱線)

    2017年4月19日 12:14 AM
  • くどう

    DTMやボカロが普及する前は日本だって作詞家・作曲家・編曲家が役割分担して作品を作っていたんだし、
    もっと言えばバンドやってるなら歌詞・主旋律・曲全体の流れ・コード進行・楽器ごとのアレンジがパートごとに制作者が違うなんて珍しくもなんともない。
    なんか「新しいことを導入して欧米のレベルに追い付く!」ってのが単なる謳い文句にしか見えない。

    2017年6月23日 7:24 AM
  • くどう

    DTMやボカロが普及する前は日本だって作詞家・作曲家・編曲家が役割分担して作品を作っていたんだし、
    もっと言えばバンドやってるなら歌詞・主旋律・曲全体の流れ・コード進行・楽器ごとのアレンジがパートごとに制作者が違うなんて珍しくもなんともない。
    なんか「新しいことを導入して欧米のレベルに追い付く!」ってのが単なる謳い文句にしか見えない。

    2017年6月23日 7:24 AM

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