今年1月のNAMM Showのタイミングで、AvidからPro Toolsの新バージョン、Pro Tools 2018がリリースされました。さらに4月8日のNAB ShowでPro Toolsラインナップの名称の変更が発表されました。具体的にはPro Tools | HDの名称がPro Tools | Ultimateへ変わったのが大きなポイントですが、Pro Toolsを初めとするAvidクリエイティブ・ツールのラインナップもいろいろ変わっているので、変更の詳細はAvidのサイトをチェックいただければと思います。

さて、Pro Tools 12からPro Tools 2018へという名前へ大きく変わったのは、最近のさまざまなソフトウェアのネーミングに則った形に見えますが、実際の機能としては、どんな変化があるのでしょうか?以前「Pro Tools 12はお金を払い続けないと使えなくなるという噂…は間違い!?」といった記事を書いたこともありましたが、DTMユーザーから見て大きな変化はあったのでしょうか?今回は、その辺の状況について見ていきます。


名称が変わったPro Tools 2018のラインナップ



このPro Tools 2018のラインナップの中には無料版であるPro Tools | Firstというものもリリースされています。実際ダウンロードして試してみたという人も少なくないと思いますが、このFirstのほうも進化してきているようで、Pro Toolsとの連携機能も強化されています。それぞれ、現在どんな位置づけにあり、どう活用するといいのか、Avid本社でPro Toolsの開発に携わっているPro Toolsプロダクトオーナーの内藤大輔さんにお話しを伺ってみました。


Avid TechnologyのPro Toolsプロダクトオーナー、内藤大輔さん


--具体的なPro Toolsのお話を伺う前に、内藤さんのお仕事について伺いたいのですが、内藤さんはPro Toolsの開発をしている方なんですか?
内藤:プログラムを書いているというわけではありませんが、今後のPro Toolsにどんな機能を、どんな順番、どんなスケジュールで搭載していくかを決める仕事をしており、デザイナーも兼ねた仕事です。現在は日本にいますが、アメリカ時間で生活していて、毎朝ネットミーティングなどをしながらチームとして仕事をしています。

--ソフトウェア開発だと、もう国境もない感じですね!DAWって、海外で開発されたものを輸入している…というようなイメージでしたが、Pro Toolsの場合、日本からもメンバーが入って開発している、と。
内藤:そうですね。確かに開発メンバーの多くはアメリカのシリコンバレーにいるのですが、みんな会社に詰めて仕事をしているというわけではなく、むしろ少ないくらいです。会議もオンラインで行うから、誰がどこにいるかわからないくらいですよ。以前はローカライズの担当をしていたのですが、その時はもっと世界中にメンバーが散ってる感じでしたね。


内藤さんは日本にいながら、アメリカ本社での勤務の形態をとっているという

--では、さっそく具体的なことを伺っていきたいのですが、今年1月のNAMM SHOWのタイミングで、Pro Toolsがバージョンアップして、Pro Tools 12からPro Tools 2018となり、名称が大きく変わりました。これは、すごく大きなバージョンアップだったという理解でいいのですか?
内藤:確かにバージョン名は大きく変わったのですが、ここで機能的に、システム的に何か抜本的に大きな変化があったわけではないんです。普通にいけばPro Tools 13という名称になるところですが、やはり欧米だと13という数字は避ける傾向にあり、このタイミングで年表示に変えたということなのです。また従来Pro Tools 12.xとなっていた小数点以下の数字は月を意味するものにしたんですよ。つまりPro Tools 2018.3は2018年3月にリリースされたバージョンという意味なのです。したがって、Pro Tools 2018と数字が大きく変わったからといって、メジャーバージョンアップなんだという考えではないことを皆さんには知ってほしいです。そもそも、数年前から「メジャーバージョン」と「バグフィクス」みたいな位置付けではなくなって、年3、4回を目標に新機能とバグフィクスを入れたバージョンをどんどん出していくというリリースの形をとっていました。開発の中でもバージョンアップのためにビルドを作っているわけではなくて、メインのものに付け加えていく形で開発をしています。

--数字は大きく変わって見えますが、中身としては今までの延長線上にあるんですね。といっても、ここ1年間で強化された機能があったと思うので、その機能について教えてください。
内藤:ターゲットプレイリスト」という機能が追加されました。これは以前からあったプレイリスト機能をより使いやすくした機能です。プレイリスト機能はループ録音したり、いくつかテイクを録音した後に、いい部分を使って1つのトラックにする時に使うものです。ですが代用プレイリストを展開した中からしかテイクを選ぶことしかできず、テイクを選ぶ際に代用プレイリストで画面がいっぱいになり、何も見えないからなんとかしてくれという要望がありました。なので、代用プレイリストを隠した状態で編集できるようにしました。そして、もう一つ最近追加された機能で「トラックプリセット」があります。以前までは、事前に作ったテンプレートセッションをベースに新しいセッションを作ったり、既にあるセッションの中から好きなトラックを選んでインポートしていたと思います。それが、トラック毎にプリセットを作って、トラック毎にインポートできるようになりました。例えばクリックトラックをオーディオファイルで作るときに、プリセットを作っておけば瞬時にクリックトラックを作成することができます。他にも、プラグインのインサートも順番を含めプリセットとして保存できます。複数のトラックやAUXもまとめてプリセットとして保存できるので、私はドラム音源などのパラレルアウトプット先のトラックも含めてプリセットを作成しています。いい音色ができたんだけど、この曲には合わないなというときも、プリセットを保存して残しておけます。


Pro Tools 2018になってからトラックプリセット機能などが搭載された

--すごく便利な機能ですね。痒い所に手が届いた感じがします。トラックプリセットはどこのバージョンから搭載されていたんですか?
内藤:Pro Tools 2018.1からです。なので、今年の1月からですね。

--ところで、Pro Toolsには業務用のレコーディングスタジオなどで使われているPro Tools | Ultimateが頂点にあり、自宅でのDTM作業などで使えるPro Tools、さらにエントリー版で無料で入手可能なPro Tools | Firstがあります。このFirst、トラック数の制限などがあるほか、曲の保存の仕方に制限があるなど、いまいち、どう活用すればいいのか把握できていないのですが、改めて位置づけなどを教えてもらえますか?
内藤:まずPro Tools | First、Pro Tools、Pro Tools | Ultimateのスペックを見てみると表のようになっています。これを見てもわかる通り、Pro Tools | Firstは無料である分、スペック上の制限があるわけですが、誕生した2年半前から見ると、いろいろと進化しています。その中でも大きいのはコラボレーションへの参加機能が搭載されたことです。Pro Toolsの製品版を持っている方が作ったコラボレーションに、Firstのユーザーが参加できるようになったのです。たとえば、東京にいるPro Toolsユーザーが自分の曲のベースパートを、大阪にいるベーシストに弾いてもらいたい、とします。そのとき、仮にベーシストがPro Toolsを持っていなかったとしても、Firstを無料でダウンロードしてインストールしてもらえれば、コラボレーションに参加し、ベースパートだけをレコーディングする…なんて使い方が簡単にできるようになったのです。このベーシストは、各トラックに入っている音を自分が演奏しやすいボリュームのバランスに調整した上でレコーディングすることももちろん可能です。この際、フェーダーの位置などもそのままコラボレーションに反映されるわけですね。



Pro Toolsの各ラインナップのスペックの違い

--なるほど、その使い方は便利ですね。ちなみにFirstにおいてサンプリングレートやbit数の制限はありますか?
内藤:ないです。もとのプロジェクトを作った人が設定したサンプリングレートとbit数で制作することができます。どのトラックを送るかもオーナーが管理しているので、ベースのラフとその他のトラックだけを送ることができます。ただし、トラック数的には16トラックまでです。トラックの制限があるのでトラック管理は必要になりますが、もともとトラック管理という考え方はPro ToolsやPro Tools|Ulitimateを持っている人同士のコラボレーションでもするべきことなので、Pro Tools|Firstだからというわけではないですね。


無料版のPro Tools | Firstもコラボレーション機能に対応するなど進化してきている

--他にも大容量のデータだとクラウドにアップするのにすごく時間が掛かると思ってしまう人が多いと思いますが、その辺は実際どうなんですか?
内藤:管理の問題にもなってきますが、セッションである程度形ができている場合はコラボレーションのためのプロジェクトにする前にある程度ステムを作ってトラック数を減らす対策などで多少軽くすることもできます。たしかに、セッションの容量が大きくなればなるほどアップロードやダウンロードに時間はかかりますし、ネットワーク環境によっても左右されます。ですが、オーディオファイルに関しては、データ圧縮をして半分以上小さくなるので思ったより遅くはないです。一度アップロードやダウンロードしてしまえば、トラックの変更や編集点だけをやりとりするので、かなり早いです。クラウド機能を使ってみていて思うのは、自分のセッションファイルを持ち歩くのを忘れたりしても、アクセスでき便利ということです。いちいちデータを持ち歩かなくてもいいので、USBの紛失やHDDの破損などにも備えられますね。

--Pro Toolsのコラボレーションに限らず、各DAWにユーザー間でデータをネットで共有できる機能が搭載されてきていますが、「DropboxやGoogle Driveでいいのでは?」なんて声もありますが、その辺はいかがですか?
内藤:一番のメリットはより細かくコラボレーションできることです。DropboxやGoogleDriveなどだと、セッションファイル単位でしかコラボレーションできないので、かなり気を付けてないと最新でないセッションを編集してしまうことが起きてしまうんですね。それに対して、Pro Toolsのコラボレーション機能ですと、絶えず一番アップデートされた状態がクラウドにあるので、管理がしやすいです。セッション単位だと、すべて預かるのではなく、必要な部分を差し替えたり、追加したりできるので、後での膨大な管理が必要なくなります。おそらく、バンドやチームでの共作の経験がある方でしたら、すごく入りやすいと思います。しかし、ゼロから始める人にはハードルが高いかもしれません。それを少しでも下げるためにPro Tools|Firstを用意しています。


Pro Toolsの活用法などを解説してくれる内藤さん


--もうひとつ、Firstでよくわからないのがプラグインに関してです。無料版だと入っているプラグインは少ないし、市販のAAXプラグインなどは使えない、と聞いたことがあります。この辺はどうなっているのでしょうか?
内藤:プラグイン規格としてはFirstも同じAAXで、Avidのマーケットプレイスで購入されたプラグインに関しては普通に使えるようになっています。もちろんこれはFirstでも製品版のPro Toolsでも使えるものです。ただし、他のところで買ったプラグインはFirstでは使えない制限を設けています。一方で、Firstにはネットで無料配布しているもののほかにM-AudioのM-TrackやFocusriteのScarlettなどのオーディオインターフェイスにバンドルしているものもあります。これらには特別仕様のプラグインがバンドルされており、そのFirstで使えるようになっているんです。


--なるほど、よくわかりました。もう一つ伺いたいのがFirstのプロジェクトの保存についてです。Firstの場合、セッションファイルをローカルに保存ができず、クラウドへの保存のみになっているほか、3つまでしか保存ができないため、物足りなく感じる人、不安に感じる人もいると思います。この辺、Firstのうまい活用方法はありますか?
内藤:セッションとしては保存できないですが、各トラックはそれぞれバウンスすることはできるので、個別で残しておきたいものはバウンスしてローカルにWAVで保存することは可能です。またクラウドだけだから心配という方もいるかもしれませんが、実際には、作業するときに毎回ストリーミングしているわけではないんです。すべてのデータはローカルにキャッシュされているので、ネットが途切れても壊れるといった心配もありません。もしマシントラブルなどが発生した場合などは、ドキュメントフォルダーの中のProToolsフォルダーの中にあるプロジェクトキャッシュを保存して、サポートに問い合わせください。

--そのほかコラボレーション機能の面白使い方などあったりしますか?
内藤:考え方は大きく分けて2つあると思います。1つは、これだけほしいという目的がはっきりしているコラボレーションです。もう1つは、もっとどういうアイディアが出てくるか見てみようという自由なやり方です。この方法に関しては、すごいことになる可能性はあります。カオスな状態に2人でもなったりしますが、そこを楽しむぐらいの気持ちでコラボレーションするのも面白いと思います。DropboxやGoogleDriveを使ったときよりも、Pro Toolsでのコラボレーション方が変わった状態がすぐ見られます。キャッチボールがしやすいので、作業の質が上がりますね。どういう風に使ったらいいかわからなく、コラボレーションを躊躇しているのであれば、友達と一回とりあえずなんか作ってみようよという軽い気持ちで飛び込んでみて、何ができるかわからない、もしかしたら面白いことができるかもしれない、というワクワクをみんなに楽しんでもらいたいなと思っています。

--ありがとうございました。

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