ヤマハが2024年1月に発売したコンパクトなオールインワン音楽制作ギア「SEQTRAK」をご存じでしょうか。ドラムマシン、シンセサイザー、サンプラー、エフェクトをすべて内蔵し、充電式バッテリーと内蔵スピーカーも搭載しているため、場所を選ばずに楽曲制作のスケッチから本格的な音作りまでこなせるというユニークな機材でありながら、希望小売価格は59,400円(税込)と手ごろなスーパーマシンです。
ヤマハらしい本格的な4オペで8音ポリのFM音源まで搭載しているとなれば、コストパフォーマンスも抜群であることは十分理解できると思います。発売当初、私自身も記事にしたいと思いながらタイミングを逃してしまった、というのが正直なところ。ところが先日、OS v2.0という大型ファームウェアアップデートが配信され、トラックの概念そのものが大きく刷新されるほどの進化を遂げたのです。そこで、改めてSEQTRAKとはどんなものなのかSEQTRAKの全体像を捉えつつ、v2.0でどんな点が強化されたのか、さらにPCやDAWと組み合わせた際、どんなことが実現可能かなど、DTMステーションならではの切り口でじっくりご紹介していきます。
ヤマハのガジェット型のスーパーマシン、SEQTRAKとは
SEQTRAKは343(W) ×97(D) ×38 (H)mm、0.5 kgというコンパクトな機材で、グレーとブラックのツートンカラーモデルと、アイボリーとオレンジのツートンカラーモデルの2つのカラバリがあるという、いわゆるデジタルガジェット、という感じのミュージックプロダクションスタジオです。
一見するとシンプルな小型グルーブボックスに見えますが、その中身はまさに機能テンコ盛りのスーパーマシン。11トラックのシーケンサーを搭載するとともに、AWM2音源、FM音源、サンプラー、そしてエフェクトをすべて内蔵している機材なのです。ただし、今どきのマシンとしては、ちょっと変わっているのはオーディオトラックは持っていない、という点。確かにサンプラー機能はあり、1サンプルあたり16秒までサンプリングもできるけれど、基本は打ち込みで楽曲を作っていくというコンセプトの機材です。
そういう意味ではヤマハの往年の名器、QYシリーズなんかと共通する面もありそうです。手元にあるQY70と並べてみると、大きさや形状は全然違って、デザイン的に非常に洗練されていることがわかると思いますが、当然のことながら機能・性能も桁違いに向上しているわけです。
各トラックの役割を整理すると、トラック1〜7がリズム系のドラムトラック(ここについてはv2.0で大きく機能向上しているので、その点は後述します)、トラック8〜9がAWM2ポリフォニックシンセのSYNTH1・SYNTH2、トラック10がその名もDXという名前のFM音源、トラック11がサンプラーという構成になっています。バッテリー駆動で内蔵スピーカーも備え、サンプラー用のマイクも搭載されているため、文字どおりどこでも使えるのが大きな魅力です。
音色のクオリティという点では、特にFM音源部分がポイントです。ヤマハのDX系譜を受け継ぐ4オペのFM音源で8音ポリですから、DX21やDX100といったもの匹敵するシンセ。これもMIDI端子やUSB経由で外部からコントロールすることも可能になっているので、ハードのFM音源が欲しいという人にとっては、これだけで十分に元が取れるほどのシンセといえそうです。一方AWM2音源(PCM音源)のサウンドクオリティは誰もが知る通りの優秀なもの。これらが1つにまとまっているというだけでも、垂涎の機材ですね。
2024年の発売、ヤマハはコンテンツの拡充とファームウェアアップデートを継続的に行ってきました。そしてついに、大きなターニングポイントとなるOS v2.0が登場したのです。
OS v2.0で何が変わったのか
今回のv2.0アップデートの目玉は、「SYNTHトラックタイプ」と「DRUMキットトラックタイプ」という2つの新しいトラックタイプの追加です。これが本当に画期的で、SEQTRAKの使い勝手を根本から変えるアップデートになっています。
これまでのSEQTRAKでは、トラック1はKICK、トラック2はSNARE、トラック3はCLAP……とトラック7まで1つのドラム専用トラックとして固定されており、それぞれ単音しか鳴らせませんでした。一方、SYNTH1・SYNTH2はAWM2のポリフォニックシンセとして使えるものの、最大同時発音数128というスペックをなかなか生かしきれない場面も多かったのが正直なところです。
SYNTHトラックタイプ:ドラムトラックをシンセに転換
新たに追加されたSYNTHトラックタイプを使うと、これまでドラム専用だったトラック1〜7のいずれにもAWM2シンセ音色をアサインできるようになります。もちろん各トラックに異なる音色を設定できるため、一気に最大9つのポリフォニックシンセトラックを持てることになります。これによってSEQTRAKは、グルーブボックスとしてだけでなく、本格的なミュージックシンセサイザーとしての表現力を大幅に拡張しました。
DRUMキットトラックタイプ:1トラックで完結するドラム
「でもそうしたらドラムはどうするの?」という当然の疑問に対しても、ちゃんと答えが用意されています。それがDRUMキットトラックタイプです。トラック1〜7のうち任意の1つ(あるいは複数)をDRUMキットトラックとして設定すると、サンプラートラックのような感覚で複数のドラムサウンドを1トラックで鳴らせるようになります。残りのトラックをSYNTHトラックタイプに割り当てても、ドラムをしっかりと確保できるというわけです。
なお、トラック10のFM音源=DXはv2.0でも変わらずFM専用のままで、SYNTHトラックタイプではAWM2のみが選択肢になります。AWM2音源が128音ポリなのに対し、DXは8音ポリなので、事実上1トラックが限界ということだったのかもしれませんが、こういう構成だからこそ、DXトラックをフィーチャーした曲作りなんかが面白くなりそうでもあります。
さらに細かいUI改善として、BarLengthボタンがドラムトラックでも使えるようになり、ALLノブによる各種パラメーターの調整も可能になっています。地味ながら実際の操作感を向上させてくれる変更です。
SEQTRAKアプリでできること
従来から存在していたものですが、SEQTRAKにはWindows、Mac、iPad/iPhone、Android向けの専用アプリが用意されていて、誰でも無料でインストール可能となっています。これは、SEQTRAKをより細かく、深いところまで使い込むための強力なツールです。このアプリとの接続はUSB-Cケーブルで行えるほか、Bluetooth、Wi-Fiでの接続ができ、手軽にセットアップできるのもユニークなところです。
本体だけでは操作しにくいサウンドエディットを、アプリ側からGUIを使って直感的に行えるのが最大のメリットです。フィルターの設定、エフェクトパラメーターの調整、プロジェクトの管理やバックアップなど、SEQTRAKの中身をとことん使いこなしたいなら必須のツールといえます。v2.0アップデートに合わせてアプリ側のUIも強化され、各種トラックタイプに対応した新しいエディット画面が追加されています。
一つ一つ紹介しているとキリがないほどですが、シンセのパラメーター設定はもちろん、エフェクトのパラメターもかなり細かく調整でき、アンプシミュレーターまで搭載されているのは面白いところ。そしてなんといってもSEQTRAKのシーケンサも画面でエディットできるので、編集効率は格段にあがります。またそのシーケンサのパターンをMIDIファイルとしてインポートしたりエクスポートして、PC側とやりとりできるというのもいろいろな可能性を感じるところです。
ただ、個人的にひとつ要望を挙げるとすれば、FM音源のエディット機能についてです。現状のアプリではフィルターやエフェクトなどFM音源の「外側」にあたる部分の調整はできるものの、アルゴリズムの設定やオペレーターのパラメーター編集といった、FM音源本来の醍醐味にあたる部分には踏み込めません。
MIDIのインプリメンテーションチャートを見ると、アルゴリズム設定やFMモジュレーターアマウント、FMモジュレーターフリケンシー、FMモジュレーターフィードバック……というCCも用意されているのですから、ぜひ将来のアップデートで対応してほしいところですね。
PCと接続すると可能性が爆発的に広がる
SEQTRAKの面白さはスタンドアロンにとどまりません。USB-C端子とMIDI端子を使ってPCやDAWと接続すると、その活用の幅は一気に広がります。マニュアルでもあまり詳しく触れられていない部分なので、実際に試した内容を少し紹介していきましょう。
オーディオインターフェイスとして機能する
USB接続をすると、SEQTRAKはPC側から44.1kHz固定で24bitの2in/2outオーディオインターフェイスとして認識されます。これによってPC側の音声をSEQTRAKの内蔵スピーカーやヘッドホン端子から出力できるようになります。
一方でUSB経由で入力されたデジタルオーディオをそのままサンプラーでキャプチャできるというのが大きなポイントです。著作権には十分留意する必要はありますが、たとえばSpotifyやYouTubeなどで再生したサウンドを高音質にSEQTRAKに取り込んで素材として使う、といった使い方が手軽に実現します。
もちろん逆方向、つまりSEQTRAKの音をDAWへとデジタルのまま音質劣化なく録音することも可能です。2outしかないので、そのままだとSEQTRAKでミックスしたものをそのままDAWに取り込むことになってしまいますが、SEQTRAK側のトラックを1トラックずつソロにして、1トラックずつDAWの別トラックへ録音していけば、全11トラック、キレイにDAWへ移管することが可能。こうすれば、あとでじっくりDAWのプラグインエフェクトなども利用しながらミックスしたり、新たなトラックを作ったり、もちろんオーディオトラックを追加していくなど、さまざまな発展も可能になると思います。
MacであればUSB接続するだけでCoreAudioドライバを介してDAWとやりとり可能です。また、Windowsの場合は、URX-22などと同じドライバであるYamaha Steinberg USB Driver をインストールすることで、ASIOドライバとして使うことが可能になっています。
MIDIクロック同期でDAWとがっちり連携
DAWとの連携においてもう一つ重要なのが、MIDIクロック同期に対応していることです。DAWからSEQTRAKへMIDIクロックを送信するだけでテンポが同期されるので、先ほどのトラックを1本ずつDAWに録音していく際もタイミングのズレを心配せずに進められます。
MIDIチャンネルとトラックが対応している
さらにMIDI活用の観点で知っておきたいのが、SEQTRAKの各トラックとMIDIチャンネルの対応関係です。KICKトラックがMIDI 1ch、SNAREトラックがMIDI 2ch……というように、トラック番号とMIDIチャンネルが1対1で対応しています。サンプラートラックはMIDI 11chです。
前述のとおり、もともとリズムトラックが単音で7トラック構成となっていたので、当然といえば当然ではあるのですが、リズムトラックがMIDI 10chではない……というのは時代の進化を感じてしまったところでもありました。
このようにSEQTRAKは思い切りMIDIでコントロール可能な機材なので、たとえばDAWにMIDIキーボードを接続しておき、そこから演奏した音をリアルタイムにSEQTRAKの任意のトラックへ録音する、といったことも実現できます。SEQTRAKをシンセ音源モジュールとして使いながら、MIDIキーボードで演奏してDAWへシーケンスを記録する、といった制作ワークフローも可能になってくるので、アイディア次第でいろいろな使い方ができそうです。
以上、SEQTRAKについて、いろいろ見てきましたが、いかがだったでしょうか?最先端の機材でありながらも、どこか懐かしさも感じるガジェット型のスーパーマシン。USB-CケーブルでWindowsやMacと接続すれば、さらに大きく可能性が広がるのも楽しいところです。OS v2.0で大きく進化したこのタイミングで、ぜひ実際に手に取って試してみてはいかがでしょうか?
PROTECTIONracket製専用ケース付きAmazon限定セットも登場
SEQTRAKはバッテリー駆動で持ち運んで使える機材だけに、ケアしたいのが持ち運び時の保護です。そこで2026年4月より、PROTECTIONracket製の専用ケースと本体をセットにしたAmazon限定セットの販売が開始されています。単品販売は行われておらず、Amazon JPでのみ購入できます。希望小売価格は62,700円(税込)。カラーはORとBKの2種類が用意されており、それぞれ下記リンクから購入できます。
屋外や移動先でのセッションをより安心して楽しみたい方は、こちらのセットを検討してみてはいかがですか?
【関連情報】
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