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原音に忠実な音は人によって違う!? finalの新技術DTAS搭載イヤホン「TONALITE」を試した

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2025年11月、イヤホン革命といっても過言ではない、まったく新しい技術「DTAS(Digital Twin Audio Simulation)」をfinalが開発するとともに、それを搭載したワイヤレスイヤホン「TONALITE(トナリテ)」が発売され、ワイヤレスイヤホンの世界が震撼しています。このDTASは原音に忠実に音を耳に届けるための画期的な技術であり、finalが独自開発した複数の特許技術やAIを駆使して作り出したもので、各個人の聴こえ方に音を最適化するというものです。

人間はそれぞれの顔かたち・耳の形状などによって音の伝達経路が変わり、音の方向を知覚するためにこの特性が使われています。しかしそれと同時に、こうした伝達経路によって音が変質するため、ある種フィルタのような機能を果たし、実際に鼓膜に届く音は人によって違いがあるのです。そこで、顔や耳の写真をもとにAIを活用しながらそれぞれの人のプロファイルを作り出し、そのプロファイルを使って音を再生すれば、本来の自然な音でイヤホンから聴くことができる——というのがDTASなのです。これはまさにモニターヘッドホンが求める「原音に忠実」というコンセプトを実現するものです。もっとも「ワイヤレスイヤホンを音楽制作に?」と思う方もいるかもしれません。確かにTONALITEは現状、リアルタイムモニタリングには向きません。Bluetoothによる遅延があるため、録音中のモニタリングや演奏のリアルタイム確認には使えないのです。しかしそれを差し引いても、音楽制作者が注目すべき理由がある——それがTONALITEに搭載されたDTASです。実際どんなものなのか、TONALITEを試してみたので紹介しましょう。

日本のイヤホンメーカー、finalが開発した画期的技術DTASを搭載したTONALITE

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“原音に忠実”を実現するDTASとは

DTASを一言で表すとすれば、「あなたが本来、鼓膜で聴くべき音をイヤホンで再現する技術」です。

DTASは身体形状をスキャンして、音色の個人性適用を行う技術

私たちが普段スピーカーで音楽を聴くとき、音は耳に届くまでの過程で外耳の形、頭の大きさ、肩からの反射など、体のさまざまな部位によってフィルタリングされます。この個人特有の音響フィルター特性をHRTF(Head-Related Transfer Function:頭部伝達関数)と呼びます。脳はこのHRTFによる変化を無意識にキャンセルしながら、楽器の音色やバランスといった「音色(ネイロ)」を知覚しています。

ところがイヤホンは、耳道に直接音を送り込む構造のため、HRTFの影響がほとんどかかりません。結果として、スピーカーで聴くときとは異なる音色が耳に届いてしまいます。HRTFの形状は人によって大きく異なるため、同じイヤホンを使っていても、人によって聴こえる音色は微妙に違う——これが従来のイヤホンが抱える本質的な問題です。

DTASはここに着目しました。スマートフォンのカメラで頭部と外耳をスキャンし、その人固有の3Dモデルを生成。音響シミュレーションと機械学習を組み合わせることで、その人のHRTFを高精度に推定し、専用のデジタルフィルター(FIR+IIR)をTONALITE本体のDSPに書き込みます。これによって、スピーカーで音楽を聴いたときに脳が受け取るはずだった「音色」を、イヤホンで再現できるのです。

finalではこれを「ネイロの白紙化」と表現しています。体の個人差による音色への影響を取り除き、フラットな白紙状態にする——これがDTASの目的です。「音を好みに寄せる」のではなく「本来あるべき音に戻す」というアプローチは、音楽制作者の感覚に非常に近いものがあります。

身体をスキャンすることでできたMy Profileを音源に適用することで、本来の音色で聴くことが可能になる

一点、誤解しやすいポイントとして強調しておきたいのが、DTASは「立体感を付加する技術ではない」という点です。空間印象(定位感や広がり感)に手を加えるものではなく、あくまで音色だけに働きかけます。そのため、空間オーディオやバイノーラルコンテンツを聴く際も、空間印象はそのまま保たれます。

従来のパーソナライズ技術とは何が違うのか

「音のパーソナライズ」自体は、ソニーをはじめ複数のメーカーがすでに取り組んでいる分野です。ただし、その多くは外耳形状を使って空間印象(定位・立体感)の改善を目的としたものや、聴力測定をもとに補正するものです。

DTASが異なるのは、空間印象ではなく音色の個人性適用に特化している点です。finalの考え方は明快で、「音楽を聴く上で空間印象より音色の自然さのほうが重要」というものです。

これまでもいくつかあった、音のパーソナライズとは、目的が大きく異なる

また、精度の面でもアプローチが異なります。既存の手法の多くが「あらかじめ用意した多数のHRTFデータの中から近似のものを選ぶ」方法を取るのに対して、DTASはHRTFの特徴点(ピークとディップ)を個別に抽出したうえで計算します。音色の再現には0.5〜1dBレベルの精度が求められるため、近似マッチングでは届かない精度が必要であり、DTASはその水準を実現しています。

実際にDTASを試してみた

実際の手順はおおむね以下の流れです。詳細は公式のガイド動画(https://final-inc.com/pages/support-tonalite-jp)が丁寧に解説しているので、そちらも合わせて参照してください。

  • TONALITEとスマートフォンをBluetooth接続する
  • 専用アプリ「TONALITE」をインストールする
  • 付属のヘッドバンドにマーカーシールを貼り、頭に装着する
  • アプリの指示に従い、顔の左・右・正面をそれぞれカメラで撮影して待つだけ
  • 処理が完了するとMy Profileが生成され、自動的にTONALITE本体に書き込まれる

付属のヘッドバンドにマーカーシールを貼る

写真撮影すれば、すぐ完了というわけではなく、いろいろと計算するので、何度か待たされるのでで、セットアップ時間は10〜15分程度。ただ、このプロファイルはTONALITE本体に保存されるため、一度このDTASのプロファイルを作成してしまえば、基本的には再度測定する必要はありません。

ヘッドバンドを装着した上でTONALITEアプリで撮影する

完成したプロファイルを適用した状態で音楽を再生した瞬間、「あ、これだ」という感覚が来ます。劇的に何かが変わるというより、不自然さが消える——というのが正確な表現かもしれません。でも、あえて表現するとしたら、解像度が上がる、全体的にフラットな特性でクセがなくなる、立体感が向上する、音の広がりを感じる、奥行きが見えるようになる……という感じでしょうか?とにかくすべてにおいていい感じに聴こえるのです。アプリでDTAS適用前後を切り替えることができますが、その違いはあまりにも明らか。一度適用した音に慣れると、もう戻れないと感じるはずです。

プロファイルが完成すると、それを適用した音で聴けるようになる

なお、DTASのプロファイルは、一度セットアップすればTONALITE本体に保存されるから、以降はどのアプリでもこの最適な状態で聴くことができるし、Bluetoothを別のデバイスに接続しても適用された状態でも、プロファイルを適用した状態で聴くことができます。

音楽制作者にとっての意義

さて、音楽制作の現場において、イヤホン・ヘッドホンが抱える古典的な問題があります。それは「人によって聴こえ方が違う」という事実です。同じミックスを聴いても、使っている機材や部屋の特性によって印象が変わるのはもちろん、同じイヤホンを使っていても耳の形が違えば、本来意図した音色とは異なる音が届いてしまう。

DTASはこの問題に直接アプローチします。音楽制作者がスタジオのスピーカーで作り上げた音色を、リスナーがイヤホンで聴いたときに同じ音色として受け取れる——これは理想論ではなく、TONALITEが目指している具体的なゴールです。

実用面での大きなメリットのひとつがEQです。DTASで音色の土台を整えた状態でEQを操作すると、「自分が意図した通りに音が変わる」という感覚が得られます。従来のイヤホンでは、音色に体の個人差による影響が乗ったままEQをかけていたため、どこを調整しているのかが分かりにくいことがありました。建築でいえばセメントで地ならしをしてから絵を描くようなもので、DTASはその土台を整えてくれるのです。

繰り返しになりますが、現状Bluetoothイヤホンである以上、演奏のリアルタイムモニタリングや録音中のモニター用途には向きません。あくまでミックスやマスタリングの確認、あるいは制作の参考にしたい楽曲を聴く用途での話です。それでも、外出先や自宅のリスニング環境に関係なく、フラットな音色判断ができる環境を持ち歩けるという意味は小さくないはずです。

ハードウェアとしての完成度も高い

DTASの話が中心になりましたが、TONALITEはハードウェアとしても妥協のない仕上がりです。

装着感もとてもいいfinalのTONALITE

ノイズキャンセリングにはSONY製のANC専用チップ「CXD3784」を採用し、フィードフォワード・フィードバック・物理遮音を組み合わせたトリプルハイブリッド方式を実装。圧迫感を抑えた独自アルゴリズムにより、静かな空間での使用でも違和感が少ない仕上がりとしています。

ドライバーには、有線イヤホンのフラッグシップモデル「A10000」で培った超低歪技術を投入した「f-CORE for DTAS」を専用開発。振動板とエッジをインジェクション成形で一体化し接着剤を不要にすることで、特に低域における歪みを大幅に低減しています。

バッテリーはイヤホン本体で最大9時間、ケース込みで最大27時間。Hi-Res Audio Wireless対応、IPX4防水、ワイヤレス充電対応と、実用面での機能も十分に揃えています。

この技術を生み出した人物と、次回予告

このDTASという技術は、finalの社員でもある濱﨑公男さんが中心となって開発したものです。濱﨑さんは1982年にレコーディングエンジニアとしてキャリアをスタートし、ソニー・パナソニックとともにR-DATの開発に携わったほか、22.2マルチチャンネル音響の開発者としても知られ、AES(Audio Engineering Society)の副会長およびAES日本支部長も務めた、プロ音響技術の第一人者です。現在はfinalの社員でもあり、DTASの研究開発などに取り組んでいます。

「なぜワイヤレスイヤホンで音色の個人性適用なのか」「他のHRTF技術と何が根本的に違うのか」「今後どこへ向かうのか」——こういった技術的な問いに対して、濱崎さん本人に直接聞いてみたいと思っています。次回は濱崎さんへのインタビュー記事をお届けする予定です。DTASがどのような発想から生まれ、どのような技術的アプローチで実現されているのか、より深く掘り下げていきます。

なお、finalによれば、TONALITEはあくまでDTASを使った製品の第一弾とのこと。有線接続対応のアンプや、さらに異なるカテゴリの製品への展開も検討中とのことで、今後の展開にも注目です。


【関連情報】
final TONALITE製品情報

【価格チェック&購入】
◎final公式ストア ⇒ TONALITE
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この記事を書いた人

DTM、デジタルレコーディング、デジタルオーディオを中心に執筆するライター。インプレスのAV WatchでもDigital Audio Laboratoryを2001年より連載。「Cubase徹底操作ガイド」(リットーミュージック)、「ボーカロイド技術論」(ヤマハミュージックメディア)などの著書も多数ある。趣味は太陽光発電、2004年より自宅の電気を太陽光発電で賄うほか、現在3つの発電所を運用する発電所長でもある。

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