スウェーデン・ストックホルムに拠点を置き、数々のアワードを獲得してきたプラグインデベロッパXLN Audio。そのXLN Audioの大ヒットエフェクトプラグインであるRC-20 Retro Colorが、約10年ぶりのメジャーアップデートとなるv2へと生まれ変わり、11月3日に発売されました。通常価格は22,660円(税込)で、2027年1月12日までは10,999円(税込)のイントロセール中。v1ユーザー向けのお得なアップグレード版も用意されています。
XLN Audioといえば、世界定番のドラム音源Addictive Drumsで知られるメーカーですが、エフェクトプラグインとしては、現代のローファイサウンドを形作ってきたRC-20 Retro Colorが有名です。ご存じの方も多いと思いますが、RC-20はレコードのノイズやテープの揺らぎといった古い機材の質感を、トラックに挿して6つのモジュールの大きなノブを回すだけで加えられるプラグイン。Billie Eilishの実兄でプロデューサーのFINNEASや、Katy Perryなどを手がけるGreg Wellsをはじめ、世界中のアーティストに愛用されてきました。今回のv2では、リピートした音をもう一度各モジュールに通すディレイ「Echo」が新たに加わったほか、音の悪いビデオ通話のような劣化を作るCodec、32種類の新しいリバーブなど、6つのモジュールすべてが強化されています。そんなRC-20 Retro Color v2を実際に試してみたので、紹介していきましょう。
ローファイサウンドの質感を決定づけた定番、RC-20 Retro Color
RC-20 Retro Colorが再現するのは、レコードのクラックルノイズやテープヒス、テープ再生のピッチの揺れ、サチュレーション、初期のサンプラーのザラつきといった「録音機材のクセ」。そのクセの種類ごとに6つのモジュールが並んでおり、組み合わせ次第でドラムループやボーカル、ミックス全体に独特の質感を加えられるのが、このプラグインの得意とするところとなっています。
操作は、各モジュールの下に並ぶ大きなノブで、それぞれのかかり具合を決めるのが基本。初心者でも扱いやすく、ノブを0%にすればそのモジュールはバイパスされるので、使いたい質感だけを選んで重ねていけるようになっています。では、そんなベースとなる6つのモジュールがそれぞれどんな質感を加えるのか、v2で強化されたポイントと合わせて1つずつ見ていきましょう。
Noise
1つ目のNoiseは、レコードのクラックルノイズやテープヒスから、カセットやVHSのノイズなどを加えるモジュール。Typeでノイズの種類を、大きなノブで音量を決め、Toneを右に回せば高域寄り、左に回せば低域寄りのノイズにできます。Followを上げると入力音のレベルに合わせてノイズの音量が追従し、Duckを上げると入力のピークでノイズが押し下げられて、ポンピングするような動きも作ることが可能です。
そんなNoiseで覚えておきたいのが、ノイズを足す位置を決めるPre/Postブレンド。Preは信号経路の先頭でノイズを足すので、後ろのWobbleやDistortでノイズも一緒に揺れたり歪んだりします。一方のPostは、エフェクト処理とマスターEQの後にクリーンなヒスを足すようになります。v1ではPreとPostを切り替える方式でしたが、v2ではこの2つの割合を1つのツマミで決められるので、揺れるノイズの上に揺れないヒスを薄く重ねる、といった混ぜ方ができます。またノイズだけにかかるCutフィルターも新たに搭載され、元の音はそのままに、ノイズの低域のうなりや高域のヒスだけを削れるようになりました。
Wobble
2つ目のWobbleは、レコードプレーヤーやテープマシンの不安定な再生によるピッチの揺れを再現するモジュールです。ゆっくりとした揺れのWowと、速い揺れのFlutterのバランスをスライダーで決め、大きなノブで揺れの量を、Mixで原音とのバランスを調整。Wowに振り切ってStereoスイッチをオンにし、Mixを50%ほどにすれば、豊かなコーラス効果としても使えますよ。
v2では、波形をなめらかなサイン波から矩形波まで連続的に変えられる新しいシェイプと、波形を時間軸上で傾けて揺れの加速感を変えるタイムワーピングが加わり、揺れ方そのものを作り込めるようにもなっています。
Distort
3つ目のDistortは、ほんのりとしたサチュレーションから激しいファズまで、歪みを加えるモジュール。Typeで歪みの種類を選び、大きなノブで歪みの量を、Mixで原音とのバランスを調整し、Focusフィルターを使えば、サブベースはクリーンに保ったまま中高域だけを歪ませる、といった使い方も可能です。
v2では、Tape、Classic Pre、Portaの3タイプが加わり、従来のチューブやトランスなどと合わせて全9タイプから選べるようになりました。新たに加わったOverloadノブは、アナログコンソールのチャンネルや入力ゲインを、レッドゾーンを大きく超えるまで突っ込んだときの歪みを再現するものなので、あの特有の質感も簡単に作り出すことができますよ。
Digital
4つ目のDigitalは、サンプルレートとビット深度を下げて、昔のサンプラーのようなデジタルのザラつきを加えるモジュールです。サンプルレートを下げるRateとビット深度を下げるBitsのバランスをスライダーで決め、大きなノブで量をコントロール。Smoothで耳障りなエッジをなめらかにしたり、Focusフィルターで処理する周波数の範囲を選び、Cutでその範囲の外を削ったりすることも可能となっています。
v2では、新たにSputterとDriveが加わりました。Sputterは電圧不足のトランジスタを再現するもので、音がすぐに途切れる、ゲートがかかったような「電池切れ寸前」のサウンドを作り出すことができ、Driveで、さらに汚しを加えることも可能となっています。
Space
5つ目のSpaceは、リバーブのモジュールで、v2ではルームやプレートから、スプリング、スピーカーキャビネットまでの32種類の新しいスペースタイプが加わりました。PanとWidthの2つでリバーブの位置と広がりを決められるほか、Stretchで空間の長さと音色を変えたり、Predelayを最大300msまで設定したりすることも可能です。さらにダッキング機能も備えており、入力が鳴るたびに残響が自動で下がるので、密度の高いミックスでもリバーブをかけた音が埋もれにくくするテクニックも簡単に使うことができます。
Loss
6つ目のLossは、v1のMagneticに代わって登場したモジュールで、テープの劣化を再現するMagneticモードと、新しいCodecモードの2つを備えています。Magneticモードで再現できるのは、擦り切れたテープによる音量の揺れを再現するWear、テープを送るキャプスタンによる速い音量の揺れを再現するFlutter、突発的でランダムな音量の落ち込みを再現するDropoutsの3つ。Stereoをオンにすれば、WearとDropoutsが左右で別々に動き、さりげないステレオの広がりを作ることも可能。
一方のCodecモードで再現できるのは、音を間引くネット圧縮の音、通信が途切れたときのパケットのドロップアウト、声質が変わるフォルマントシフト、にじんでぼやけたような乱れといった、インターネット時代のデジタルの劣化です。ボーカルにかければ、音の悪いビデオ通話のような声も作れてしまいます。
Flux
そんな6つのモジュールに共通して用意されているのが、Fluxというノブです。設定した値をアナログ機器のように不規則にふらつかせるもので、v1ではエンジンとして内部で動いていたこの揺らぎを、v2ではノブで調整できるようになりました。少し上げればかすかな揺らぎが加わり、大きく上げれば極端な変化を生み出すこともできます。v1でも、6つのモジュールを組み合わせて多彩な音作りができましたが、v2では各モジュールが強化され、さらに幅広い表現ができるようになっているのです。
リピートするたびに汚れていく新搭載のフィードバックディレイEcho
そしてv2で一番大きく変わったのが、6つの大きなノブの下に1列加わったEchoのセクション。Echoでは、リピートが1周するたびに、Noiseを除く5つのモジュールの効果が重なっていきます。
EchoのディレイタイムはDAWのテンポに同期させることも、自由に設定することもでき、左右をリンクさせるか個別に設定するかも選べます。Widthでステレオの広がりを、Ping/Pongでリピートの左右への振り分けを決めることも可能。さらにループの中には、リピートの高域や低域を削るCutフィルター、アタックを丸めるSmooth、原音に合わせてリピートを引っ込めるDucking、そしてFluxも内蔵しています。フィードバックは最大120%まで設定でき、リピートが次々と膨らんでいく表現を作ることもできるなど、v1を含めこれまで他社のプラグインでも簡単にはできなかった表現も作ることができるのです。また増えすぎたリピートを、Feedbackノブ横のClear(X)ボタンで瞬時に止められるのもポイントとなっています。
リピートにどのモジュールをどれだけかけるかは、Wobble、Distort、Digital、Space、Lossの大きなノブの下にある小さなスライダーで決める仕組み。たとえばWobbleのスライダーを上げればリピートのたびに揺れが増し、Lossを上げれば繰り返すほど擦り切れていきます。5つのモジュールをそれぞれ別の量に設定できるので、揺れだけが重なるエコー、歪みだけが重なるエコーといった具合に、狙ったディレイを組み立てられるのです。
またLossのCodecと組み合わせれば、リピートを重ねるほどネット越しの音のように崩れていきます。Echoセクションの右端にあるGrainsは、入力した音を細かい粒に刻み、ディレイに合わせて重ねていく機能。±24半音のピッチシフトやリバース再生、インバート再生にも対応しているので、アンビエントなサウンドスケープも簡単に作ることができますよ。
並べ替えもテンポ同期も可能になった操作系とマスターセクション
v2では、モジュールの順番を入れ替えられるようになったのも大きなポイントです。先頭に固定されるNoise以外は、上部のハンドルをドラッグして好きな順番に並べ替えることが可能です。この順序はEchoのループ内にも適用されるので、歪ませてから響かせるか、響かせてから歪ませるかまでコントロールすることができますよ。
テンポ同期は、Echoのディレイタイムに加えて、WobbleのWowとFlutterのレート、LossのMagneticモードのFlutterにも対応。どれもDAWのプロジェクトテンポに直接ロックされます。ビートに合わせた揺れやエコーを、テンポを変えるたびに合わせ直す必要はなく、これでバッチリ合ったタイミングで鳴らすことができますね。
画面最下部のマスターセクションは、最終的な仕上げを行う場所で、入力と出力のゲインに加え、v2では新たにLoudness Matchが搭載されました。メーター脇の矢印を1クリックするだけで、出力音量をドライの入力音量に揃えることが可能。エフェクトをかけると音が大きくなってよく聴こえてしまうのはどのプラグインでも同じですが、Loudness Matchを使えば同じ音量でドライと比べられるので、本当に良くなったかを判断しやすくなっています。
EQは、スロープをソフト/ハードから選べるハイパスとローパスに、ローファイスピーカーのフィルターを含む4つのToneモードを組み合わせたものとなっています。Compressは、ノブ1つでサウンドにまとまりと厚みを加え、Clipでピークを抑えることもできます。Widthは入力側と出力側で独立しており、0%から100%、そして最大200%まで調整可能です。
さらに、4つのスナップショットに設定を保存して切り替えられるほか、アンドゥ/リドゥの全履歴も残ります。右端のBypassは、クリックノイズが出ず、レイテンシ補正も付いているので、ドライとRC-20を通した音をそのまま聴き比べられますよ。
また操作面では、各モジュールは左上のボタンでオン/オフでき、ボタンの上をドラッグすれば複数をまとめて切り替えることも可能なので、A/Bの確認も素早く行えます。モジュールの上にカーソルを乗せると現れるLockアイコンをクリックしておけば、プリセットを切り替えても、そのモジュールの設定は保持されたまま。EchoやマスターセクションもLockできるので、気に入ったディレイはそのままに、プリセットだけを次々に試すこともできますよ。
そして画面右上のMagnitudeスライダーは、6つの大きなノブとマスターセクションに加え、v2で加わったEchoまで、バランスを保ったまま一括で増減をコントロール可能。DAWのオートメーションで動かして、イントロやドロップでローファイの度合いを変化させるといった使い方もできますね。
タグで目的の音にたどり着く刷新されたプリセットブラウザーと価格
操作周りと合わせて刷新されたのが、プリセットブラウザー。起動直後に読み込まれているColor Filmというプリセット名の部分をクリックすると、ブラウザーが開きます。そこにはSubtle、Lo-Fi、Wobblyといった音の性格を表すCharacterタグと、Drums、Vocal、Mix Busといった用途を表すFunctionタグが並んでいます。プリセットが使っているモジュールで絞り込むこともでき、お気に入り、カスタムコレクション、検索、プリセットの共有の各機能も揃っているので、目的の音まで素早くたどり着けますよ。
ブラウザーには、v1のファクトリプリセットとアーティストプリセットもすべて収録されており、Legacy RC-20 Presetsというフォルダーにまとめて並んでいます。自分で作ったv1のプリセットも、初めてブラウザーを開いたときの案内か、右上のメニューのImport presets from previous version…から取り込むことが可能。v2はv1と並行してインストールされるので、v1を使った既存のプロジェクトもこれまで通り開けるようになっています。
なお対応フォーマットはVST3、AU、AAXで、macOS 10.13以降とWindows 10/11の64bit環境で動作。FL Studio、Ableton Live、Logic Pro、Pro Tools、Cubaseをはじめとする主要DAWで使うことが可能です。
そして、アップグレード価格についてですが、v1ユーザー向けのアップグレード版は通常4,499円(税込)で、イントロセール期間中は2,178円(税込)で購入できます。XLN Audioのサイトでは10日間の無料トライアルも用意されているので、ぜひ自分のトラックで試してみてください。
ちなみに今年3月に発売されたドラム専用のマルチエフェクト、DB-30 Drum Butterは、RC-20のレイアウトとワークフローの思想を受け継いだ兄弟機。以前「ドラムの音作りに悩む時代は終わった!?6つのモジュールで魔法をかけるXLN Audio DB-30 Drum Butterが発売」という記事で紹介しているので、こちらもぜひご覧ください。
以上、XLN AudioのRC-20 Retro Color v2について紹介しました。ノイズや揺れ、歪みといった6つの質感を大きなノブで重ねていくという基本はそのままに、リピートのたびにその効果が重なるEchoや、音の悪いビデオ通話まで作れるCodec、新しいスペースタイプが加わり、表現の幅が大きく広がっています。ローファイの質感をこれから手に入れたい人も、v1を使い込んできた人も、セール期間中にチェックしてみてはいかがでしょうか?
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