Time after TimeやAshes to Ashesのサウンドを作ったFlanger、トッド・ラングレン愛用のPhaserを開発元のEventideがプラグイン化

40年以上の歴史を持つプロ用エフェクトプロセッサメーカーの、Eventide(イーブンタイド)。これまで数多くの名器を開発し、世界中のアーティストが愛用してきました。たとえば、1972年に発売されたフェイザー、Instant Phaserは、Tod d Rundgren(トッド・ラングレン)が愛用してきたことで知られているほか、Led Zeppelin(レッド・ツェッペリン)の「Kashmir」や「Presence」で使われてきた機材として知られています。

また1976年発売のInstant FlangerDavid Bowie(デヴィッド・ボウイ)の「Ashes to Ashes」、Cyndi Lauper(シンディローパー)の「Time After Time」などに使われてきた名機。もちろん、そうしたヴィンテージ機材を入手することは、とても困難ですが、これらを開発したEventideが、それぞれをソフトウェアとして非常に忠実に再現するとともに、WindowsおよびMacのプラグインとしてInstant Phaser MKIIInstant Flanger MKIIとして今年リリースしました。これがどんなソフトなのか、紹介してみましょう。

EventideのInstant Flanger MKII(上)とInstant Phaser MKII(下)

Eventideのプラグインに関しては、以前「デヴィッド・ボウイのHeroesのボーカルサウンドを忠実に再現するTverb」という記事でも紹介したことがありましたが、デヴィッド・ボウイは「Heroes」だけでなく、Eventideのエフェクトプロセッサを使っていたようです。今回ピックアップするのは、以下のビデオにもある「Ashes to Ashes」。

「まさか、Space Oddityのトム大佐が麻薬中毒患者だったとは…」と歌詞に衝撃を覚えた曲でもありますが、このイントロの妙なサウンドのエレピがすごく印象的でもありますよね。この不安定さを持つエレピの正体、それが、EventideのInstant Flangerによるものだったんです。そう、これはエレピではなく、アコースティックピアノにInstant Flangerをかけたもの。試しに、シンプルなピアノ音源に、Instant Flangerをプラグイン化したInstant Flanger MKIIをかけてみると、それっぽいサウンドになって感激しますよ。

一方、シンディローパーの「Time after Time」でも同じEventideのInstant Flangerが使われています。

こちらはギターに使われています。このギターサウンド、フランジャーというよりコーラスとかフェイザーっぽいサウンドではありますが、Instant Flangerを使ったクリーントーンのギターだたんですね。

実際、いろいろな楽器にInstant Flanger MKIIをかけたデモもあるので、ぜひ聴いてみてください。かなりの表現力があることが実感できると思います。

もともとInstant Flangerは、アナログテープのフランジングをエミュレートするために開発されたものなのだとか。ここで使われているアナログ・ディレイ回路のBBD(bucket-brigade device)素子は、周波数スペクトルで周期的なコムフィルタ状のディップ数をより多く生成し、それまで存在したものよりも深いフランジング効果を可能にしたのだそうです。

そして、このInstant Flangerの最大の特徴ともいえるのは擬似ステレオ効果によって、周囲に音を広げる、という点。フラットなモノラルのギターサウンドを巨大なステレオ・リードに変えたり、シングルチャンネルのシンセサイザー音を擬似ステレオ効果でミックスのサイドに分散することができます。

1976年に発売されたInstant Flanger

その強力な疑似ステレオを実現できたのは、オリジナルのInstant Flangerに、MainとAuxという2つの出力があったためです。Main出力は2つの連続したBBDの出力で、Aux出力は単一のBBDの出力。つまり、Main出力の遅延時間はAux出力の遅延時間の約2倍になるわけです。さらに、Main出力には入力信号とAux出力に対して180度の位相ズレがあります。そのためMain出力を左チャンネルに送信し、Aux出力を右チャンネルに送信した時、信号が中央から右(Depth100%)や左(Depth -100%)に揺れるようなステレオ効果が生まれます。プラグインとして再現されたInstant Flanger MKIIではこれをShallow、Deep、Widの3つのモードで設定できるようになっています。

Instant Flangerを忠実に再現したプラグイン、Instant Flanger MKII

もうひとつInstant Flangerの独特なサウンドを作る重要なパラメータがDepth。Depthとはその名の通り深さを設定するパラメータですが、実はこれ普通のフランジャーでいうところのMixのことなんです。コーラスやフランジャー、フェイザーなどはドライ信号と、エフェクト信号をミックスすることでウネリ効果を出すものですから、これがないと始まりません。

Shallow、Deep、Wideによってその音の特性は大きく変化する

でもなぜ、MixではなくDepthと呼ぶのか。エフェクトのかかった信号にドライ信号を足していくと出力スペクトルに周期的なコムフィルタ状のディップが生成され、2つの信号の振幅が近づくにつれてディップが深くなっていくからです。つまりDepthは、このディップの深さをコントロールするノブだという意味なんですね。実際、パラメータを動かすと、だんだん深くなっていくのを実感できます。

そして、もう一つ紹介するのは、このInstant Flanger MKIIの兄弟であるInstant Phaser MKII。このオリジナルであるInstant Phaserは冒頭でも紹介した通り、トッド・ラングレンの愛用機材として知られるもので、当時の写真も残っています。

実際、どの曲に使ったのかという資料は見つけられませんでしたが、代表曲でもある「I Saw The Light」のスティールギターが、このInstant Phaserを使ったものなのではないかな……なんて思うのですが、どうですかね?

ほかにも、レッド・ツェッペリン、ジェファーソン・エアプレインなど、数多くのアーティストが使ったエフェクト・プロセッサとして知られている名機であり、それを忠実に、極めて正確に再現したのがInstant Phaser MKIIなのです。これプラグインを使ったデモもあるので、ぜひ聴いてみてください。

こう聴いてみると、エレキギターに掛けるのはもちろんですが、ベースに掛けても、ドラムに掛けても、ボーカルに掛けても、すごく気持ちいい感じで効くエフェクトですよね。
ご存知の通り、フェイザーは位相を変化させることでウネリを起こすエフェクトですが、パラメータや使い方自体はInstant Flanger MKIIと非常に似ており、疑似ステレオ効果を出すためのShallow、Deep、Wedという3つのモードが装備されているのも同様です。また通常のフェイザーでいうところのMixをDepthとしている点も、Instant Flanger MKIIと同様です。

Instant Phaserを忠実に再現したプラグイン、Instant Phaser MKII

一方で、Instant Flanger MKIIにはなく、またオリジナルのInstant PhaserにもないパラメータがAGEです。これは、Instant Phaserの経年劣化をシミュレーションするためのもので、0%であれば、1972年の発売当時の新品のInstant Phaserのサウンドとなります。これを25%まで上げていくと、数十年が経過した現在のInstant Phaserとほぼ同様のサウンドになります。さらに50%、100%と上げていくと50年、100年年後?の音になるのだとか……。まあ、だいぶ劣化が酷く、まともなエフェクトとしては使えないような気もしますが、ちょっと試してみるのも面白いところです。

AGEパラメータを動かすことで、経年劣化を再現できる

こんな歴史あるEventideのInstant Flanger、Instant Phaserを、開発したメーカー自らがソフトウェアとして忠実に復活させたInstant Flanger MKII、Instant Phaser MKIIは、いま使ってみても、やはりすごく音楽的に効果のあるエフェクトだと感じますし、ほかのフランジャーやフェイザーとは一味違うプラグインだと思います。これが手軽な価格で買えるのですから、それぞれ一つ持っておいて損のないソフトではないでしょうか?

Windows 10上のCubase Pro 10にインストールしたところ、64bitなのにブラックリスト入りしてしまった

なお、実行環境としてはWindows 7以上で、AAX 32/64-bit、VST2 32/64-bit。macOS 10.7以上でAAX 64-bit、AU 64-bit、VST2 64-bitの環境で動作します。実際試してみたところ、いずれもうまく行ったのですが、Windows 10上で動かしたCubase Pro 10で、起動時にエラーが起こり、ブラックリスト入りしてしまうことが確認できました。

ブラックリストの中から探し出し、再アクティベートをすることで使えるようになる

ただし、これはCubase側の判断ミスのようで、ブラックリストにあるものを再アクティベートすることで、普通に使えるようになるので、もし、引っかかった場合は試してみてください。

【関連情報】
Eventide Instant Flanger MKII製品情報
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Commentsこの記事についたコメント

2件のコメント
  • ミック

    Ashes to Ashesのピアノサウンドが欲しくて、2つのピアノ音源でレイアーを組んで一方にビブラートエフェクトをかけたりピッチにLFOかけたりしてましたが、まさかフランジャーだったとわぁ!

    2019年10月10日 3:04 PM
  • saiou

    実際の使用例がとても勉強になりました。ありがとうございます。
    有名な機材の歴史や特徴を紹介する、こういった記事を今後もよろしくお願いします。

    2019年10月13日 7:04 AM

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