無料で使えるWeb版のシンセサイザも登場!? 世界中のプログラマに支持される1万円のKORGのミニシンセ、NTS-1の実力

先日「1万円で買えるKORGの小さなシンセ・NTS-1に、世界中で開発されるオシレータやエフェクトを組み込んでみた」という記事で紹介したKORGのミニシンセ、NTS-1。高性能なCPUを搭載した実質コンピュータともいえるNTS-1は、その高性能さと1万円という低価格のために大ヒットで、やや品薄にもなっているようです。プラグイン音源のように、ネット上にあるプログラムをNTS-1にインストールすれば、まったく異なるシンセに変身するという斬新な設計であることについては先日も紹介しましたが、実はNTS-1と互換性を持つ無料のWeb版シンセサイザもα版という形ながらも公開されました。

このWeb版シンセサイザとはどんなものなのか、NTS-1、さらにはPrologueMinilogue XDとどのような関係にあるのか。NTS-1のプログラムは誰でも作ることができるのか、実際に何をどうすればいいのか……などなど気になることもいっぱい。そこで、このNTS-1を開発した、KORGの開発スタッフに話を伺ってきました。インタビューに対応していただいたのは山田嘉人さん(開発企画/開発グループ・マネージャー)、ノロ・エベール エティエンさん(SDK/DSP設計担当)、三浦和弥さん(開発リーダー/電子回路設計担当)の3人です。

左から山田嘉人さん、ノロ・エベール エティエンさん、三浦和弥さん

ーーNTS-1、Maker Faireで初めて見て以来、期待していました。実際に発売されて以来、大きな話題になっていますが、これだけ高機能・高性能なシンセサイザというかコンピュータが1万円で入手できるというのは驚きです。このNTS-1は、どういう経緯で誕生することになったのですか?
エティエン:PrologueにMulti Engineというシステムを搭載したのが、そもそものスタートです。そのPrologueを発売してすぐ、2018年にドイツ・ベルリンで開催されたSuper Boothで、Prologueに搭載されていたMulti Engineから1つのボイスとメインCPUを切り出した「開発ボード」を作って、開発に興味のある人に配ったんです。そのときの開発ボードには鍵盤も付いておらず、USBで接続して操作しないと何も鳴らせなかったのですが、無料配布だったこともあって、イベントが終了した後にも数多くのお問合せをいただきました。そこで、単に開発ツールとしてだけでなく、もっと単体で遊べるガジェットにしたらどうだろうか……というアイディアが出てきて作ったのがNTS-1なのです。
山田:正式名称はNu:Tekt NTS-1 digital kitというのですが、このNu:TektというのはKORGが打ち出すDIY機材のブランドなんです。実は2018年にNu:Tekt OD-KITとNu:Tekt HA-KITというNutubeを使ったはんだ付けして作るキットを出していたんですが、NTS-1はその延長線上にあるものです。

KORGが11月末に発売したNTS-1

ーーNutubeを使ったNu:Tekt OD-KIT、HA-KIT、そんなものがあったんですね?全然知りませんでした…。
三浦:コルグから発売した楽器製品というわけではなく、SWITCH SCIENCEさん扱いの製品なので、知らない人がほとんどかもしれません(笑)。Nu:Tektという名称ですが、Nutubeを使うことを前提とした名前というわけではありません。ギター機材だけでなく、シンセの分野にも広げようということで、NTS-1を企画しました。ただ、はんだ付けがあると、どうしてもハードルが高くなってしまうので、はんだ付けや配線は必要なく、両面テープでの貼り付けとねじ止めで組み立てられるものとしました。

開発リーダー/電子回路設計担当の三浦和弥さん

--見た目はmonotronなどにも近いNTS-1ですが、これは完全にデジタルで動作しているシンセサイザなんですよね?
エティエン:はい、処理はすべてCPUで行っているのでソフトシンセと言ってもいいかもしれません。ST MicroelectronicsのSTM32F446というCortex-M4のCPUを搭載しており、これを使って波形を計算処理で出力しています。関数をプログラムで書いて、それが定期的に呼び出され、そこに必要な量のサンプルデータを渡して、そこに独自の計算を加えたりしてシンセサイザとして音を出していくのです。たとえば440HzのAの音を出すのであれば、1秒で440回繰り返す……という、非常に単純な処理をしていくのです。
山田:テンプレートとしてWavesというオシレーターがGitHub上のオープンソースとして公開しています。このソースコードを見れば、どうやってプログラムを書けばいいかが分かると思います。

SDK/DSP設計担当のノロ・エベール エティエンさん

ーープログラムが書ける人にとっては、無限の楽しさがありそうですが、まったくプログラムなど分からないという人でも楽しめる機材ですよね。
三浦:はい、もちろんです。NTS-1は図のようなシステム構成になっており、まずはOSC=オシレーターで音を発生させます。買ってきてすぐに使えるよう5つのオシレーターが入っています。PrologueやMinilogue XDに入っているものと近いもので、アナログっぽいオシレーターが3種類、デジタルっぽいのが2つ用意されています。それぞれには2つのパラメーターがあって、これらを可変させることでサウンドが変わるようになっています。たとえばSHAPEなどですが、各オシレーターごとに何をアサインしてもいい形になっています。

NTS-1のシステム構成図

エティエン:この5つのオシレーターのうち1つ、Wavesはユーザーバンクに入っています。このユーザーバンクは16個あり、その1つめのスロットに保存されている形です。これをKORGサイトで公開しているNTS-1 Sound Librarianを利用することで、16スロットすべて自由に入れ替えが可能になっています。ネット上で公開されているオシレーターなどを転送することで、すぐに楽しむことができます。

NTS-1とPC間でデータをやりとりするためのNTS-1 Sound Librarian

ーーNTS-1自体はまだ発売されたばかりですが、実際使えるオシレーターなどはあるのですか?
山田:Multi Engineが搭載された機材としては、Prologue 8、Prologue 16、Minilogu XD、そしてMinilogue XD Moduleと4機種あり、このNTS-1が5つ目になります。ボイス数でいうと、1、4、8、16がラインナップされました。すでに今までの機種用に多くのオシレーターなどが開発、公開されているので、NTS-1にもそれらのコンテンツを利用することが可能です。フリーウェアで配布されているものもあれば、シェアウェアのような形で売っているものなどいろいろあります。全部というわけではないのですが、主なものはlogue sdkのGitHubページからリンクしているので、そこからたどっていくことで入手することが可能です。まさにプラグインを買う感覚で使うことができ、バイナリーを入手して、これをLibrarianにドラッグ&ドロップすれば鳴らせるので簡単です。
エティエン:正確にいうと、Prologue、Minilogu XDに搭載されているMulti Engineと少し制限などの仕様に違うところがあり、バイナリーの拡張子も異なります。とはいえ、互換性はあるので、どの製品向けのコンテンツでもNTS-1にロード可能です。パフォーマンスなどをかなり攻めているプラグインだと、プチプチと音が途切れる……といった現象が起きる可能性もあるので、最適化したほうがいいですね。売っているタイプのものだと、作者側がしっかり最適化しているので、すぐにNTS-1専用のものが揃ってくると思います。

開発企画/開発グループ・マネージャーの山田嘉人さん

ーー実際、いまどれくらいの数のプログラムが存在しているのでしょうか?
エティエン:われわれも全部を把握できているわけではないのですが、オシレーターだけで30~40以上あるのではないでしょうか?しかもどんどん増えています。ただ、オシレーターの数が一番多く、それに続いてモジュレーションですね。ディレイはまだいくつかしかなく、リバーブのおいては把握している範囲ではまだ出てきていません。リバーブはプログラムが難しく、DSPをかなりしっかり勉強した人ではないとなかなかプログラムを組めないというのが実情です。
三浦:エフェクト関連はまだライブラリが少ない状況ではありますが、NTS-1はオーディオ入力を持っているので、これらを使えばNTS-1をエフェクターとして使うこともできるんです。またどこにモジュレーション、ディレイ、リバーブとどこにパッチングすることも可能です。テーブルトップのエフェクターってあまり存在していないので、いろいろな活用法があるのではないでしょうか?

NTS-1のリアにはPCと接続するUSB端子のほかMIDI入力、SYNC入出力、オーディオ入力などがある

--NTS-1を触ってみた人の中には、自分でもプログラムを作ってみたいと思う人が出てくるかもしれませんね。
エティエン:ぜひ、そうした人が数多く出てきてくれるといいですね。先ほどのWavesというオシレーターはGitHub上でテンプレートコードを公開しているので、まずはここをちょっとだけ改良するなどするところからスタートしてみるといいと思います。

louge sdkのGitHubページ

山田:日本での発売にあたり、日本語の開発者向けリファレンスページを公開しましたので、ぜひご覧ください。またYouTubeを検索すると、海外の方ではあるけれど、いろいろ情報も出てくるので、そうしたものを参考にしてみるのもいいと思います。

公開されているオシレーター、Wavesのソースコード

--やはり、Multi Engine用のプログラムを書く方は、海外の方ばかりで、日本ではまだ少ないのでしょうか?
山田:centrevillageというサイトが日本の方が作られたもので、とてもユニークな作品を発表されていますが、ほかはやはりヨーロッパを中心とした海外が多いですね。SinevibesというサイトはもともとVSTプラグインディベロッパーだったのですが、いまとても数多くのMulti Engine用プログラムを発表しており、どんどん増えています。ぜひ、日本でも多くの方が参加してくれるといいですね。
エティエン:より多くの方が気軽にプログラミングできるように、Chromeを使った開発プラットフォームも実験的に作っているところです。

ーーChrome上の開発プラットフォームとは、どういうことですか?
エティエン:まだαバージョンの段階なので、もうちっと検証が進んだら正式に公開する予定でいますが、Logue-SDKをChrome上でシミュレーションするlogue-sdk web simulatorというものです。α版ではありますが、とりあえず動く状況にはなっているので、興味のある方はDTMステーションのサーバー上に置いてみたので、試してみてください。ChromeのWeb Audio、Web MIDIで動作するようになっているので、MIDIキーボード、MIDIコントローラを使えば普通にシンセサイザとして演奏することも可能で、スペアナ、オシロで波形を見ることも可能になっています。

ブラウザであるChrome上で動くlouge-sdk web simulator

α版ながらlogue-sdk web simulatorが公開。DTMステーションサーバー上に置かれている

--これを使うと、NTS-1を持っていなくても、とりあえず遊べてしまいますね!こんなものを無料で公開していいんですか?
エティエン:少しでも多くの人に、シンセサイザのプログラミングの楽しさを感じてもらえれば、と思っています。このlogue-sdk web simulatorは、NTS-1はもちろんPrologue用、Minilogue XD用に作ったオシレーターなどを使うことが可能になっています。

Web MIDI、Web Audioに対応しているので、MIDIキーボードはもちろんNTS-1からもMIDIで演奏可能

--NTS-1 Sound Librarianのように、バイナリーファイルをドラッグ&ドロップすれば動くということですか?
エティエン:残念ながらバイナリー互換はないので、作者がバイナリーを作ってくれていれば可能ですが、現在のところはソースコードを、これ用にコンパイルする必要はあります。ただ、このlogue-sdk web simulatorによって、ソフトとハードが完全にシームレスになってくると思うので、これをきっかけに、さらに多くのオシレーターやエフェクトが登場するようになってくれればと期待しています。

ーーありがとうございました。

【製品情報】
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【関連情報】
logue-sdk web simulator
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2件のコメント
  • 2019年12月15日(日)の日常 | okaz::だめにっき

    […] 無料で使えるWeb版のシンセサイザも登場!? 世界中のプログラマに支持される1万円のKORGのミニシンセ、NTS-1の実力 | | 藤本健の “DTMステーション” […]

    2019年12月16日 9:35 PM
  • tecsolo

    sdkは互換性はあってもメーカーとしては推奨していないんだよなあ。せっかくなんだから全ての機材が同一拡張子のファイルで使えるよう統一したらいいと思うんだけど。開発者とそのほうがラクだろうし。

    2020年1月19日 9:13 AM

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