10年越しの思いを実現した「VOCALOID Editor for Cubase」

昨年9月に発表されたCubaseに完全に組み込んでしまうVOCALOIDのエディター機能、「VOCALOID Editor for Cubase」(通称?=ボカキュー)が、いよいよ1月18日に発売されます。待ちに待った、という人も少なくないと思いますが、その発売を前に、ボーカロイドの父剣持秀紀さんにお話を伺うことができました(以下、敬称略)。

一方、発表から発売までの3ヶ月半の間に、ひとつ大きな仕様変更があった模様です。そう、発表当初はCubase 6.5で動作するとしていたのが、Cubase 7およびCubase Artist 7に変更となったのです。この辺の状況も確認してきました。
VOCALOID Editor for Cubaseのインストール画面



--VOCALOID Editor for Cubase、ようやく発売ですね。

剣持:これまでのVOCALOIDはVOCALOID 2時代のReWire接続を含め、DAWとVOCALOID Editorの2つを使って作業をする必要がありました。やはり行ったり、来たりの作業になるため、どうしても非効率という面がありました。しかし、このボカキューはCubaseにVOCALOIDそのものを組み込んで、統合化しています。そのため、作業効率が飛躍的に向上します。

インタビューに応えてこれた剣持秀紀さん

--VOCALOIDのデータをCubaseのキーエディターやリストエディターなどで編集することもできるんですよね。
剣持:はい、完全に統合しているため、Cubaseもボカキューも同じデータを見ているのです。ですから、たとえばキーエディターで音符をいじると、リアルタイムにボカキュー上の画面でもその動きが反映されるのです。つまりCubaseのMIDIシーケンサとしての機能を存分に利用して、VOCALOIDのデータ入力ができるわけです。

--これで、MIDIキーボードを使ってのメロディー入力も手軽にできるわけですね。

剣持:はい、ようやくそれが実現できるようになりました。実は、こうしたことはかなり昔、本当にVOCALOIDを製品化する以前の研究開発段階から考えていたことではあったんです。

私の手元に残っていたSOLのパッケージ

--そんな構想があったんですね。

剣持:2000年ごろでしょうか、当社でSOLというシーケンスソフトを出していましたが、そこに組み込もうということを模索したりもしたのです。実際、シーケンサの中にVOCALOIDを組み込んで操作できるのが一番楽で効率的であることは当初からわかっていたけれど、なかなか難しかったのです。

VOCALOID Editorの機能が完全にCubaseの一機能として搭載されている

--どんな点が難しかったのでしょうか?
剣持:いろいろありますが、やはり歌声は楽器と異なり、音符よりも早く発音が始まるというのが最大の点です。このことは、小さいことのように見えるかもしれませんが、シーケンサと統合する上では非常に解決が難しいことなんですよ。また、以前はCPUパワーの問題でも統合するのが難しかったということもあります。今回、Steinbergの協力を得ながらエディターとしてCubaseに統合し、音源として鳴らすことが可能になり、昔からの夢がようやくそれが実現するところまできました。VOCALOIDを発表したのが2003年2月26日だったので、ちょうど10年たって、ついにここまで来たという思いです。

--Steinbergとヤマハの役割分担というのはどうなっていたのでしょうか?Steinbergが完全に仕様をヤマハに対して開示し、それにあわせてヤマハ側でエディタを作っていったという感じですか?
剣持:そのとおりです。実は、このボカキューのプロジェクトは2011年のクリスマス前にハンブルグのSteinbergへ出張したところからスタートしました。VOCALOIDについての製品説明や日本の状況をプレゼンテーションし、Steinbergを説得するというところからのスタートです。当時、このプロジェクトリーダーは、吉岡靖雄という者が担当し、彼といっしょにハンブルグに行き、その後、実現に向けて動いてきました。しかし、道半ばにして、その吉岡さんが昨年5月末に急逝したのです。彼の強い思いを継いで、なんとか製品化ができました。ボカキューはそんな思いも込められているんです。
多くの思いが込められて完成したボカキュー
--このボカキューによって、CubaseはVOCALOID曲制作を行う上で大きなアドバンテージを持つDAWとなりました。これと同じようなことを他のDAWで行うという可能性はないのですか?
剣持:Steinbergが細かな仕様まですべて開示してくれたので実現できたわけで、同様に他社が全仕様を公開してくれれば、できるかもしれません。でも現実的には難しいでしょうね。
クリプトン・フューチャー・メディアがまもなくリリースするピアプロスタジオ
(画面はクリプトン・フューチャー・メディアのWebサイトより)

--たまたまだとは思いますが、ちょうどほぼ同じタイミングで、クリプトン・フューチャー・メディアKAITO V3にバンドルする形で新たなVOCALOID Editorである、ピアプロスタジオが登場します。これと真っ向勝負という形になるのではないでしょうか?
剣持:ピアプロスタジオは当社のVOCALOID APIを用いて作ったVSTインストゥルメント対応のエディタです。詳細については、クリプトンさんに聞いてもらいたいのですが、ピアプロスタジオは各種DAWで使えるなど、ボカキューとは違ったよさもあります。競合するというよりも、シチュエーションによって使い分けるという形になるのではないでしょうか?

--ありがとうございました。

なお、冒頭で触れた動作条件が変わった件についてですが、ヤマハの説明を見ると「Cubase 6.5との動作環境は現在サポート可能なレベルに至っておりません。 」とあります。これは、単にCubase 7という新バージョンが出たので、旧製品はサポートしないという意味なのか気になったので、製品担当者に確認をしてみました。その結果、技術的な問題があるようでした。

ヤマハとしてCubase 6.5対応と昨年発表したので、なんとかそれを実現できるように進めていたけれど、その間にWindows 8がリリースされるなど、環境の変換もあり、技術的に解決が難しかった、ということのようです。Cubase 6.5でまったく動かないわけではないけれど、途中で落ちる可能性もあり、保証できない状況のようです。

ボカキューのインストール時に32bitか64bitかを選択する

なお、ボカキューは32bitでも64bitネイティブでも動作するアプリケーション(インストール時に選択する)になっているようです。また、単体パッケージとして購入できるほか(実売価格が9,800円前後)、すでにスタンドアロン版のVOCALOID Editorを持っているユーザーはSteinbergバージョンアップセンターでシリアル番号等を入力することで、6,980円での優待価格で購入ができるようです。ほかにもCubaseの購入時期によって優待価格での購入ができるケースが一部あるようですので、詳細はヤマハ、Steinbergサイトで確認をしてみてください。

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