Dragon AshやHY、Gacktなどを手掛けるプロのエンジニアである飛澤正人さん(@flash_link)。Sound & Recording Magazineやサウンド・デザイナーなどでも、よく登場されているので、ご存じの方も多いと思います。その飛澤さん、最近、ニコニコ動画やVOCALOIDなどに興味をお持ちのようで、ご自身のホームページ上でも「DTMに必要なレコーディング&MIXテクニック」なんて記事を書かれているんです。
また直接ボカロ曲ではなかったようですが、著名ボカロPであるゆよゆっぺさんの楽曲のマスタリングなども手掛けているようで、なんか面白い動きだなと感じていました。そんな中、「ニコ動に曲をUPしているアマチュアミュージシャン達にぜひ伝えたいことがあるんだ!」と飛澤さんがおっしゃっていたので、先日、飛澤さんのスタジオにちょっと遊びに行ってきました。
エンジニア、プロデューサの飛澤正人さん
飛澤さんのスタジオは、都内のマンションを改造して作ったもので中枢には、MacとPro Toolsが置かれています。最新のPro Tools 11というわけではなく、使っているのはPro Tools 8。「Pro Tools 8まではずっとアップデートしてきたんだけど、9を見送ったら、AAXアーキテクチャの10が出てきちゃって、躊躇しちゃったんですよね。仕事でWavesのプラグインを多用しているけれど、これが対応していないので……、ちょっと」とのこと。
先日、WavesもAAX対応したので、それでOKなのでは?と差し向けたところ、「確かにAAX-Nativeには対応したみたいだけど、僕らの業務においてはDSPが対応してくれないと話にならない。レイテンシーが致命的なんだよね」とおっしゃっており、AAXへの壁は厚いようですね。
そんなことより、気になっていたのが、VOCALOIDについて。先日、飛澤さんがホームページに書かれていた「レベルの話」というところでも、VOCALOID 3 Editorにインポートした初音ミクV2の歌声を利用して、DYNパラメータをいじると、どう変わるのかといった、妙にマニアックなネタが書かれていたので、ちょっと聞いてみたのです。
「VOCALOIDは、初音ミクが登場してすぐの2007年ごろにとても興味は持ったのですが、Mac対応ではないということで、その時は一度諦めたんですよ。今の仕事はエンジニアだけど、そもそもはバンド出身者であり、作曲家でもあるでね、曲を作るのは今でも大好き。この業界に入ったときに最初にやりたかったのは新人プロデュースだったくらいだから、VOCALOIDを使ってのプロデュースができたらいいなと当時思ったんですよね」と、結構古くから興味を持たれていたようです。
「ところが今年の4月、秋にVOCALOIDがMac対応するという話を聞いて、興味が再燃してね。そうしたら、実際のMac対応が待っていられなくなっちゃって、空いているMacにWindowsをインストールし、初音ミクのV2とAppend、それにVOCALOID 3 Editorを買ってきていろいろと使ってみましたよ(笑)」とスッカリ、ハマっている様子。さらにはMMDも使うようになって、2週間も部屋に籠ってミクを躍らせたり……。完全に「先生何やってんすか」状態ですねw。
どうやら、こっそり曲をUPしたりもしているようなのですが、それと同時にニコ動の曲もいろいろとチェックするようになったそうです。
「みんながUPしている曲を聴くと、『ここを、こうしたらいいのに!!』というのがいっぱい。音の整理がされていない曲が多くて、もったいなく感じているんですよ。僕ら、よく『ダンゴになっている』なんて言い方をするけれど、いろいろな音が重なりすぎていて、聴き取りにくくなっているケースが目立ちますね」と飛澤さん。
「音の整理をせずに、ミックスしていくから、どうしてもバランスが悪くなっちゃう。それを補うために、ボーカルのレベルだけを上げてコンプでつぶして、最後にマキシマイザーで……なんて処理をしている人が多いんだと思いますよ。でもこれじゃあ、中域ばかりガァーって音が集まっちゃって、スッキリしないんですよ。だから各パートごとに音を整理して、予め歌の居場所を空けてあげる必要があるんです。こうすればレンジに広いミックスができるんだ」とおっしゃいます。
なるほど、イメージは分かるけれど、「歌の場所を空ける」って何をすればいいんでしょうか?ボーカルは中域にあるわけだけど、たとえば、300Hz~5kHzだとして、ギター、キーボードなどから、すべてここをカットしてしまったら、かなり変な音になってしまいそうです。
EQを使って、帯域を区切ってカットしてくことで、歌の居場所を作ってあげる
「全部をカットする必要はなくて、EQで帯域を絞った上で、各パートから切ってみるといいんですよ。ギター、ベース、ドラム……とそれぞれのパートにEQを設定し、音を再生しながら、切る帯域を上下に動かしてみるんです。すると、音がスッキリする部分が見つかるはず。そこは歌や別のパートとぶつかっているということなので、そこをカットしてやればいい」と飛澤さん。
「EQを使うコツは、足し算ではなく、引き算であるという点。ブーストで足すのは簡単だけど、それだとどんどんレベルが上がってダンゴになっちゃう。歌が前に出ないからといって、歌を上げるのではなくて、ほかをカットすることで、自然と歌が前に出てくるし、コード感もハッキリとしてくるのです」とアドバイスしてくれます。どこをカットするかは10曲あれば10曲とも違うので、手探りで試すしかないとのことですが、実践するのは、かなりの試行錯誤が必要そうでもあります。
経験値を積み上げていくことで、EQの使い方のコツもつかめるという
「それは、経験を重ねていくしかないんだよね。『もわぁ~っとしてるから230Hz』、『ここは150Hzだ』なんて、だんだんわかってくるし、邪魔な音が見えてくる。またギターだと7倍音、8倍音、9倍音あたりがグチャグチャになりがちだから、これを切っていくといいですよ」といわれても、じゃあ、どうすればいいか分かりません。そこで、私から「誰でもできる簡単なワザってないですか?」と質問をしてみたのです。
すると、「同業者にも話たことはあまりないんだけどね……」と前置きした上で、ギタートラックで使える秘密のテクニックを教えてもらいました。
「2.2kHz、次に2.5kHzを7~8dBほど切っているといいよ。そこに倍音が固まりやすいので、確実に効果が出る。必要に応じて2.7kHz、2.9kHz、3.1kHzと200Hz置きに切っていくといい」とのこと。
2.2kHzと2.5kHzだけをカットすると音が引き立つ!?秘密のテクニック
何か、キツネにつままれたような話ですが、確かにここにターゲットを絞って切ってやると、音がスッキリする感じです。この設定をオンにした状態と、オフにしてバイパスした状態で聴き比べると、確かに明らかな違いが感じられるから不思議です。
飛澤さんのスタジオでデモしてもらったときは、WavesのQ10というパラメトリックEQを使いましたが、Q10に限らず、ほかのEQでも同様の効果が出せるはずだそうです。ただし、できるだけ帯域を絞って操作する必要があるので、EQのプラグイン選びも重要なポイントにはなりそうですね。
飛澤さん、さっそく初音ミクV3も入手した模様で、何等かの画策をしているのではと思いますが、ぜひ、ほかにもすぐに実践できそうなプロのテクニックがあれば、教えてもらおうと思っているところです。
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飛澤正人さんのオフィシャルサイト