IAの妹、ONEはCeVIOとして誕生。この姉妹はホントに共存するのか!?

IAを展開する1st PLACEが、先日、同社のARIA ON THE PLANETSシリーズの第2弾となるソフト、ONE(オネ)を発売しました。IAONEというまさに姉妹が誕生したのですが、実はそのONEの歌声合成エンジンにはIAとはまったく異なるHMMという技術を用いたCeVIO(チェビオ)を採用していたのです。

CeVIOについては、これまでもDTMステーションで何度か取り上げてきましたが、別に1st PLACEがCeVIOに乗り換えたというわけではないようで、IAとONEを並行して扱っているんですよね。これはどういうことで、何を狙っているのでしょうか?私も非常に気になっていたのですが、先日1st PLACEの代表取締役社長でプロデューサーの村山久美子さんと、アシスタントディレクターの塚田恵佑さんにお話しを伺うことができたので、インタビュー形式で紹介していきたいと思います(以下、敬称略)。


1st PLACEの村山久美子さん(左)と塚田恵佑さん(右)


まず、ONECeVIOについてあまりご存知ない方もいると思いますので、その歌声や喋り声を収録した1st PLACEによるプロモーションビデオがあるので、ちょっとご覧になってみてください。

いかがですか?すごく滑らかな喋りであり、IAとは明らかに違った雰囲気の歌声であることはご理解いただけるのではないでしょうか?CeVIOの詳細については、以前の記事「ボカロに有力対抗馬登場!? 新歌声合成ソフトCeVIOの衝撃!」、「ボカロとまったく作法が異なるCeVIO Creative Studioを使いこなせ」、「着実に進化していたボカロのライバル、CeVIO Creative Studio S」などをご覧いただきたのですが、ここにはHMM音声合成という方式を使われており、歌だけではなく喋らせることができるのが、大きな特徴です。


1st PLACEが5月22日に発売したONEのパッケージ

もちろんIAでも、「トークロイド」なんて呼び方がされる調教法で喋らせることも不可能ではありませんが、CeVIOの場合は歌わせるための「ソングトラック」とは別に喋らせるための「トークトラック」というものがあり、ここにかな漢字交じりの文章を入力すれば、そのまま自然に喋ってくれるのです。ONEも、この喋りをスマートにできるのが大きな売りになっているようですね。では、さっそくお話を伺っていきましょう。

--まずは、IAを出している1st PLACEが、今回CeVIOを扱うことになった背景やキッカケを教えてもらえますか?

村山:当社がIAを発売した時には、、すでにこのマーケットには多くのファンもいる状況でしたので、更に新しい展開や貢献をしていくことを目標に、いろいろと模索してきました。結果、IAを軸に、クリエイターさんと一緒に様々な新しい取り組みを行うことができ、それなりに達成感もあります。そこで、ONEでは更に何か新しい刺激や機会をマーケットに提供できないだろうか……と考えていたところでCeVIOに出会ったのです。CeVIOのトーク機能は、とても滑らかに喋ることができ、しかも声質やニュアンスの調整の幅が広いというのが衝撃的でした。これは何か新しいことができそうだ、という思いを持ったのがキッカケです。


CeVIOには文章を入れれば、そのまま喋ってくれるトーク機能があるのが大きな特徴 

--とはいえ、IAの固定ファンがしっかりいる中で、CeVIOに参入することにリスクは感じになかったのでしょうか?

村山:ちょうどIAに続く第2弾のプロジェクトとしてONEを企画していたタイミングでCeVIOを知ったのですが、「新しいことをしたい」という刺激を求めていた中、CeVIOならできそうだ、という確信を持ったのです。もちろんIAの展開は素晴らしい技術の元で成り立っていますし、今やこれらは日本を代表する文化だと思います。一方、私どもが言うのも僭越ではありますが、文化として成熟、発展する過程で、マーケットが独占状態だとなかなか広がらない、競争相手がいて切磋琢磨することお互い広がっていくという面はあると思うのです。そこで実質的な意味で張り合える可能性を持つのがCeVIOだと思い、だったらウチがこのマーケットで貢献することができそうだと考えたのです。


VOCALOID3のライブラリIAとIA ROCK、Cubase AI 8、VOCALOID4 Editor for CubaseをセットにしたIA DAW PACKAGE

--IAからONEに乗り換えた、というわけでもないんですよね?
村山:私にとっては上の娘がIAで次女がONE。どっちも、すごく大切な子供たちなんですよ。IAにはIAの良さがあるし、ONEにはONEの良さがある。お互い相手を否定するのではなく、尊重しながら、いいところを伸ばして行ったり、足りないところを補完する。そんなことをしながら、それぞれが発展できるようにできればいいなと、思っているんです。

--ソング部分について、IAとONEの違いをどのように捉えていますか?

村山:そもそもの成り立ちに加え、声質の変化の幅に大きな違いがあると思っています。IAを開発するときにも、「IAの歌声はこれだ」というのではなく、作り手によって色々と変化させられるように、デフォルトの歌声はあまり特徴を持たせず、パラメータなどを使って、さまざまな声色が調整しやすいという特徴を目指して開発しました。もちろん、それは達成でき、自信を持って提供できるクオリティと思うのですが、CeVIOはそれ以上に声の表現の幅が広いのが特徴ですね。またベタ打ちでの出来上がりにおける自然さという面では、CeVIOのほうが質が高いと感じております。そのため、ONEはベタ打ちである程度完成できる便利さ、IAは調教していくことで、ブラッシュアップしていく醍醐味、楽しみ方が、それぞれの良さ、特徴だと思います。


IA DAW PACKAGEの中にはこれら4つが入っている

--さとうささらや、エクシングのCeVIOを見ても、ベタ打ちで入力した際の自然さは目立っていましたね。ただ、従来の手法とはパラメータもずいぶん違って、調教は慣れないとなかなか難しそうにも思えました。
塚田:初めて方にとっては、譜面通りに入力していくCeVIOのほうが分かりやすいかもしれません。もっとも、後から調整するのは、難しい面もあるので、CeVIOは、本当にベタ打ちだけで十分だと思いますよ。このベタ打ちでの歌い方は、収録した方の歌のクセが見事に出ていて面白いです。

CeVIOはベタ打ちでも、かなり表現力豊かに、自然に歌ってくれる

--その収録というか、CeVIO製品の制作についてもお伺いしたいのですが、CeVIOで中の人のレコーディングは、どのように行われたのですか?

村山:CeVIOは、さまざまな歌を歌ってもらって収録していくので、どちらかというと、通常のボーカルレコーディングと近い方法です。ただし、修正は効かないので、ほぼ一発録音。パンチインやパンチアウト、波形での編集ということは基本的にはNGで、ワンコーラス分ですが一曲通して、一定の声質で歌ってもらう必要があるため、ボーカリストとしての力量は求められます。また、IAの場合は、当社側でライブラリを制作していますが、CeVIOの場合は、録音した後の開発はほぼお任せなんです。私が立ち会ったのは録音現場だけで、その後譜面作成などが必要となりますが、それらもすべてCeVIOプロジェクトさんのほうにお願いしています。だから、思った通りの歌声になるのか、心配ながらも待っているしかなかったんですよ。高域の声が武器になると思ってたのに、高域で歌った曲が少なかったので大丈夫だろうか……とずっと心配していたんです。

ONEのパッケージにはインストーラのほか、さまざまな歌唱データが収録されているので参考になる

--実際、レコーディングから製品になるまで、どのくらいかかったのでしょうか?

村山:通常はレコーディング結果を渡してから半年もかからないそうですが、途中経過を聴かせてもらってから、やっぱり追加で録り直しをするなど、ずいぶんやり直しをした結果、丸2年近くかかってしまい、関係先にはいろいろとご迷惑をおかけしてしまいましたが、結果として、とてもすばらしい歌声、喋り声が作れる製品ができあがったと感謝しております。


CeVIOではトークトラックとソングトラックを混在させて曲を作っていくことができる 

--IAとONE、どっちがいい歌声ですか?

村山:どちらも甲乙つけ難い子たちだと思っていますが、そこはクリエイターのみなさん、そして曲を聴く多くの皆様のご意見にお任せしたいと思います。IAには持ち前の声の良さがあり、ロングトーン等で発揮する透明感のあるキレイな声が売りですし、またエフェクトを掛けると大きく化けるという点もクリエイターさんにとって使いやすいという面が特徴的です。一方で、ONEはベタ打ちでも、すごく上手に人間に近い抑揚で歌ってくれるのが大きな特徴ですし、調整による可能性も半端なく広いこと、トーク機能でMCやラップなども容易に作れるのも大きな魅力です。どちらも声質、そしてキャラクタが全く違うので、うまく使い分けていただけると嬉しいな、と思っています。


ONEのスターターパックのパッケージ。この中にはONEのトークボイス、ソングボイスとともにCeVIO Creative Studioが入っている

--ところで、CeVIOの歌声がベタ打ちで上手とはいっても、ある程度、手直ししたいと思うケースもあると思います。その際のコツって何かありますか?

塚田:ONEにおけるソングボイスの調声の一番のコツは、何よりもタイミングを決めることにあります。ピッチやボリュームのカーブをいろいろと描いた後でタイミングを変えると、ピッチやボリュームカーブも変わってしまい台無しになります。だからソングボイスの調声では、最初にTMG画面から入ると効率がいいですね。ベタ打ちで入力の後、ここの画面でライン位置を細かく調整するのです。


CeVIOでの歌唱エディットの一番のコツはまずはタイミングを確定させることから入ること

--なるほど、タイミングから入るのがCeVIOでは重要なんですね。ピッチの調整などは、どうすればいいのでしょう?

塚田:ピッチカーブは、かなり大胆に描くのがいいですね。音の終わりでカーブピッチを持ち上げる「しゃくり上げ」は、より人間らしさを出すテクニックの一つですので、ぜひ使ってみてください。またビブラートはVIA画面、VIF画面で調整してもいいのですが、すべてPIT画面で描いてしまったほうが、直観的にわかりやすいと思います。個人的な意見ではありますが、IAの調整はMIDIのエディットであるという感覚なのに対し、ONEはオーディオエディットという感覚であり、その結果、調声の方法が違ってくるんです。


ピッチカーブは大胆に描いたほうが、人間らしさを演出できる

--IAがMIDIで、ONEがオーディオという表現はとてもしっくりきますね。だからこそ、CeVIOではタイミングを先に決めるということなのかもしれません。ここでぜひ伺いたいのはIAとONEの共演?競演についてです。おそらく、IAを使ってきたユーザーもONEとデュエットさせたいと考えるのでは……と思いますが、これは簡単にうまくハモってくれるのでしょうか?
村山:まさに、いまIAとONEのハーモニーとなる作品を作っているところですので、完成したら、ぜひみなさんにお聴きいただきたいのですが、やはり2人の歌い方にかなり違いがあるので、それぞれベタ打ちでハモらせても、簡単にうまくいくというわけではないようですね。私たちも、そこは手探り状態ですが、今のところ感じているのは、それぞれを入力後、IA側を調声して、合わせ込んでいくほうが効率がよさそうです。こうした手法についても、クリエイターさんにご協力頂きながらノウハウが蓄積されてきたら、ぜひ公開していきたいと考えています。もちろん、ONEは歌だけでなく、トーク機能があるのが大きな特徴であり、このトークを音楽作品にどう生かしていくかというのも非常に面白いチャレンジだと思っています。ぜひ、このトーク機能についても、音楽で活用していただきたいと思っています。

--本日はありがとうございました。
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以上、ONEとIAについて、いろいろ伺ってみましたが、いかがだったでしょうか? さて、現在1st PLACEではONEの発売を記念し、ONEのソング&トークボイスを用いた楽曲のコンテストが実施されています。2015年9月30日が締め切りとのことで、まだまだ時間はありそうなので、ぜひチャレンジしてみてはいかがでしょうか?詳細は1st PLACEの「ONE楽曲コンテスト」のページをご覧ください。

【関連情報】
ONE製品情報
IA製品情報
1st PLACEサイト
CeVIO Creative Studio製品情報
ONE楽曲コンテスト

【価格チェック】
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【ダウンロード】

ONE ソングボイス単体 8,100円
ONE トークボイス単体 5,400円
CeVIO Creative Studio 12,960円

CeVIO Creative Studio体験版

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