あのAMS Neveが、USB3.0オーディオインターフェイス、88MをNAMMで発表。88RSコンソールのプリアンプ搭載

音楽レコーディングスタジオはもちろん、映画、テレビ、ラジオ……など世界中のサウンドを司る分野においてトップブランドとして君臨し、60年以上の歴史を持つイギリスのAMS Neve。スタジオにAMS Neveのコンソールが置かれていることが、まさにステータスとなってきた製品群であり、最新のデジタルコンソールでもプロの世界で高い評価を受けているメーカーでもあります。そのAMS Neveが、ついにUSBオーディオインターフェイスをリリースすることになったことが6月3日からスタートしたアメリカの2022 NAMM Showで明らかにされました。

発表されたのはコンパクトながら10in/10outを装備したUSB 3.0接続のオーディオインターフェイス、88M。ここにはAMS Neveのフラグシップである88RSコンソールに搭載されているものと同じテクノロジーを用いたマイク/ライン/楽器用デュアル・プリアンプが搭載されているのが特徴。これによってPCレコーディングの世界で88RSと同等のサウンドが得られるオーディオインターフェイスとなっているのです。国内においても6月下旬にAMS Neve製品を扱うメディアインテグレーションが発売する予定で、価格は195,600円(税込)となる見込みです。さすがに気軽に購入できる価格帯ではありませんが、88RSのサウンドがDTM環境で実現できるとなれば、革命的な出来事ではないかと思います。実際どんなものなのかチェックしていきましょう。

2022 NAMM Showで、AMS Neveが88RSのプリアンプなどを搭載した10in/10utのオーディオインターフェイス、88Mを発表

1961年創業のAMS NeveがUSBオーディオインターフェイスに参入する衝撃

世界最大の楽器系展示会であるアメリカ・アナハイムで行われているNAMM Showは、コロナ禍により2021年1月、2022年の1月ともにリアル開催が見送られてきましたが、ついに6月3日~5日というやや異例のタイミングで開催されています。

アメリカ・アナハイムで2年半ぶりの開催となった2022 NAMM Show

残念ながら私自身は現地に行けているわけではないのですが、現地から届く情報では、2年半ぶりの開催とあって、かなり賑わっているようです。そんな中、飛び込んできたのがAMS NeveがUSBオーディオインターフェイスを発表した、というビックニュースです。

NAMM ShowでのAMS Neveのブース

AMS Neveというと、88RSコンソールをはじめとする機材を出す完全に業務用、プロオーディオのメーカーで、DTMの世界から縁遠い、憧れのメーカー……というイメージですが、そのAMS Neveが88Mというコンパクトな機材を出してきたのです。

AMS NeveのNeveとはもちろんプロオーディオの生みの親ともいえる故Rupart Neve(ルパート・ニーブ)さんの名前から来ているわけですが、複雑なのはNeveさんは、生涯において多くの有名企業を作ってきたので、傍から見るとややわかりにくい点。最初に作ったのが1961年創業のNeve Electronics(現AMS Neve)で、その後Focusrite、Rupert Neve Designsと立ち上げてきています。が、各社はまったく別会社で直接資本関係とかはないんですよね。その中でも一番歴史があるのがAMS Neveというわけで、Neveさんが手を引いたのち、Siemensに売却。さらにイギリスのオーディオコンソールメーカーAMS(Advanced Music Systems)と合併して、現在のAMS Neveとなっているそうです。

世界中の大手レコーディングスタジオなどに入っている88RSコンソール

AMS Neve 88RSコンソールのプリアンプをそのまま搭載した88M

歴史の話をしているとキリがないので、この辺でやめておきますが、とにかくAMS Neveは60年にわたり、スタジオテクノロジーの最前線に立ち続けてきたメーカー。中でも88RSコンソールは、アビーロード、エア、キャピトル、スカイウォーカーサウンドなど、世界最高峰のスタジオに設置されており、数多くのヒット曲がこれを通して生まれてきたという背景があります。そのAMS Neveの88RSコンソールのサウンドをWindows、Macで実現できるようにする、というのが今回の88Mなのです。

88Mのコンパクトなボディーの中には88RSコンソールの神髄が詰まっている

ある意味AMS NeveのライバルといえるSSL=Solid State Logicが、2020年にコンパクトなUSBオーディオインターフェイス、SSL 2およびSSL 2+を低価格で発売して大きな話題となりましたが、こうしたコンソールメーカーがUSBオーディオインターフェイスの世界に参入するというのが、新しい潮流なのかもしれません。ただ、SSLが3~4万円という価格帯でオーディオインターフェイスを出していたのに対し、AMS Neveは20万円弱と、かなり値段が違うので、ターゲット層はプロがDAW環境で使う製品と位置付けているのだと思います。とはいえ、少し背伸びすれば手が届く価格なので、やはり画期的出来事だと思います。

フロントにはCH1、CH2のアナログ端子があり、それぞれMIC、LINE、DIを切り替えられる

では、もう少し具体的なスペックを見ていきましょう。なぜ、このサイズで10in/10outとなっているのか。実はアナログにおいては2in/2outであり、前述の88RSコンソールテクノロジーを搭載したプリアンプはそのアナログ入力に搭載された2つです。が、そのほかにリアパネルを見るとわかる通り、左下にADATオプティカルの入出力があり、これが44.1kHz/48kHz使用時であれば8in/8outとして機能するためトータルで10in/10outというスペックになっているのです。

88Mのリアパネル。USB 3.0接続でのバスパワー動作となっている。またADATの入出力も装備

また「Neveサウンドは、トランスを通した音にこそある」という話がいろいろなところで登場しますが、どうしてなのか入力信号にトランスを嚙ませることにおって、音楽的にいい感じのサウンドになることをNeveさんは発明しています。またちょっと歴史の話になってしまいますが、1964年ごろ、Neveさんはフィリップス・レコードのために初のトランジスタ化したコンソールを開発しており、そこで使う1073のLO1166ギャップ付き出力トランスというものを設計しています。当初はNeve Electronicsの工場で手作業でトランスのコイルを巻く形で作っていました。しかし、近所にある航空宇宙向けの精密レーダー装置を設計・製造するマリンエア・レーダーという会社があり、そこで、トランスの生産をできないか、相談したそうです。同社でもトランスを製造していた中、10468(TF10003)マイクロフォントランスと31267(TF10005)ライントランスがここで作られることになり、その後もいくつかのトランスがここで製造されるとともに、Marinairトランスとして知られるようになったのです。


マリンエア・レーダー社で作られた初期のLO1166トランス

すでにこのマリンエア・レーダー社はなくなってしまいましたが、Marinairトランスは、鉛筆と紙で書かれたオリジナルの詳細な設計書として残って入り、これを今でも忠実に再現したものが88RSなどAMS Neveのプリアンプに採用されているのです。

そのMarinairトランスの一つであるBig Neve Ironと呼ばれるトランスが88Mにも搭載されており、マイク、ライン、DIの全入力に対してこのトランスを通る処理をしているのです。そのため、サイズ的には76mm(高)x182mm(幅)x203mm(奥)とコンパクトながら1.675kgとやや重たい機材となっているようです。

88Mのフロントパネル

10in/10outで24bit/192kHz対応、USB 3.0接続でのバスパワー動作

ヘッドホン出力もメイン出力とは別回路で搭載されているとのことなので、ヘッドホン出力の音質にも期待が持てそうです。またCH1、CH2ともにMIC、LINE、DIと3つの切り替え式になっていますが、その切り替えはそれぞれのGAINノブをプッシュすることで、切り替えていく形になっています。

一方、先ほどのリアパネルを見て気づいた方も多いと思いますが、通常のアナログの入出力のほかにアウトボード接続できるようにCH 1、CH 2それぞれ独立のセンド/リターンが用意されています。こうしたアウトボード接続が可能な設計もプロオーディオメーカーならでは、といったところだと思います。

もちろん、88Mの設計でこだわっているのはアナログ回路だけではありません。アナログ/デジタル変換を行うADC、デジタル/アナログ変換を行うDACにはESSのリファレンスグレードの24bit/192kHzのチップセットを採用しているとのこと。型番の詳細はまだ確認できていませんが、最近の高級機材はESSを使うケースが増えており、AMS Neveも例外ではなかったようです。

サイドから見たら88M

ところで気になる電源は、ACアダプタは使わず、USBバスパワーとなっているようです。まだ詳細が聞けているわけではないのですが、88MのUSBがUSB 3.0接続になっているのは、この電源に関係があるのでは……と見ています。10in/10outであれば伝送速度的に見てUSB 2.0で何ら問題はないはずです。が、電力供給という意味ではUSB 3.0の端子を使うほうがより大きく取れるので、安定供給のためUSB 3.0を使っているということなのでしょう。この辺、もし詳細情報が入れば、追記していければと思っております。

ドライバインストール作業不要でWindowsでもMacでもプラグ&プレイで利用可能

ドライバのインストールは不要で、プラグ&プレイで使えてMacのCore Audio、WindowsのASIOに対応しているとのこと。Windowsでドライバインストール不要でASIOが使えるというのは珍しい気がしますが、Roland製品などと同様、Windows側が接続を確認すると自動でドライバを入れてくれる仕様になっているということなのだと思います。コントロールソフトなどは特にないようですが、ほかにも新しい情報など入ったらお知らせしたいと思います。

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