先日、クリエイティブメディアからSound Blaster X5というWindows/Macで使えるオーディオインターフェイスが発売されました。クリエイティブメディアのオンラインショップからのみ購入できる機材となっていますが、かなりの人気のようで初期ロットは即完売。その後もかなりの予約が殺到しているようですが、その理由はこれが39,800円(税込)という手ごろな価格なのに、超高級オーディオ並みの設計の機材であるからのようです。
「デュアルDAC&デュアルXAMPヘッドホンアンプによる高音質フルバランスオーディオ」というもので、スペック的にもPCMでは最大32bit/384kHzの再生に対応。さらにDSDの11.2MHz(DSD256)の再生にも対応しているという超強力なオーディオインターフェイスなのです。「え、あのSound Blasterが!?」という反応の人も少なくないと思いますし、「Sound Blasterって何?」という人も多いかもしれません。そこで、改めてSound Blasterについて振り返るとともに、今回のSound Blaster X5とはどんな機材なのか、DTM的な観点から見ていきたいと思います。
クリエイティブメディアが発売したSound Blaster X5
長い歴史を持つSound Blaster
音好きなPCゲーマーな方ならSound Blasterは必須のアイテムとしてご存じだと思いますし、20年以上前からWindows、DOS/Vの世界に触れている方なら、Sound Blasterの名前を聴いて、「懐かしい!」と思われるのではないでしょうか?
そう、Sound Blasterは(Macではない)PCのサウンド機能を実現するための拡張ボード=サウンドカードのデファクトスタンダードとして広く使われてきた製品です。最初のSound Blasterは1989年登場なので、30年以上の歴史があるシリーズで、時代とともに、より高機能、高性能、高品質なものへと進化していったという製品。開発したのはシンガポールのクリエイティブテクノロジーという会社であり、その日本法人であるクリエイティブメディアが国内販売を手掛けてきました。ちなみに英語情報でよく見かえるCreative Labsはアメリカ法人の名前ですね。
今も手元にある1998年発売のSound Blaster Live!
DTM・シンセサイザの視点でいうと、Emulator IIやProteusなどを開発してきたE-mu Systems、そしてMirage、ESQ-1、SQ-80…といったデジタルシンセを開発してきたEnsoniqは、1990年代後半にクリエイティブテクノロジーが買収しており、Sound Blasterに、Emu/Ensoniqのシンセサイザエンジンが搭載されたという背景もあります。サンプラーのデータフォーマットであるSoundFontもそこから生まれているものです。
Sound Blaster Live!にはE-mu Systemsのエンジンを週出したサンプラーチップ、EMU10K1が搭載されていた
そうした経緯もあって2000年代は、楽器・DTM機材寄りの製品をいろいろ出していたクリエイティブテクノロジーですが、その後はやはりマーケットの大きいゲーム市場をターゲットとした製品にシフトしていったため、DTMの世界ではあまり見かけなくなっていました。が、今回のSound Blaster X5で久しぶりに、音楽制作の世界にも大きな意味をもたらす製品を投入してきた格好です。
2022年12月に発売が開始されたSound Blaster X5
高級オーディオ機器に匹敵するフルバランス設計
と、前置きが長くなりましたが、より具体的にSound Blaster X5についてみていきましょう。まず、このオーディオインターフェイスはUSB Type-C接続のオーディオインターフェイスであり、レコーディングも可能ではありますが、レコーディングよりもモニタリングを主眼とした機材であり、見た目にもリスニング用オーディオ機器的な雰囲気を醸し出しています。
とはいえ、音に味付けをするオーディオ機器というのとは対極で、できる限り高解像度に、原音に忠実にモニターできることを目指した製品となっているのも大きな特徴。それを実現するためにフルバランス設計という、かなり贅沢な設計をしていて、130dBというダイナミックレンジを持つとともにTHD+Nが0.00018%というものすごく高いS/Nを誇る機材となっているのです。
Sound Blaster X5は左右独立のフルバランス設計となっている
そのフルバランス設計だからこそ搭載できたのが、フロントに並ぶ3つの金メッキ端子の一番右側にある、4.4mmのバランスヘッドホン出力です。「バランスヘッドホンって何だ?」という人も少なくないと思うので、ごく簡単に説明しておきましょう。
フロントのディスプレイの下には金メッキされた3つのジャックが用意されている
バランスヘッドホン端子を装備する数少ないオーディオインターフェイス
バランスヘッドホンというのはバランス駆動ヘッドホンと呼んだりもしますが、左右それぞれで正相と逆相の2系統でアンプに接続して駆動させるタイプのヘッドホンです。一般的なヘッドホンであれば3極の端子を使っているのに対し、バランスヘッドホンでは5極の端子となっていて、これによりクロストークを低減させて、より高音質化すると同時に、アンプの負担を軽減し、より応答速度の速い再生を可能にするというものです。
一番右は4.4mm・5極のバランスヘッドホン用となっている
分かりやすくいうと、右チャンネル、左チャンネルそれぞれXLR=キャノンのケーブルで接続しているような感じですね。もっとも、このバランスヘッドホン出力を利用するためには、バランスヘッドホンが必要となります。まだ、バランスヘッドホンは広く一般的に使われているわけではなく、一部で使われる高級ヘッドホンという位置づけではありますが、Sennheiser、DENON、SONY、Focal……など各社からさまざまな製品が出ています。
4.4mmのヘッドホン端子を挿すとディスプレイにはバランスヘッドホンを認識した旨の表示がされる
今回、知人から借りたSennheiserのHD 800というヘッドホンを使って聴いてみましたが、なるほど抜群にいい音でモニターすることができますね。このSound Blaster X5との組み合わせだから実現できているのか、明らかに次元の違うサウンドです。
今回、SennheiserのHD 800を使って試聴してみたが、抜群にいい音だった
またちょっとユニークなところでいうと、日本のガレージメーカーであるアンブレラカンパニーがSONYのMDR-CD900STをバランスヘッドホンに改造したモデル=MDR-CD900ST(BTL-MOD)を27,500円(税込み)で発売しています。バランスヘッドホンとしては抜群の安さなので、こんなものを試してみるのもありですね。ただし、バランスヘッドホンの端子は、この4.4mmの5極端子のもの、4ピンのXLRのものなど規格が統一されていないのがネック。このアンブララカンパニーのものもそうですが、ものによっては変換コネクタが必要になるケースもあるので、その点はご注意ください。
4.4mm・5極端子と、4ピンXLRを変換するコネクタケーブル
そして、このSound Blaster X5は32bit/384kHzの再生に対応しているというのも重要なポイントです。現時点で、384kHzに対応しているオーディオインターフェイスはSteinbergのAXR4UやAXR4T、またRMEのADI-2 Pro FS(これは768kHzまで対応しています)など、ごく限られた機材しかなく、価格も20万円前後となっている中、39,800円で買えるという意義は大きいと思います。しかもDSDの11.2MHzにも対応しているわけですから、超ハイレゾのデータを再生できる環境を整えるという意味でも、持っておく価値はあると思います。
リアパネルはRCAピンジャックの入出力とS/PDIFのオプティカル入出力
一方、リアパネルを見てみると、こちらはだいぶシンプルな構造になっています。内部はすべてフルバランス設計ではあるけれど、メイン出力はアンバランスのRCAでライン入力もRCAとなっています。DTM的には、このメイン出力もバランス対応のTRS出力もしくはXRL出力があるとよかったのですが、ここは高級志向のオーディオユーザーを見た設計になっているということなんでしょうね。
Sound Blaster X5のリアパネルにはRCAのピンジャックの入出力とオプティカルS/PDIFの入出力が用意されている
ライン入力もRCAであり、ここからレコーディングしていくことも可能ではありますが、ある意味ここはオマケと捉えてもよさそうです。また再生においてはPCMでは384kHzまで対応していますが録音においては192kHzまでのようです。またDSDは再生専用であって、録音には対応していないようですね。
さて、そのアナログのRCA入出力に加え、光デジタル=S/PDIFオプティカルの入出力も装備されています。これはADATには非対応で、あくまでもS/PDIF用の2chとなっていますが、あって損のない機能ではあります。その隣のUSB Type-CがWindowsやMacと接続するための端子ですね。
さらに一番右にUSB Aの端子がありますが、これは何なのでしょうか?最初見たとき、ここにUSBメモリでも接続するのかな?と思ったのですが、ちょっと違いました。これはUSBオーディオと接続するためのものとのこと。ただし、供給可能な電力が最大5V/100mAという制限があるからか、USBスピーカーを接続するとかUSBオーディオインターフェイスを接続することはできないようで、いくつか試してみたもののうまく動作しませんでした。メーカー側がサポートを表明しているのはBluetoothデバイスで、クリエイティブメディアが販売しているBT-W4というものを接続してみたところ、これを経由してBluetoothイヤホンを接続することができました。もっとも、バランス対応の高音質出力を目的とした機材なので、ここでBluetooth機能を搭載することにどれだけ意味があるのかは微妙ではありますが……。
USB HOST端子には、Bluetoothアダプタなどが接続可能となっている
ASIO 2.2に対応。DSP搭載で音質・音場調整も可能
もちろんWindowsにおいてはMME/WASAPIの標準サウンドドライバに加え、ASIOドライバに対応。MacではCoreAudioに対応しています。またASIOにおいてはASIO 2.2対応となっていて、通常のASIOドライバに加え、DSD対応のASIOドライバの2種類が選択できるようになっているのも特筆すべきポイントです。
PCM用とDSD用の2種類のASIOドライバが用意されている
もっともDSDはあくまでも出力用でレコーディングには対応していないため、DAWで使う場合は「Creative SB USB RT ASIO」というドライバを使う形になりますが、バッファサイズも2.0msecにまで詰めることができるのでレイテンシーの面でも非常に優れています。
一方、Sound Blaster X5にはDSPが搭載されており、それを使って、EQ調整をしたり、Acoustic Engineというものを用いて音を調整する機能も装備されています。この辺については、先日AV Watchの連載、Digital Audio Laboratoryで「クリエイティブ史上最強仕様のオーディオDAC Sound Blaster X5を試す!」で紹介しているので、そちらも参照していただきたいのですが、基本的にはゲーマー向けのものであり、DTMでの高音質モニター用途では使わない機能です。
Sound Blaster内部の設定を行うためのCreative App。原音忠実のためにはダイレクトモードにしておく
ダイレクトモードというものをオンにすることで、すべてのDSP機能をオフにすることができるので、このダイレクトモードにして使うようにしてください。
以上、バランスヘッドホン出力にも対応したオーディオインターフェイス、Sound Blaster X5について紹介してみましたが、いかがだったでしょうか?やや異色なオーディオインターフェイスではありますが、最高のヘッドホンモニタリング環境を低価格で実現するという意味で、画期的な製品であることは間違いなさそうです。
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