4月7日にイギリスのオーディオメーカーAudientから、iD48という24in/32outの新しいオーディオインターフェイスが発売されました。多入出力かつプロフェッショナルな仕様を備え、通常このクラスの機材は30万円前後することも珍しくありませんが、iD48は実売価格150,000円(税込)前後と、比較的手の届きやすい価格帯を実現しているのが大きな特徴です。Audientといえば、スタジオコンソールの分野で高い評価を得ており、特にそのマイクプリアンプの品質はプロの間でもよく知られています。今回登場したiD48は、同社のiDシリーズにおける上位モデルという位置づけで、その定評あるAudientコンソールマイクプリアンプを8基も搭載。
さらに、アナログアウトボードをDAW環境へシームレスに統合できるバランス仕様のインサート機能という、ユニークで実用的な機能を搭載しているのもポイント。また、ファンレス設計であることや、USBマイクやコンピュータの内蔵マイクも活用可能な専用トークバック機能、クラシックな真空管アンプの入力段を再現した倍音豊かな2つのJFETインストゥルメント入力、そして最大600Ωのヘッドホンも余裕でドライブする高品位なヘッドホンアウト2基など、プロの現場でも使える多彩な機能が装備されています。そんなAudientのiD48を実際に試してみたので紹介していきましょう。
1997年からプロオーディオに携わってきたAudient
Audientは1997年、英国にてデヴィッド・ディアデンとギャレス・デイヴィスによって設立されました。この両名は、それ以前にDDAコンソールやSoundtracsといった、プロオーディオ史に名を刻むミキシングコンソールの設計に深く関わってきたエンジニア。つまり、Audientは創業当初から、プロフェッショナルなアナログコンソール設計のDNAを色濃く受け継いでいるメーカーなのです。彼らが手掛けるコンソールは、その卓越したアナログ回路技術、とりわけマイクプリアンプの透明感、低ノイズ性能、そして音楽的なサウンドキャラクタで世界中のトップエンジニアやプロデューサーから高い評価を得ています。
新たに上位モデルとして誕生したオーディオインターフェイスiD48
そんなAudientが、プロフェッショナルグレードのオーディオ技術を、より多くのクリエイタが利用できるように開発しているのが、オーディオインターフェイスであるiDシリーズです。以前DTMステーションでも「昔使ったハードエフェクトをDTMの世界へ。アウトボードのポテンシャルを引き出すコンパクトなオーディオIF、Audient iD24」など、紹介してきましたが、今回登場したのは上位モデルとして新たに誕生したiD48。
本体はフルメタル筐体を採用しており、堅牢な作りとスタジオ機材らしい落ち着いたモダンなデザインが印象的。さらに、本機は冷却ファンを搭載しないファンレス設計となっており、動作音は非常に静か。電源が入っているのか疑ってしまうほどの静粛性です。
本体のサイドには排熱用のスリットが設けられており、そこから効率よく熱を逃がしているよう。実際にしばらく使用してみても、天面はほんのり温かくなる程度で、不安を感じるような発熱は見られませんでした。自宅環境では、オーディオインターフェイスを作業スペースに設置するケースがほとんどだと思いますが、本機のように静かなデバイスであれば、ノイズフロアが抑えられ、よりクリアなモニタリングが可能になります。また、ボーカル録音などのマイク収録においても、ファンの駆動音が入らないというのは大きなメリットといえるでしょうね。
8基のAudientコンソールマイクプリアンプ、2基のJFETインストゥルメント入力を装備
そんなiD48最大の特長は、8基のAudientコンソールマイクプリアンプです。同社のフラッグシップアナログコンソール「ASP8024-HE」と同じ、クラスAディスクリート回路設計を採用。これは、ICチップに頼らず個別の電子部品を組み合わせて設計された回路で、クラスA動作によりクロスオーバー歪みがなく非常にクリアでS/N比のいい増幅が可能。ゲインは最大68dB、EINは-127.0dBu以下、THD+Nは0.0016%以下と優れた数値を誇っています。
またフロントのチャンネル1,2には、JFETインストゥルメント入力を装備。JFETは真空管と似た特性を持ち、クラシックな真空管アンプのような温かみや豊かな倍音成分を付加。これにより、エレキギターやベースを接続した際に、ライン入力特有の硬さの少ない、太く音楽的なサウンドでの録音が可能となっています。
入力ゲインの調整は、フロントパネルに搭載された8つのノブで直感的に操作可能。各チャンネルに専用のゲインコントロールが用意されているため、マルチマイク収録時でも素早くレベルを合わせることができます。+48Vファンタム電源はその隣のスイッチでオンオフを切り替えられるようになっています。
ESS Sabre DAC搭載によるクリアなモニター環境
DAコンバーターにはESS Sabre32 Ultra DACテクノロジーを採用し、メイン出力で126dBという広いダイナミックレンジを実現。再生音が非常にクリアで解像度が高く、ミックス時の細かな判断が可能。また、高精度な内部クロックに加え、外部ワードクロックとの同期を可能にするワードクロック入出力も装備し、大規模なデジタルシステムでも安定した同期環境を構築することができます。スピーカー出力は、ステレオ2ch分繋げるようになっており、2組のスピーカーを切り替えてミックスチェックが可能。
さらに2系統のADAT入出力(各8ch)を備え、最大16ch(44.1/48kHz)のデジタル入出力を拡張可能。外部ADAT対応マイクプリアンプを接続すれば、合計16ch以上のAudientクオリティのマイクプリアンプシステムを構築でき、ドラムのフルマイキングやバンド一発録りなど、大規模セッションにも対応できるようになっています。
またフロントには、2系統の独立ステレオヘッドフォン出力を装備。それぞれ個別の音量調整が可能で、124dBという高いダイナミックレンジと、最大600Ωのヘッドホンもドライブするパワーを誇っています。
フロント右側には、大型のボリュームノブを搭載しており、メインスピーカーの音量をスムーズに調整可能。隣にはサブスピーカーの切り替えボタンも配置されており、ワンタッチでモニター環境を切り替えることができます。さらに、その周囲にはトークバックボタンや、用途に応じて自由に機能を割り当てられるプログラマブルファンクションキーも備えていますよ。このプログラマブルファンクションキーには、DIM、CUT、位相反転、MONOといった好みの設定を割り当てることが可能です。
アナログアウトボードとの柔軟な接続
さて、冒頭でも触れたとおり、iD48はアナログアウトボードをDAW環境にシームレスに統合できる拡張性を備えています。この機能は、以前ご紹介したiD24にも搭載されており、マイクの掛け録りや、DAWのオーディオ信号を外部エフェクトに通すルーティングをシンプルに実現可能です。
接続にはDB25コネクター(TASCAMフォーマット準拠)を採用しており、8ch分のバランス入出力が可能。ライン入出力として使用できるため、リバーブやコンプレッサーといった外部ハードウェアエフェクトとの統合はもちろん、ヘッドホンアンプなど追加のモニタリング機器との接続にも活用できます。
たとえば、DAWの音声をアウトボードに送る場合、DAW側からDB25端子のインサートセンド(ライン出力)に信号を送り、外部機器で処理。その後、処理済みの信号をインサートリターン(ADC入力)経由でiD48に戻し、DAWに再録音するといったルーティングが可能となっているのです。
さまざまな設定を簡単に行えるiD Mixer App
さらに、iD48は本体の物理コントロールと専用ソフトiD Mixerが密接に連携しており、豊富な機能を直感的かつ効率よく操作できる点も魅力。なかでも便利なのが、柔軟性の高いトークバック機能。冒頭でも少し触れましたが、iD Mixer上でトークバックに使用するマイクソースが自在に選択可能です。たとえば、PCの内蔵マイクはもちろん、接続されたUSBマイク、さらにiD48の1から8chに入力されたマイク信号もトークバック用に割り当てることができます。録音現場スムーズに行える設計となっており、自宅スタジオから本格的な収録環境まで、幅広い用途に対応できる柔軟なコントロール環境が整っています。
そのほかにも、iD48は最大4系統の独立したステレオキューミックス(Cue A〜D)を作成することが可能。アーティストごとに異なるモニターミックスを送りたい場合などに便利な機能となっています。それぞれのキューミックスは、どの出力から送るかを自由にルーティングできるほか、どの信号をどのミックスに送るかといった設定も、専用のiD Mixerアプリ上から視覚的かつ直感的にコントロールできます。
バンドルソフトウェアも充実
さらに、iD48を購入すると、Audientユーザー向けに用意されたDAWやプラグインなどのソフトウェアを無償でダウンロード可能。作曲・録音・ミックスに役立つ実用的なツールがラインナップされており、導入直後から本格的な制作環境を整えることができます。下図のような人気ソフトが揃っています。最新の提供内容は、Audient公式の製品ページでもご確認ください。
以上、Audient iD48についてご紹介しました。現代のDTM環境では、プラグインを駆使してミックスを完結させるのが一般的ですが、かつて使っていたハードウェアのリバーブやEQなど、アウトボードを再び制作に取り入れてみるのも新鮮な体験ですよ。iD48を使えば、8系統のバランス入出力を活用して、複数のアウトボードをDAWにダイレクト統合することが可能。プラグインでは再現しきれない、あの時代の質感や立体感のあるサウンドが、現代の制作環境に活かすことができるのです。
これだけの高性能で多機能を備えながら価格は控えめで、本格的なスタジオグレードのルーティング環境をリーズナブルに構築できる点も大きな魅力。押し入れにしまったままのハードウェアエフェクトを、今こそ引っ張り出して、アウトボードでのアナログライクなミックスを楽しんでみてはいかがでしょうか。
【関連情報】
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