昔使ったハードエフェクトをDTMの世界へ。アウトボードのポテンシャルを引き出すコンパクトなオーディオIF、Audient iD24

昔使っていたハードウェアエフェクトがいろいろあるけど、最近電源を全然入れておらず、DTMで活用できていない…という人も多いと思います。そんなアウトボードを積極活用できるコンパクトなオーディオインターフェイス、iD24が英Audientから発売されています。iD24は、10in/14outのオーディオインターフェイスですが、その入出力とは別にSND/RET(センド/リターン)の端子が搭載されているのが大きな特徴。これによりスタジオに導入されるような機材でないと難しいアウトボードとの接続が、簡単に行えるのがユニークなところです。このRET端子は、ダイレクトにADコンバーター回路に入力される仕組みになっているので、サウンドへの色づけがない、純粋なADコンバーター入力が可能。つまり、ここに手持ちのハードウェアエフェクトやEQを接続したり、お気に入りのマイクプリを接続すれば、最大限のポテンシャルを発揮することができるのです。しかも複雑なルーティングの設定なしにできるようになっているので、とても使い勝手がいいのです。

また、WORD CLOCK OUTやデジタル入出力を装備。さらに搭載されているマイクプリアンプは、アビーロードスタジオのスタジオコンソールを手掛けるAudient社によるスタジオクラスの高性能なマイクプリアンプを採用しています。600Ωのモニターヘッドフォンもドライブできる十分なパワーを誇るヘッドフォンアンプを2機搭載していたり、作業を効率よくこなすためのファンクションキーを備えるなど、音質も操作性も抜群。筐体の質感もよく、高級感のある作りをしているわけですが、価格は56,650円(税込)と、想像以上に手頃な価格です。機能や価格的に見て初心者用というわけではありませんが、一般的なオーディオインターフェイスとはちょっと異なるAudientのiD24について紹介していきましょう。

アウトボードのポテンシャルを引き出すオーディオインターフェイス、Audient iD24

Audientとは?

Audientは、1997年にDavid DeardenとGareth Daviesによって設立されたイギリスの会社。メインの事業は、プロのスタジオに導入されるミキシングコンソールの開発であり、Audient製品は、アビーロードスタジオ、ピートタウンゼントのイールパイスタジオ、アメリカのハウスオブブルース…など、世界中の多くの主要スタジオで使用されています。ちなみにジョン レノンのプライベートアスコットサウンドスタジオ用のカスタムミキシングコンソールや、ジョージ ハリスン、リンゴ スター、ガス ダジョン、クリス スクワイア用のコンソールを構築も創立者の1人David Deardenが担当しています。

世界中の多くの主要スタジオで使用されているミキシングコンソールを開発している

Audientのラインナップ

そのAudientは、今回紹介するiD24以外にも、DTM用途のオーディオインターフェイスをいろいろ揃えています。いずれも「一歩上を行く」ハイクオリティー製品であることが特徴となっていますが、製品によって使用用途や目的が少しずつ異なっています。

Audientには、evoシリーズと、iDシリーズという大きく2つのシリーズが存在しています。evoシリーズは、どちらかというと初心者向けで、価格も安く、コンパクトサイズが魅力のシリーズ。こちらは以前「英コンソールメーカー、audientが出した14,000円のオーディオインターフェイスEVO4と上位版のEVO8を試してみた」という記事で紹介しているので、ぜひご覧ください。

エントリーモデルのオーディオインターフェイス、EVO4とEVO8

一方iDシリーズは、evoシリーズの上位版にあたる製品で、トップパネルのツマミやボタンが充実しているのが特徴。evoシリーズと比べると価格は少し上がりますが、全体的にみると、かなりコストパフォーマンスの高い製品が揃っています。そんなiDシリーズは、現在iD4、iD14、iD24、iD44の4つが発売されています。それぞれの主なスペックを以下の表にまとめてみました。

  iD4 iD14 iD24 iD44
参考価格(税込) 32,670円 47,300円 56,650円 102,300円前後
マイク入力 1 2 2 4
インスト入力 1 1 1 2
ライン出力 2 4 4 4
ダイナミックレンジ(DAC) 126dB 126dB 126dB 126dB
ADAT × in in/out in/out 2系統
SND/RET × ×

iD4は最もシンプルで、マイク入力とギターなどのインスト入力、そしてステレオ1チャンネルの出力を装備しています。その分サイズ感も小さいので、初心者の方や持ち運びようのサブデバイスとして優秀です。iD14以上になると、拡張用のADAT入力が装備されるので、今後バンドを自分で収録する可能性があるなら、iD14以上を選ぶのがいいと思います。さらに入出力も拡張できて、アウトボードを繋ぐのであれば、アウトボードを繋ぐためのセンドリターン端子を搭載しているiD24以上がおすすめ。また、iD24以上からは、トップパネルのボタンなどがさらに充実するので、機能面を重視する方もこちらを選択するといいですよ。初心者向けがiD4、初心者から中級者向けがiD14、中級者向けがiD24、中級者から上級者向けがiD44、といった区切りになると思います。

ちなみにDACのダイナミックレンジを見ると、4機種ともに126dBもあるのも大きな特徴。再生デバイスとしてかなりの高性能であることが見えてきます。2ch出力でいいのならiD4も同性能を持っているのでかなりのコストパフォーマンスといえそうです。一方でiD24のADCのダイナミックレンジも122dBあるので、まさにプロのレコーディングスタジオクオリティーといっていいと思います。

今回は、iD24を中心に紹介しますが、以前「英audientからプロクオリティーの10in/6outオーディオインターフェイス、iD14 mkIIが誕生。実際どんな機材なのか試してみた」という記事で、iD14について書いているので、ぜひ合わせてご覧いただければと思います。

以前記事で取り上げたiD14 mkII

コンパクトながら多くの機能を装備するiD24

さて、今回ターゲットを当てるiD24は、英国のスタジオコンソールを手掛けるAudient社によるスタジオクラスの高性能なマイクプリアンプを2つ装備した、10in/14outのオーディオインターフェイスです。まずは、その特徴を挙げてみました。

ハードウェア面
・高性能なマイクプリアンプ
・アウトボードを接続するセンドリターン
・高品質なヘッドホン出力
・トークバック機能
・充実したノブやボタン
・入出力の拡張、ワードクロック
ソフトウェア面
・使い勝手のよいミキサーソフト
・ループバックへの対応
・各種ボタンによる、操作性の向上、ファンクションキーに任意の機能を割り当て
・フリー・バンドル・ソフトウェア&プラグイン

プロのスタジオで使われるコンソールを開発するメーカーの製品だけに、音質面で非常に優れているに加えて、iD24は機能面においても、一般のオーディオインターフェイスとはさまざまな面で違いがみられます。そこで、上記のポイントを元に、iD24の機能を一つずつ見ていきましょう。

SND/RETでアウトボードをルーティング

コンパクトながら10in/14outと多くの入出力があるのは、ADATの入出力があるから。ADATはオプティカルケーブルを使うことで1本で8ch(44.1kHzもしくは48kHzの場合)を伝送できるため、このADAT入出力を除くと、2in/6outという構成で、インプット端子、アウトプット端子はリアに搭載されています。

Audient社によるスタジオクラスの高性能なマイクプリアンプを2つ装備

このリアに搭載されているコンボジャックの横に、SND/RET端子が装備されており、アウトボード接続が可能となっているのが、ほかのオーディオインターフェイスではあまり見かけないユニークなポイントです。

確かに多くの入出力チャンネルを持つオーディオインターフェイスであれば、そのうちのいくつかにセンドとリターンを割り当てることで、アウトボード接続は可能ですが、そのルーティングが面倒であるため、手持ちのハードウェアエフェクト類が眠ったままになっている…という人も多いはず。

しかし、このiD24は比較的安価でありながら、SND/RETという専用の端子が搭載されているため、簡単にアウトボード接続ができ、面倒なルーティングも不要で、基本的に接続すればすぐアウトボードを活用できるのが、嬉しいポイントです。

SND/RETを用いたパッチングのイメージ

フロントには、ギターなどを接続するインスト入力と、600Ωのモニターヘッドフォンもドライブできる十分なパワーを誇るヘッドフォンアンプを2機搭載しています。実際に接続して音量を上げていくと、かなり爆音でヘッドホンを鳴らすことができます。もちろん、単に大きい音が鳴らせるだけでなく、非常に解像度高くモニターできるのも重要なポイント。端子は1/4インチジャックとミニジャックが搭載してあり、これを使ってエンジニアとボーカリストの2人で共同作業を行うこともできます。なお、このジャック2つは、別々のミックスを出力することはできないようです。

600Ωのモニターヘッドフォンもドライブできる十分なパワーを誇るヘッドフォンアンプを搭載

トークバック機能も搭載

また地味に嬉しい点としては、トークバック機能が搭載しているところ。本体にマイクが付いていないので、PCの内蔵マイクやUSBマイクを使う必要がありますが、任意のオーディオソースをトークバック音源として使用可能。iD24のマイクプリアンプ入力を犠牲にすることなく、ミュージシャンやボーカリストとコミュニケーションをとることができます。

トップパネルの左側には、各入力チャンネルのGAINノブ、48V、-10dBのPAD、100Hz以下をカットするHPFが搭載されています。全体的なデザイン、質感がいいiD24ですが、このスイッチの感触もよく、音に関係ないですが、テンションが上がるグットポイントです。

堅牢な作りで、かっこいいデザインのiD24

中央には、レベルメーター。右側には、ボリュームノブ、ヘッドホンのボリュームノブ、各種スイッチが搭載されています。DIM、CUTといったスピーカーの音量を小さくしたり、ミュートするボタンとともに、「iD」「F1」F2」「F3」というiD24特有のスイッチを搭載。iDボタンをオンにすると、ボリュームノブをPCのコントロールに使用することが可能になり、これを使ってDAWのフェーダーを動かしオートメーションを書いたり、画面スクロールしていくことが可能です。Fキーには、位相反転やモノスイッチ、ALTなどを割り当てることが可能。ボタン1つで、異なるスピーカーを鳴らしたりすることができます。

Fキーに機能を割り当てることができる

ADATを利用して、マイクプリを拡張できる

リアには、アナログ入出力以外にも、USB-Cの接続端子、デジタル入出力、WORD CLOCK OUTが搭載されています。iD24は、ここにあるUSB-Cを使って、バスパワーで駆動させることが可能。デジタル入出力は、ADATとS/PDIF
に対応。両フォーマットとも最大サンプルレートは96kHzで、ADATは88.2kHz/96kHzでの使用時には半分の4チャンネル分、S/PDIFは2チャンネルのオーディオ入出力として使用できます。またADAT入力を備えたヘッドフォン分配システムや8チャンネルDACへの接続も可能。

デジタル入出力を使って、入力と出力を拡張することができる

たとえば、Audientにはevo SP8という機材があるので、これを使って入出力を拡張し、ドラムRECなどバンドの録音に対応することもできます。ちなみにevo SP8は、ただのADATマイクプリでなく、世界で一番賢いマイクプリアンプ。Smartgainボタンを押すだけで、高度なピーク分析を自動的に開始、最適なレベルに調整し、20秒以内で最適なレベルにセットしてくれます。また搭載されている、LCDスクリーンにチャンネルのステータスやメーターが見やすく表示されるので、快適にレコーディングを行うことができますよ。

ADAT接続で、iD24を拡張することができるevo SP8

高機能で使い勝手のいい専用ミキサーソフトウェア iD Mixer App

さて、専用のミキサーソフトウェアiD Mixer Appについても見ていきましょう。使い方は非常にシンプルで、使い勝手のいいミキサーになっています。左側には、Mic1、Mic2というようにマイクなどのフェーダーが並んでおり、その右側にはDAW1+2、DAW3+4といったようにDAW出力が並んでいます。さらに右側には、MASTER MIX、CUE A、CUE Bが表示されているところからも分かるように、複数のミックスを作成することが可能。そして一番右には、マスターのツマミと各機能が配置されています。

専用のミキサーソフトウェアiD Mixer App

ちなみに右上にある、OPTをクリックすると、デジタル入力も表示されますよ。

デジタル入力も自由にミックス可能

このiD Mixer Appでは、ミックスを作るといった基本的なこと以外にも、前述したトークバック機能で使用するマイクを選択したり、ループバックを設定したり、ファンクションキーに機能を割り当てたりすることができます。

トークバック機能は、SYSTEM PANELから設定します。ここにあるTALK BACKタブを選択すると、トークバックに使うマイクを設定することが可能。INTERNALを選択すると、iD24またはデジタル入力からトークバックを選択でき、EXTERNALを選択すると、別途つないだUSBマイクやPCに搭載してあるマイクを使用することができます。ノートPCを使っているのであれば、マイクが搭載されていると思うので、これを選ぶのがおすすめ。iD24のマイク入力を消費せず、トークバックマイクを利用することができますよ。

外部のUSBマイクやPC内蔵マイクをトークバックマイクとして利用できる

また、ループバック設定もできるので、配信で使用することもできます。ループバックさせる出力を選ぶことで、再度PCに音を入力することができるため、BGMを流しながら配信したり、オケを流してカラオケ配信を行ったりすることが可能です。

ループバックも行えるので、配信などでも使用可能

前述の通りiD24本体には、F1、F2、F3というボタンが配置されています。このボタンに関しては、自分でどの機能を割り当てるか選択することができます。設定方法は簡単で、ミキサー画面右下にある、各アイコンを右クリックして、F1〜F3を選択するだけ。たとえば、トークバックマイクのオンオフ切り替えをF1に設定したければ、右クリックしてF1を選択すると、本体のF1ボタンを押すだけで、トークバックマイクを有効にすることができます。

Fキーに機能を割り振り、効率よく作業することができる

バンドルソフトウェアも充実

さらに、iD24には、Cubase LE 12やRetrologue 2など、以下の8種類のソフトがバンドルされています。

Cubase LE 12
Retrologue 2
M-Tron Pro LE
Torpedo Wall of Sound
Subito Piano
Waldorf Edition 2 LE
Produce Like A Pro
Loop cloud 2GB of free samples

かなり使えるプラグインもいろいろなので、オーディオインターフェイス選びにおけるチェックポイントとして見逃せないところだと思います。

以上、Audient iD24について紹介しました。現代はプラグインを使ってミックスするのが、現在のDTMでは主流ですが、以前使っていたハードウェアのリバーブやEQなど、アウトボードをDTMに活用してみるのも面白いもの。iD24を使うことで、プラグインでは出せない、あの時代のサウンドが蘇ってくるはずです。押入れに大切にしまったままになっている、ハードウェアエフェクトを引っ張り出したりして、ぜひアウトボードでのミックスを楽しんでみてください。

【関連情報】
Audient iD24製品情報

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