Heritage Audioから、プロ仕様のオーディオインターフェースi73 Proシリーズ3機種(PRO ONE:税込メーカー希望小売価格 106,700円、PRO 2:同163,900円、PRO EDGE:同247,500円)が新たに登場し、日本国内での販売がスタートしました。このシリーズは、Rupert Neve氏が1970年代に開発した1073の伝説的なプリアンプの回路をそのまま復元して搭載したUSB-Cオーディオインターフェースです。
単なるオーディオインターフェースにとどまらず、専用のMIXERソフトウェアと内蔵DSPにより、超低レイテンシーでのエフェクト処理も可能。トランスフォーマー(トランス)を使用したクラスAプリアンプ回路により、マイクやギターの入力信号を、あの独特な「グッとくる」ヴィンテージサウンドに仕上げることができます。一見すると単なる緑色のボタンのように見える部分も、実は本物のトランスフォーマーが内蔵されており、Heritage Audioのこだわりが随所に感じられます。さらに、i73シリーズの発売と同時に、beatcloudでもHeritage Audioプラグインの販売が開始され、ハードウェアとソフトウェアの両面から、本格的なアナログサウンドへのアクセスが可能になりました。
Heritage Audio i73 Proシリーズとは
Heritage Audio i73 Proシリーズは、USB-C接続によるオーディオインターフェースで、クラスA 73スタイルプリアンプを内蔵した革新的な製品群です。1970年代初頭から愛され続けるアナログレコーディングの黄金時代の音を、現代のDAWベースのスタジオに直接届けることを目的に開発されました。

シリーズの中で一番小さいi73 PRO ONE
シリーズは3機種から構成されており、エントリーレベルからプロフェッショナルまで、幅広いニーズに対応しています。i73 PRO Oneは2入力4出力、i73 PRO 2は2入力4出力で2つのプリアンプを搭載、最上位のi73 PRO EDGEは12入力16出力という仕様になっています。

2つのトランスフォーマーを搭載したi73 PRO 2
比較的近いコンセプトの製品としては、以前SteinbergがUR-RTというシリーズ2製品を出していたことがありますが、すでに廃番になってしまっています。そうした中、UR-RTよりもさらにハイグレードで、プロ仕様としてHeritage Audioが出してきたのが、i73 Proシリーズなのです。
トランスフォーマーによる本格的なアナログサウンド
i73 Proシリーズの最大の特徴は、Heritage Audioのクラシック73スタイルプリアンプと同じクラスAトランスフォーマーバランス回路を採用している点です。これにより、最大70dBのゲインを持つ真のスタジオクオリティレコーディングが可能になります。
オリジナルのNeve 1073プリアンプは1970年代から多くのレコーディングで使用され、リッチで丸みのあるサウンドが特徴で、トランスフォーマーがハーモニクスとサブハーモニクスを生成し、マイク信号にユニークで音楽的な色合いを与えるのです。

トランスフォーマー(トランス)のイメージ写真
「トランスフォーマーって何だ?」という方もいると思うので、ごく簡単に紹介すると、基本的には鉄芯(コア)に2つのコイルを巻きつけた電気部品で、一般的にはトランスと呼ばれているもの。電圧変換だったり、インピーダンス変換、絶縁などに用いられる部品で、サイズが大きいものだと鉄の塊みたいなものだから、結構重たくなります。これにオーディオ信号を通すという考えはRupert Neveさんが発明したものだと思いますが、これによって音のキャラクターが大きく変わり、まさに音楽的に「グッとくる」ものへと仕立て上げてくれるんです。

ボタンのように見える緑のところがトランスフォーマーの一部分
そんなトランスフォーマーがi73 Pro Oneには1つ、PRO 2とEDGEには2つずつ搭載されており、それをあえて本体から飛び出すように配置するデザインになっているのもユニークなところ。見た目は緑色の大きなボタンのようにも見えますが、これがトランスフォーマーなんですね。いまのデジタル時代から見ると、なんともローテクではありますが、これが、デジタルではできない、なかなかいい働きをしてくれるんです。

i73 PRO 2やi73 PRO EDGEにはトランスフォーマーが2つ搭載されている
一方でマイクプリアンプには最大70dBのゲイン、ギター/ベース用の高速でダイナミックなJFET DI、クリーンなライン入力という3つの入力オプションが用意されています。
i73 Mixerソフトウェアによる超低レイテンシー処理
i73 Proシリーズのもう一つの特徴は、専用のミキサー・ソフトウェアです。Heritage Audioサイトからダウンロードできるi73 Mixerでは、i73 PROの内部のすべてをコントロールできるようになているのです。

i73 PROのすべてを司るi73 Mixer
またHeritage Audioの機材をモデルにしたDSPプラグインを使って、リアルタイムにトラック処理できるようになっているのが大きなポイント。

i73 Mixer内に起動させたDSP版のBRIDTSTRIP
44.1kHzで32サンプルバッファを使用した場合のラウンドトリップ遅延は8msec程度。ダイレクトモニターパスではほぼ0msecの超低レイテンシーを実現しています。DSPを経由したウェット信号パスでは、プラグインなしで約85サンプル、プラグイン使用時で91サンプルの追加レイテンシーとなりますが、それでも超低レイテンシーであることは間違いありません。
さらに画期的なのは、i73 MixerからDAWに対してドライとウェット両方の信号を同時にレコーディングできる機能です。これにより、録音時にエフェクト処理を施しながらも、後からドライ信号を使ってミックスをやり直すことも可能ですし、この強力なプラグインを使ったサウンドを、そのまま録音ことも可能なわけです。
豊富なDSPプラグインコレクション
そのDSPプラグインについても、もう少し具体的にみていきましょう。これらはHeritage Audio自身が発売しているアウトボード機器とプライベートギアコレクションをモデルにしたもので、内蔵されたDSPのパワーを利用してリアルタイム処理する形になっています。

DSP版のHA15 PRO
具体的には以下の4種類のDSPプラグインが搭載されており、i73 Mixerソフトウェアのプラグインラックのところをクリックすることでプラグイン一覧から設定することができ、DSPパワーで動作させることが可能です。

i73 Mixerのスロット部分をクリックすると組み込みたいエフェクトを設定することが可能
Heritage AudioのBritStripコンソールチャンネルストリップを再現したもので、拡張された73スタイルイコライザーと、同社の人気製品SUCCESSORのダイオードブリッジコンプレッサーが組み合わさっている
HA15 PRO
クラシックなAmpeg「フリップトップ」ベースアンプを忠実に再現したプラグイン
HA 1200 TapeSat
オリジナルユニット(シリアル# 0232)を改造した後にモデリングされたテープディレイマシン
Small Recording Amp Serial #C17744
1957年製の小型ギターアンプを忠実にモデリングしたプラグイン。豊かなトーンと自然な歪みが魅力
このi73 Mixer上では、i73 PROに内蔵されるDSPを使って動作する一方、それぞれのネイティブ版もバンドルされており、こちらは、i73 PROのハードウェアがない状態でもDAWのプラグインとして動作させることが可能です。UIや音はまったく同じなので、あとからエディットしたいという場合は、DSP版でエフェクトを掛けた音を軽くモニターしながらドライ音を録音していき、あとで、DAW上のネイティブ版でじっくり音作りするといった使い方もできるわけです。

Cubaseのプラグインとして起動させたHA 1200 Tape Sat
一方、画面からもわかる通り、このスロットに組み込めるのはDSPで動作するものだけでなく、CPUで動作するネイティブ版のVSTプラグインの組み込みも可能となっています。またミキサーの画面中央部にあるAUX 1およびAUX 2はセンド/リターンで送ることが可能なバスとなっており、ここにはネイティブのプラグインが組み込めるようになっています。
3種類あるi73 Proのラインナップ
冒頭でも紹介した通りi73 PROシリーズは以下の3つの機種が存在しています。
エントリーレベルのプロフェッショナルホームスタジオインターフェースとして設計された2入力4出力モデルです。73スタイルプリアンプ1基とライン入力1系統を装備し、フロントパネルにJFET DIとヘッドホン出力、リアパネルにXLR/TRSコンボ入力とモニター出力用の1/4インチTRSを配置しています。
i73 PRO 2
2つの純粋なクラスA 73スタイルプリアンプを内蔵した初のオーディオインターフェースで、ミュージシャンのホームスタジオの中心的存在として設計されています。2入力4出力構成で、2つのミックスシーンを利用可能です。
i73 PRO EDGE
シリーズの最上位モデルで、12入力16出力、4つの異なるミックスシーンを持ち、レコーディングミュージシャンや音楽プロデューサーのスタジオの中心的存在として最適な製品です。2つのアナログステレオモニター出力、2つの独立したステレオヘッドホン出力、最大8チャンネルまでデジタル拡張可能なADAT機能を備えています。
全モデル共通で最大32bit/192kHzでの録音、ミックス、再生に対応し、+48Vファンタム電源、PAD、位相反転機能も搭載しています。

i73 PRO 2
一般的なオーディオインターフェイスと比較すると、まずは見た目がまったく異なり、存在感はすごくあります。そして、何よりデザインがカッコイイですよね。ただし、トランスフォーマーが入っていることもあり、かなり重たいです。そしてそのトランスフォーマーのせいだと思いますが、デスクトップに平置きのデザインなのに高さが結構あるんです。3機種とも実測で約9cm。存在感はとってもありますね。

NEVE製品を彷彿させるレトロ調な操作子
また各ノブやボタンの見た目のレトロ感とともに、触った感じも重めで、またカタカタと細かく段階的に動くところも気持ちいいですね。
ほかのオーディオインターフェイスとは明らかに異なるグッとくるサウンド
マイク入力、ライン入力、ギター(DI)入力を選べるようになっていますが、いずれもトランスフォーマーを通ることもあり、普通のオーディオインターフェイスの入力音とは明らかに違ってくるのが面白いところ。

i73 PRO EDGEのフロント
具体的にいうとトランスフォーマーによって倍音が付加されるため、音の密度が上がり、存在感がぐっと増します。またトランスフォーマーによるサチュレーションがあるためちょっと大きめな音を突っ込んでも音割れすることなく、倍音で太く、暖かいサウンドになる、というのもポイントです。

i73 PRO 2のリア。
一方で、低音においても一般的なオーディオインターフェイスとの違いが感じられます。低音がボーンと伸びてしまった音を入力してもトランスフォーマー効果でそこが引き締まりつつも豊かな感じの低域サウンドに変身してくれるのです。プラグインのエフェクトなどではなかなか出せない効果だと思いますが、さまざまな音がいい感じになってくることを考えると、このデジタル全盛期においても、超アナログ部品であるトランスフォーマーの威力は絶大だと感じさせてくれました。

i73 PRO 2のフロント
もう一つ、音において驚いたのはヘッドホン出力のパワーです。大きなノブを回していくことで、ヘッドホンの出力を上げていくことができるのですが、インピーダンスの大きいヘッドホンでも思い切りならせるように、かなりすごいパワーが出せるのです。そのためMDRーCD900STなんかで鳴らしていると、限界を超えそうなほどの音量が出せるのは、ほかのオーディオインターフェイスにはない特徴だと感じられました。
OSサポートと国内対応状況
i73 ProシリーズはmacOS(Catalina 10.15.7以降)とWindows 10/11に対応しています。が国内販売を行うフックアップに確認したところ、現時点で国内でのサポートは対象はMac版のみとなっています。日本語のWindows環境においては、まだ何等かの不安定要素があるようで、そこがフィックスした時点で正式にWindows対応を打ち出すとのことでした。

筆者の手元では、Windows上でも問題なく使うことができた
そのため、私もMacでの動作チェックを行っていましたが、試しにWindowsで動かしたところ、ASIOも使えるし、i73 Mixerもとくに大きな問題もなく、Macと同様に動いていました。とはいえ、Windowsユーザーはフックアップから正式なアナウンスが出るまで少し待ったほうが安全かもしれませんね。
beatcloudでのプラグイン販売開始
ところで、このi73シリーズの発売に合わせて、国内のDTMプラグイン販売サイトbeatcloudでも、Heritage Audioプラグインの販売が開始されました。まずは前述のi73 PROにも付属している4つのプラグインのうちBritStrip、HA1200 TapeSatも、beatcloudから購入できるようになったことで、i73 Proシリーズのハードウェアを持っていない人でも、気軽に同じサウンドを得られるようになりました。
さらにi73 Proシリーズにバンドルされていないプラグインもいろいろ登場していいます。具体的には
960年代にプロオーディオメーカーであるLANG Electronics Inc.からリリースされたプログラムイコライザーを復刻したもの
SUCCESSOR
ダイオードブリッジ式のコンプとNEVEサウンドを彷彿とするゲインサウンドが魅力のバスコンプ
HA 240 Gold Foil Verb
金箔リバーブユニット特有の繊細な響きを忠実に再現したプラグインで、ヴィンテージらしい温かみと奥行きのある空間表現が魅力的
SYMPH EQ
Baxandall EQを現代的に再構築したステレオ/M/S対応のEQプラグイン。自然で音楽的なトーン調整が可能で、マスターバスやミックス全体の質感を豊かにする
TAPEoPLEX
伝説的なテープエコー機を忠実に再現したディレイ・プラグイン。左右独立のステレオ設定やテープの劣化具合も調整可能で、温かみと奥行きのあるサウンドを実現
73 JR Preamp
73スタイルのマイクプリ。ディスクリート回路と専用トランスによる豊かな倍音と、最大80dBのゲインで、ボーカルや楽器に温かみと存在感を加える
など。もちろん、これらはi73 Proシリーズとの相性もバッチリで、i73 Mixer内で使うことも可能です。
以上、Heritage Audio i73 Proシリーズについてみてきましたが、いかがだったでしょうか?トランスフォーマーを使ったアナログプリアンプ回路と最新のデジタル技術を融合させた、画期的なオーディオインターフェースといえると思います。
トランスフォーマーを使用したクラスA回路により実現される「グッとくる」ヴィンテージサウンドと、専用i73 Mixerによる超低レイテンシーでのリアルタイム処理、さらにドライ/ウェット同時録音機能など、現代的なワークフローに対応した数々の革新的機能を備えています。
ほかのオーディオインターフェイスでは絶対に出せないサウンドだと思うので、ニーズに合わせて3種類の中からどれかを選んでみてはいかがでしょうか?
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