CPU、SSD、メモリ、Linux内蔵でスタンドアロンで動作する話題のAbleton Push 3、ややマニアックにチェックしてみた

すでにご存じの方も多いと思いますが、先日Abletonが画期的なハードウェア製品、Push 3を発売しました。DTMステーションでも「Ableton Live内蔵のハードウェア、Push 3が誕生!パソコン不要でどこでも持ち運べる音楽制作環境を」という記事で速報記事を書いたとおり、Push 3にはハードウェア内部にCPUやメモリ、SSDなどを搭載するスタンドアロン版(税込価格:258,000円)と、プロセッサを内蔵などせずMac/PCと接続して使うことを前提とするコントローラ版(税込価格:128,000円)の2種類が存在しています。

プロセッサ内蔵版の258,000円という価格、簡単に手が出せるものではありませんが、コンピュータとオーディオインターフェイス、MPE対応の高性能な8×8パッドとコントローラなどがすべて1つにまとまったもの…と考えると、あながち高くもないのかもしれません。事実、Push 3は2モデルとも発売後、即完売で、入手するのには時間がかかりそうな状況です。今回、そのプロセッサ内蔵タイプのPush 3を借りることができたので、ハードウェア観点からこれがどんな機材なのか、ちょっとマニアックな視点で紹介してみたいと思います。

PushはAbletonが出す8×8のパッドを持つLiveの専用コントローラで、初代が2013年に、第2世代が2015年に発売されて以来、8年間、Push 2が現役製品として販売されてきたのですが、ついに第3世代となるPush 3(正式な製品名的にはバージョン名はつかず、Push)が発売された形です。

今回登場したPush 3は2つのモデルがあり、1つはプロセッサ内蔵のスタンドアロン版、そしてもう1つがプロセッサ非搭載のコントローラ版。これまでPushはMacやWindowsで動作しているLiveと接続して使う機材であり、コントローラ版はこれまで通りの考え方の機材であるのに対し、スタンドアロン版はパソコンとの接続不要で、本当にこれ単体で使えるPushとなっているのです。

今回、そのスタンドアロン版のPush 3をAbletonから、お借りしたのですが、手元に届いてまず最初に行ったのが、分解!借り物を分解するなんて、言語道断…ではあるのですが、どうしても気になっていて……。というのも、発表のタイミングでAbletonから聞いたのが、Push 3のスタンドアロン版にはIntelの第11世代Core i3のNUCの特別仕様版が入っているとのことだったから。NUCとはIntelが出している小さな小さなコンピュータ。私自身も愛用していて、何世代も買い替えて使っているからです。

しかもコントローラ版にも、NUCを入れるスペースがあり、年末に発売される予定のアップグレードキット(138,000円)を入れることにより、スタンドアロン版Push 3へとアップグレードさせることができるとのことなので、チェックしない手はありません。

先日、Abletonで、Push 3を見せてもらったとき、底面にフタがあり、ここにアップグレードキットが入れられるようになっていたので、ネジ5個を外して、開けてみたのです。が、出てきたのは、単に裏面の延長。

そう、NUCのフタだと思い込んでいたものはフタではなく、ヒートシンクだったんですね。そこで、改めて底面のネジをすべて外して、開けてみると……。

出てきました。ヒートシンクの下に放熱用のピンクのシールがついた銀色の部品と、その下にAbletonのロゴの入ったM.2の256GBのSSEが入っています。SSDにまでAbletonロゴを入れているとは、かなりこだわっている感じですよね。実は、Push 3のACアダプタもAbletonのマークが施されているこだわりぶりです。

その右側には大きな板状のものがありますが、これがおそらくリチウムイオンのバッテリーだと思います。コントローラ版にはバッテリーは内蔵されていないので、その分、軽くなっているということなんだと思います。

さらに銀色部品の2つのネジを外してみると……、なるほど、これがNUC本体だったんですね。これ以上の分解はしませんでしたが、この基板上にCore i3のプロセッサとメモリがある…ということのようですね。また256GBのM.2のSSDは、簡単に大容量のものに交換できそうではありますが……。

この小さなコンピュータ上でLinuxが動いており、そこにこの機器専用のLiveが動作することによってPush 3をスタンドアロンで動かしているとのこと。SSDを交換したときにLiunxやLiveはどうインストールするのか、実はOSやLiveは基板上にあって、SSDは単なるストレージなのか……、気になる点はいろいろありましたが、機材を動かす前に、壊してしまったら大変なので、今回はここまで、としました。

このアンテナ線の端子を右の基板にハメた状態で、Push本体に入れ込む必要がある

別の見方をすると、年末に発売されるアップグレードは、このNUCとSSD、それにリチウムイオンバッテリーがセットになっていて、これをPush 3を開けて取り付ける、ということなんだと思います。機材の分解などに慣れていないと、ちょっとドキドキするところですが、やってできないものではありません。ただ、NUCの取り付けにおいて、スロットに挿してネジを2か所留めるだけではありませんでした。Wi-FiのアンテナとBluetoothのアンテナでしょうか…、2つのケーブルをNUC基板にセットする必要があり、ここの難易度がやや高めではありました。

後日、Abletonからアップグレードキットに関する情報が出てくるとは思いますが、こうした機器の扱いに慣れていない人は、念のため、お店などに作業をお願いするのが安全なような気もしました。

さて、元の状態に戻して、電源ボタンを押してみると……、ちょっと動くかドキドキしましたが、Pushのロゴが表示され、パッドがピラピラと光り…、約40秒ほどで起動してくれました。問題なさそうですね。

触ってみると、すぐにWelcome to Pushというチュートリアルの画面になりました。画面の指示にしたがってボタン操作をしていくと、ヘッドホンの接続やオーディオ出力の接続などを促され、各ノブやボタン、パッドの操作をしていくことで、Pushの基本操作がつかめるようになっていました。とっても簡単に使うことができそうです。

が、この状態はオーソライズ前の状況。このオーソライズはWi-Fiを通じて行うため、システム設定のボタンを押したのち、Wi-Fiに接続。さらにSoftware設定画面に行くと、ファームウェアのアップデートを促されます。指示にしたがって操作すると、1.1.1というバージョンにすることができました。

さらに青く光るAuthorizeボタンを押すと、URLが表示されるので、このURLをパソコンやスマホのブラウザでアクセス。すると、Abletonアカウントでのログインをする形になり、無事オーソライズ完了。

その後、MacやWindowsでAbleton Liveを起動し、オンラインでPushと接続。するとコードの入力が求められ、Push上にはそのコードが表示されるので、これを入力したら完了です。

Pushを再起動して同じシステム設定での表示内容を見てみると、記載内容が少し変わっています。ここにシリアルナンバーやユーザー名が表示されるようになるのですが、重要なのは、最初「Ableton Live 11 Intro」が、「Ableton Live 11 Suite」に変わったという点。そう、Push 3のスタンドアロン版の中に入っているのはLive 11 Introなのですが、もし、Live 11 SuiteやLive 11 Standardを持っているユーザーであれば、Pushの中身もそちらに自動でアップグレードすることができるんですね。

ここではライセンスが切り替わっただけなので、Packなどは自分でダウンロードする必要があるのですが、この辺はとってもよくできています。

インストゥルメントもエフェクトも、Mac/WindowsのLiveで動いているものとまったく同じものを使うことが可能であり、プロジェクトやクリップ、サンプルなどもLive上でドラッグ&ドロップするだけで、Push 3とのやり取りが可能になっているんです。ファイル転送してしまえば、パソコンの電源を落としても、Push上で、プレイやパフォーマンスができるわけです。

ちなみにスタンドアロン版のPush 3もコントローラモードに切り替えることにより、コントローラ版と同様な使い方をすることも可能です。この際、8×8のパッドの操作やノブやボタンでの操作ができるだけでなく、内蔵されているオーディオインターフェイスやMIDIインターフェイス機能をMac/Windows上のLiveから利用することもできるようになっています。

ここで、改めて見ていきたいのがPush 3の入出力についてです。これはスタンドアロン版もコントローラ版も共通ですが、内部にオーディオインターフェイスが内蔵されていて、なんと10in/12outという仕様になっているのです。

「そんなに端子数ないのに、どうして10in/12outも?」と疑問に思うかもしれません。実は、アナログの入出力はリアパネル左にあるステレオの入出力と右端にあるヘッドホン出力で2in/4outとなっています。しかし、これに加えて、光ケーブルを接続するADATの入出力があるので、これが44.1kHzおよび48kHzのサンプリングレートの場合、8in/8outとなるため、トータル10in/12outとなっているのです。

ADAT接続可能なマイクプリアンプなどが各社から発売されているので、これらの機器と光ケーブルを使って接続すると、多くのチャンネルを使えるようになるのです。

ちなみにPushで使えるサンプリングレートは44.1kHz、48kHz、96kHzのそれぞれ。96kHzでの動作時はADATは4in/4outとなるから、トータルでは6in/8outとなります。

さらに、3.5mm端子でのMIDI入出力もあるので、既存のMIDI機器との接続ができるのですが、さらに注目なのが、その隣にあるUSB TypeAの端子。ここに、USB-MIDI機器などを接続できるのです。試しに手元にあったIK MultimediaのiRig Key 2 Miniを接続したところ、しっかり機種名まで表示されて使えますね。

また、先日、DTMステーションPlus!の番組において、Ableton認定トレーナーのKOYASさんにゲスト出演いただいて、Push 3について、いろいろ教えてもらったのですが、その際、KOYASさんは、このUSB TypeAの端子にUSBハブを接続し、これを介してUSB-MIDIコントローラとUSB-MIDI接続の外部シンセに接続していました。かなり自在に拡張することができるようです。

ちなみに、そのKOYASさんに登場いただいたDTMステーションPlus!のPush 3特集は、以下でアーカイブをご覧いただくことが可能です。

そのKOYASさんにも番組内でデモしていただいたもう一つの面白いところが、外部のアナログシンセとの接続についてです。Push 3のリアの右側にある2つのペダル端子。通常は録音時などに使うトリガーペダルと、サステインペダルをつなぐようになっているのですが、モード変更によってCV/GATEを出力できるようになっているのです。

だいぶ以前、Live 10.1がリリースされた時点で「まだまだ進化が続くAbleton Live。10.1のリリースに続き、モジュラーシンセと連携を可能にするCV Toolsを公開」という記事でCV Toolsという拡張機能について紹介したことがありました。このCV Toolsの最新版を使うことで、このPush 3搭載の2つのペダル端子から2系統のCV/GATE信号を出力できるようになっているのです。

もっともペダル端子はいずれもTRSフォンの端子となっているので、そのままアナログシンセなどにつなぐことができません。これを3.5mmの端子に変換すればいいのですが、何を使うといいのか、番組内でKOYASさんに伺ったところ、サウンドハウスのオリジナルブランドであるClassic Proの

YMM212
ASN221M

の2つを入手すればOKとのことで、私も番組進行中に2セット注文してしまいました。実際、手元で、Beheringerのアナログシンセ、Neutronに接続してみたところ、しっかり鳴らすことができました。

本来Push 3のレビューとなれば、MPEでの演奏操作性や実際の演奏の仕方、各ボタンやノブの使い方から、インストゥルメントやエフェクトの呼び出し方やそのパラメータの操作方法……といったところを見ていくべきところですが、ここは、すでにDTMステーションPlus!の番組内でも紹介しているほか、いろいろな方が紹介しているので、あえてハード部分を中心にマニアックにPush 3を紹介してみました。ぜひ、KOYASさんがPush 3を紹介するDTMステーションPlus!の番組も併せてご覧いただければと思います。

 

Push 3を直接触れる「Abletonテックラウンジ」に行こう!

Push 3は、スタンドアロン版もコントローラ版も、2023年7月5日現在、楽器店での取り扱いはまだなく、販売はAbletonからのネット販売のみとなっています。そのため、楽器店に行ってもPush 3の展示もなく、直接触れることができない状況です。

そうした中、Push 3を触れる体験コーナーが、都内にあるAbletonのオフィス内の「Abletonテックラウンジ」に7月8日(土)、7月9日(日)の2日間開設されます。この体験コーナーは事前予約制となっており、予約することで1時間体験可能となっています。詳細は以下のページからご確認ください。

https://www.ableton.com/ja/ableton-techlounge/
※2023.8.10追記

現時点もまだPush 3はAbletonからのネット販売のみの状況です。そうした中、8月18日(金)〜8月26日(土)の期間限定で再度「Abletonテックラウンジ」が開設されます(※20日・23日は休業)。この体験コーナーは7月と同様、事前予約制となっており、予約することで45分間体験可能となっています。詳細は上記のページからご確認ください。
Ableton MeetupのPushローンチイベントが表参道のWall&Wallで行われ、ここでもPush 3を触れることができるとのこと。こちらの詳細については、以下を参照してみてください。
https://ableton-meetup.tokyo/news/2023/06/23/4079/

 

【関連情報】
Ableton Push 3製品情報
Abletonテックラウンジについて
Ableton Meetup Tokyo(2023.7.13情報)
【価格チェック&購入】
◎Ableton ⇒ スタンドアロン版Push 3
◎Ableton ⇒ コントローラ版Push 3