中学時代、ボカロ曲にのめり込んでいた少女が、小春六花の中の人に。声優・青山吉能さんインタビュー

先日、VOICEPEAK 小春六花が発表されるとともに、CeVIO AI 小春六花Synthesizer V 小春六花など既存の小春六花製品を持っている人は7月12日までの期間限定でVOICEPEAK 小春六花が無料でもらえることも発表されて大きな話題になっています。その小春六花のCVを務めるのは、声優の青山吉能(あおやまよしの @Yopipi555)さん。昨年大ヒットとなったアニメ「ぼっち・ざ・ろっく」の主人公、後藤ひとり役を務めたことでも注目を集めた青山さんですが、中学時代はボカロ曲、ニコニコ動画にハマっていたのだとか……。

かなりの熱の入れようだったそうですが、そこから10年近くを経て自分自身がSynthesizer VやCeVIO AI、そしてVOICEPEAKの小春六花になる、というのはどんな感覚なのでしょうか?そもそも、どんな経緯で、小春六花になることになったのか、実際の収録ではどんなことが行われたのか、など、青山吉能さんにお会いして、お話を伺うことができたので、ちょっとマニアックにインタビューさせてもらいました。

VOICEPEAK 小春六花の発表に合わせてお話を伺った声優の青山吉能さん

先日「AI音声合成ソフト、VOICEPEAKに小春六花が登場。発売は7月13日だが、CeVIO AI / Synthesizer V 小春六花ユーザーは無料でもらえる!?」という記事でも紹介した通り、VOICEPEAK  小春六花が7月13日に発売されます。この発表自体は6月18日に行われた「TOKYO6 Enterteinment公式生放送」で行われたのですが、その生放送現場に立ち会わせていただいたのとともに、後日改めて青山吉能さんにインタビューできたので、その内容を紹介していきましょう。

ランキングを毎日追いながらボカロ曲にハマった中学時代

--青山さん、かなり昔からボカロ曲が好きだった…という話を聞きいたことがありますが、いつごろからだったんですか?

青山:元々姉がニコニコ動画が好きだったので、ニコニコ動画は小学生のころから見ていたんです。ボカロ曲は小学5年生のときに歪Pさんの「人柱アリス」という曲で出会いました。最初に好きになった曲です。中学1年生のころにはSupercellさんですとか、たくさんのクリエイターの方の活躍もあってボカロ曲の勢いも凄かったので、すっかりボカロの魅力にハマっていました。わりと厳しい家でしたので、子供のころからドラマとかアニメやバラエティはあまり見せてもらえず、もちろん毎週Mステを見て……というのはありませんでした。だからクラスのみんなの会話に付いていくことできなかったこともあって、娯楽に対する欲求は強くあったんですよね。そんな中、ニコニコ動画でボカロ曲を聴くことにのめり込むようになったんです。

--テレビはダメでも、ニコニコなら大丈夫だったんですか?
青山:当時、家に家族共用のWindows XPのパソコンがあって、親に見つからないようにコソコソ見てました(笑)。ちょうどGUMIや巡音ルカが発売されたのをリアルタイムで見ていて、本当にかじりついてランキングの推移とかを毎日追ってました。新曲が上がろうものなら即再生して、次はこれを聴こう、今度はこれ、って。たとえば、巡音ルカ発売日に投稿されたminato(流星P)さんの「RIP=RELEASE」や、otetsuさんの「星屑ユートピア」ですとか、GUMI発売日に投稿されたのぼる↑さんの「恋はきっと急上昇☆」は投稿初日から何度も聴いてました。今思い返すと、あれだけの熱量を持って何かに熱中できたことって、それ以降ないかもしれないな、って。一方で、同時期に「歌ってみた」にもハマっていました。

--「歌ってみた」にハマったというのは、自分で歌った、ということですか?
青山:まずは歌い手さんという存在を知りました。もちろん歌を聴くのも好きなんですけど、投稿者コメントをチェックするのも好きでしたね。投稿者コメントを通じて歌い手さん同士が会話していたり、そこからコラボに発展することもあって、そういうことに気づく楽しみもあったんです。自分でも歌ってみたことはあったんですが正直鳴かず飛ばずでした。当時、ニコニコ動画のほかにも「こえ部」というセリフや歌を録音して投稿できるサイトがあったんですが、自分でやってもほとんど反応がなくて、ほぼ聴き専でした。もし今でいうバズるみたいなことがあれば、違った展開をしていたかもしれないですね。「こえ部」でも「ニコニコ動画」でも中学生なのにエース級の子がいたり、高校生ボカロPでスゴイ人がいたり、その人達からも影響を受けて、機材について調べたりもしました。

--機材とは、どういったものについてですか?
青山:「歌うまいし、めっちゃ音質いいな……という人はどうやっているんだろう?」と思って調べたりしたんです。するとオーディオインターフェイスとかマイクとか、いいものを使っているんですよね。コンデンサマイクというのを買えばキレイに録れるということを知って、サウンドハウスで機材を調べてみたり……。地元の島村楽器に行って実際にモノを見て値段をチェックしてみたりしました。ただ、中学生なのでお金もないし、クレジットカードとか全然わからなくて、結局買うところまでは行けませんでした。「こういう機材買えば、いい音で配信できるんだろうな……」ってすごく憧れましたね。

フリーウェアで波形編集し、親に内緒でオーディションに応募

--その青山さんが、声優になりたいと思ったのはいつごろなんですか?
青山:小学校5年生のときに、「涼宮ハルヒの憂鬱」や「らき☆すた」などのアニメを見ていて、自分もなりたいと思ったのが最初ですね。中1のときに初めて声優のオーディオションを受けたんです。でも親が賛成してくれるはずもないので、こっそり応募したんです。Web審査とか書類審査までは隠し通せるんですけど、その次の段階になると、実家が熊本だったんですが、福岡とかの大都市まで遠征しなくちゃいけないんです。そこまでの交通費がいるし、新幹線なんて乗ったことないからさすがに親に言わなくちゃ…って。でも「受けてみたい」だったら、絶対に「止めなさい」って言われてしまうので、書類審査が通っていざ面接、という段階で伝えたら、親も渋々「じゃあ、一緒にいくから」って。それが中1、中2、中3、高1と続き、いろいろ受けては落ちていたんですよね。で、高1のとき「一般公募のオーディオションで素人から選ぶ」みたいな感じのオーディオションを受けたんです。その際、歌唱とかセリフがわかるものを提出してください、ということでフリーの波形編集ソフトを使って、試行錯誤して編集していました。

6月18日のTOKYO6公式生放送より

--高校生でそんなこともしていたんですね!
青山:高1のときに限らず、もっと前から歌の参考資料を作ろうと思ってニコニコ動画のさまざまな曲を歌っては編集していました。におPさんの「rain stops,good-bye」とか、40mPさんの「ドレミファロンド」、蝶々Pさんの「心拍数♯0822」……。親が仕事中とかに、親の寝室に行って布団をかぶってICレコーダーで歌ったものを録って、親がいない間にそれをパソコンにUSBで挿して編集して……というのをやってました。確か編集とかミックスにはSoundEngineとかAudacityを使っていたと思います。オーディオインターフェイスやちゃんとしたマイクはなかったので、家にある機材と無料のソフトを使って作ったもので応募をしていたんですが、高2のとき、Web審査・書類審査が通って福岡での面接があった後、東京に面接に行かなくちゃいけないってことになり、親も大騒ぎになって大変でした(笑)。結果的に合格をいただいて、声優デビューとなったんです。

プロになったことで、作品を見る目にも変化が…

--そうした努力が実って、今の青山さんがあるわけですね。Wake Up, Girls!の七瀬佳乃役としてデビューした後、ニコニコ動画やVOCALOIDなどとの向き合い方はどうなっていたんですか?
青山:もちろんアニメも好きですし、ニコニコ動画も好きですし、VOLCAOIDも好きなんですが、中学校のころのような純粋な気持ちでは見れなくなっちゃった部分はあるんです。作品が制作される過程やそこに関わる人、作品や演出に込められた意図といったものが見えるようになってきた分、以前のただ純粋に作品を楽しんでいた自分とは違うところへどんどん離れていく感覚がありました。そこは切なかったです。ボカロランキングにかじりついていた、あのときの熱量で見ることはできないなって。VOCALOIDも以前は中の人が誰かなんて考えたこともなかったんですが、「このキャラを担当した声優は誰々さんだ」という見方をするよう変わっていった部分はありました。

6月18日のTOKYO6公式生放送より

--そんな青山さんが小春六花になったわけですが、そういう中の人になりたいという思いは持っていたのですか?
青山:もちろん、なってみたいという思いが無かったわけではありません。でも、どうやってキャスティングされているのかもまったく知らなかったですし、とにかく自分がなれるとはまったく想像もしていなくて……。だから、とっても鮮明に覚えてるんですけど、マネージャーからとある仕事の帰り道、交差点で赤信号で待ってる時に「何て説明したらいいんだろう。自分の声を合成して喋らせることができるソフトがあるみたいで、その元の声として青山さんにオファーが来てるんですけど」って言われたんです。「それって喋るVOCALOID的なソフトですか?」って聞いたら「そうそう」みたいなやりとりをして2つ返事でオファーを受けたんですよね。家に帰って「ひょっとしたら、私は初音ミクみたいになるってこと?」ってジワジワ実感してきたんです。それが2020年4月ごろのことですね。

黎明期だっただけに、大変だった小春六花の収録

--それがCeVIO AIのトークボイスであり、Synthesizer Vの小春六花だったわけですね。そこからどう進んでいったのですか?
青山:まずはSynthesizer Vの収録から行われました。そのときはStandard版のレコーディングで、数日にかけて終始なぞの呪文をいくつかの音程で歌うというか、唱える感じの収録だったんです。その収録の最中にSynthesizer V AIがちょうど完成してAI版も急遽制作することになったんです。そのAI版のほうは普通に歌を何曲も歌う収録で、同じSythesizerVでもStandard版とAI版ではまったく違う収録でした。Synthesizer VはDreamtonics社の小さなボーカルブースで収録したのですが、収録前にスタジオのエアコンが壊れたハプニングもありました(笑)。1曲歌ったらドアを開けて扇風機で空気入れ替えて……という感じで収録を行った記憶があります。

その後、CeVIO AIの収録に入っていったのですが、こちらは文章がいっぱい書かれた、辞書くらい分厚い台本があって、1日2時間だけ収録する日もあったので、CeVIOだけでも8日くらい時間をとってレコーディングしました。声優のお仕事って、アニメのレギュラーだとしても1週間に1度収録があるかどうかなんです。でも、小春六花では短期間にずっと六花として一つの役に向き合うことになって、それがとっても楽しかったです。長時間ずっと喜んだときや怒ったとき、哀しいときのテンションで収録しなくてはいけなくてなかなか大変でしたけど(笑)。

そんな中、(小春六花販売元の)AHSさんの女性社員で毎回自分が好きなお菓子をリサーチして持ってきてくださる方がいて、本当に天使みたいに思えたのを覚えています。六花のプロデューサーの赤迫さんによると、小春六花の収録は初期だったので膨大な文量だったのが、その後減って、文章も読みやすく改善されているらしいんですよね。(小春六花の後に制作された)花隈千冬の声を担当した奥野香耶さんに、「めっちゃ、大変だったでしょ!!」って言ったら「そこまで大変じゃなかったよ?」って言われて、「えぇぇ!?」ってなりました(笑)。

6月18日のTOKYO6公式生放送終了時にTOKYO6代表の赤迫さんと

--確か、CeVIO AIとしてはIAとONEが初で、その数日後に小春六花のリリースだったので、まさに最初期。でも、最初に聴いたときのリアルさは衝撃的でした。
青山:私はまだ製品化される前の開発版のときに、参考音源ということで合成された音を初めて聴いたんですが感動しました。めちゃ自然だったのと同時に、明らかにそれが自分の声だったのですごく不思議で。ちゃんと音声合成ソフトの子であり、自分の声と同じ子がしゃべっているというのが感慨深かったです。

--そうやって小春六花が作られていったわけですね。
青山:とにかく2020年は小春六花づくしの1年で、すごく楽しく、忙しく収録していたのですが、まだリリースされてないので、何をしているのかあんまり表に出せなかったんです。だからファンの人たちからは、暇だと思われてるんじゃないか……とすごくもどかしい時期ではありましたね。その後、リリースされてからは不思議な感覚を体験しました。今まで声優活動をして、ファンの方には「青山さんの声が好き」、「青山さんの演技が好き」っておっしゃっていただけることもあったんですが、六花に関してはあくまでも小春六花の声として世の中にどんどん浸透していったんですよね。

六花が好きな人が青山吉能を知っているとは限らないし、同じ声なのにそこがイコールじゃないんです。それがすごく不思議な感覚で、なんか新しい世界だな、って。それって、たぶん中学生の私がボカロの中の人を意識してなかったのと一緒なんです。だから私のことが知られてないことが悲しいとかではまったくないですし、逆にそのことが、本当に音声合成キャラクターの中の人になれたんだという実感をも与えてくれました。まさに自分とは別人格を持って小春六花が歩み始めたんだ、新しい世界に飛び立っていくんだ、って思えると嬉しいです。

--そうやって、ここ2年4ヶ月で、小春六花は大きく広がっていきました。そこに今回VOICEPEAKが加わったわけですが、この制作過程はいかがでしたか?
青山:今回の収録では、CeVIO AIの小春六花にはない「ナレーション」、「蔑み」というパラメータが加わったのが大きく違うところで、CeVIO AIの小春六花の元気な雰囲気とはずいぶん違うので、これで大丈夫なんだろうか、小春六花として違和感はないんだろうか…って不安に思うこともありました。ナレーションに関しては、赤迫さんから「25歳の大人になった小春六花を意識して演技してください」という指示があり、蔑みでは今までと比較して声のトーンをずいぶん低くしたので、大丈夫なのかな……って。でも、実際ソフトになって出来上がってくると、パラメータを動かすことで徐々に大人の声になっていったり、徐々に蔑みの感じが出て六花として違和感が無いんです。凄いですよね。蔑みとハイテンションをマックスで設定したら、破綻するんじゃないかと思ったのに、それでもうまくしゃべってくれるのは面白いですね。

自分でも判別できないほどリアルなVOICEPEAKの声と、感情表現が優秀なCeVIO AI

--それにしてもVOICEPEAKの小春六花、リアルな声ですよね。
青山:本当にリアルすぎてビックリです。6月18日にVOICEPEAK 小春六花を発表した直後からみなさんたくさん使っていただいているのを私も聴いていて嬉しい限りなんですが、私自身も自分の声なのかVOICEPEAKの六花の声なのか解らなくなっちゃって……。発表時に公開した動画で「小春六花がVOICEPEAKになって登場します」っていうナレーションがあるじゃないですか。それを聴いて「これ、私、録りましたっけ?」って聞いちゃったくらいで……。あまりにも自然で、自分でも判別できないレベルなんですよね。ちょっと悔しいです(笑)。

--CeVIO AIとVOICEPEAK、どちらもしゃべらせるソフトですが、それぞれの小春六花について、青山さんはどう見ていますか?
青山:CeVIO AIの小春六花って、感情パラメーターの「怒り」を多くの方に気に入っていただいているみたいで、いろんな方を怒らせていただきました(笑)。その怒りを含めCeVIO AIは感情表現の幅がすごく広くていいですよね。一方、VOICEPEAKは私が聴いて判別できないくらいにナチュラル。だから自然な雰囲気で喋らせたいというときには特に活躍しそうだなと思いました。

--青山さんとして、この小春六花に関して今後どんなことをしていきたいですか?今後の期待などもあれば、ぜひ。
青山:小春六花のプロジェクトでは、担当声優がステージにキャラクタとして立つリアルライブが行われるんですが、発売から2年以上が経って、小春六花の楽曲もたくさん生まれてきたので、ぜひライブで歌ってみたいですね。もちろん、曲の他にも小春六花のCeVIO AIを使った動画も拝見させていただいていて、自分でもチェックしているんですが、夏色花梨、花隈千冬()の担当声優の高木美佑さん、奥野香耶さんとも「この動画面白かった」「この曲いいよね」なんて話をすることもあります。
※小春六花と同じくTOKYO6 ENTERTAINMENTが展開している音声合成キャラクタ
小春六花と夏色花梨、花隈千冬の動画や曲がこれからもどんどん増えていってくれたら嬉しいです。小春六花って、振り返ってみると新しい技術に挑戦したり、より歌がうまく歌える為に追加収録をしたりですとか、よりなめらかに喋るために収録素材の再学習みたいなこともしていて、すごくチャレンジングなキャラクターだと思うんです。私も彼女のそういうところが好きですし、今後も応援していきたいと思います。

--ありがとうございました。

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小春六花 TOKYO6 ENTERTEINMENT公式サイト
VOICEPEAK 小春六花 製品情報
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