AIエンジンで従来のV4を完全に超えた、VOCALOID 6 AI 音街ウナが誕生した背景

すでにご存じの方、そして購入した方も多いと思いますが、バーチャルアイドル「音街ウナ」(おとまちうな)のVOCALOID6専用のボイスバンク、「VOCALOID6 Voicebank AI 音街ウナ」のパッケージ版、ダウンロード版の6製品および「VOCALOID6 エディタ」をセットにした「VOCALOID6 Starter Pack AI 音街ウナ」のパッケージ版とダウンロード版の6製品、合計12製品が6月23日に株式会社インターネットから発売されました。

音街ウナは株式会社エム・ティー・ケーが企画し、声優の田中あいみ@kanataimi)さんがCVを務めるキャラクタで、これまでVOCALOID4 LibraryやVOICEROID2製品などがありました。今回、そのVOCALOID4から数えると7年ぶりのバージョンアップとなり、VOCALOID6のAI技術に最適化させたボイスバンクへと進化しています。実際どのようにして開発したのかなど、企画を担当したエム・ティー・ケーの代表取締役である髙木昌利さん、そして実際の開発と販売を担当するインターネットの代表取締役である村上昇さんのお二人に、オンラインでインタビューしてみました。

2023年6月22日に、VOCALOID6 AI 音街ウナが発売された

2016年7月にVOCALOID4 音街ウナ誕生

--音街ウナが登場したのは、もうずいぶん前だったと思いますが、改めて、音街ウナが誕生した背景などをおしえていただけますか?
高木:私は、30年以上CGやアニメーションの仕事をしております。会社はヤマハさんのおひざ元でもある浜松にありまして、音楽の街から音街なのですが、当初は地域色も必要以上に出さずに、分かる人には分る、というぐらいの設定で「音街ウナ」という名称でVOCALOIDを作りたいと企画しました。そうした中、2015年の暮れごろにインターネットの村上さんとお会いし、その企画について相談させていただいた……というのがスタートです。すでにお会いした時点でキャラクタについてはいろいろデザインはしていました。おそらく30以上のキャラクタデザインはしていたと思います。当初、VOCALOIDというと、ユーザーさんが二次創作でいろいろと作り上げていく印象があったので、公式からはあまり個性を強く出すべきではないのでは…と悩んでもいました。そんな辺りも含め、村上さんに相談したのです。

音街ウナの企画を担当したエム・ティー・ケーの代表取締役・髙木昌利さん

村上:そうですね、いろんなデザインもあり、どれもよかったのですが、「個性は強めていきましょう」とアドライスさせてもらいました。また高木さんからは、何人かの声優さんもピックアップされていましたよね。

--その中に、田中あいみさんがいたわけですか?
高木:そうではないんです。もともと音街ウナのキャラクタを考えている中、VOCALOID用としてSugarとSpicyという2つの声色を作りたいと思っていました。そして可愛らしさと力強さで大きなメリハリつけて、そこをセールスポイントにしたいと考えていたのです。それに合う人はいないだろうか……といろいろ探していました。そうした中、田中あいみさんの歌をお聴きし、とてもソフトな歌い方と、とても強い歌い方を織り交ぜていて、ものすごくメリハリがあったんです。聴いた瞬間、もうこの人しかいない!と思いました。この人の声でVOCALOIDが作れたら素晴らしいに違いない、と。

田中あいみ

4月28日生まれ、東京都出身。

・2016年第10回声優アワードにて新人女優賞を受賞。
・2019年には、ミニアルバム『コバルト』でアーティストデビュー。

『干物妹!うまるちゃん』の土間うまる役での演じ分けは、共演者からも好評を得る。その他主な役に、ビコーペガサス(ウマ娘 プリティーダービー)、くるるん(トロピカル~ジュ!プリキュア)、鏡(もののがたり)、ペイペイン(SHOW BY ROCK!!)など。

--それで打診したんですね。
高木:はい、早速次の日にはオファーしてました。既にVOCALOIDの経験もお持ちの81プロデュースさんだったので、話はすごく早かったです。すぐにOKをいただき、制作していくことになりました。
村上:2016年に入ってすぐのころだたっと思いますが、都内のスタジオで収録をしていきました。元気な歌い方のSpicyと、かわいい優しい歌い方のSugarの2つで収録して作っていきました。その結果、2016年7月30日に発売となったのですが、ユーザーの評価は高かったですね。ほかのボカロと比較して声がデカイという人もいるし、元気な声のSpicyの音の抜けが非常にいいという声もあります。また調声好きなユーザーに評価が高いというのも特徴です。そのV4を今回のV6で超えなくちゃいけないというのは、私にとっても大きなプレッシャーではありました。

VOCALOID4の音街ウナを完全に超える、AIエンジンによる音街ウナ

--超えるとは、どういう意味でですか?
村上:「ウナちゃん、V6になってちょっと悪くなったね」なんて言われたら絶対にマズイわけで、すべてにおいて超えるという意味ですね。各種キャラクタがあるVOCALOIDの中でもダンドツに音のヌケのよかった音街ウナより、さらに抜けをよくする必要があるし、音質の良さも上げる必要がある。一方で、これまで音街ウナとして培ってきたキャラクタという部分は壊してはいけない。そうしたバランスをとるのに、かなり時間をかけましたね。

音街ウナの開発・販売を担当するインターネットの代表取締役・村上昇さん

--VOCALOID6はAI歌声合成というのが最大のポイントとなっています。以前、V6のMegpoidを出した際にもインタビューさせていただきましたが、オリジナルの雰囲気と人間っぽさのどちらに振っていくかというのも重要な点になりそうですね。
村上:GUMIの場合はNativeが基本だけど、PowerやSweet、Adalt…など10種類くらいのバリエーションを出しているので、結構幅が広いんです。そのため、GUMIらしさがあればOKという判断基準で人間に振った面がありますが、ウナはSpicyとSugarの2種類。人間に寄りすぎるとキャラクタが変わっちゃうリスクが出てきます。そこが両立できない点なんですよね。また音街ウナは11歳という設定なので、完全に田中あいみさんにするというのも違う。そのため、データベースの試作の時点で15種類くらい作って比較していったのです。実際にはその3倍くらいあったものを絞り込んでいって、高木さんにも聴いていただいたんです。
高木:はい、いろいろ聴かせていただいて、この中ではこれがいいですがもっとこうならないでしょうか、という感じで、徐々に詰めていった感じです。最終的にはSugarとSpicyそれぞれ15種類以上のバージョンがあったのではないでしょうか。音街ウナとしてのキャラクタは変えたくないという思いが強くあったので、そこを最重要視しつつ詰めていきました。

--改めて確認ですが、VOCALOID6では従来のエンジンとAIエンジンの2種類がありますが、今回の音街ウナはAIエンジンですよね。
村上:そうです。違うエンジンではあるけれど、やはりV4を確実に超えていきたい。そのためのファクターはいろいろありました。まずは日本語、英語、中国語のトリリンガルになっていたり、AIになったので、調声など使い方が大きく変わった、という点。ここを抑えつつ声質を上げていかなくてはならない。レコーディングした楽曲を学習させていくのですが、1曲丸ごと学習させる必要はない。サビだけとか、Aメロだけとか、ニュアンスをうまく打ち出せる部分を学習させていった結果、V4にかなり近いニュアンスでありながら、いい感じに仕上がったと思います。

--エンジン部分以外での違いはありますか?
村上:V6のスタイルのエフェクトもいろいろと入れています。これもSugarとSpicyそれぞれ別々のものを作成しています。EQで結構持ち上げたりして、いろいろとつくりました。このスタイルを選ぶだけでも声の雰囲気はかなり大きく変わります。あくまでもたたき台という位置づけですから、読み込んでみた上で、これを元にしてい、いろいろエディットしてみるのも面白いと思います。とりあえず歌わせる上で、こうしたエフェクト設定がされていると便利だと思います。一方で、実際にミックスするとなったらDAW側のエフェクトを使うケースが多いと思うので、その場合は、スタイルパレットをオフにしてしまえばいいと思います。

--実際リリースして、ユーザーからの評価はいかがですか?
高木:ご利用いただいたみなさんから、高い評価をいただいているので、まずはホッとしています。一方で細かいところではありますが、昔のVSQXデータを読み込ませてみたら雰囲気が違う、というお声などもいただききまして。これは、やはりエンジンが異なるので、V4用にエディットした調声は、V6でそのまま同じ効果が得られない場合がある、ということです。かえって新たにベタ打ちしたほうがキレイに歌ってくれる場合もあります。また、アルファベットで入力されたVSQXも注意が必要です。これは今回トリリンガルになった影響で、どの言語で歌わせるかを意識していただく必要があります。
村上:今後もV4の音街ウナは併売していきます。V6エディタでもV4を読み込んで使うことはできるので、今までと同様のエディット、調声も可能なんです。この辺はうまく好みで使い分けていただければと思います。V4とV6の音街ウナは、まざっても違和感がない感じにできているので、ぜひうまく使ってみてください。

VOCALOID6 AI 音街ウナ楽曲コンテストも実施中

--今後、ユーザーに期待したい点などはありますか?
高木:今回対応した英語や中国語の作品もいろいろ聴いてみたいですね。また、現在、音街ウナの楽曲コンテストを実施中です。8月21日まで受け付けていますので、ぜひご応募いただければと思います。
村上:このコンテストは体験版でも応募できてしまうのも大きなポイントです。まずは試してみた上で、気に入っていただけたら、ぜひともご購入いただければ、と。

VOCALOID6 AI音街ウナ楽曲コンテスト実施中
【エントリー条件】
メインボーカルにVOCALOID6 AI 音街ウナを使用した楽曲であること。【募集期間】
2023年6月22日(木)~2023年8月21日(月)15時
【詳細】
https://www.ssw.co.jp/products/una_contest/index.html
【賞】
◎最優秀賞 1名
アマゾンギフト券 10万円分
インターネット社ダウンロード版ソフトウェア 1製品(販売中であればどの製品でも可)
田中あいみさん直筆サイン色紙
2024年音街ウナ公式カレンダー
◎優秀賞 1名
アマゾンギフト券 1万円分
田中あいみさん直筆サイン色紙
インターネット社ダウンロード版ソフトウェア 1製品(販売中であればどの製品でも可)
2024年音街ウナ公式カレンダー
◎入選 若干名
アマゾンギフト券 2千円分
田中あいみさん直筆サイン色紙
インターネット社ダウンロード版ソフトウェア 1製品(販売中であればどの製品でも可)
2024年音街ウナ公式カレンダー

 

--体験版は音街ウナのSugar、Spicyのほかに、VOCALOID6 Editor自体もあるんですよね?製品版と比較して何か制約はあるのですか?
村上:制約は使用期限が30日間であるということだけで、すべての機能が使えます。もちろん、保存や書き出しもできるようになっています。音街ウナのSugarとSpicyの体験版は当社サイト(https://www.ssw.co.jp/products/vocaloid6/otomachiuna/trial.html)から、VOCALOID6 Editorの体験版はヤマハサイト(https://www.vocaloid.com/vocaloid6/trial/)からダウンロードした上でそれぞれインストールしてご利用ください。この体験版に、シリアルコードを入力すれば製品版として使えるようになっているので、気に入っていただけた場合、そのままお使いいただける形となっています。

ーーありがとうございました。

【関連情報】
音街ウナ公式サイト
VOCALOID6 AI 音街ウナ製品情報
VOCALOID6 AI音街ウナ楽曲コンテスト2023情報
VOCALOID6 AI 音街ウナ体験版
VOCALOID6 体験版