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スピーカーキャリブレーションからAIボイス変換まで。「Sonarworks Seminar – 不可能を可能にするユーティリティツールの世界」オンラインセミナーがYouTubeで無料公開中

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6月12日にオンラインセミナー「Sonarworks Seminar – 不可能を可能にするユーティリティツールの世界」が開催されました。このセミナーでは、ヘッドフォン主体のDTM環境からイマーシブ対応のプロジェクトスタジオまで最適化されたモニタリング環境の実現や、AIを活用した従来不可能だった制作の可能性を広げるユーティリティツールの最前線が詳しく紹介されました。

配信形式で行われたこのセミナーでしたが、私は東京・渋谷のライブ&イベントスペース、LUSH HUBの会場に直接足を運んで参加してきました。現在はアーカイブ視聴も可能となっており、見逃した方でも後から内容をチェックできます。前半ではSonarworksのビジネス開発責任者であるUģis Kampars(ウジス・カンパース)さんが登壇し、SoundID ReferenceやSoundID VoiceAIといった革新的な製品について詳しく解説。後半では、2014年にLady Gagaのコンサートで初音ミクによるオープニングアクトが演奏されるなど国際的に活躍する人気ボカロPのBIGHEAD@bighead11111さんがゲスト出演し、VOCALOIDやSynthesizerVとSoundID VoiceAIを組み合わせた最新の制作手法を実演を交えながら紹介してくれました。スピーカーキャリブレーションに興味がある人も、AIを使った音楽制作に興味がある人も、参考になるノウハウが満載のセミナーだったので、その中から特に印象的だった内容をピックアップして紹介していきます。

BIGHEADさん(左)とウジス・カンパースさん(右)による、Sonarworksセミナーが開催された

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「Sonarworks Seminar – 不可能を可能にするユーティリティツールの世界」イベント概要

「Sonarworks Seminar – 不可能を可能にするユーティリティツールの世界」は、スピーカーキャリブレーションソフトウェアの定番として知られるSoundID Referenceを開発するSonarworks社のオンラインセミナー。東京・渋谷のLUSH HUBから配信され、現在もアーカイブとしてYouTubeにアップされているので、無料で視聴することが可能です。

セミナーは大きく2部構成となっており、前半はSonarworks本社からウジスさんが登壇。SoundID ReferenceからSoundID VoiceAIまで、同社の最新技術について詳しく解説してくれました。後半はBIGHEADさんが参加し、実際にSoundID VoiceAIを使った制作デモを披露。理論と実践の両面から、現代の音楽制作におけるユーティリティツールの可能性が示された約1時間のセミナーでした。

ウジスさんが語るSonarworksの革新技術と「色眼鏡を外す」ソリューション

セミナーの前半では、ラトビアから来日したSonarworksのビジネス開発責任者であるウジス・カンパースさんが同社の技術について詳しく解説しました。ウジスさんはまず、なぜ音場補正が必要なのかという根本的な問題から説明を開始しました。

Sonarworksのビジネス開発責任者ウジス・カンパースさん

「スピーカー自体は非常に優れた特性を示している」とウジスさんは5つの人気モニタースピーカーをアネコイックチェンバー(無響室)で測定したグラフを示しながら説明しました。「しかし、最も大きな問題になってくるのは、スピーカーではなく、実際にそれを現実の世界である部屋におく時に発生する」と続けました。

5つの人気モニタースピーカーの音響特性

同じヤマハHS-8をベッドルーム、一般的なスタジオ、高レベルなスタジオなど、6つの異なる環境に置いた場合の周波数特性を示すグラフでは、「部屋によってその特性、特に低音の部分などの特性は大きく変わってしまっている」ことが明確に示されました。

部屋ごとによる特性の違い

一方、ヘッドフォンについても独特の問題があることが明かされました。「ヘッドフォンというのは1つとして、完全にフラットな特性を持っていたり、フラットな特性を目指しているようなものではない」とウジスさん。さらに「値段とその音のフラットさというのはここには特に関係はない」と価格と性能の関係についても言及しました。実際に、Sonarworksで測定した400種類のヘッドフォンの特性を一気に表示したグラフは、ウジスさんが「完全に現代アートの見た目になっている」と表現するほど複雑な見た目となっていますね。

400種類のヘッドフォンの特性を一気に表示したグラフ

こうした状況について、ウジスさんは非常にわかりやすく説明していました。「色付けの強い環境で音楽制作の作業をするということは、引いて見れば絵画にとって、色のついた眼鏡をかけたまま絵を描くようなものに近い、色眼鏡をかけたまま絵を描き始めたとすれば、キャンバスの色も絵の色も違って見えてしまう。結果として出来上がったものは自分が想定していた見ていたものとは全く違う形になってしまい、同じことが音楽でも起こりえる」と、音場補正の重要性を説明してくれました。

フラットでない環境では、正確なモニタリングができない

こうした問題を解決するため、ウジスさんは「今見てきたように、数百もしくは数千にものぼる、たとえばヘッドホンだったり、まったく違う音響特性を示してしまう各スピーカー置くルームの違い、こうした違いを超えて、すべてのモニタリング環境においてフラットでかつ、ニュートラルなレスポンスを得られること。これが、ソナーワークスが目指しているサウンド」だと説明しました。

すべてのモニタリング環境においてフラットでかつ、ニュートラルなレスポンスを目指している

この目標を実現するために、Sonarworksが提示しているのがSoundID Studio Referenceという独自規格。これは世界中のスタジオやヘッドフォンで同じ音響基準を実現し、どこで制作しても一貫したサウンドでモニタリングできる環境を実現するものとなっているのです。

キャリブレーションすることで、自宅で鳴らすスピーカーをスタジオクオリティまで上げることができる

SoundID ReferenceとUniversal Audio Apollo Xシリーズとの革新的統合

SoundID Referenceの核となる技術について、ウジスさんは「これは特許取得済みのオートマティックマイクロフォンポジショニングというシステムを使って測定することで、この部屋の特性を余さず測定することができる」と説明しました。この技術により、特別な教育や訓練を受けていない誰でも、自分の特定の部屋を測定してキャリブレーションすることができるという革新的なソリューションが実現されています。

オートマティックマイクロフォンポジショニングシステムを使って測定

ヘッドフォンに関しては、「現在500種類以上のヘッドフォンが、すぐにプロファイルとして利用できるようSoundID Referenceでは準備がされており、特に測定なく使うことができるようになっている」とウジスさんは説明しました。

500種類以上のヘッドフォンプロファイルが用意されている

「この統合の一番優れた部分としては、一度測定が完了してしまえば、そのファイルをアップロードして、あとはソフトウェアを立ち上げる必要もなく、UADのインターフェースが自動的にそのプロファイルを元に補正を行ってくれる」と、Universal Audio Apollo Xシリーズとの統合機能についても紹介がありました。

Universal Audio Apollo Xシリーズとの統合機能

さらに統合により実現される技術的なメリットとして、「ハードウェアの中で補正を行うので、その遅延は1ミリ秒以下。DSP処理がされるということもあって、スタジオグレードの精度でフィルターを利用することができ、チャンネル毎のアライメント、ディレイの遅延の補正やレベル差の補正もすべて、UADのコントロール画面から離れることなく、機能を利用することができる」といった点が挙げられました。

ハードウェア処理を行うと、遅延は1ミリ秒以下を実現する

また「車に持って行ったり、コンピュータのスピーカーであえて再生してみたり、テレビで再生してみたりといったような、音響の違いを、SoundID Reference内で再現することもできる」という実用的なバーチャルモニタリング機能についても紹介されました。

BIGHEADさんが実演するSoundID VoiceAIの活用法

セミナーの後半では、ボカロPのBIGHEADさんが登壇し、SoundID VoiceAIの実践的な活用方法について実演を交えながら紹介しました。

セミナー後半は、BIGHEADさんによるSoundID VoiceAIの活用法

BIGHEADさんは札幌を拠点とする作曲家・ボカロPで、10代の頃より音楽活動を始め、ギター、ベース、ドラム、ミックス機材などを習得。音楽制作会社勤務を経てフリーコンポーザーに転身し、2012年より「初音ミク」を使用したボーカロイド楽曲の制作を開始しました。特に注目すべき実績として、2014年『Story Rider』(エレキP名義)がLady Gagaのコンサート「Lady Gaga’s artRAVE: the ARTPOP ball」(北米16ヶ所公演)の初音ミクによるオープニングアクトで演奏され、同年、名義をBIGHEADに改め、初音ミクの世界ツアー「HATSUNE MIKU EXPO 2014 in LA&NY」のテーマ曲『Sharing The World』を作曲しました。

BIGHEADさんの代表作品

BIGHEADさんがSoundID VoiceAIを使用する理由として、以下の3つの理由を挙げていました。

「まずは近年K-POPとか流行っており、そこに大人数コーラスみたいなのがあるんですけれども、それを作るために、VoiceAIを使っております」というK-POPの影響。

「次にカニエ・ウエスト。僕は大好きで聴いていて、彼が2020年ぐらいから、ゴスペルとか、賛美歌みたいなものを楽曲に入れるようになってて、僕もちょっとそれを取り入れたいなと思って、やっぱり大人数コーラスを作る時に、このVoiceAIをを使わせていただいております」というカニエ・ウエストの影響。

「そしてライブができなくなったりして、フェスなどが配信されるようになってから、結構お客さんが歌ってるみたいな。そういう映像を見て、ああ、このみんなで歌ってる感じを楽曲に取り入れたい、取り入れたら高揚感が上がるんじゃないかなと思って」という配信フェスの影響です。

K-POP、カニエ・ウエスト、配信フェスの影響で、SoundID VoiceAIを使うようになった

セミナーでは、BIGHEADさんが実際にSynthesizer Vで作成したボーカルをSoundID VoiceAIで変換する過程が実演されました。まず、Synthesizer Vで作成されたオリジナルの楽曲が再生され、その後、同じ楽曲をSoundID VoiceAIで変換したバージョンが披露されました。「Synthesizer Vの声も全然よくて、僕は気に入ってるんですけども、VoiceAIをに変えるとちょっと大人っぽくなるというか、人間の方に聴いてもらうには、こっちの方がいいかなっていうサウンドになっております」とBIGHEADさんは説明しました。

Synthesizer Vで作成したボーカルをSoundID VoiceAIで変換する過程が実演された

実演では、KEISHAという大人っぽくハスキーな感じのボイス、Fionaというラップセクション用のボイス、Simonという男性ボイスなど、様々なボイスモデルの使い分けも紹介され、「色んなモデルがあるので、楽曲に組み合わせて使っています」と多様性について語られました。

1つの声から、大人数コーラスを作る

SoundID VoiceAIを使って、その場で声を変換していた

セミナーでは、BIGHEADさんが実際に制作している大人数コーラスを実演してくれました。「僕はこのVoiceAIをめちゃめちゃ使っていて、普段からコーラストラックを20個ぐらい重ねています」と説明し、1つずつ異なるボイスモデルによるコーラストラックを再生していきました。

特に印象的だったのは、大人数コーラスの有無による楽曲の印象の違い。「これがないと楽曲が成り立たないぐらい重要な部分です」として、コーラス無しバージョンとコーラス有りバージョンを比較再生し、その圧倒的な厚みの違いを実証しました。現代の楽曲制作について、「ストリーミング時代では音圧を稼ぐために楽器の音数を減らす手法が流行っているので、バックの演奏をシンプルにして、ボーカルの厚みで楽曲を構成する」というアプローチにSoundID VoiceAIが最適であるとのことでした。

SoundID VoiceAIを使うと、大人数のコーラスも作り出すことができる

制作効率についても従来の方法では「いろんなシンガーさんに録音をお願いして、音程修正もして…となると、2日から1週間かかってしまうのに対し、 VoiceAI使用時は1日で完成させることができる」という、新しい音楽制作スタイルについても紹介していました。また、トラック数についても「楽曲全体でバックトラックが30~60トラックあるうち、ボーカルが60~80トラックを占めることもある」という具体的な数字が示され、現代の楽曲制作におけるボーカルトラックの重要性が浮き彫りになりました。

セミナーでは、実際にリリースされた楽曲での活用例も紹介されました。札幌で活動するアーティスト「Ambitious」への楽曲提供時のファイルを使用し、メインボーカルとハモリに加えて、「Watch me, Watch me」といった大合唱部分をSoundID VoiceAIで制作した例が実演されました。「レコーディングスタジオでは時間が限られていて、メインボーカルを録るだけで精一杯。でも自分のスタジオなら、シンガーにはメインだけ歌ってもらい、ハモリや合唱部分はこちらで制作できる」というBIGHEADさんの説明は、現実的な制作現場での活用方法でしたね。

仕事でも実際にSoundID VoiceAIを活用してるとのこと

以上、6月12日に開催されたオンラインセミナー「Sonarworks Seminar – 不可能を可能にするユーティリティツールの世界」を一部ピックアップして紹介しました。SoundID Referenceによる音場補正技術は、どこにいても一貫したモニタリング環境を実現し、SoundID VoiceAIは従来では考えられないほど効率的で創造的なボーカル制作を可能にしています。Sonarworksの技術革新は、音楽制作の民主化とクリエイティビティの向上に大きく貢献する、まさに現代の音楽制作に欠かせないツールといえますね。

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