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世界にも例のないKORG PS-3300フィルター再現――144ボイスの“個体差”まで再現したソフト版PS-3300開発の舞台裏

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クラフトワーク、ジャン=ミシェル・ジャール、キース・エマーソン、エイフェックス・ツイン。これほど錚々たるアーティストたちを虜にしたシンセサイザーがPS-3300です。1977年から1981年にかけてわずか約50台しか製造されなかったこの超希少なフルポリフォニック・アナログ・シンセサイザーは、独創的なフィルター設計、オクターブ・ディバイダー発振器、セミ・モジュラー式パッチパネル、そして3系統のシンセエンジンを重ねた合計144ボイスという、当時としては圧倒的な存在感を誇っていました。それが2024年のNAMMショーで限定復刻版PS-3300 FSとして発表され、業界に大きな衝撃を与えたのは記憶に新しいところです。

そして先日、この伝説のシンセサイザーがKORG Collection 6の新ラインナップとして、ソフトウェア・インストゥルメントとして蘇りました。単なる近似や雰囲気の再現ではなく、コルグ独自の電子回路モデリング技術CMT(Component Modeling Technology)を用いた徹底的な作り込みです。PS-3300の特殊なフィルター回路は過去に学術論文を含め一度もデジタルモデリングされたことがなく、今回が文字通り世界初の試みとなっています。今回は、アメリカにあるKORG R&Dで製品開発マネージャーを務め、1990年から同社の開発に携わってきたDan Phillips(ダン・フィリップス)さんに、メールを通じてPS-3300ソフトウェア開発の舞台裏を詳しく伺いました。仕様策定からUIレイアウト、サウンドライブラリの編集、マニュアル執筆まで、プロジェクト全体を牽引してきたDanさんに、このシンセサイザーの本質とソフトウェア化への情熱を語ってもらいました。

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PS-3300 FSの復刻発表がソフトウェア化のきっかけに

ーーPS-3300のソフトウェア化という発想は、どのような経緯で生まれたのでしょうか?

Dan:2024年初頭のNAMMショーでPS-3300 FSの復刻版が発表されたすぐ後に、チーム内で話し合いが始まりました。当時ちょうどKORG CollectionにARP 2600などの新しいプラグインを開発していたところで、KORG Collection担当のマネージャーがPS-3300を提案してきたのです。KORG Collectionの次のステップとしてとても自然な流れに思えました。以下は、そのPS-3300のデモ音源です。

ーー今回、Danさんご自身はPS-3300の開発において、どのような役割を担ったのですか?

Dan:本当にさまざまな役割を担当しました(笑)。具体的に挙げると、仕様策定、UIレイアウトのデザイン、シルクスクリーン表記の作成、3Dデザイナーとの連携、テスト、ソフトウェア・エンジニアとの問題解決、サウンドライブラリの編集、ハードウェアのサウンドライブラリからの変換……。さらに自分でのサウンド制作も少しだけですが、行いましたね。そしてマニュアルとオンラインヘルプの執筆、マーケティングへの協力まで、多岐にわたっています。

取材に応じてくれた開発者のダン・Dan Phillips(ダン・フィリップス)さん

ーーハードウェアの復刻版と同時期リリースというタイミングについてはどう捉えていましたか?

Dan:2024年秋に開発を始めた時点では、PS-3300 FSはまだプロトタイプの段階で、世界に数台しか存在していませんでした。そのため、開発初期の数ヶ月間は、たった1台のプロトタイプでテストや計測、比較作業を行っていました。もっと早い段階から複数台あれば便利だったのですが(笑)。

社内ではソフトウェアがハードウェアと競合するのでは、という声もありましたが、私はそう思いませんでした。PS-3300のような美しく巨大な手組みのアナログシンセサイザーとソフトウェア・インストゥルメントは、まったく異なる市場向けの製品ですから。むしろお互いに相手を引き立て合うことができると思っています。

KORG R&D開発チームのメンバー。左からAirwave (voicing contractor)さん、 Bill Jenkins (engineer)さん、Andy Leary (engineer and manager)さん、Danさん、John Bowen (voicing contractor)さん、Peter Schwartz (voicing contractor)さん


PS-3300の本質は「144ボイスそれぞれの個体差」

ーーPS-3300の最も本質的な特徴はどこにあると思いますか?

Dan:独自の特徴は数多くありますが、開発を通じてもっとも重要だと確信したのが「ノートごとのボイス・バリエーション」です。

PS-3300の核心はPSU-3301モジュールにありました。このモジュールには鍵盤の48音それぞれに対して、オシレーター、フィルター、エンベロープ、VCAからなる完全な独立ボイスが搭載されていました。そのPSU-3301が3基組み合わさっているので、合計144ボイスになります。これらはすべてアナログ部品で作られているため、144のボイスそれぞれが少しずつ異なっていました。エンベロープのタイムやフィルターのカットオフ、波形の形状、モジュレーションの深さまで、すべてがボイスごとに微妙に違うのです。意図せざる「アナログの誤差」によるものでしたが、それがPS-3300の唯一無二の有機的なサウンドを生み出していました。

KORG Collection PS-3300では、このキャラクターを「ボイス・バリエーション」として再現しています。各パネルの各ノートがそれぞれ独自の仮想部品セットを持ち、実機と同程度のばらつきを持たせています。特にエンベロープのタイムは音ごとに最大2倍もの差が生じることがあります。

ーーそのバリエーションを取り除いたらどうなるか、試したことはありますか?

Dan:あるとき、Pro Synth Networkのライブ配信でアナログシンセサイザーの修理技術者と対談する機会がありました。世界中のビンテージPS-3300のうちおよそ半数を手がけてきたという方でしたが、こんなエピソードを教えてもらいました。あるオーナーから「144個すべてのエンベロープを揃えてほしい」と依頼され、トリムポットを大量に取り付けて膨大な時間をかけて調整したそうです。ところが、すべてのエンベロープを完全に揃えた音を聴いたオーナーが、「やっぱり元に戻してくれ」と言ったというのです。そのバリエーションこそがPS-3300のキャラクターの核心だったのだと、実際に失って初めて気づいたわけです。


世界初となる、PS-3300フィルターのデジタルモデリング

ーー音の忠実な再現において、特にこだわった技術的な部分はどこですか?

Dan:PS-3300のフィルター設計は非常に独特です。MS-20の「Korg 35」フィルターに近い面もありますが、レゾナンスの実装がまったく異なっており、独立したフィードバック経路ではなくフィルター設計そのものに組み込まれています。この構造により、ユニークな挙動が生まれます。たとえばカットオフを高くするとレゾナンスレベルが下がり、逆にレゾナンスを高くするとカットオフがわずかに下がる、という相互作用です。

このフィルターはKORGのPSシリーズ以外には使用されておらず、私たちが知る限り、学術論文を含めて一度もデジタルモデリングされたことがありませんでした。KORG Collection PS-3300が世界初のモデリングです。我々の回路モデルはハードウェアに非常に近く、カットオフとレゾナンスの相互作用も正確に再現できています。高レゾナンス時のわずかな歪みを伴う非線形性については若干の差異が残りますが、他のソフトウェアはそもそもこのフィルターをまったくモデリングしていないわけですから、これが唯一の目立った違いといえます。

ーー音の精度はどのレベルを目標にしていたのでしょうか?

Dan:ほとんどの場合、ハードウェアと区別できないレベルを目指していました。開発チームはかなりのところまで達成したと思っています。実際に、ハードウェアPS-3300のサウンドをそのままインポートして使えるという点が、その答えになっているのではないでしょうか。

なお、精度の確認を難しくしているのが、先ほど説明したハードウェア独自のノートごとのバリエーションです。エンベロープのタイムが最大2倍まで変化するため、C4を1音だけ弾いて比較するのでは不十分で、多くの音を弾いて全体的な効果が同じかどうかを確認する必要があります。開発チームはそのレベルの精度を追求しました。


オリジナルの哲学を守りながら現代的な拡張も

ーー現代の音楽制作環境に向けて、新たに追加した新機能などはありますか?

Dan:はい、ありますが、変更はすべてオプション化することを徹底しました。オリジナルのキャラクターと機能性を損なわないためです。

たとえばエンベロープについては、リニアなセグメントを持つオリジナルのPS-3300タイプと、exp/logカーブを持つモダンなエンベロープとを切り替えられるようにしました。また、ハードウェアのPS-3300はフィルターとボリューム(アンプ)で1つのエンベロープを共有する設計でしたが、スイッチひとつで第2エンベロープを有効にし、フィルターとボリュームを独立して制御できるようにしています。

ノイズの扱いにも工夫を加えました。ビンテージのPS-3300はノイズ信号を直接オシレーターソースとして使用できませんでした。クラシックなPS-3300のプログラムでは、LFOのノイズをオーディオレートでピッチやフィルターにモジュレーションすることで「息感」や「コーラス感」を作り出していました。これ自体は非常に独創的なアプローチで興味深い結果を生みますが、今回はメインLFOのホワイトノイズとピンクノイズをオシレーターの波形選択としても使えるようにしています。

また、3つのPSU-3301パネル間でトップ・オクターブ・オシレーターの位相をリンクするスイッチも追加しました。これはビンテージオルガンやストリング・シンセのような音色を生み出すのに非常に効果的です。これはモデリングを担当したエンジニアのアイデアで、彼自身がVox Super Continentalのモデリングも担当したトップ・オクターブ回路の専門家でした。全体的な哲学としては、PS-3300の独特なキャラクターを守りつつ、拡張する際もオリジナルのデザイン思想に沿った形で行うことを徹底しました。


ハードウェアのサウンドをインポートし、現代へと引き継ぐ

ーー現代のユーザーは、このPS-3300をどのように楽しめばいいと思いますか?

Dan:PS-3300には3つの同一シンセ・ユニット(PSU-3301)が搭載されています。構造はシンプルで、オシレーター、エンベロープ、フィルター、LFOがそれぞれひとつずつ。しかしそこに独自の特徴が随所に散りばめられています。RESONATORとは何か?EXPANDはどう機能するか?VOLTAGE PROCESSORとは?こうした要素を探っていくうちに、これが単なるアナログシンセではないことに気づくはずです。

KORG R&D開発チームのエンジニア。John Cooperさん、Andy Learyさん、John Bowen さん、Danさん、Bill Jenkinsさん

現代のブティック・シンセに近い感覚といえるかもしれません。馴染みのある概念が、独創的な視点で組み合わさっている。そこから音楽的な喜びと、予想外の発見が生まれるはずです。

ーーハードウェアを知るユーザー、そして若いミュージシャンそれぞれへひと言お願いします。

Dan:PS-3300は、シンプルでありながら奥深く、なじみ深くもあり、同時に驚きに満ちたユニークな楽器です。ハードウェアは息をのむほど素晴らしいので、もし実際に弾く機会があれば、ぜひ体験していただきたいです。

ソフトウェアについては、音の忠実な再現とともに、オリジナルの哲学に沿う形で拡張を加えました。ハードウェアを愛するユーザーにもソフトウェアを気に入ってもらえると嬉しいです。そして若いミュージシャンには、PS-3300が音楽探求の新たな扉を開いてくれることを願っています。今から約50年前にKORGのエンジニアであり、現在の監査役である三枝文夫さんが設計したこの素晴らしいシンセサイザーが、今もなお多くの新しいサウンドを秘めているのですから。

ーーありがとうございました。


【関連情報】
KORG Collection PS-3300製品ページ
KORG Collection 6製品情報

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