Android OSをコアにした新コンセプトの楽器、Miselu Neiro。すでに何度か記事でも紹介しましたが、先日、そのMiselu neiro上で動作するVOCALOIDアプリ、MV-01というものが発表されました。まだプロトタイプという段階ではありますが、従来のVOCALOIDとはかなり異なる、まさに歌う楽器として登場した、これまでにないコンセプトのアプリです。

開発したのは、ヤマハのY2 PROJECTで、クリエイターの水口哲也さんとコラボする形での開発となっています。先日、そのMV-01の開発チームのみなさんにお話を伺うことができたので、紹介してみたいと思います。


Miselu neiroの試作機で動作するVOCALOIDアプリ、MV-01
ヤマハのY2 PROJECTは「音楽技術×ネット」という分野で、ある種ベンチャー企業的な動きで、小さな会社から大企業まで社外のさまざまな企業とも連携しながら活動している技術集団。一方、水口さんは音楽と映像を共感覚的に融合させる作風を持ち味としたクリエイタイーで、代表作に、音楽ゲーム「スペースチャンネル5」、「Rez」、「ルミネス」などがあります。また音楽ユニット「元気ロケッツ」で、音楽プロデューサーや作詞家としても活躍しているマルチクリエイターでもあります。

その水口さんが、今回の非常にユニークなVOCALOIDアプリ、MV-01について解説してくれたビデオがあります。10分弱のビデオとなっていますが、まずはそれをご覧いただくと、MV-01、そしてMiselu neiroの面白さが分かると思います。



今回お会いしたのは、その水口さんのほか、Y2 PROJECTの田邑元一さんと杉井清久さん。そして水口さんの開発チームメンバーである石毛栄一郎さん(ディレクター)、小寺攻さん(プログラマ)、石原孝士さん(グラフィックデザイナー)のみなさんです。


MV-01の開発スタッフ。田邑さん(左上)、石原さん(中上)、杉井さん(右上)、
小寺さん(左下)、水口さん(中下)、石原さん(右下)

--まずY2 PROJECTとしてMiselu neiroでVOCALOIDアプリを開発することになった経緯を教えてもらえますか?
田邑:Y2では何年も前から次の楽器、クラウドを使った次の音楽体験というのを模索してきました。ソーシャルな楽器とはどんなものかを考える中、VOCALOIDは大きなキーになると考えていたのです。一方、Miseluとは内蔵チップのNSX、また開発ツールキットのMusic SDKなどでこれまで協業の形でやってきたという経緯もあるのです。そうした関係性と、さまざまなタイミングが重なったことで、まだプロトタイプという形ではありますが、先日のGoogle I/O(6月末に米サンフランシスコで行なわれたGoogleの開発者向けイベント)で発表させていただきました。

--今回、水口さんとのコラボということでしたが、なぜVOCALOIDを水口さんに?
杉井:以前、水口さんが開発した「Rez」が発売されたとき、ヤマハの研究開発センターではみんなこれに衝撃を受けました。「なぜシューティングゲームが音楽になるんだ!」って。ほかの水口さんの音楽ゲームを見ても、本当に音楽を気持ちよく楽しめるものばかりで、「世界で一番、音楽の気持ちよさを知っている人だ」と確信していたのです。なので、いつか水口さんと一緒に仕事をしてみたいと考えていました。そして今回のプロジェクトを考えたとき「水口さんしかいない」とお願いしたのです。
水口:お二人から依頼を受けて、VOCALOIDの技術と僕らの技術を組み合わせると、何ができるかを考えてみました。そこですぐに思い浮かんだのが、創作演奏を実現するスタイルです。先ほどのビデオをご覧いただくと分かるように、表意文字と表音文字を同時に創作して演奏していくことができるはずだ、と。そこからイマジネーションしていくと、いろいろな構想が浮かび上がってきました。


MV-01の開発の中心人物であるゲームクリエイターの水口哲也さん 

--表意文字と表音文字ですか……?
水口:タッチスクリーンのキーボードで言葉である表意文字を入力し、Miselu neiroの鍵盤を使って音である表音文字へとしていく。またクラウドのシステムなどを利用することで、文字入力を口から発する言葉で行ったり、メールやSNSなど人から送られてくる表意文字を鍵盤を使って表音文字にしていく……などいろいろな可能性が考えられます。今回、開発が実質的に1ヶ月しかなかったため、構想の中の一部しか実現できませんでしたが、その面白さを感じられるアプリになったかな、と思っています。予め思いついた歌詞を色々登録しておけば、メロディーが浮かんだときにすぐに割り当てて歌わせることができるのも楽しいところです。


予め登録しておいた歌詞を元に鍵盤を弾くことで歌わせることができる

--VOCALOIDというと日本語のイメージが強いですが、今回のMV-01は英語ですよね?
水口:もちろん日本語、英語の両方を考えたのですが、今回、発表の場がアメリカでのGoogle I/Oとのことだったことや、プロトタイプであるということで、割り切って英語にしてみました。日本語とは細かいところで違いが出てくると思いますが、ぜひ日本語も試してみたいですね。
田邑:VOCALOIDのエンジンはNSXが持っているのですが、英語のライブラリは数年前のものを使いました。PC版と比較するとだいぶ見劣りする点もあるのですが、その点は今後チューンナップしていきたいと思っています。


MV-01はNSXチップに搭載されているVOACLOIDエンジンで動作する 

--NSXはVOCALOIDチップということなのですか?
田邑:着メロ音源の次を狙って開発したもので、シンセサイザとしてAWM音源相当のものが発音できるとともに、VOCALOIDでの歌声合成も可能にした小型のチップです。AWM音源とVOCALOIDは排他的な関係になっていますが、それとは別にGM音源も装備しています。
杉井:VOCALOIDエンジンがハードウェアとして組み込まれたことで、今後いろいろな展開ができると思っています。水口さんの頭の中にもいろいろなプロジェクトができているようですし(笑)。

--水口さんは、Miselu neiroを見て、どのような印象を受けましたか?
水口:最初に見て思ったのは「これはアリだ!」ということですね。最近、何でもソフト化している時代ですが、そんなときだからこそハードに戻るのが本能的な欲求なんじゃないかな、と。言葉に触れながら、鍵盤にも触れるというのが、どれだけ楽しいものなのか、今回のプロジェクトで自分でも確認することができました。音楽を作る、演奏する、そのことで人と人が繋がるというのは、本当に面白いですよね。僕はキーボードは全然弾けないのですが、それなのに楽しい。


クラウドによる音声認識により、声で言葉を入力することも可能

--ビデオを見てると、普通に弾ける方なのかと思いました…
水口:あのデモで弾けているように見えたということは、MV-01が成功ということですね(笑)。まあ、実際やってみて、自分でも面白くて止まらなくなりましたから…。一方、Miselu neiroは、家やワークスペースだけでなく、外に持ち出して音楽を作ることができるというのが楽しいですよね。カフェで作るとか、飛行機の中で作るとか。また、これをライブ会場で持ち込んで、お客さんの前で演奏するのもいいですよ。MV-01は映像を出すことも想定されているので、映像と音楽を一体化するといったクリエイターの表現欲を刺激するツールになっています。

--今後、Miselu neiro、そしてMV-01がどんな形で商品化されているのかとても楽しみですね。
田邑:これまでは楽器は楽器メーカーが作り、コンテンツはみんなが作る、という時代でした。でも、これからは楽器自体も、いろいろな人たちが協力し合って作り上げていく時代になっていくのではないか…と思っています。そんな思いを形にしつつあるのが、MV-01です。ぜひ、これまでにない楽しい体験ができる楽器に仕上げられていければ、と思っています。

--ありがとうございました。

【関連記事】