なぜDAWはドイツで生まれるの?独MAGIX副社長に聞く音楽ソフト戦略

コンシューマ用のDAWとして非常に低価格なMusic Maker(国内ではAHSが扱っている)、DTMハイエンドユーザー向けDAWとしてのSamplitude、さらに業務用のマスタリングソフトとしてSequoia(Samplitude、Sequoiaはフックアップが扱っている)などを開発するドイツのMAGIX社。先日、ドイツのMuikmesseに取材に行った際、同社の音楽系ソフトを担当する副社長、Christian Hellingerさんに取材をすることができました。

MAGIXといえばWindowsアプリ専業メーカーと思っていましたが、そのインタビューの中で、ついにMac版Samplitudeをまもなくリリースするというビックニュースも登場。そのMac版のベータ版も見せてもらうことができました。さらに、いろいろと伺う中で、なぜDAWはみんなドイツ生まれなのか、といったことも見えてきました。
ドイツでMAGIXの副社長のChristian Hellingerさん(中央)。同席してくれたAndre Standkeさん(左)とJorg Schedlinskiさん(右)

--MAGIXは、いまどのくらいの規模の会社になっているんですか?

Chrisian:MAGIXは今年で設立20年になりますが、世界中にいる350人の従業員がいます。このうち120人が本社ベルリン、100人がドレスデンとドイツにいます。また、登録ユーザー数は4、000万人を超え、とくにコンシューマ系では大きなシェアを握るメーカーに成長してきました。

MAGIXは今年、創立20周年を迎えた。同社ホームページも20周年のロゴが

--MusikMakerのユーザーって4,000万人もいるんですか!!?

Chrisian:いえいえ、MAGIXは音楽系だけでなく、ビデオ、写真、グラフィックデザイン、Webアプリケーションなどいろいろな分野の製品を扱っています。日本でもAHSを通じて、MusikMakerのほかにMovie Pro MXAudio Cleaning Labテープ・レコードきれいにCDビデオきれいにDVD……といったソフトを出していますよ。また、これらコンシューマ系のソフトやタブレット用のアプリケーションから、プロ用のソフトまで幅広く扱っています。

オーディオ部門担当の副社長、Christian Hellingerさん

--Samplitudeは、かなり早い時期から触ったことがありました。1995年ごろだったでしょうか……一番最初に登場したWindowsベースのマルチトラックのオーディオが扱えるソフトだったと記憶しています。でも、その当時はMAGIXという会社名ではなかったですよね??

Chrisian:よくご存じですね。Samplitudeを開発したのは、当社のCTOであるTilman Herbergerです。当初はSEK’Dという社名で開発、販売をしていました。私も当時はいなかったので、MTRとしてSamplitudeが最初であったかどうかは定かではありませんが、24bitでのネイティブハードディスクレコーディングをいち早く実現しており、その意味では非常にイノベイティブな特徴を持っていたソフトですね。そのSamplitudeを発展させたものがSequoia。ダウンスケールしたものがMusic MakerでありAudio Cleaning Labですね。

Windows版のSamplitude Pro X

--実はMusicMakerの存在を知ったのは、それが日本でAHSから発売されたときでした。確か2007年末だったと思いますが、すでに英語版・ドイツ語版はバージョン10以上となっていて、かなり老舗のソフトだったことに気づきました。

Chrisian:そうですね、MusicMakerは当社の最初のコンシューマ向けソフトであり、95年には最初のバージョンをリリースしていたと思います。これまでに一番売れているソフトでもありますね。

コンシューマ版の低価格DAW、Music Maker MXの日本語版のパッケージ 

--ところで、MAGIXは一昨年、サンプルベースのサウンドライブラリ音源などを開発するメーカー、Yellow Toolsを買収していますよね。その経緯などを少し教えてもらえますか?

Chrisian:Yellow Toolsは1999年に設立されたドイツのメーカーで、Independece Proなどを開発してきました。数多くのサウンドライブラリをもっており、MusicMakerやSamplitudeなどで活用できるという点で大きな魅力があり、2011年に買収しています。MAGIXは基本的に自社ですべての開発を行ってきましたが、自社にない技術、資産はやはり会社を買うという形が効率的ではありました。また、Windowsプラットフォームだけでなく、Macプラットフォームでも使える資産を持っているのも大きなポイントでしたね。とくにプロオーディオの世界ではMacは非常に重要ですから。

AHSからはMAGIXのビデオ編集ソフト、Movie Proなども発売されている

--とはいえ、MAGIXはオーディオ系におけるMac用のソフトって出していませんよね?

Chrisian:今年、Samplitude for Macをついにリリースする予定です。すでに、それに先駆けてAudio Cleaner Pro for Mac OSXというソフトを昨年11月に出しており、Samplitudeのほうも近いうちに正式に発表できると思います。

年内に登場するというSamplitude Pro X for Mac

--これまで20年間Windows専業だったのに、このタイミングでMac版をリリースするというのは、何か特別な理由があるのですか?

Chrisian:長年プロオーディオの世界の方々からは、「なぜSamplitudeのMac版を出さないのか」と言われ続けてきましたし、プロオーディオの世界でMacプラットフォームは重要ではあったのは事実です。しかし、MAGIXにとって、プロオーディオはコアビジネスではないため、Mac版に多くのリソースを裂くというのは、なかなか難しかったのです。ところが、最近Macの価格が下がるとともに、性能が上がったことで扱いやすくなり、コンシューマ用のプラットフォームとしても広がってきました。またCPUがIntelチップになったことも、当社として開発しやすくなったのです。そして、Macを使うコンシューマユーザーも増えてきたので、Macもやっていこうと、数年前から開発をはじめていました。

--Yellow Toolsの開発陣営がこれに加わっているとか?

Chrisian:いいえ、Yellow Tools買収前から開発はしていました。ものはほぼ完成しているので、最後の詰めを行っています。基本的にWindows版と同じエンジンとなっており、多くの方のご期待に添える内容になっていると思います。

フランクフルトのmusikmesseの会場の向かいにあるMarriottホテルの一室で取材させてもらった

--先日MOTUのDigital PerformerのWindows版も出たし、これでSamplitudeがWindowsとMacの両対応になると、CubaseAbleton LiveStudioOne……と、大半のDAWがハイブリッドということになりますね。そう考えてみると、ドイツ生まれのDAWが多いですね。もともとAppleのLogicだってドイツ生まれですし…。
Chrisian:そうですね、先日、Steinbergの創設者であるCharlie Steinberg、Logicの開発元であったEmagicの創設者であるChris Adamと話をしたときにも、そんな話題になったんですよ。なぜDAWがドイツで誕生するかってね(笑)。まあ、ハッキリしたことは分からないけれど、自然なことだったんじゃないかな、という話になりましたね。だって、もともとドイツは音楽において歴史ある国であったし、工業で発展してきた国でもあります。その音楽とエンジニアリングの両方を持っているのだから、DAWが生まれるのは自然な流れだろう、って。もちろん、アメリカにはProToolsCakewalkDigitalPerformerなどもあるけど、ドイツはそれらよりも少し早かったということでしょうね。MAGIX製品も今後まだまだ発展していきますので、ぜひ楽しみにしていてください。

--まずはSamplitude for Macですね。期待しています。

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2件のコメント
  • 三角木馬

    興味深い、そして素朴な疑問を分かりやすく解消してくれるこのようなインタビューはとても貴重です。
    これからも変わらぬ藤本さんであり続けてください。
    特にお体には気をつけてくださいね。
    もう怪我などなされぬようお祈り申し上げます()。

    2013年5月21日 8:12 PM
  • 藤本健

    三角木馬さん
    こんにちは。コメントありがとうございます。
    はい、もう大怪我などしないよう気を付けます。
    また、今後もいろいろインタビューは行っていくので
    ご期待ください。

    2013年5月21日 9:55 PM

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