現代の音楽制作において、最終的な音圧を上げるというのは、非常に重要なテーマになっていますよね。でも音圧を上げることと、音質を保つことや音楽的なバランスを保つことは、ある種のトレードオフであるのも事実。そのため、どうやって音質・音楽性を崩さずに迫力ある音圧にするかを工夫しあっているわけですよね。

そんな中、ちょっと驚くべきツールが誕生しました。DeeMaxというVST(WindowsおよびMac)、AU(Mac)に対応したプラグインがそれ。いわゆるマキシマイザーコンプレッサいいとこ取りをしたような存在なのですが、扱い方は初心者でも超簡単。何の知識も経験もなくても、強烈なサウンドを作り出すことができるのです。そこで、ここでは、そもそも音圧とはどういうもので、マキシマイザーとはどんなツールなのかを振り返りつつ、DeeMaxがすごい理由について見ていこうと思います。

※2015年11月20日 追記
記事掲載当初はVSTのみの対応でしたが、AUに対応となりました 


パラメータ、たった1つでバランスを崩すことなく音圧を上げられるDeeMax
 
みなさんは「音圧」という言葉と意味をご存じですか?お分かりである方は、冒頭部分は読み飛ばしてもらうとして、「イマイチよく分からない!」という方のために、まずは簡単に紹介しておきましょう。

音の大きさって、普通は音量ボリュームで決まりますよね。テレビだってアンプだって、ボリュームを上げれば音が大きく聞こえます。ただし、ある程度以上大きくすると音が割れてしまいます。それは、音が歪(ひず)まずに出せる限界値があるからで、キレイに音を出すためには、その限界値ギリギリでストップする必要があるのです。


オリジナルの波形(SoundCloudで聴く)

同じことが音の波形編集についても言えます。小さい波形だと、音が小さいので、大きく聞こえるようにするためには音量調整します。この際、波形の一番大きい山が、歪まない限界を超えないようにしなくてはなりません。通常、その限界とは0dBという値になるのですが、その音量調整をノーマライズと呼んでいます。実際、元の波形と、ノーマライズ後を比較してみれば、違いは一目瞭然。音を聴いてもその違いはハッキリ分かると思います。


0dBにノーマライズすると、波形の最大値が0dBになるように拡大される(SoundCloudで聴く)

ここで登場してくるのが音圧です。オーディオの仕組み上、0dBを超える音量を出すことはできないのですが、音圧を上げることによって、聴感上、大きな音にすることが可能なのです。実際に今のドラムの音の音圧を、今回のテーマであるDeeMaxで上げた結果がこちら。何が起こっているのか、この波形を見ると、だいたいの事情は分かりますよね。


DeeMaxで音圧を上げると、波形の密度が高くなり、大きな音として聴こえる(SoundCloudで聴く)

音量は縦軸で表現されるので、その最大値自体はノーマライズをかけた際のものと変わっていません。でも波形全体の面積が大きくなるというか、音の密度が高くなり、結果として大きな音として聴こえるのです。

DTMで自分で作った音を聴くと、CD作品と比較して明らかに小さい音で聴こえるというのは、この音圧の問題なのです。そこでガツンとくるようなインパクトある音の大きさにしようと、音圧アップにみんなが立ち向かっているわけです。それを「音圧競争」とか「音圧戦争」なんて呼んでおり、音質への弊害も指摘されているわけですが、その良し悪しの議論はまた別の機会にすることにしましょう。

では、音圧アップをするにはどうするのでしょうか?各トラックの音圧を上げるのにはコンプレッサを用いますが、ミックスダウンした後の音圧を上げるのには、一般にマキシマイザーというものを用います。たとえばWAVESL1なんかが、その代表的な存在(L1自体は、もう古いプラグインで、L2、L3など次世代モノに変わってきてますが)。L1は比較的簡単に音圧を上げられたため、これが音圧戦争を激化させた……なんていわれていますが、今やL1的なマキシマイザーは各DAWにも標準で搭載されるようになりました。

ただ、実際に使ったことのある方ならご存じのとおり、マキシマイザーにも限界があり、ある程度を超えると、音のバランスが崩れてきてしまうんです。「せっかく、絶妙なバランスで各トラックを調整したのに、音圧を上げたら、その努力が台無しになってしまった……」なんて話をよく聴きますが、その辺がマキシマイザーの扱いの難しいところなんです。


DeeMaxを開発したミュージシャンのフランク重虎さん(左)とプログラムの実装をした飯島進仁さん(右)

と、前置きがずいぶんと長くなってしまいましたが、そこで登場してくるのが、今回のDeeMaxです。先日「ミュージシャン自ら開発した『仕事に使えるコンプ』が強力過ぎる!」という記事で紹介したミュージシャン、フランク重虎さん自身が開発したツールなのですが、まずは以下のビデオをご覧ください。

 


どうですか?このビデオではL1のような一般的マキシマイザーとして、SONAR標準のBoost 11 Peak Limiterを例に比較していますが、明らかに違うのが分かりますよね。

このDeeMax、見てのとおり、扱い方はいたって簡単。このレバーを上げていく。ただそれだけなんです。しかも音楽的なバランスを崩さずに音圧を思い切り上げていくことができるのは、ちょっと感動モノです。
 

操作はレバーを上げるだけと、あまりにも簡単すぎる使い方のDeeMax 

一般的にマキシマイザーというのは、波形のゼロクロスポイントで細かく分割した上で、それぞれの波形にノーマライズを掛ける仕組みになっています。でも、その方式だと低音のドーンというところも、ハイハットだけのチチチッという音も、全部同じ大きさに引き上げられてしまうため、明らかに周波数バランスがおかしくなってしまいます。でも、音楽作品を尊重した方法で、音圧を上げる方法はないだろうか……と試行錯誤した結果に作り上げたのが、このDeeMaxなんですよ」と重虎さんは語ります。


実際にオリジナルと一般のマキシマイザーを掛けたもの、そしてDeeMaxを使ったものを、拡大した波形で表示させたのがこれ。


波形の特性の違い。上からoriginal、一般的なマキシマイザー、DeeMax
 
これは、ごく短い時間に拡大した波形です。originalと比較し、maximizer Aは原音の流れに関係なく区間に分けて最大化するため余韻や周波数のミックスバランスが変わりやすいのに対し、DeeMaxは原音の流れを保って要所を最大化しています」(重虎さん)
なるほど、確かにマキシマイザーは何でも最大音量に持って行っているのに対し、DeeMaxなら波形の高さの違いは維持しながら、音圧が上がっている様子がよくわかりますよね。
 
さて、ここでぜひ確認してみたいのが、マキシマイザーとよく似た存在であるコンプレッサは何が違うのかということ。
「コンプは、音をメイクアップ(音量を持ち上げる)して、はみ出したところを潰すという仕組みです。そのため、波形自身が崩れてしまい、音が変わってしまうのです。それに対し、マキシマイザーは波形を崩さず、潰さない、歪ませないというメリットはあるけれど、バランスが崩れてしまうんですね。似たもののように捉えている人も少なくありませんが、コンプとマキシマイザーは、そもそもの仕組みがまったく違うんですよ」と説明してくれました。


以前、仕事で使えるコンプとしてとりあげた、フランク重虎さん開発のコンプレッサ、DeeComp 

一方で、聴こえ方や音質、音量などとはまったく異なる観点でもDeeMaxは他にはない大きな特性があるんです。それがレイテンシーです。
マキシマイザーは、音楽制作のときだけでなく、EDMなどで用いられることも多くなっています。この際、PA側でProToolsなどを経由して用いることもあれば、DJ側がAbleton Liveなどの出力に用いるケースもあるのですが、いずれの場合もマキシマイザーの構造上、どうしてもレイテンシーが大きくなり扱いづらいという欠点があるのです。それに対しDeeMaxは、一般のマキシマイザーの半分以下のレイテンシーに抑えることを実現しています」と重虎さん。

詳しい仕組みを解説すると、難しくなってしまうので、ここでは割愛しますが、ゼロクロスポイントで区切るマキシマイザーとは違う仕組みを使っているために、それを可能にしているようですよ。

DeeMaxはDeeCompで開発した技術を元に、特性を音圧増加に特化させ、多段化することよりマキシマイザーを構築しています。そのためレイテンシーの問題解決やゼロクロス区間ごとのバランスの崩れを特殊なリリースカーブを持つエンベロープにより解決しています。使うにあたってはスライダーを上げるだけのため非常に簡単です」と説明してくれました。

見てみてもユニークなのは、DeeMaxのデザインです。これについて、プログラムの実装を行った株式会社ふむふむソフトの社長、飯島進仁さんからは
出雲重機さんから気合の入ったデザインがきたので、実装側も通常のスライダーよりも、より立体感のある動きの実装をしています
と話されていましたが、この普通ではないデザインからも、パワーのある音が出そうなイメージがしてきますよね。


フリーウェアとしてリリースされたDeePanpotと同様の1パラメータなので、価格を安く設定した

でも、ここで気になるのが、DeeMaxの値段です。
先日リリースしたDeeCompが、多くの方から評価をいただけたのとともに、フリーウェアとして出したパンポットであるDeePanpotが大ウケだったので、今度も1パラメータのものを作ろうとDeeMaxを手掛けたんです。1パラメータだけなので、30ドルで買えるものにしようと開発を進めたのですが、自分が使う上で納得できるものにしたい、と何度も作り直しをしたため、予想していた以上にパワーがかかってしまいました(苦笑)」という重虎さん。その労力で考えると110ドルくらいを設定したいけれど、最初30ドルを目標としたので、12月いっぱいは29ドルで提供し、2016年からは49ドルにする、とのことです。世界に向けて発信するフランク重虎さんですから、価格はドル設定なんですね。29ドルといえば、現時点で3,600円程度でしょうか…。
 

2015年11月20日追記:
AU版がリリースされたので、Logicで使ってみたところ動きました。同じライセンスコードでオーソライズもできました


とはいえ、まずは無料で使うことができるので(一定時間以上使うとバイパスになる仕掛けになっています)、一度DeeMaxのすごさを体験してみることをお勧めします!

【追記】2015.12.30
新バージョンに関する記事「あの最強の音圧激上げツール、DeeMaxにTURBOボタンが搭載だ!」をUPしています。マスタートラックで使って歪む場合の対処法についても紹介していますので、参照してください。