音楽制作の世界に大きな変革をもたらしてきたLISTENTOが、ついに7月31日メジャーアップデートを果たしました。Abbey Road Studiosの一部であるAudiomoversが開発するこの遠隔コラボレーションツールは、世界中どこからでもロスレス音声を送受信できる画期的ソフト。
今回のv3では、チャンネル数の大幅増加、ファイルプレイヤー機能、強化されたユーザーインターフェースなど、多くの新機能が追加され、プロからアマチュアまで幅広いユーザーのニーズに応える進化を遂げています。特に注目すべきは、最大128チャンネルの同時送受信、4つのオーディオファイルの同期再生、複数ストリームの同時受信など、従来のリモートコラボレーションの概念を覆す機能となっています。個人での利用はもちろん、ゲスト機能により一時的なアクセス権の付与も可能になり、より柔軟な音楽制作環境を実現。そのLISTENTO App v3がどのような進化を遂げているのか、事前に公開されていたLISTENTO App v3のベータ版を試してみたので、主要な新機能を中心に詳しく紹介していきましょう。
LISTENTOとは?
LISTENTOは、インターネットを通じてリアルタイムに高品質なオーディオを送受信できる遠隔コラボレーションソフトウェア。たとえば、東京のスタジオで録音した楽器の音を、海外のエンジニアがリアルタイムでモニタリングしながらミックス作業を行ったり、自宅でボーカリストが歌った声をスタジオのプロデューサーが瞬時に聞きながらディレクションすることが可能になります。
音楽制作に特化して設計されており、ロスレス音質での配信や低レイテンシ通信を実現。従来のビデオ会議ツールとは異なり、音楽制作に必要な高音質と低遅延を両立させているのが大きな特徴です。DAWプラグイン版とスタンドアロンアプリケーション版で提供されており、DAW内から直接送信したり、オーディオインターフェースの出力を丸ごと配信するなど、用途に応じて使い分けることが可能。今回のアプリケーション版v3により、従来の製品では実現できなかった多機能で柔軟な運用が可能になりました。
最大128チャンネルの同時送受信に対応
LISTENTO App v3で最も印象的な進化は、なんといってもチャンネル数の大幅な増加でしょう。v3では最大128チャンネルまでの送受信に対応し、Dolby Atmosのような立体音響制作はもちろん、大規模なオーケストラレコーディングのリモートモニタリングまで、幅広い用途に対応できるようになりました。
また操作面も大きく改善され、新しいTransmitter画面では、チャンネルの追加や削除が非常に直感的に行えるようになりました。「Add Channel」ボタンをクリックすると、追加したいチャンネル数を入力できるポップアップが表示され、一度に複数チャンネルを設定可能です。さらに、各チャンネルには個別に名前を付けることができ、この名前は受信側でも表示されるため、大規模なセッションでもチャンネルの把握が容易になりました。
入力チャンネルの選択も柔軟で、オーディオインターフェースからの物理入力だけでなく、後述するオーディオファイルプレイヤーからの信号も選択可能。さらに、MacではOption+Select、WindowsではAlt+Selectで同一チャンネルを複数に一括割り当てしたり、Option+Shift+Select(Alt+Shift+Select)で連番での一括割り当ても可能など、大量のチャンネル設定を効率的に行える機能も搭載しています。
4つのオーディオファイルを同期再生できるファイルプレイヤー機能
続いてv3で新たに追加されたオーディオファイルプレイヤー機能について。この機能は、リモートコラボレーションの可能性を大きく広げる画期的な機能で、最大4つの異なるオーディオファイルを読み込み、それらを同期して再生できるため、複数のバージョンを瞬時に切り替えながら比較検討することが可能。
対応しているオーディオファイル形式は、WAV、MP3、MP4、M4A、AAC…などと幅広く、ファイルを選択すると、そのチャンネル数に応じて入力セレクタにオプションが表示され、Transmitterチャンネルに直接割り当てることができます。
この機能により、楽曲の異なるミックスバージョンを複数用意しておき、リモート会議中に瞬時に切り替えながら比較検討するといった使い方ができます。受信側では送信者が選択したファイルの音声が聞こえるため、A/Bテストが非常にスムーズに行えるようになります。
分離されたTransmitterとReceiverで向上した操作性
またユーザーインターフェースの大幅な刷新が行われ、LISTENTO App v3では、TransmitterとReceiverが明確に分離、送信と受信それぞれの操作が格段に分かりやすくなりました。
Transmitter画面の改善点を見てみましょう。上部パネルに基本的なコントロールが整理され、セッション名の設定、パスワード保護、リスナー管理などが一目で確認できるようになりました。また、各種表示オプションのトグルも用意されており、MIDIアクティビティインジケータ、オーディオファイルプレイヤー、モニターミキサー、設定画面、ストリーム情報の表示・非表示を自由に切り替えられます。
一方、Receiver画面も同様に整理され、複数のストリームを同時受信する際の管理が非常に分かりやすくなりました。最大4つのLISTENTOストリームを同時に受信でき、それぞれのセッション情報、チャンネル数、音質設定などが一覧表示されます。各ストリームは色分けされているため、どの信号がどのセッションからのものかを直感的に把握できるのも嬉しいポイントです。
MIDIストリーミングとMTCジェネレータ機能
そしてオーディオだけでなくMIDI信号のストリーミングにも対応しました。これはProプランのユーザー向けの機能で、MIDIコントローラからの演奏データはもちろん、DAWからのMIDIタイムコードやオートメーションデータなどを送信することも可能になりました。さらに注目すべきは、Receiver側に搭載された内蔵のMTCジェネレータ機能です。この機能により、受信したLISTENTOストリームのセッションタイマーからMIDIタイムコードを生成できるようになりました。つまり、DAW外部同期を行い、リモート環境でも正確なタイミング同期を実現できるのです。
この機能では、フレームレートの選択、オフセット設定、出力先の指定など、プロフェッショナルな用途に必要な機能が網羅されており、放送やポストプロダクションでの利用も想定されています。
強化されたモニターミキサーとルーティング機能
またモニターミキサー機能の大幅な強化が行われ、v3ではより細かな音響制御が可能になりました。具体的には、Transmitter側で送信チャンネルをステレオで監視できるモニターミキサーが追加され、レベル、パン、ミュート・ソロの制御が可能になりました。さらに重要なのは、Receiver側で受信したストリームの各チャンネルを個別に出力先にルーティングできるようになったことです。
この機能の実用性を考えてみると、たとえば128チャンネルのオーケストラ録音を受信しながら、ヘッドホンにはステレオミックスダウンを、外部レコーダには全チャンネルをディスクリートで出力するといった複雑なルーティングも簡単に実現できます。出力チャンネルの設定も非常に柔軟で、システムで利用可能なすべての出力デバイスから選択でき、プロ用オーディオインターフェースの多数の出力を効率的に活用できます。
円滑なコミュニケーションを実現するトークバック機能
リモートレコーディングにおいて不可欠なのが、演奏者とディレクターやエンジニアとの間のコミュニケーション。この点もv3では大きく進化しており、新たに専用のトークバック機能が搭載されました。UI上部のパネルに、このトークバック専用の入出力デバイス選択メニューが用意されており、メインのストリームとは別に、会話用のオーディオ経路を簡単に設定できるようになりました。
これにより、たとえばプロデューサーは自分のマイクをトークバック入力に、ボーカリストは自分のヘッドホンをトークバック出力に設定するだけで、お互いの声のやりとりが可能になります。メインの演奏は高音質なストリームで送りつつ、会話はトークバック機能で行うという、プロのレコーディングスタジオさながらの環境が、リモートでも直感的に構築できるようなりました。
ローカルビデオファイルの同期再生機能
以上のような主要な新機能に加えて、ほかにも便利な機能が多数搭載されていますが、注目したいのがローカルビデオファイルの同期再生機能です。Receiver側では、読み込んだローカルのビデオファイルを、受信しているLISTENTOストリームのセッションタイマーと同期させて再生できるようになりました。
対応している動画形式は、MKV、MP4、MOV、AVI、M4V、MPRG、MPG、WBM、3GP、FLVと豊富で、ドラッグ&ドロップで簡単にファイルを読み込めます。Syncボタンをオンにして同期したいストリームを選択すると、ビデオが自動で再生されます。たとえば送信側がDAW上のプラグインからストリーミングしている場合、DAWの再生位置がセッションタイマーとして共有されるため、受信側では映像とDAWの再生をぴったり同期させることが可能です。これにより、映像に合わせた音楽制作のリモートチェックや、音楽ビデオのオーディオビジュアル同期確認などが、スムーズに行えるのです。
ゲストパス機能でより柔軟なコラボレーション
さらにゲストパス機能でより柔軟なコラボレーションが可能になりました。新機能であるゲストパス機能は、LISTENTOのサブスクリプションを持たないコラボレータに対して、3時間限定の一時的なアクセス権を付与できる機能。
使い方は非常にシンプルで、招待はメールアドレス指定で行い、受信者は専用のログイン情報を受け取ります。この一時アカウントでは、アプリケーション、プラグイン、Web Transmitterの全機能を利用でき、まさにLISTENTO Proと同等の機能を利用できるのです。楽器レコーディング、ボーカル録音、ナレーション収録など、短期間のセッションでの利用や、教育現場での学生への一時アクセス権付与などが考えられます。制作現場の柔軟性を大幅に向上させる便利な機能ですね。
セキュリティ機能とリスナー管理の強化
またセキュリティ機能も強化され、v3では、これまで以上に安全で管理しやすいストリーミング環境が実現されました。特に重要なのがリスナー承認機能。この機能を有効にすると、ストリームリンクを知っていても、送信者の許可なしには音声を聴くことができなくなります。接続を試みるユーザーは名前の入力を求められ、送信者側のリスナーリストで個別に承認・拒否を決定できる仕組みとなります。
パスワード保護機能により、ストリームアクセス時にパスワード入力を必須にすることも可能になり、パスワードはセッション中にいつでも設定・変更・削除でき、突発的な状況変化にも柔軟に対応できます。その他にも、セッション開始時に毎回ランダムなセッション名とリンクを生成する設定や、リモートレコーダの無効化設定なども用意されており、用途に応じて適切なセキュリティレベルを選択できるようになっています。
以上、LISTENTO App v3について紹介しました。音楽制作の遠隔コラボレーションツールとして、チャンネル数の大幅増加、ファイル同期再生、強化されたユーザーインターフェース、ゲストパス機能など、数多くの革新的な機能が追加されました。LISTENTO Pro 1年間ライセンスは、32,600円(税込)と少々高額ですが、今後はDTMer向けのBasic版も日本に登場する予定とのこと。ぜひ、この機会にリモートでの音楽制作を試してみてはいかがでしょうか?
【関連情報】
LISTENTO製品情報
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