DTMステーションでも以前紹介した、CASIOのAI効果音生成サービスWaves Placeが、3月25日にアップデート・公開されました。Waves Placeは、テキストのプロンプトを入力するだけで効果音をAIが生成してくれるウェブサービス。今回のアップデートでは、1980年代の音楽シーンを牽引したCASIOのヴィンテージ楽器、VL-1、SK-1、MT-40のサンプルライブラリが新たに追加されています。
追加されたサンプルライブラリは、サブスクリプションではなく買い切り方式となっており、テクノポップムーブメントを支えたVL-1が1,100円(税込)、サンプリング文化を広めたSK-1が2,180円(税込)、そしてレゲエ界に革命を起こしたMT-40が4,980円(税込)で購入可能です。これらの音源はすべて商用利用可能となっており、クリエイターの制作環境に新たな選択肢をもたらす強力なツールとなっています。音楽史に名を刻んだVL-1、SK-1、MT-40のそれぞれの特徴を振り返りながら、今回のアップデートで実際どのようなサウンドが提供されているのか、詳しく紹介していきましょう。
AI効果音生成サービスWaves Placeのおさらい
CASIOがクリエイターエコノミー事業への本格参入を発表したのが、2025年8月27日。スマートフォンの普及によって個人の発信力が増大し、働き方の多様化で可処分時間が増加するといった背景から、新規事業において「創る」「稼ぐ」「営む」という3つの価値をクリエイターに提供していくことを掲げています。これは、同社の既存サウンド事業である、電子楽器という「弾く」ための機材を提供する領域から、さらに大きく踏み出す戦略。
単に演奏する道具を提供するだけでなく、音楽制作そのものを支援する「創る」ためのツール、作品を発表し収益化する「稼ぐ」ためのプラットフォーム、そしてクリエイターが活動を継続していくための「営む」ビジネス運営支援まで、クリエイティブ活動の全方位をサポートしようという構想となっています。その制作支援ツールの要として誕生したのが、AIを活用して効果音を生成するウェブサービス、Waves Placeというわけです。
Waves Placeについては、以前「プロンプトを入力すると、無料で思い通りのサウンドを生成できる!?AIで効果音を作り出すCASIO「Waves Place」の威力」という記事でも紹介していますが、このサービスはテキストでプロンプトを入力するだけで、目的の効果音を生成してダウンロードすることが可能というもの。生成された音に対して別のバリエーションを作成したり、ほかの人が生成した似ている音を検索したりする機能も備わった、次世代のサンプリング素材サービスとなっているのです。
料金プランは、生成した効果音の数やダウンロード数に応じてクレジットを消費するシステムを採用。毎月20クレジットが付与され無料でお試しができる商用利用不可のFreeプランをはじめ、月額980円(税込)で800クレジットが付与されるStarterプラン、月額2,480円(税込)で2200クレジットのStandardプラン、そして月額4,980円(税込)で5000クレジットが付与されるCreatorプランが用意されています。なお、Starterプラン以上の有料プランで生成した効果音であれば、自由に商用利用が可能となります。
リリース後、非常に多くのユーザーを獲得したWaves Placeですが、クリエイターからのフィードバックの中には、プロンプトを入力しても即座に意図した効果音が得られないといった、生成精度に関する厳しい声も含まれていました。こうした意見に対し、CASIOの開発陣は真摯に受け止め、今後のAI効果音モデルの対策・方針を検討していくとのこと。その一方で今回の大型アップデートでは、AI生成とは異なるアプローチによってクリエイターの創作活動を支援する、新たな機能が実装されることになりました。
80年代ヴィンテージ音源を追加したプラットフォームへ
今回のアップデートの目玉となるのが、CASIO楽器音源販売機能の追加です。AIによる効果音生成機能に、CASIOが持つ歴史的な楽器音源という価値を掛け合わせることで、Waves Placeはさらに魅力的な「音素材提供プラットフォーム」へと進化しました。
今回登場したのは、1980年代の音楽シーンを牽引したCASIOの電子キーボード、VL-1、SK-1、MT-40の3機種。当時、実際にこれらのモデルに触れていた世代、あるいは当時の音楽シーンを知っている世代にとっては、たまらなく懐かしいサウンドが本家より蘇った形です。聴き馴染んだあの音を今の制作環境でそのまま鳴らせる喜びはもちろん、かつての名機を手元に揃えるというコレクション的な楽しみもあるのではないでしょうか。
また、Lo-Fi系やチップチューンなどを手掛けるクリエイターにとっても、強力なツールとなるはずです。ソフトウェア音源が高音質でクリアなサウンドを当たり前に鳴らせる今だからこそ、80年代特有の少しチープでレトロな電子音をアクセントとして使うことで、楽曲に独自の個性を生み出すことができると思いますよ。
販売される音源は、AI効果音のサブスクリプションモデルとは異なり、すべて買い切り方式となっています。一度購入した音源は、そのユーザーに限って何度でも利用でき、もちろん商用利用も可能。実機からサンプリングされた純粋なサウンド素材が手に入るのは、CASIO公式サービスならではの大きな特徴なのです。
テクノポップムーブメントを支えたシンセサイザVL-1
今回追加される音源のうち、まずはVL-1から見ていきましょう。VL-1は1981年にCASIOから発売された、電卓とミュージックシーケンサーを一体化させた非常にユニークな電子キーボード。
当時はYMOをはじめとするテクノポップムーブメントが全盛期を迎えていました。しかし、本格的なアナログシンセサイザーは数十万円、あるいは百万円以上もする高価な機材であり、一般の音楽ファンや学生には到底手が届かない代物だったのです。そうした状況の中、当時の本格的なシンセサイザーと比較して安価でありながら、テクノ特有の電子音を出すことができるVL-1は、当時としては画期的な存在でした。モノフォニックシンセサイザーとしての機能も備えており、音の立ち上がりや減衰をコントロールするADSR、アタック、ディケイ、サステイン、リリースを数値で入力して音作りがすることができ、初めて買ったシンセがVL-1という方も多いのではないでしょうか。
またVL-1はプロの音楽制作の現場でも重宝され、有名なエピソードとして、ドイツのバンドであるトリオが1982年に発表した世界的ヒット曲「Da Da Da」において、VL-1のプリセットリズムであるRock-1と内蔵音源がそのまま使用されていたりします。チープでありながらも存在感のあるサウンドは、当時の音楽シーンに大きなインパクトを与えていました。
Waves Placeでは、このVL-1に内蔵されているトーンやリズム、ワンショット素材が一式セットになり、1,100円(税込)で購入可能。現在でも色褪せない80年代の電子音を、現代のDAWへ手軽に取り込むことができますよ。
サンプリング文化を定着させた名機SK-1
続いて、1986年に発売されたSK-1です。このモデルは、サンプリングキーボードという概念を広く一般に定着させた歴史的な名機。
本体にマイクを内蔵し、人の声や犬の鳴き声、あるいは身の回りの生活音を録音して、それを音階として鍵盤で演奏できるサンプリング機能は、当時としては最先端のテクノロジーでした。1980年代半ばにおけるサンプラーといえば、数百万円クラスのプロフェッショナル専用の高価な機材しか存在しませんでしたが、CASIOはそうした高度な技術を小型のキーボードに落とし込み、誰でも簡単にサンプリングを楽しめるようにしたのです。
当時のカタログには、音を覚えてドレミで弾けるというキャッチコピーが記載されており、SK-1は累計販売台数100万台以上という大ヒットを記録しました。スペック面を見ると、8bit PCMでサンプリング周波数は9.38kHz程度と、現代の基準からすると非常に限られたものでした。しかし、そのザラッとしたLo-Fiな質感が独自のキャラクターとして現在でも高く評価されています。
Waves Placeでは、SK-1の内蔵トーン、リズム、ワンショット素材一式が2,180円(税込)で入手可能。ローファイ系やチップチューンといったジャンルにおいて、この独特な音の荒さは、楽曲のスパイスとして活用することができますよ。CASIOのキーボード開発の歴史やSK-1の開発背景については、以前掲載した記事「アナログからデジタルへ、そして中心はPCM音源へ。1986年発売の100万台以上の大ヒット商品サンプリングキーボードSK-1開発の裏側」でも詳しく解説しているので、ぜひそちらもご覧ください。
レゲエに革命をもたらしたスレンテンことMT-40
3つ目のモデルであるMT-40は、1981年に発売されたミニキーボード。このモデルは、音楽の歴史、とりわけレゲエの歴史において極めて重要な意味を持つ存在となっています。
その理由は、MT-40に内蔵されているRockというプリセットリズムパターンにあります。1985年、ジャマイカのレゲエシンガーであるウェイン・スミスが発表した「Under Mi Sleng Teng」という楽曲において、このMT-40の内蔵リズムパターンがそのまま使用され、世界的な大ヒットを記録しました。それまでのレゲエシーンは、生ドラムと生ベースによるバンド演奏が主体でしたが、この曲の登場をきっかけに、リズムマシンやシンセサイザーなどの打ち込み機材を用いた音楽制作、コンピュータライズドレゲエという新しいスタイルが一気に普及したのです。のちにスレンテン・リディムと呼ばれるようになったこのサウンドは、当時の音楽雑誌でレゲエ界の救世主であると評されるほど、多大な影響を与えました。
実はこのリズムパターンは、当時CASIOの新入社員であった開発者の奥田広子さんが、イギリスのロックレコードなどを参考に制作したものであり、その数奇な運命や開発秘話については、以前掲載した記事「レゲエに革命をもたらした「スレンテンの母」、CASIO奥田広子さんが語るカシオトーンMT-40開発秘話」でも紹介しています。
Waves Placeでは、このMT-40の内蔵トーンやリズム、ワンショット素材に加え、スレンテンリズムを含むループ素材一式がセットになり、4,980円(税込)で購入できます。音楽の歴史を変えた独特なグルーヴを、CASIO公式の商用利用可能な素材として音楽制作に活用できますよ。
音源を一元管理する便利機能も
購入したサンプルは、一度にダウンロードして自分のPC内で管理するだけでなく、Waves Place上から必要なときにダウンロードしたり、管理したりすることが可能となっています。VL-1だけでもサンプル数は1423個もあり、通常であればこれだけの数があると、目的のサウンドにたどり着くためには、少し手間が掛かりそうですよね。
そんな中、Waves Place上には便利な機能がいくつも搭載されているので、これらを使えば簡単に自分の楽曲に合うサウンドを見つけることができるのです。画面上部には検索機能が搭載されており、ここに楽器やパターンを入力することで、収録されているサンプルの中から目的のサウンドへ一発でアクセス可能です。また、絞り込みもできるようになっており、ここからすばやくたどり着くことができます。
また、各サンプルにはメモやタグ、お気に入りを付けることができ、一度見つけたいい感じのサンプルへも再度アクセスしやすくなっています。マイリストから、Waves Placeの生成音や購入音を合わせて確認できるので、一度設定してしまえば、VL-1、SK-1、MT-40を分けることなく、一括で自分の楽曲に合うサウンドを見つけられますよ。
もちろん、ウェブページ上でサンプルを再生して確認したり、そのまま個別にダウンロードすることも可能。また、購入前にいくつかのサウンドを試聴することもできるので、安心して導入できるというわけです。
以上、Waves Placeの大型アップデートについて紹介しました。歴史的名機であるVL-1、SK-1、MT-40のサウンドが手軽に、しかも商用利用可能な形でDAW環境に取り込めるようになるのは、多くの音楽制作者にとって有用な選択肢となるはず。AI効果音生成機能の利便性とあわせて、自分だけのサウンドライブラリを構築してみてはいかがでしょうか?
【関連情報】
Waves Place 公式サイト


















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