CASIOが、新たに「CASIO CREATOR ECONOMY」という、クリエイター・ファンの支援事業を開始しました。スマートフォンの普及やSNSの発展により、誰もがクリエイターになれる時代が到来し、市場が急速に拡大する中、CASIOはその長年の技術蓄積を活かしてこの新領域に乗り出したとのこと。その第一弾として、テキストの指示、いわゆるプロンプトからAIが効果音を生成するWebサービス「Waves Place」と、ライブ配信者向けのスケジューラーサービス「Streamer Times」が、8月27日からスタートしています。
特に注目すべきは、このWaves Place。楽曲制作において、イメージ通りのサウンドを探す作業は大変ですよね。何十万とある素材ライブラリを検索しても、求める音が見つからなかったり、見つかっても「もう少しだけニュアンスが違えば…」と妥協したりした経験は、多くの方が持っているはず。そんな中Waves Placeは、そうした課題をAIの力で解決しようとする画期的なサービスとなっています。たとえば「木製のドアがゆっくりと開く音」や「タイピングの音」といったテキストを入力するだけで、AIがサウンドを生成してくれるのです。まずは無料で試すことができ、無料の「Free」プランでは月に20回まで生成を試すことが可能。実際に、試してみたので紹介していきましょう。
カシオが打ち出す「CASIO CREATOR ECONOMY」とは
CASIOといえば、これまでDTMステーションでもCT-S1000Vなどを紹介してきましたが、ご存知の通り楽器メーカーとして確固たる地位を築いている企業。そんなCASIOが2025年8月27日、クリエイターエコノミー事業への本格参入を発表したのです。
CASIOでは、この新規事業において「創る」「稼ぐ」「営む」という3つの価値をクリエイターに提供していくことを掲げており、同社の既存サウンド事業、電子楽器という「弾く」ための機材を提供する領域から、さらに大きく踏み出すものとなっています。単に演奏する道具を提供するだけでなく、音楽制作そのものを支援する「創る」ためのツール、作品を発表し収益化する「稼ぐ」ためのプラットフォーム、そしてクリエイターが活動を継続していくための「営む」ビジネス運営支援まで、クリエイティブ活動の全方位をサポートしようという構想となっています。
その第一歩として、まずは既存事業とのブランド親和性や市場規模を考慮し、「音楽制作」と「ライブ配信」という2つのテーマに絞ったサービスをリリースしました。
一つは、ライブ配信者、ストリーマーとリスナーをつなぐ、番組表型のスケジューラーWebサービス「Streamer Times」。これは、これまで配信スケジュールがSNSなどで個別に告知されることが多く、リスナー側が見逃しやすいという課題を解決するためのサービス。Streamer Timesでは、このスケジュール情報をプラットフォーム上で一元管理し、テレビ番組表のように見やすく提供することで、ファンによる見逃しを防ぎ、クリエイター・ファンの活動を支援する仕組みとなっています。
そしてもう一つのサービスが、「Waves Place」となっています。これは音楽制作をテーマとしたサービスであり、簡単にいうとAIを活用して、狙い通りのサウンドを生成するというもの。
テキストから効果音をAI生成する「Waves Place」
楽曲の中に効果音や環境音、特定のサウンドなどを取り入れたい場面は数多くありますよね。しかし、従来のサンプリング素材サービスでは、多くのクリエイターが悩みを抱えていたというのです。2025年のCASIOの調査によれば、「欲しい効果音がそもそも見つからない・存在しない」「見つかっても、全体の中で一部分だけが気に入らない」「日本語での検索が難しい」「検索自体が大変で時間がかかる」といった声が多数寄せられていたとのこと。
そんな悩みを、AIの力で根本から解決しようとするWebサービスが「Waves Place」というわけなのです。またCASIOの調査によれば、効果音やSEを扱う可能性のある国内のクリエイター人口は約486万人、そのうち実際に効果音を使用しているクリエイターは約329万人にも上ると推計されています。Waves Placeは、まさにこの膨大な数の人々、打ち込み系のサウンドクリエイターやバンド活動を行う音楽クリエイター、動画クリエイター、インディーゲームを含むゲームクリエイターなど、効果音を扱うすべての人をメインターゲットに据えています。
Waves Placeを使いながら詳しく紹介
では、実際にWaves Placeを使いながら、どんなサービスとなっているのか、見ていきましょう。まずは、Waves Place(https://wavesplace.casio.com/)にアクセスしてみると、テキストを入力して、サウンドを生成できるようになっています。
とはいえ、利用するにはまずはCASIO IDが必要なので、登録を行っていきます。最初にあった生成ボタンを押すと、自動的にスクロールダウンして、ページの下の方に行くので、そこにある「CASIO IDを作成して、まずはFreeプランで開始」ボタンをクリックします。もちろん右上にある「登録/ログイン」ボタンからアクセスしてもOKです。すると、CASIO IDを作れるページに移動するので、ほかのサービスと同様に登録を行っていきます。
上記の画像にある通り、料金プランは4種類。後ほど詳しく紹介しますが、Freeプランでは生成だけ可能で、有料プランはサウンドをダウンロードして自由に使うことができるようになっています。有料プランのそれぞれの違いは、生成回数の違いだけですね。Freeプランは、名前の通り無料で使えるので、まずは試してみてください。せっかくなので、ここでは有料プランはどのようになっているのか、見ていきますね。
では、さっそく最初の画面で、プロンプトを入力して生成していきます。まずは、例と書いてあるように、「木製のドアがゆっくりと開く音」と入力してみました。
すると、画面が切り替わり、さらに詳しい設定を行う画面になりました。上に入力したプロンプトが表示されていて、ここを編集して、さらに状況を詳しく書いたり、また別のプロンプトを入力できるようになっています。その下には、「AIでプロンプトを最適化」があり、これをクリックするとプロンプト自体がAIによって伝わりやすい内容に変更されるようです。うまく生成できないときは、これをクリックしてみるといいと思いますよ。
続いて、「プロンプトの忠実度」という項目で、狙い通りのサウンドを生成するか、もっとユニークで新たなアイディアを生成するか調整でき、音の時間で生成するサウンドの長さ、生成数で一度にいくつのサウンドを生成するか決めることが可能です。まずはデフォルトの設定で生成してみました。
生成が完了すると、右側にそのデータが表示され、再生ボタンを押すと試聴することが可能。メモを追加したり、タグやお気に入り登録も行うことが可能で、ダウンロードアイコンをクリックすると、そのまま44.1kHz/16bitでダウンロードを行うことができます。
また、「>」ボタンを押すと、WAV、AIFF、MP3、M4Aといったフォーマットから選択することもできます。なお、WAVの場合は44.1kHz/16bit/ステレオ形式での書き出しのみに対応となっています。
下にスクロールすると、似ている音という項目もあり、ほかの人が生成した、近いサウンドを確認したり、ダウンロードできるようにもなっています。自分が生成したサウンドよりも気に入ったものがあれば、ここからサウンドを選択してもいいですね。またその選んだサウンドを元に、プロンプトを追加して、自分の作品に合うようにしていくといった使い方も可能です。
そして、「バリエーションを1つ生成」ボタンを押すと、同じプロンプトを使った別バージョンのサウンドを生成することも可能です。これにより、元の音のニュアンスや特徴を引き継ぎつつ、少し異なるパターンの音をAIに次々と提案させることができます。イメージにあと一歩届かない惜しい音を、理想の音に近づけていくことができるようになっていますよ。
基本的な使い方は以上。誰でも使えるシンプルなサービスとなっていますね。プロンプトを入力して、少しパラメータを調整して、生成。そこから気に入るものを探していく、といった流れです。ほかにも、Waves Placeでは、データベース内に存在するほかのクリエイターが生成した音を検索することができます。
検索窓に直接ワードを入力して探したり、ジャンルを選んで、その中から探したり。ジャンルを絞った後に検索して、狙ったサウンドを探したり…など、従来のサウンドライブラリからサウンドを探すのと同様な使い方も可能。
従来のサウンドライブラリと違う点は、そこからほかの人が生成したサウンドを元に、そこで使われたプロンプトを自分でも使ったり、バリエーションを生成したりすることもできる点。ゼロから生成してもいいし、「こういった音いいかも」というところから、自分の作品に合う音を作れるのは、Waves Placeならではですね。
ユーザーの使用状況によって使い分けれる価格プラン
料金プランは、前述の通り4つ用意されています。まず「Free」プランは月額0円(税込)で、毎月20クレジットが付与されます。AI生成の感触を試したりするプランですね。Waves Placeは、サウンドの生成時または、ほかの人が生成したサウンドをダウンロードするときにクレジットを使用するタイプなので、Freeプランであれば、無料で月20個までサウンドが生成できるようになっているわけですね。なお、このプランでは生成オンリーとなっているので、ダウンロードして使う際は、有料プランにする必要があるようです。
そして商用利用が可能な有料プランは、3段階用意されています。月額980円(税込)で800クレジット/月が利用できる「Starter」プラン。月額2,480円(税込)で2,200クレジット/月の「Standard」プラン。そして、月額4,980円(税込)で5,000クレジット/月の「Creator」プランです。本格的に楽曲制作や動画制作で効果音を多用するユーザーは、これらのプランが選択肢となりますね。まずは無料プランでAI生成の精度や使い勝手を試し、自分の制作スタイルに合うと判断したら有料プランに移行する、というのが現実的な流れになりそうです。
Waves Place担当者に聞く、開発の背景と未来
今回、このWaves Placeについて、開発を担当するCASIO サウンド・新規事業部 第二戦略部 第一企画室の石崎さんに、オンラインでお話を伺うことができました。
ーーCASIOがクリエイターエコノミー事業、そしてWaves Placeを始めた背景を教えてください。
石崎:私たちはサウンド・新規事業部に所属しており、既存の鍵盤事業、つまり「弾く」ところから、さらに「創る」「稼ぐ」「営む」といった領域へ事業を拡張していくミッションを持っています。以前取り上げていただいた「TONEBOOK」なども、実は同じ部署で担当しており、CASIOとして新しい取り組みを連続的に行っている一環となります。その中で、音楽制作やライブ配信といったクリエイターエコノミーの市場が急速に拡大していることに着目し、今回の事業がスタートしました。
ーーWaves PlaceのAI部分はCASIOが開発したものなのでしょうか?
石崎:Waves PlaceのAIモデルの根幹部分は、Aldea Lab社の技術を活用しています。現在、このAIモデルには約40万音以上のデータを学習させていて、AIはこれらの音をそのまま素材として出しているのではなく、学習した内容をAIが自ら組み合わせて新しい音としてアウトプットする仕組みとなっています。ですから、たとえば「宇宙で遊泳している音」のような、現実には存在せず、学習データにないような、あまりにも突飛なプロンプトでは、AIも音を生成するのが難しい場合があります。
ーーたしかに実際に使ってみると、得意な音と苦手な音があるように感じました。
石崎:おっしゃる通り、サービス開始時点の正直な感想として、生成精度はまだ改善の余地が大きいと認識しています。これはMVP(Minimum Viable Product:実用最小限の製品)としてリリースし、ユーザーのフィードバックを得ながら改善していくという開発手法をとっているためです。特に「波の音」や「動物の鳴き声」といった環境音、自然音の生成は現状苦手としています。一方で、UIのクリック音のようなシステム音や、単音としての楽器音のプロンプトでは、比較的良好な結果が得られることもあります。
ーー最後に今後のアップデートについて教えてください。
石崎: 現在、ユーザーのみなさんがどのような音を求めているのか、どういったプロンプトが入力されているのかを詳細に分析しています。そのニーズと現在の生成精度とのギャップを埋めるために、協業するAldea Lab社と共に、追加学習やAIモデルのファインチューニングを早急に進めていく予定です。現状はまだ発展途上であるため、AIが生成した音をそのまま100%完成品として使うというよりは、ダウンロードした音をDAWなどでさらにEQ処理やエフェクト加工をして、自分だけのオリジナル素材として活用していただく、といった使い方から始めていただけると嬉しく思います。
ーーありがとうございました。
以上、CASIOが新たにスタートさせたAI効果音生成サービス「Waves Place」について紹介しました。担当者の石崎さんが率直に語っていただいたように、まだまだ生成されるサウンドには課題があるのも事実。これが実際に実用レベルまで改善されれば、かなり強力なツールとなりそうですね。CASIO IDを登録さえすれば無料で使えるので、一度Waves Placeを試してみてはいかがでしょうか?
【関連情報】
Waves Place 公式サイト



















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