無料で使えるRolandのDAW、Zenbeatsの新バージョンに搭載された音源ZC1と、ZENOLOGY ProやJUPITER-X/Xm、FANTOMとのシームレスな関係

すでに入手した方も少なくないと思いますが、9月25日、RolandのDAW、Zenbeatsがバージョンアップし、Zenbeats 2.0になりました。Windows、macOS、iOS、Androidと4つのプラットフォームで同じように使えるZenbeatsは、基本的に無料で利用できるDAWで、気軽にスケッチをするように音楽制作ができるソフトウェア。そのZenbeatsが2.0になり、ZC1という強力な音源が新たに搭載されました。

このZC1はRolandの「ZEN-Coreシンセシス・システム」という最新のエンジンを搭載した音源で、ハードウェアシンセであるJUPITER-XやJUPITER-Xm、またFANTOMなどと互換性を持つシンセサイザなのです。またZenbeats 2.0の登場と同じタイミングでリリースされたRoland Cloudのソフトウェア音源、ZENOLOGY Proとも互換性があり、音色データのやり取りが可能。つまりPCで作成した音色をiPhoneやAndroidに送って演奏させることができるようになったのです。実際、それぞれがどのような関係になっているのかを整理するとともに、具体的な活用方法について紹介してみましょう。

RolandのDAW、Zenbeas 2.0が登場するとともに、ZENOLOGYと互換性のある音源ZC1を搭載

Zenbeats、ZENOLOGY、ZEN-Coreと頭にZenが付く用語がいろいろ出てきて、混乱している方も少なくないのでは……と思います。先にこの3つを整理すると

Zenbeats  ……  DAW
ZENOLOGY ……  ZEN-Coreエンジンのソフトウェア音源
ZEN-Core  ……  シンセサイザエンジン

となっており、この9月25日にZenbeatsの新バージョン2.0が登場するとともに、ZENOLOGYの上位バージョンZENOLOGY Proがリリースされたのです。またZenbeats 2.0にはZEN-Coreエンジンを搭載したZC1というZENOLOGYとも互換性を持つ音源が搭載され、多彩な音源が利用できるDAWへと進化しているのです。

ZenbeatsにZEN-Coreのエンジンを持つ音源、ZC1を搭載

では、それぞれを順番に見ていきましょう。まずはZenbeatsから。1年前にZenbeatsが登場した際「RolandがDAWへ再参入! Windows、Mac、iOS、Androidでも使える新世代音楽制作アプリ、Zenbeatsの実力」という記事を書いているので、そちらも参考にしていただきたいのですが、基本的には誰でも無料で使えるDAWなので、とりあえず入手して試してみて損はないと思います。

ただし、無料の場合は使えるエフェクトスロットの数に制限があったり、プリセット音色に制限があるため、有料版を入手することで、そうした制限が解除されるようになています。また、Windowsだけ制限解除するとか、iOSだけ制限解除する場合は個別のプラットフォームの有料版(iOSおよびAndroidは14.99ドル、WindowsおよびmacOSは49.99ドル)を入手すればいいのですが、複数のOSで制限を解除するとともに各種コンテンツも欲しいという場合にはUltimate Unlock(149.99ドル)というものがあるので、これが割安です。しかも、今なら、2.0のデビューキャンペーンとして、期間限定でUltimate Unlockを99.99ドル(Upgradeは49,99ドル)となっているので、チャンスではあります。

Roland CloudのメニューとしてZENOLOGY ProとZenbeats 2.0が同時にリリースされた

さらに、今回のZenbeats 2.0がリリースされたタイミングで、Roland Cloudの有料メンバーになれば、Ulitimate Unlockと同様にすべてのプラットフォームで利用可能になり、すべてのコンテンツも入手できるので、Roland Cloudメンバーになっていない人は、検討してみる価値はありそうです。Roland Cloudについては以前書いた「クラウド型のソフト音源サービス、Roland Cloudが大きく進化し、国内でも本格スタート。現行ハードウェア製品と音色互換を持つソフトシンセZENOLOGYもリリース」という記事も参考にしてみてください。

Zenbeats 2.0に搭載されたZC1のパラメータ自体は少ないが、中身は超強力なシンセサイザになっている

さて、無料版、有料版に関わらず、Zenbeats 2.0になったことでの最大のポイントはZC1というZEN-Core音源が搭載されたこと。無料版であってもZC1の60音色がすぐに利用できるので、これだけでも十分大きなインパクトだと思います。

無料版のZenbeats搭載のZC1でも60音色、有料版なら800以上の音色を備えている

有料版になれば、800を超える音色と90種類のMFX(エフェクト)が使用可能です。実際の音色プリセットを見てみるとアコースティックピアノ、アコースティックギターから、エレキギター、エレキベース、シンセリード、シンセパッド……とさまざまなサウンドが収録されています。もちろんドラムもアコースティック・ドラムからリズムマシンTR-808まで網羅されており、それがWindowsでもmacOSでもiOS、Androidでもまったく同じサウンドで鳴らすことができるというのは、かなり面白い世界です。ただし、ZC1は64bitOSでのみ動作する形となっているので、その点のみご注意ください。

Transfer Song機能を使うことでWIndowsからiPhone、AndroidからMacへなど、簡単にデータ転送ができる

このZC1はプリセットを選ぶだけでなく、エンベロープを動かしたり、フィルタを調整できるほか、エフェクトの設定などもできるようになっています。ただ、ZC1内部にあるさまざまなパラメーターにフルアクセスできるわけではなく、あくまでも触りだけ。とはいえ、実はその奥にはもっと面白い連携機能が用意されているのです。

ZC1にはMFX(エフェクト)も搭載されており、パラメータの設定ができる

前述の通りZC1はZEN-Coreエンジンによるシンセサイザ音源であるたり、ほかのZEN-Coreエンジンのシンセサイザとのデータ互換性を持っているのです。そう、ZC1のメニューを見ると「SVZのインポート」、「SVZのエクスポート」というがあり(有償のUnlock版のみで、無償版は非対応です)、これを使うことで、ZENLOGY ProやJUPITER-Xとデータのやり取りができ、それぞれの環境でまったく同じ音色を再現することができます。

SVZのインポート/エクスポートでZENOLOGYとの音色データのやりとりが可能

つまり、今回新しく登場したZENLOGY Proを使ってオリジナル音色を作った上で、それをZC1に持って行くことができるわけなのです。ただし、いくつか制限事項もあるので、その点について少し補足しておくと、ZENLOGY ProやJUPITER-XにはMODEL Expansionという拡張機能を持っています。具体的には現在JUPITER-8、JUNO-106、JX-8P、SH-101の4種類があるのですが、ZC1はこのExpansionには対応していません。

ZC1は、ZENOLOGY/ZENOLOGY ProやJUPITER-X/Xmで利用できるExpansionには対応していない

またJUPITER-Xの場合、4つのトーンをレイヤーして音を出すことが可能ですが、その点についてはZENLOGY/ZENOLOGY Proも、ZC1もレイヤーには対応していないため1つのトーンのみが出せる形です。まあレイヤーしたい場合は、複数トラックにZENLOGYやZC1を立ち上げて利用すればいいわけですが、実際、どこまで使えるかは利用するマシンのCPU処理速度にもよるとは思います。

ここで少し視点を変えて、ZENOLOGY Proがどのようなものなのかも紹介しておきましょう。これまでRoland Cloudでは以下4種類あるグレードのうち、Core、Pro、UltimateのユーザーにZENLOGYというZEN-Coreのエンジンの音源を提供していました。

それがこの9月25日のタイミングでProおよびUltimateのユーザー向けに、ZENOLOGY ProというZEN-Coreエンジンの各パラメーターにフルアクセス可能な音源がリリースされたのです。パッと見は従来のZENOLOGYと何も変わらないのですが、EDITというボタンをクリックすると、画面が大きくなり、さまざまなパラメータが表示されます。

ZENOLOGY Proの初期画面はZENOLOGYとほとんど違いが分からない

そう、これを見ればRolandのZEN-Coreがどんなものが分かるわけですが、右上のSTRUCTUREというところを見ると、4つのパーシャルで構成されていることが見えてきます。

EDITボタンをクリックすると、さまざまなパラメータが現れる

そして、画面下側で各パーシャルにおけるオシレーター、LFO、ピッチ、フィルター、エンベロープ、アンプなどを細かくエディットしていくことができるようになっているのです。たとえば、そのオシレーターはPCM、バーチャルアナログ、PCM SYNC、スーパーSAW、ノイズから選択でき、どれを選んでもさらに細かく設定ができるなど、超高性能なシンセサイザであることの一端が垣間見えると思います。

VISUAL EDITモードでの画面

通常は上記のように、グラフィカルにエディットできるVISUAL EDITというモードになっていますが、PRO EDITというモードに切り替えると、各パラメータをより細かく数値でチェックできるとともに、すべてのパーシャルでの状況を俯瞰的にみることも可能になるなど、よりマニアックな音作りも可能になっています。

より細かくパラメータを数字で設定できるPRO EDITモードの画面

ちなみに、ZENOLOGYには前述のMODEL Expansionでエンジンを拡張することが可能になっており、たとえばJUNO-106のExpansionを読み込むとZEN-CoreエンジンからJUNO-106のモデリングエンジンに切り替わり、EDIT画面の内容もまったく異なるものに変わるようになっています。これにはZC1も対応していないということなんですね。

JUNO-106のExpansionを利用した際のEDIT画面

もう一つ、ZENOLOGYとZC1には性能面での違いがある程度存在するようです。Rolandの担当者に話を聞いたところ、「ZENOLOGYの音色をZC1に読み込ませると、ほぼ同じ音は出るのですが、やはりiPhoneやAndroidなどCPUパワーが小さい機器でも動作するように、エンジン部分は軽量化しています。そのため、そっくりな音ではあるものの、厳密には異なります」とのこと。とはいえ、それでもモバイル環境でほぼ同等の音が出るのは、画期的ではないかと思います。

こう説明してくると、読者のみなさんの中には、「Zenbeatsもいいけれど、ZENOLOGY Proが気になる」、「ZENLOGY Proだけ欲しい」なんていう方も少なくないと思います。レイヤー機能がないとはいえ、基本的に現行の人気シンセサイザであるJUPITER-XやJUPITER-Xm、またFANTOMと同じ音が出せる、ソフトウェア音源なのですから、注目が集まるのは当然です。

ZENOLOGYとJUPITER-X/Xm間で音色データのやり取りが可能

ハードウェアのシンセサイザメーカー自らが、現行製品と同じエンジンを持つソフトウェア音源を出してしまうというのは、画期的なこと。自分の首を絞めることにならないのか、少し心配にもなるところではありますが、DAW全盛の時代だからこそ、Zenbeatsも含めた網羅的なビジネス展開をRolandがスタートさせたということなのでしょう。

そこで、気になるのはいわゆるサブスクリプションサービスであるRoland Cloudに加入せずにZENOLOGY Proだけ入手できるのか、という点です。結論からいえば可能です。手順としてはいったん、Roland Cloudの無料の会員になることは必要で、その上で、ZENOLOGY ProのLifetime Keyというものを購入するのです。

サブスクリプションを利用せずに、買い切る方法も用意されている

Lifetime Keyとは、1度購入すれば、ずっと使い続けることができる権利のことで、Roland Cloudに支払いをすることなく、使い続けることができるのです。もし、ほかのRoland Cloudの音源、サービスには興味はないけれど、ZENOLOGY Proだけ欲しいという場合にはこれを購入するのが手です。ちなみにZENOLOGY ProのLifetime Keyの価格は229.00ドル。日本円にして約25,000円なので悪くない選択だと思います。

ちなみに前述のJUPITER-8、JUNO-106、JX-8P、SH-101の各Expansionは別売りで、それぞれ149.00ドル=15,000円強。全部そろえると85,000円ちょっと、結構な価格にはなります。一方で、これら全部が使え、さらにZENOLOGYで使えるサウンドパック(EXZ、SDZシリーズ全タイトル)が利用できるのはRoland CloudのPro以上。Proの場合、年額99ドル、Ultimateだと年額199ドルなので、どちらを選ぶべきかは、悩ましいところではあります。

いろいろ使うのならRoland Cloudの年契約が割安だと思う

以上、Zenbeatsに搭載された新音源、ZC1と、Roland Cloudに登場したZENLOGY Pro、そしてJUPITER-X/XmやFANTOMなどのZEN-Coreエンジンを搭載した音源の関係性について紹介してみましたが、だいたいお分かりいただけたでしょうか?どこからアプローチするかは人それぞれだとは思いますが、まずは無料で使えるZenbeatsに搭載されているZC1から試してみるのもありだと思います。

なお、このような互換性、拡張性を持つZenbeats、ZENLOLGY、ZEN-Coreの世界について、10月13日放送予定のDTMステーションPlus!において実践していきたいと思います。ぜひ、そちらも合わせてご覧になってみてください。

※2020.10.20追記
2020.10.13に放送した「DTMステーションPlus!」から、第161回「Roland Cloudで手に入れよう!ZenbeatsとZENOLOGY Pro」の本編部分です。ぜひご覧ください!

【関連情報】
Zenbearts製品情報
ZENOLOGY製品情報
Roland Cloud情報

【DTMステーションPlus!】
第161回 特集「Roland Cloudで手に入れよう!ZenbeatsとZENOLOGY Pro」
10月13日 20:30~22:30
◎YouTube Live ⇒ https://www.youtube.com/watch?v=Flu3VB8ayHE
◎ニコニコ生放送 ⇒ https://live2.nicovideo.jp/watch/lv328432589

Commentsこの記事についたコメント

2件のコメント
  • 佐々木

    日本メーカーは20年遅れてしまった、今更感が否めない。

    2020年10月8日 10:53 PM
    • 藤本 健

      佐々木さん

      Zenbeats自体は、もともとアメリカ開発のソフトで、そこをRolandが買った格好なんですよね。いまも開発はアメリカで行っているようです。後発であることは間違いないですが、既存のDAWとは向いている方向性も違うので、温かく見守って応援したいな、と思ってます。

      2020年10月8日 11:38 PM

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