Bluetooth MIDIを大きく進化させたRolandのワイヤレスMIDI戦略。WM-1/WM-1Dを試してみた

Quicco Soundのmi.1シリーズやKORGのmicroKEY Air、YAMAHAのMD-BT01/UD-BT01など、各社からBluetoothを用いたワイヤレスMIDI製品が発売され、少しずつ広がりを見せているMIDI over Bluetooth Low Energy(以下BLE-MIDI)。ここにきて、Rolandが画期的ともいえるBLE-MIDI機器を2種類、発売しました。ひとつは既存のMIDI機器をワイヤレス化するためのWM-1、そしてもうひとつがPCのUSB端子に挿すことでBLE-MIDI機器とワイヤレス接続できるようにするためのUSBドングル、WM-1Dです。

どちらもオープンプライスですが、WM-1が実売7,700円前後(税込)、WM-1Dが8,800円前後(税込)というもので、大きな特徴は3台までのデバイスと接続可能なSTANDARD MODEのほかに、より低遅延にするためのFASTモードも持っているという点。利用シーンに応じて、さまざまな設定での利用が可能になっています。実際このWM-1とWM-1Dを試してみたので、どんなものなのか、紹介してみたいと思います。

RolandのBLE-MIDIデバイス、WM-1(左)とWM-1D(右)

BLE-MIDIは2015年にMIDI規格推奨応用事例(RP/Recommended Practice)としてリリースされた規格であり、各社その規格に沿って製品開発をしています。考え方としては至って簡単で、30年以上前からあるMIDIの信号をMIDIケーブルの代わりにBluetooth LEという低消費電力のBluetoothで飛ばすというだけ。だから、MIDIメッセージと呼ばれるMIDIの情報は従来通り何も変わらないから、互換性なども保たれているわけです。

BLE-MIDIはMIDI規格推奨応用事例として2015年11月にまとめられた

ただ、規格化されてから4年ということもあって、まだ発展途上段階にあるのも実際のところ。最大のポイントはBluetoothではペアリングという作業が必要であること。どことどこを繋ぐのかを明示した上で、基本的には電源を入れるたびに手動でペアリングをする必要があったので、扱い方が難しい、使うのが面倒と捉えられるケースもありました。

また、従来からのMIDIをそのままBluetooth LE上に乗せただけなので、レイテンシーが発生してしまうというのも一つのネックとなっていました。特に登場当初は、鍵盤を弾いてから発音するまでに明らかに時間差があるのが感じられたため、BLE-MIDIは遅い…という印象を持ってしまった方もいたかもしれません。この辺についてはハード、ソフトともに進化してきたことで、ほとんど感じないレベルになってきてはいるものの、MIDIケーブルと比較すると微妙にレイテンシーが生じるというのも事実ではあります。

Rolandが新たに発売したWM-1D(左)とWM-1(右)

各社ともいろいろな工夫を行っているところですが、そうした中、今回Rolandが出したWM-1およびWM-1Dは、これまでのBLE-MIDIのネックとなっていた部分を大きく解決する画期的な機材となっているのです。

その画期的部分については、後ほど述べるとして、先にそれぞれの概要から簡単に紹介していきましょう。まず、WM-1のほうから見ていくと、既存のMIDI端子に取り付けてワイヤレス化するためのアダプタ。つまりMIDIキーボードや電子ピアノ、さらにはAerophoneやEWIのようなウィンドコントローラなどに接続するためののものです。

MIDI IN/MIDI OUT端子に接続する形となるWM-1

その意味ではQuicco Soundのmi.1 IIやYAMAHAのMD-BT01などとも近いもので、MIDI IN用とMIDI OUT用が短いケーブルでつながっているという点でも同様です。ただ、他社製品と比較すると、ちょっと大きめです。というのも、他社製品はMIDI OUT端子から電源をとっているのに対し、WM-1は単4電池を1本使う形になっているから。そのことによって、BLE-MIDIのレイテンシーの問題を大幅に改善し、システムエクスクルーシブなどの大容量のデータも高速かつ安定的な送受信できるというメリットを持っているのです。

WM-1は単4電池を使って動作する形になっている

一方のWM-1DのほうはPCのUSB端子に接続するタイプの小さなUSBドングルでここからBluetoothの電波が発信され、WM-1と接続できるというもの。「え?自分のPCにはBluetooth機能内蔵しているから不要では?」と思う方も多いと思います。事実、WM-1DなしでもWM-1と接続して使うことは可能な場合もあるのですが、WM-1Dを利用することでさまざまなメリットがあるのです。

小さなUSBドングルタイプのWM-1DはPCにBLE-MIDI機能を追加するためのもの

PCはMIDIデバイスとして認識する

その1つ目は、これをUSB端子に挿すと、MIDIデバイスであると認識してくれるという点。BLE-MIDIはまだ一般に市民権を得てるとは言い難い状況であるため、BluetoothイヤホンやBluetoothマウスのように、ただBluetooth接続すれば使えるという状況にはありません。そのため専用のソフトなどをインストールした上で電源を入れなおす度に、接続を繰り返す必要があるのですが、WM-1DであればBluetoothであることを完全に忘れてOKで、挿すだけでもうMIDIデバイスとして認識されるのです。

PCのUSB端子にWM-1Dを挿すだけでOK

とくにWindowsの場合は、BLE-MIDI対応が完璧とはいえず、通常のBluetoothで接続してもそのままではMIDIドライバとしては認識されないため、DAWから利用することができません。またWindows 10のリビジョンによってBLE-MIDIのバグがあって、うまく動かないケースもありますが、WM-1Dであれば、そうしたOS側の問題に関係なく、即MIDIデバイスとして認識されるのは大きなポイントです。

Bluetoothデバイスが追加されるのではなく、MIDIデバイスが追加される形となる

1度ペアリングすれば、再度電源を入れ直した際も自動接続する

2つ目は、これがWM-1と自動的に接続してくれるという点。初回だけはペアリング作業が必要ですが、それもソフト側の設定は不要で、あくまでWM-1DやWM-1のボタン操作だけでペアリング可能。1度ペアリングできれば、その後はお互い電源を入れるだけで自動接続してくれるから、いちいち起動時に接続しなおすような作業から解放されるのです。個人的には、この自動再接続が、WM-1、WM-1Dの最大のメリットであり、他社製品にない大きなポイントではないかと思っているほど便利な機能です。

WM-1とWM-1Dの間で通信を行い、FAST MODEで接続すると低レイテンシーとなる

FAST MODEにすることで低レイテンシーを実現

そして3つ目はWM-1DとWM-1間の接続をFAST MODEというものにすることで、通常のBLE-MIDIよりもレイテンシーを縮め、3msec程度の遅延に抑えることができるのです。ここまでくれば、BLE-MIDIで問題と言われていたレイテンシーはほぼ解決してくれます。このFAST MODEを利用するためにMacやiOSユーザーも、内蔵BluetoothではなくWM-1Dを使う意義が大きくあるのです(iPhoneやiPadでWM-1Dを使うためにはLightning-USBアダプタが必要です)。

最大3台までのデバイスと接続可能

さらに4つ目のメリットとしては、STANDARD MODEであれば最大3台までのデバイスと接続が可能であるということ。たとえばWindowsにWM-1Dを取り付けた上で、3台のWM-1と接続してやりりすることもできるし、1台のWM-1と接続しつつiPhoneおよびMacとも接続し、それぞれでMIDIのやりとりをすることが可能となります。

WM-1同士の接続も可能

と、ここまでWM-1Dを挿したPCとWM-1を接続することを主眼に見てきましたが、実はBLE-MIDIの観点から見るとWM-1DとWM-1はほぼ同じ特徴を持つ機器なのです。そのため、WM-1同士を接続することも可能です。つまり、WM-1が2つあれば、まさに普通のMIDIケーブルのように使うことができるわけです。

WM-1同士の接続も可能。この場合片方をHostモード、もう片方をRemoteモードとする

このWM-1同士の接続の場合、片方をHostモード、もう片方をRemoteモードにする必要があるのですが(つまりHost同士、Remote同士では接続できない)、この設定でペアリングすれば、あとは機材の電源を入れれば自動的に接続できるし、1台のHostに3台のRemoteを接続することも可能です。ちなみにmacOSやiOSにおける内蔵Bluetoothを使ったBLE-MIDIのサポートはRemoteとしての利用になるので、WM-1と接続する場合はWM-1側をHostモードに設定しておく必要があります。

もちろんiPhoneやiPadとBluetooth機能での接続も可能

このようにさまざまなモードがあるので、説明していると、すごくややこしいもののように感じてしまうかもしれませんが、実際には1度設定すれば、あとは自動的に接続してくれるので、BLE-MIDIであることはほとんど意識しなくていい、すごく快適なワイヤレスMIDIなのです。

ただ1つネックとなるのはWM-1やWM-1Dと、既存の各社のBLE-MIDI機器とは接続できないという点。前述のmi.1やMD-BT01のほか、Roland自身でもRoland BoutiqueシリーズとしてA-01というBLE-MIDI搭載の機器を出していたり、電子ピアノのBLE-MIDIを内蔵したモデルも出していますが、これらとWM-1/WM-1Dを接続することはできないのです。その背景には、Bluetooth 5という新規格を採用しているということもあるようですが、そのように割り切っているからこそ、使いやすくなっているという面もあるのです。

とにかく面倒なペアリング設定などから解放され、安定した快適なワイヤレスMIDIを利用したい人にとって、WM-1およびWM-1Dは非常にいいソリューションとなっています。

※2020.12.03追記
2020.11.24に放送した「DTMステーションPlus!」から、第164回「UVIの新製品がDTMに無限の可能性を!」のプレトーク部分です。「Bluetooth MIDIを大きく進化させたRolandのワイヤレスMIDI戦略。WM-1/WM-1Dを試してみた」から再生されます。ぜひご覧ください!

【関連情報】
WM-1製品情報
WM-1D製品情報

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