iPadカバーになる不思議なMIDIキーボード、Miselu C.24のクラウドファンディング実施中

iPadのカバーにもなって気軽に持ち歩けるという、ちょっとユニークなコンセプトのiPad用MIDIキーボードが、アメリカのシリコンバレーにあるベンチャー企業、Miseluから11月にリリースされると発表されました。飛び出す絵本のように折りたためるというかなり不思議な構造になっているのですが、従来にな構造を開発したため、非常に弾きやすいのだとか…。

覚えている方も多いと思いますが、MiseluはAndroid OSを搭載したユニークなDTMマシン、Miselu Neiroの開発を進めてきた企業で、このDTMステーションでも昨年何度か記事にしています。いつ登場するのだろうと待ち望んでいたら、見た目の面影(!?)はあるものの、ずいぶんと違う製品が発表され、私個人的にもやや戸惑ってしまいました。そこで、すぐに同社に連絡をとり、どういう経緯なのか、CEOの吉川欣也さんと、Director of Engineeringの九頭龍雄一郎(くずりゅう・ゆういちろう)に、SKYPEでインタビューしてみました(以下敬称略)。
MiseluのCEO、吉川さん(左)とエンジニアの九頭龍さん(右)



--そろそろMiselu Neiroが発売されるかな…と楽しみにしていたところに、今回のC.24の発表。正直なところかなり驚いたのとともに、「なぜ?」という思いでいっぱいです。

吉川:Neiroに期待いただいていたみなさんには、本当に申し訳なく思っておりますが、さまざまな事情で方向転換をしました。昨年の夏、DTMステーションにも取り上げていただいた時点で、Neiroはかなり完成度の高いものには仕上がっていたのです。マーケットリサーチをしつつ、アプリ開発などをしてくれるパートナー企業とも協議を続けてきたのですが、やはり「このプロトタイプはよくできているよ。で、どのくらいの数がでるの?プラットフォームとしてNeiroはどうなの?」というのが大半の企業からの投げかけでした。われわれが当初目指していた1万台はプラットフォームといえる数のか、という問題が大きくなっていきました。普及させるにはコストダウンが必須ですが、どこまで切り詰めてもやはり日本円で10万円程度のものになってしまい、このままでは1万台も難しいのでは…という壁にぶつかってしまいました。でも、1度製品を出してしまえば、出し続けるしかなく撤退はできません。

昨年見せてもらったAndroidをベースにしたDTMマシン、Miselu Neiro

--でも、それがどうしてキーボードという方向に?

吉川:とにかく大きなインパクトを出せる楽器デバイスを作りたかったのです。しかも1万円程度で出せたら、世の中に衝撃を与えられるはずだ、と。OP-1やKAOSSILATORなど、さまざまなデバイスを見てきましたが、思い至ったコンセプトは、とにかく持ち歩きやすい楽器、ということでした。みんなでアイディアを出し合った結果、iPadならみんな持ち歩いている。そのカバーやケースであれば、わざわざ持ち出すというような意識もなく、普段から持ち歩いてくれるんじゃないだろうか…、だったら、それをキーボードにしてしまえばいい、ということでアイディアが固まっていきました。またiPadのカバーやケースは普通に2,000~3,000円程度するし、ケースに1万円を出す人もいっぱいいる。それなら、これを1万円で作れれば、多くの人に喜んでもらえるのでは……、と。

今回発表されたiPad用のキーボードでありiPadのカバーにもなるC.24 

--Neiroについても並行して進めているのですか?

吉川:われわれ20人の小さなスタートアップ企業であるため、昨年の秋からは仕切りなおして、このiPadケース型キーボードの開発に100%のリソースを振り向けています。Androidコミュニティーには大変申し訳なく思っていますが、いったんペンディングとさせていただきました。チャンスはまたやってくると思うので、そのときに一体型のマシンをやり、いまはキーボードにフォーカスを絞っています。ただ、タッチパネルとフィジカルインターフェイスの組み合わせであるというコンセプトは従来どおりであり、手ごろな価格で使ってもらえるようになったと思っています。

C.24をペシャンコにつぶすと、iPadのカバー(蓋)として使うことができる構造

--なるほど。発表されたC.24というキーボード、写真とビデオを見た限り、かなり不思議な形をしていますが、これは、スペック的に見てどんなものなんですか?

九頭龍:CoreMIDI対応で、Bluetooth Low Energyを利用したワイヤレス接続を実現させています。またMicroUSBも搭載しているのでCamera Connection Kitなどでの接続も可能です。また24鍵盤となっています。

基本的にワイヤレスでiPadと接続する24鍵のキーボードとなっている

--Bluetooth Low Energyって何ですか?

九頭龍:この規格は2年ほど前にできたものですが、世の中的には細々と使われている感じですね。ただ名前のとおり、非常に消費電力が小さいのが特徴。普通のBluetooth機材だと毎日または数日に1回程度の充電が必要となりますが、これは半年に1回程度。もちろん使い方にもよりけりですが、かなり電池の持ちがいいのが特徴です。

--そのBluetooth Low Energyは現在のiPadでも使えるわけですか?
九頭龍:搭載しているチップの世代の関係でiPad3以降、iPad miniも含めて使えるようになっています。またiPhoneもiPhone 4S以降で使えます。またiOSのバージョン6.0以上で正式サポートとなっていますが、実質的には5.0でも使えるようです。

--Bluetooth接続の場合もCoreMIDI対応になるのですか?
九頭龍:はい、簡単なアプリをインストールしていただき、それをバックグラウンドで動かしておいてもらうのですが、これがBluetooth信号をCoreMIDIに変換をするため、大半のアプリがそのままこのキーボードで利用可能になります。

--Bluetoothでの接続となると、気になるのがレイテンシーです。この辺はどうなのでしょうか?

九頭龍:やはりUSB接続のほうがレイテンシーの面では優位であることは否めません。ただ、速度比較をしたところ、USB接続とBluetooth接続での差は10msec以下ですので、許容範囲であろうと考えております。ただし、USBではなくBluetoothで接続した場合、ほかにはないユニークな特徴が出せます。それはC.24が通常の25鍵ではなく24鍵であるということにも関連するのですが、これを横に並べることでオクターブを増やしていくことができるのです。また、そのほかの特徴として、キーボードの上にLEDが搭載されていますが、ここがリボンコントローラになっています。左側がオクターブシフト、右側がピッチベンドやモジュレーションとなっています。

飛び出す絵本のようにな構造になっている

--ところで、これ、飛び出す絵本のようになっていて、持ち歩く際はペシャンコになるんですよね。どうしてこんなことができるのですか?

吉川:一般的なキーボードではバネを用いてウェイトを持たせ、キーを押した後、反発するようになっていますが、このC.24ではバネを廃し、磁石を使っているのです。社内アイディアとして出てきた考え方ですが、実装してみたところ、まったく違和感はなく使いやすくなっています。またこれによって壊れにくくなった、とういのも大きなポイントですね。


鍵盤にある銀色の円とその下にある円柱がそれぞれが磁石となっていて、お互い反発しあっている

--磁石を使うとは面白いですん。ぜひ早く触ってみたいです。

九頭龍:センサーは赤外線のセンサーを各鍵盤に搭載しており、これにより単にオン/オフするだけでなく、鍵盤がどのくらい近づいたかを見出し、ベロシティーもしっかりと検出できるようになっています。

KickstarterのC.24のページ。7月13日時点ですでに$70,000を超えている

--ところで、今回の発表を見て、よく分からないながらも、すぐに購入申し込みをしてみました。Kickstarterというサイトでの手続きでしたが、このKickstarterというのは何なのでしょうか?
吉川:いわゆるクラウンドファンディングの一つです。ハードウェアのベンチャーが製品を開発する際、ユーザーが本当に欲しがるのか、という判断は難しいところで、大きなリスクでもあります。また投資家にとっても判断ができないので、それをオープンに募っていくのが手法がクラウドファンディングです。これによってニーズも分かるし、お金も入ってくるから非常にベンチャーにとっていい仕組みなんですよね。その新しいフィードバックのシステムを持つクラウドファンディングの大手がKickstarterなんです。Kickstarterで成功するかどうかが、今後の大きなカギになると思うのです。

--今回購入した金額は$99と送料の$18となっていましたが、その「成功」というのはどういう意味なんでしょうか?
吉川:目標額$99,000、つまり約1000万円と設定しているので、そこまで行けば成功です。私たちとしても、そのくらいのゴールを設定しておいて、ユーザーに受け入れられるのかを見ていきたいのです。

--仮に目標にいかなかかった場合、私が払った$117は没収されちゃうんですか?
九頭龍:いいえ、そもそも成功しないと引き落とされない仕組みになっています。
吉川:仮に目標までいかなくても、製品を作るつもりですが、われわれとしてはダメージは大きいですね。モノは11月に出荷する予定で、最初の1,000台は米シリコンバレーのMiseluでアセンブルを行います。その後、どのくらいのオーダーになるかはまだ分かりませんが、おそらく海外でアウトソーシングでの生産になっていくと思います。

--なるほど、よく分かりました。ぜひ、MiseluのC.24の成功、楽しみに見ています。ありがとうございました。

Miseluではすべての開発リソースをC.24に向けている

先ほど、改めてKickstarterのサイトを確認したところ、受付締め切りまで26日もある中、すでに投資額は約$70,000と、目標の7割に達しており、成功はほぼ間違いなさそうです。ジャンルはちょっと異なりますが、国内でも「東北ずん子」のVOCALOID化のクラウドファンディングが行われており、目標額の500万円を昨日(7月12日)に達成したところでした。

ちょうど東北ずん子のボーカロイド化に関するクラウンドファンディングも7月12日に達成

こうしたクラウドファンディングは、今後も広がっていきそうですね。KickstarterでC.24の購入の仕方が以下のサイトで詳しく出ており、私もそれを参考に購入してみました。

http://mixture-art.net/日本からmiselu-c-24を買おう/

【関連サイト】
MiseluのWebサイト
KickstarterのC.24サイト

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